異世界転生したら落ちこぼれたのでヤケクソで生きることにします

十山六季(10/6)

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前編

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 平成最後の春。大学の入学式に向かう道中で、日本人だった俺は死んだ。交通事故だった。

 そして、気が付いたら異世界だった。

 見知らぬブロンド美人のおねえさんに生のおっぱいを差し出され、元童貞の俺は大混乱。しかし、身体が赤ん坊になっていたので何ができるわけでもない。
 これが転生だと気付くまで、そんなに時間はかからなかった。そういうラノベ流行ってたしな。
 ここが異世界だということも、すぐに理解した。俺の今世の両親と思わしき若い男女が、魔法をバンバン使ってたから。
 俺も早く歩けるようになって、言葉も覚えて、魔法をバンバン使ってやる!ついでに前世の知識を活かしてチートを目指す!

 ……なぁんて。思っていた時期が、俺にもありました。

「おと、さま。これ、何、読む?」
「これは『お星さま』だ。デンス。また忘れてしまったのかい?」
「お、星、さま……。ありがと。おと、さま」

 そう。まず、俺は言葉を覚えるのに苦労した。いや、現在進行形で大変苦労している。
 カタコトで幼児レベルの読み書きを教わる俺、デンス=トゥイーデル。今年で十五歳。
 次の芽吹き月から中央学院に通い始めるというのに、トゥイーデル家の息子として相応しいレベルの予習に取り組むどころか、母国語の発音すら危うかった。

 何故ここまで語学習得に苦労しているか?それは、前世の記憶が邪魔をして、この世界の言葉が未知の外国語にしか聞こえない・見えないことが最大の原因だと思われる。
 もちろん、子どもの頭は柔らかい。死に際の俺よりは格段に覚えが良かった。もし、これが赤ん坊の身体からのスタートじゃなければ、この国の言葉なんて一言たりとも発音できなかったに違いない。

 聞いたことのない楽器の音にしか聞こえない言葉、ミミズののたくったような文字、日本語とも英語ともまったく違う文法。
 これが当たり前だと思えば、受け入れられたのかもしれない。けど、俺にはどうしてもそれが意味のある言葉には聞こえなかったし、意味のある文字には見えなかった。
 ただ、『身体が覚える』という言葉があるように、耳が勝手に覚えたらしく、リスニングだけでも何とか人並みになったのはラッキーだった。

 そして、俺を悩ませたのは語学だけじゃない。なんと、この世界、1たす1が2じゃないんだぜ?
 ……何を言ってるか分からないと思うが、大丈夫だ。俺も訳分からん。まあとにかく、計算も壊滅的ってことだけ分かっておいてくれ。
 計算どころか、ありとあらゆる自然法則が出鱈目なせいで、何一つ自分の中の常識と噛みあわないんだけどな。

 更に最悪だったのは、この世界の魔法は『思い込む力』によって発動するということだ。自分の中にある魔力を消費し、頭ん中で想像した事象が具現化することを心から信じることによって、初めて魔法となる。
 魔法の代わりに科学が発展した日本で十八年生きた俺の、ガチガチに凝り固まった頭は、この『思い込む力』がどうにもこうにも足りなかった。誰もが日常で使うような生活魔法の一つさえ、俺には発動させられなかったんだ。

 せっかく、良いとこの貴族家に生まれて、人より多めの魔力を持ってるって言うのにさ。全然使えないの。笑っちゃうだろ?
 いや、頼むから笑ってくれ。俺はこの状況を受け入れるために、この十五年間、現実を笑い飛ばすことで何とかやってきたんだ。つまりヤケクソってやつだ。

「デンス、無理をしなくてもいいんだからな。お前はお前らしく、中央学院を楽しんでくればいいさ」
「そうよ、デンス。貴方にしかない良さを分かってくれる出会いがきっとあるわ」

 幸い、両親はいい人たちだった。だからこそ、こんな息子でごめんって思うときもあるけど……優秀な兄さんが二人もいるから、俺はみそっかすでもいいんだ。
 そう開き直ったのはもう何年も前のことだ。

 でも、せめて、迷惑はかけないようにしたいな。悪いことはせず、どうにか一人で生きていける道を見つけたい。
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