異世界転生したら落ちこぼれたのでヤケクソで生きることにします

十山六季(10/6)

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中編

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 中央学院に入ると、俺に対する生徒たちの反応は二極化した。完全に無視するか、面白がってイジメてくるか、の二択だ。
 イジメっ子は、トゥイーデル家と同じくらいの家柄の子どもが多い。俺よりも明らかに家格が負けているやつは下手に手出ししてこなかったし、逆に身分が高すぎるやつらは俺なんか視界にも入っていない感じだった。

 そんな学院生活二年目、俺は一学年上に在籍していた第三王子と仲良くなった。俺は今世で初めての友だちと呼べる存在に、年甲斐もなく浮かれた。しかし、俺たちの関係を友だちだと思っていたのは、どうやら俺だけだったようだ。

 第三王子と仲良くなって半年が経った頃、ある日突然、俺は第三王子に押し倒された。この世界は同性でも子どもを産めるから同性愛が珍しくもないって、知識としては知っていたんだけど、実感を持ったのはこの時が初めてだった。
 俺は咄嗟に第三王子を突き飛ばし、自分の部屋に逃げ帰った。

 後になって、玉の輿のチャンスを自ら投げ捨てるだなんて、どうしてそんな勿体ないことをしたんだと言われた。でも、俺には男から押し倒される立場になることがどうしても受け入れられなかったんだから、しょうがないだろ?
 LGBT云々が叫ばれ始めた日本社会に生きていたけど、それはネットやテレビで見るニュースの中にだけ存在している世界だったのだから。

 その日以降、第三王子とは目を合わせることもなくなった俺は、前よりも一層、周囲から爪弾きされるようになってしまった。

 いくらヤケクソ人生とは言え、誰とも一言も口を聞けない日々はしんどかった。
 もし俺に十八年余計に生きた経験がなかったら自殺を考えたかもしれない。前世の記憶が珍しく役に立ったな。なんも嬉しくないけど。
 授業もまったくついていけなくて、魔法の実技なんか特に最悪だった。基本的な魔法は全員使える前提で授業が進むから、魔法を何一つ使えない俺には、どうしようもないのだ。

 今日の魔法の授業も一人、一番基礎の魔法である『水産み』を練習していた。コップ一杯の真水を召喚する魔法だ。
 まだ言葉も覚束ない幼児ですら使える魔法で、誰でもいつでも使えるものだから、この世界の人間は飲み水を備蓄しておくようなことをしない。俺は毎朝、遠くの井戸から自力で水を汲んでくる必要があった。
 第三学年に上がって初めての魔法実習で、クラス替えが行われたばかりだったから、見覚えのない顔もチラホラ見えた。とは言え、誰かしら仲の良い面子がクラス内にいる生徒が多いらしく、大抵は和気藹々とお喋りしながら魔法を試している。
 そんな中で、俺と同じぼっちを見つけた。この世界では珍しい、黒髪黒目の男子生徒だ。
 目鼻立ちはちゃんとこの辺の人種らしい西洋風で、日本人っぽいわけではない。でも、俺は何だか懐かしくなって、その黒髪くんに近寄った。

「きみ、も、ひとり?よか、たら、となり、座ってい、かな?」
「えっ」

 黒髪くんは驚いた顔で俺を見たけれど、嫌だとは言わなかった。もしかしたら俺の言葉が拙すぎて伝わらなかっただけかもしれないし、もしかしたら俺よりも家柄が低くて断りづらかっただけかもしれない。
 どんな理由であれ断られなかったのを良いことに、俺は堂々と黒髪くんの横に座った。
 黒髪くんは、リリオット=スペッツァーと名乗った。

「リリオ、ト。きょ、のまほ、むずかし?」
「きょ……?」

 リリオットに首を傾げられたので、俺はもう一度ゆっくりと『今日』を発音した。

「ああ、『今日の魔法』ですか?難しくないと思いますよ。誰でも簡単に――」

 突然口を噤んだリリオットが、ハッとして俺の顔をチラ見してきた。俺がその『誰でも簡単に使える魔法』を使えない落ちこぼれ野郎だと思い出したのだろう。
 俺はニッコリ笑って『別に気にしてないよ』を必死でアピールした。

「おれ、できない。いつものこと。リリオ、ト、気にしない。あと、おれたち、同じ年。敬語、いらない」
「……リリオットが言いにくいなら、リリーでいいよ」

 普通の男子高校生って感じのリリオットにその愛称が似合わなくて、俺は笑った。
 それにつられたように、リリオットもちょっとだけ口の端を歪めている。表情の硬いやつだが、笑えないわけでもないらしい。
 でも、お言葉に甘えた俺が『リリオ』と呼んだら微妙な顔をされた。なんだよ、いいじゃんリリオ。凛々男って思えばちょっと日本名っぽいし。


 こうして、俺たちは仲良くなった。
 というか、俺が一方的にくっ付きに行くようになった、が正しいかな?
 リリオはいつも一人だった。その割に、俺が突撃しても嫌な顔はしない。
 どうやら、あえて一人でいるわけじゃないらしい。なんだ、俺と一緒じゃん。

「リリオ~。つぎ、教室、いど!」
「『移動』な、デンス。お前、どうしてそんなに舌足らずなんだ」
「この国、ことば、むずかし」
「お前、生まれも育ちもこの国だろ?」
「うん。親も、みんな、この国。変、なの、おれだけ」

 俺の存在に慣れてくると、本来は意外にも世話焼き気質だったらしいリリオは、俺の勉強を見てくれるようになった。発音も細かく矯正してくれる。言ってもキリがなさすぎて両親にすらもう諦められてたんだけど、リリオってほんとにマメなやつ。

「……別に、変とかじゃないだろ。デンスは、デンスだ」

 生真面目なリリオらしい言葉に、俺の胸の中がほわっとなった。
 リリオは、良いやつだ。綺麗な黒い髪は凛々しくて魅力的だし、こんなに性格が良いのに、どうしていつも一人なんだろう。

 ある日、不思議になって聞いてみると、意外な言葉が返ってきた。どうやら、あの黒い髪と瞳が嫌われている原因らしい。
 なんでも、バギートという魔獣を彷彿とさせる色なんだそうだ。怖くて気持ち悪い、害のある魔獣だ。
 俺はその魔獣を知っていた。教科書にイラストが載っていたのだ。確かに黒い毛並みをしていたし、ギョロっとした大きな黒目はキモかったけど、黒色を見ただけでバギートを思い出したりなんかしない。
 多分、この世界では黒い色を持つ物が珍しいから、連想されるものが限られてしまうのだろう。

「おれ、リリオの、かみの毛……目、も、すきだぞ」

 リリオは変わったやつを見る目で俺を見た。俺はそういう目で見られるのは慣れっこだった。こういう場合は、言葉が上手く伝わらなかった可能性が高い。
 俺はカタコトで伝わりにくい思いをしっかり届けるべく、更に言葉を重ねる。

「ほんとは、優しい、も、すき。おれ、リリオがすきだ」

 リリオはちょっと赤くなって、不器用な笑顔を返してくれた。笑った顔、意外とかわいい。

 それからリリオとは更に仲良くなって、休日には二人で出かけたりすることも増えた。俺たちは爪弾き者同士、いつも一緒にいるようになった。

 そんなある日、第三王子が俺に会いに来た。

「デンス!俺のことをフッておいて、そんなバギートみたいな男を選ぶのか!?」

 聞き取りには自信があったつもりなんだけど、第三王子が何を言っているのか理解できない。
 ……俺、第三王子をフッたことになってたのか?告白された記憶、ないんだけど。
 でも、もし第三王子から告白されたとしても、俺の返事は決まりきってる。だって、リリオのことバギートって言うようなやつ、みんな大嫌いだ。

「おれ、おうじ、きらい。リリオ、すき」

 俺はこの世界で言葉が不自由過ぎて、なるべく表現は簡潔に、自分の伝えたい意思を明確にして話すように心掛けてきた。
 周囲から気を遣われて生きてきた第三王子にとって、そんな俺が新鮮だったみたいだ。俺と第三王子が仲良くなったきっかけも、俺が不敬な発言をしてしまったことだった。
 でも、さすがに『嫌い』なんて言ったのは今日が初めてだ。まあ、押し倒される直前まで、第三王子のことは友だちとして好きだったんだから当然なんだけど。
 そんな、素直で可愛い弟分だった俺から『嫌い』と言われたことが相当ショックだったみたいで、第三王子は怒ってしまった。

 俺とリリオを纏めて処刑しようとするくらいに。
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