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第三話 死霊術師
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翌々日。
アイオリアらは街の冒険者ギルドを訪れ、ボードに貼られた依頼の書かれた羊皮紙を見ていた。
アーサーとゲバ以外の4人は冒険者としての格付けがそこそこあるため、選べる仕事は多そうだったが、そこは大きな街の定めというべきか、先客に取られていることも少なくなかった。
グインがひとつの依頼に目を留めた。
<死人返りの退治>
戦神の司祭のみならず、どの神に仕える者でも本能的に嫌悪する「死人返り」。
大別して死人返りには2つの「成り方」がある。
一つは怨霊の類が取り憑いて動き出したもの、もう一つは「死霊(魔)術」と呼ばれる秘術を用いて死者を行使するものだ。
どちらにせよ魔術や神聖職の手を借りなければ倒すのは難しい。
前者は戦士の攻撃が通用しづらく、後者ならば多数の死人返りを相手にするケースが多いからである。
アイオリアがグインの様子に気が付き、依頼の内容に目を通す。
「これが気になるか?」
「まあな。」
アイオリアはリョーマに声をかけた。
「この依頼だが、どうだ?」
リョーマは少し思案したあと答えた。
「問題ない…と思う。魔力付与で対応できるだろう。」
死霊憑きを念頭に置いた発言だ。
「術師の場合はどうだ?」
「それも対応可能だ。グインと俺で対応できると思う。」
「そうか。」
アイオリアはボードから依頼の書かれた羊皮紙を剥がすと受付の方に持っていく。
「この依頼を受けたい。」
受付の女性ギルド員とアイオリアらの間でしばらくやり取りが続いたが、どうやら折り合いがついたらしい。
「よし、準備ができたら早速出発しよう。」
アイオリアが全員に告げた。
死霊憑きであれ、死霊魔術であれ、出遅れればそれだけ脅威が大きくなる。
馬は廉価で冒険者ギルドが貸与してくれることになった。
あとは武装の問題だが、銀の武器では強度に不安が残るし、ミスリルなどと呼ばれる神代の秘銀には到底手が出ない。
次善の策としてリョーマの魔力付与とグインによる武器の聖別が役に立つだろう。
さすがに夜間に出発するのは、街の門が閉まっていることや道中の野営を減らすために避け、翌朝出発することになった。
翌早朝、<獅子隊>の面々は馬に乗り、街の門が開くと同時に門番に通行証を見せて出発した。
だく足でおよそ1日半程度の距離にある村が現場である。
その村の墳墓が暴かれ、死人返りが起きているらしいという話であるが、現地についてみなければ真相は分からないとのことだった。
そのための調査でもあり、必要なら討伐もする。
村の規模から考えて副葬品の盗掘を狙ったものでは無いと考えられる。
一行は緊張の面持ちで駆けた。
途中に野営を挟んだが、幸い亜人の襲撃や野生動物の襲撃は無かった。
激戦になる最悪の場合を想定して、体力はできる限り残しておきたい。
翌日も馬をだく足で駆り、一行は夕刻前に村に入った。
アイオリアが手近な家の者に声をかけ、一行が依頼を受けた冒険者であると告げた。
その者は安堵の表情を浮かべ、そして村長宅へ一行を案内した。
村長は憔悴した表情で一行を迎え、事態の説明を始めた。
概ね10日ほど前から、村から離れた場所にある墓地で掘り返された、あるいは死人返りしたような痕跡が見られるようになったという。
痕跡を発見した村人たちは恐怖に怯え、直接死人返りしたかどうかの確認はできていないと言う。
無理もない話である。
冒険者であっても、やはり死人返りの話はゾッとしない。
わざわざ事の真偽を確かめるために見に行くのは、一般人にとってはリスクが高すぎるのだ。
とりあえず、今のところ村人たちの知る範囲に、死人返りした死人が入ってきていないことになるのが救いだった。
夜を迎えた一行は、念のため夜間2人ずつ起きておくことにして、村内で宿営することにした。
その晩、特に変わったことは起きなかった。
翌朝、村人の案内を受けて、一行は墓地へ向かう。
小一時間ほどかけて歩いた先にある墓地にたどり着くと、村人が「ひぃっ」っと悲鳴を上げた。
聞けば、掘り起こされたと思われる痕跡が増えているのだと言う。
10日ほど前に発見して以来、怖がって誰も確認していないうちに増えたらしい。
その数はおよそ8個。増えた分の墓は、手で掘られたような痕跡も見られた。
グインとリョーマが暴かれた墓を確認する。
それぞれが怨霊または死人返りの術の痕跡を探るためである。
グインがしばらくしてアイオリアの方に向き直った。
「死霊ではないな。」
そして次の発言が村人をさらに恐怖させた。
「だが、近くにいるぞ。」
リョーマが立ち上がる。
「武器に魔力付与する。」
厳かにそう告げると、鉄杖を掲げ呪文の詠唱を始めた。
フードから覗く頬に薄っすらと汗がにじむ。
「みんな武器を出してくれ。」
グインも跪(ひざまず)き祈りを捧げ始める。
聖別と魔力付与を同時に行うためだ。
グインの額にも汗が滲んだ。
アーサーが、くん、とかすかに鼻を鳴らした。
「…嫌な臭いだね。」
精霊の力で死臭を感じ取ったのだろうか、不快そうにそう告げた。
「…よし、聖別と魔力付与、どっちもできた。」
「どれくらいもつ?」
「概ね二時間というところだ。」
「呪文防御と鎧の聖別もしておいた方がいいな。」
リョーマとグインがアイオリアに告げる。
全員分の武具に付与するのだから、その負担はかなりのもののはずである。
それでも2人は力を込めて全員分の武具の強化に努めた。
やってやり過ぎはない。
死霊憑きでない以上、死霊魔術師という高位の魔術師と相まみえることが確定したからだ。
ディオノスが珍しく呪文を掛けている。
「この林の先に建物がある。そこだな。」
薄く目を開いた状態でそう告げる。
おそらく千里眼を使っているのだろう。
村人は先程から恐怖でぶるぶると震えている。
アイオリアが村人に向き直った。
「今すぐ帰って、他の村人に伝えてほしい。今夜は家から出るな。
そして明日の夕刻までに俺たちが戻ってこない場合、冒険者ギルドに討伐依頼を再度かけろ。」
村人は首を大きく振ると、脱兎のごとく走り出した。
ディオノスが緊張した唸り声を上げた。
「見つかった!…おそらくな!」
「どのみち押し込むしかない。行くぞ。」
6人はアイオリア、グイン、ゲバを前列に、リョーマ、アーサー、ディオノスを後列に組み、林に踏み込んだ。
かすかに一行の鼻孔が死臭を感じ取る。
林を抜けた先に古びた小屋が見える。
おそらく墓守がいたのではなかろうか。
今、その小屋前には、8体の遺体が伏していた。
ずるり、ずるり、と8体の死人返りが起き上がり始める。
(死人返りは首を刎ねよ)
冒険者の警句をアイオリアは自己の内で反芻していた。
死人による攻撃の最も注意すべきものが「噛みつき」であることと、首を刎ねると行動を停止するという理由からである。
脳が作動しているのかどうかは不明だが、死霊術による死人は、この方法で止められることが冒険者の間では知られていた。
「首を刎ねるか、頭を潰せ。」
アイオリアの代わりにグインが冷静な声で告げる。
珍しく怒りをにじませた声だった。
アイオリア、グイン、ゲバ、ディオノスがそれぞれ死人に向かう。
腐り方も一様でない死人の集団は、そのどれもが動きが緩慢であった。
前衛になった4人は冷静にグインの言葉通り首を狙う。
ゲバだけは身長の問題で頭が狙いにくいので、まず足を薙ぎ払う。
倒れた死人返りに対し、戦鎚を翻し、頭部に叩き込んで潰す。
他の3人もうまく頭部を攻撃して、それぞれの死人の動きを止める。
弓矢を準備するアーサーの視界で何かが動いた。
小屋の中、窓際に隠れるようにして、人影が見えたのだ。
次の瞬間、光が奔り、アイオリアに命中した。
盾も鎧もすり抜け、光は直接アイオリアの体に届いていた。
(くっ)
アイオリアはうめき声を押し殺し、その痛みに耐えた。
魔法弾。魔力を純粋な破壊エネルギーに変えて叩き込む術であり、魔術師なら基本として学ぶ術の一つでもある。
だが、基本と侮るなかれ、その威力は術師の力量次第では一撃で人を絶命しうる。
アイオリアの強靭さと、リョーマの魔力付与がかろうじてその威力を抑えた。
リョーマが呪文を詠唱し、お返しとばかりに魔法弾を放つ。
アイオリアは、痛みを気力でねじ伏せると2体目の死人に向かい剣を振るう。
腐肉を切る感触、骨に当たる感触がして、剣は死人の頸部を斬り抜けた。
わずかに遅れて、グイン、ディオノス、ゲバもそれぞれ2体目の死人を倒す。
次の一瞬。
眼の前が急激に明るくなり、熱が爆ぜた。
アイオリアらの中心で爆炎が上がった。
痛みにも似た熱にさらされたのは一瞬だった。
すぐに風が舞い、炎を掻き消す。
アーサーが爆炎魔法に対して風の精霊術をぶつけたようだ。
アイオリアは迷わず小屋の入り口に駆け寄り、全力で扉を蹴飛ばした。
そのまま小屋の中に斬り込む。
窓際に隠れていた人物が杖先に宿った光をこちらに向けるのが見えた。
二度目の魔法弾に耐えるため、アイオリアは先に歯を食いしばった。
「ぐっ」
うめき声を上げたのはアイオリアではなかった。
フード付きのローブ(長衣)を着た人物の方だった。
リョーマの魔法弾を食らったらしい。
一瞬で状況を見て取ったアイオリアは、即座にローブを着た人物の頭に剣を振り下ろした。
ガヅン、と頭蓋がひしゃげる感触がして、その人物は地面に打ち付けられた。
少しの間倒れた体は痙攣していたが、それもやがて止まった。
うつ伏せに倒れたその人物の体を蹴って仰向けにさせ、躊躇なく止めを刺す。
爆炎魔法まで使いこなし、その上死霊術まで使う魔術師を相手に手加減などしていられるものではない。
グインが短く祈りを捧げる。
ややあって。
「大丈夫だ、近くに他の死人返りはいない。」
「黒幕はこいつかな。」
フードをはぐってみると、それは灰色の髪をした痩せぎすで初老の男であった。
アイオリアが覗き込んだ瞬間、男の手が動き、アイオリアの襟首を掴んだ。
そしてそのまま、ものすごい力でアイオリアを引き倒す。
見開いた目を充血させ、割れた頭から脳漿を撒き散らしながら男が、むくり、と立ち上がった。
リョーマが血相を変えて飛び込んでくる。
「術だ!!」
震える声で詠唱を始めた男に向かい鉄杖を突き刺す。
だが、詠唱は止まらない。
とうに体は絶命しているはずであった。
アイオリアが蟹挟みの要領で男の足に絡みつき、お返しとばかりに引き倒した。
そこにグインが駆け寄り、口腔内に剣を突き立てた。
「首を刎ねろ!」
なおも暴れようとする男の体を抑えながらアイオリアが叫んだ。
ディオノスが剣を突き立て、首と胴を切り離すと、男の体は嘘のように動きを止めた。
だが、まだ口はがくがくと動き、グインの突き立てた剣とぶつかってカチカチと音を立てている。
そこに今度はゲバが駆け寄り戦鎚を振り下ろす。
頭部を完全に砕かれた男は、今度こそ総ての動きを止めた。
「ふぅーーーーーーっ」
一同が息を吐く。
「…なんだったんだ、こいつは…。」
アイオリアがぼそり、とこぼした。
「おそらく、自分自身にも死霊術をかけていたんだろう。
…魔力感知が遅れてすまない。」
リョーマが答えた。
「自分が死んでも死人返り…か。」
グインが飛び散った血をぐぃ、とぬぐいながら言った。
この後の事件の顛末はこうだ。
小屋の中には男の手記や魔導書が残されていた。
カーチス・モーレッドと名乗るこの男は、以前魔術師ギルドに所属していた正規のギルド魔術師であったらしい。
だが、死霊術に手を染めたことからギルドに糾弾されることを恐れて逃亡し、その逃亡生活の中で研究を続けていた。
幾度も実験を繰り返し、時には失敗した死人返りに襲われながらも研究を続け、ついに完成にこぎつけた頃、ちょうどこの村のはずれにたどり着いた。
空き家となっていた墓守の小屋に腰を落ち着け、村人の墓地を実験材料に死人返りを行っていたところ、その痕跡を村人に見つけられたのであった。
<獅子隊>の一行は、彼の手記や魔導書などを持ち帰り、冒険者ギルドに証拠物として提出すると、依頼達成の確認を受け、報酬を受け取った。
また、後日、魔術師ギルドよりも別途礼状と少額の礼金が送られた。
こうして、<獅子隊>は鍛えられていくのであった。
「自分が『死人返り』になっちゃった感覚ってどんなのなんだろうねぇ。」
アーサーが考え込む。
「…考えたくないな。」
男の凄惨な骸の姿を思い出したアイオリアは、それ以上の思考をやめた。
「ああなっては自我が残ってるかどうかも怪しいものだ。
できればなりたくない。」
グインも暗い面持ちで言う。
「ええい、どいつもこいつも辛気臭い。飲め飲め、食え食え!!」
ゲバが持ち前の明るさと短絡さ(?)で一行を景気付ける。
このパーティは本当に良かったのかも知れない、とエールをあおりながらアイオリアは思うのであった。
アイオリアらは街の冒険者ギルドを訪れ、ボードに貼られた依頼の書かれた羊皮紙を見ていた。
アーサーとゲバ以外の4人は冒険者としての格付けがそこそこあるため、選べる仕事は多そうだったが、そこは大きな街の定めというべきか、先客に取られていることも少なくなかった。
グインがひとつの依頼に目を留めた。
<死人返りの退治>
戦神の司祭のみならず、どの神に仕える者でも本能的に嫌悪する「死人返り」。
大別して死人返りには2つの「成り方」がある。
一つは怨霊の類が取り憑いて動き出したもの、もう一つは「死霊(魔)術」と呼ばれる秘術を用いて死者を行使するものだ。
どちらにせよ魔術や神聖職の手を借りなければ倒すのは難しい。
前者は戦士の攻撃が通用しづらく、後者ならば多数の死人返りを相手にするケースが多いからである。
アイオリアがグインの様子に気が付き、依頼の内容に目を通す。
「これが気になるか?」
「まあな。」
アイオリアはリョーマに声をかけた。
「この依頼だが、どうだ?」
リョーマは少し思案したあと答えた。
「問題ない…と思う。魔力付与で対応できるだろう。」
死霊憑きを念頭に置いた発言だ。
「術師の場合はどうだ?」
「それも対応可能だ。グインと俺で対応できると思う。」
「そうか。」
アイオリアはボードから依頼の書かれた羊皮紙を剥がすと受付の方に持っていく。
「この依頼を受けたい。」
受付の女性ギルド員とアイオリアらの間でしばらくやり取りが続いたが、どうやら折り合いがついたらしい。
「よし、準備ができたら早速出発しよう。」
アイオリアが全員に告げた。
死霊憑きであれ、死霊魔術であれ、出遅れればそれだけ脅威が大きくなる。
馬は廉価で冒険者ギルドが貸与してくれることになった。
あとは武装の問題だが、銀の武器では強度に不安が残るし、ミスリルなどと呼ばれる神代の秘銀には到底手が出ない。
次善の策としてリョーマの魔力付与とグインによる武器の聖別が役に立つだろう。
さすがに夜間に出発するのは、街の門が閉まっていることや道中の野営を減らすために避け、翌朝出発することになった。
翌早朝、<獅子隊>の面々は馬に乗り、街の門が開くと同時に門番に通行証を見せて出発した。
だく足でおよそ1日半程度の距離にある村が現場である。
その村の墳墓が暴かれ、死人返りが起きているらしいという話であるが、現地についてみなければ真相は分からないとのことだった。
そのための調査でもあり、必要なら討伐もする。
村の規模から考えて副葬品の盗掘を狙ったものでは無いと考えられる。
一行は緊張の面持ちで駆けた。
途中に野営を挟んだが、幸い亜人の襲撃や野生動物の襲撃は無かった。
激戦になる最悪の場合を想定して、体力はできる限り残しておきたい。
翌日も馬をだく足で駆り、一行は夕刻前に村に入った。
アイオリアが手近な家の者に声をかけ、一行が依頼を受けた冒険者であると告げた。
その者は安堵の表情を浮かべ、そして村長宅へ一行を案内した。
村長は憔悴した表情で一行を迎え、事態の説明を始めた。
概ね10日ほど前から、村から離れた場所にある墓地で掘り返された、あるいは死人返りしたような痕跡が見られるようになったという。
痕跡を発見した村人たちは恐怖に怯え、直接死人返りしたかどうかの確認はできていないと言う。
無理もない話である。
冒険者であっても、やはり死人返りの話はゾッとしない。
わざわざ事の真偽を確かめるために見に行くのは、一般人にとってはリスクが高すぎるのだ。
とりあえず、今のところ村人たちの知る範囲に、死人返りした死人が入ってきていないことになるのが救いだった。
夜を迎えた一行は、念のため夜間2人ずつ起きておくことにして、村内で宿営することにした。
その晩、特に変わったことは起きなかった。
翌朝、村人の案内を受けて、一行は墓地へ向かう。
小一時間ほどかけて歩いた先にある墓地にたどり着くと、村人が「ひぃっ」っと悲鳴を上げた。
聞けば、掘り起こされたと思われる痕跡が増えているのだと言う。
10日ほど前に発見して以来、怖がって誰も確認していないうちに増えたらしい。
その数はおよそ8個。増えた分の墓は、手で掘られたような痕跡も見られた。
グインとリョーマが暴かれた墓を確認する。
それぞれが怨霊または死人返りの術の痕跡を探るためである。
グインがしばらくしてアイオリアの方に向き直った。
「死霊ではないな。」
そして次の発言が村人をさらに恐怖させた。
「だが、近くにいるぞ。」
リョーマが立ち上がる。
「武器に魔力付与する。」
厳かにそう告げると、鉄杖を掲げ呪文の詠唱を始めた。
フードから覗く頬に薄っすらと汗がにじむ。
「みんな武器を出してくれ。」
グインも跪(ひざまず)き祈りを捧げ始める。
聖別と魔力付与を同時に行うためだ。
グインの額にも汗が滲んだ。
アーサーが、くん、とかすかに鼻を鳴らした。
「…嫌な臭いだね。」
精霊の力で死臭を感じ取ったのだろうか、不快そうにそう告げた。
「…よし、聖別と魔力付与、どっちもできた。」
「どれくらいもつ?」
「概ね二時間というところだ。」
「呪文防御と鎧の聖別もしておいた方がいいな。」
リョーマとグインがアイオリアに告げる。
全員分の武具に付与するのだから、その負担はかなりのもののはずである。
それでも2人は力を込めて全員分の武具の強化に努めた。
やってやり過ぎはない。
死霊憑きでない以上、死霊魔術師という高位の魔術師と相まみえることが確定したからだ。
ディオノスが珍しく呪文を掛けている。
「この林の先に建物がある。そこだな。」
薄く目を開いた状態でそう告げる。
おそらく千里眼を使っているのだろう。
村人は先程から恐怖でぶるぶると震えている。
アイオリアが村人に向き直った。
「今すぐ帰って、他の村人に伝えてほしい。今夜は家から出るな。
そして明日の夕刻までに俺たちが戻ってこない場合、冒険者ギルドに討伐依頼を再度かけろ。」
村人は首を大きく振ると、脱兎のごとく走り出した。
ディオノスが緊張した唸り声を上げた。
「見つかった!…おそらくな!」
「どのみち押し込むしかない。行くぞ。」
6人はアイオリア、グイン、ゲバを前列に、リョーマ、アーサー、ディオノスを後列に組み、林に踏み込んだ。
かすかに一行の鼻孔が死臭を感じ取る。
林を抜けた先に古びた小屋が見える。
おそらく墓守がいたのではなかろうか。
今、その小屋前には、8体の遺体が伏していた。
ずるり、ずるり、と8体の死人返りが起き上がり始める。
(死人返りは首を刎ねよ)
冒険者の警句をアイオリアは自己の内で反芻していた。
死人による攻撃の最も注意すべきものが「噛みつき」であることと、首を刎ねると行動を停止するという理由からである。
脳が作動しているのかどうかは不明だが、死霊術による死人は、この方法で止められることが冒険者の間では知られていた。
「首を刎ねるか、頭を潰せ。」
アイオリアの代わりにグインが冷静な声で告げる。
珍しく怒りをにじませた声だった。
アイオリア、グイン、ゲバ、ディオノスがそれぞれ死人に向かう。
腐り方も一様でない死人の集団は、そのどれもが動きが緩慢であった。
前衛になった4人は冷静にグインの言葉通り首を狙う。
ゲバだけは身長の問題で頭が狙いにくいので、まず足を薙ぎ払う。
倒れた死人返りに対し、戦鎚を翻し、頭部に叩き込んで潰す。
他の3人もうまく頭部を攻撃して、それぞれの死人の動きを止める。
弓矢を準備するアーサーの視界で何かが動いた。
小屋の中、窓際に隠れるようにして、人影が見えたのだ。
次の瞬間、光が奔り、アイオリアに命中した。
盾も鎧もすり抜け、光は直接アイオリアの体に届いていた。
(くっ)
アイオリアはうめき声を押し殺し、その痛みに耐えた。
魔法弾。魔力を純粋な破壊エネルギーに変えて叩き込む術であり、魔術師なら基本として学ぶ術の一つでもある。
だが、基本と侮るなかれ、その威力は術師の力量次第では一撃で人を絶命しうる。
アイオリアの強靭さと、リョーマの魔力付与がかろうじてその威力を抑えた。
リョーマが呪文を詠唱し、お返しとばかりに魔法弾を放つ。
アイオリアは、痛みを気力でねじ伏せると2体目の死人に向かい剣を振るう。
腐肉を切る感触、骨に当たる感触がして、剣は死人の頸部を斬り抜けた。
わずかに遅れて、グイン、ディオノス、ゲバもそれぞれ2体目の死人を倒す。
次の一瞬。
眼の前が急激に明るくなり、熱が爆ぜた。
アイオリアらの中心で爆炎が上がった。
痛みにも似た熱にさらされたのは一瞬だった。
すぐに風が舞い、炎を掻き消す。
アーサーが爆炎魔法に対して風の精霊術をぶつけたようだ。
アイオリアは迷わず小屋の入り口に駆け寄り、全力で扉を蹴飛ばした。
そのまま小屋の中に斬り込む。
窓際に隠れていた人物が杖先に宿った光をこちらに向けるのが見えた。
二度目の魔法弾に耐えるため、アイオリアは先に歯を食いしばった。
「ぐっ」
うめき声を上げたのはアイオリアではなかった。
フード付きのローブ(長衣)を着た人物の方だった。
リョーマの魔法弾を食らったらしい。
一瞬で状況を見て取ったアイオリアは、即座にローブを着た人物の頭に剣を振り下ろした。
ガヅン、と頭蓋がひしゃげる感触がして、その人物は地面に打ち付けられた。
少しの間倒れた体は痙攣していたが、それもやがて止まった。
うつ伏せに倒れたその人物の体を蹴って仰向けにさせ、躊躇なく止めを刺す。
爆炎魔法まで使いこなし、その上死霊術まで使う魔術師を相手に手加減などしていられるものではない。
グインが短く祈りを捧げる。
ややあって。
「大丈夫だ、近くに他の死人返りはいない。」
「黒幕はこいつかな。」
フードをはぐってみると、それは灰色の髪をした痩せぎすで初老の男であった。
アイオリアが覗き込んだ瞬間、男の手が動き、アイオリアの襟首を掴んだ。
そしてそのまま、ものすごい力でアイオリアを引き倒す。
見開いた目を充血させ、割れた頭から脳漿を撒き散らしながら男が、むくり、と立ち上がった。
リョーマが血相を変えて飛び込んでくる。
「術だ!!」
震える声で詠唱を始めた男に向かい鉄杖を突き刺す。
だが、詠唱は止まらない。
とうに体は絶命しているはずであった。
アイオリアが蟹挟みの要領で男の足に絡みつき、お返しとばかりに引き倒した。
そこにグインが駆け寄り、口腔内に剣を突き立てた。
「首を刎ねろ!」
なおも暴れようとする男の体を抑えながらアイオリアが叫んだ。
ディオノスが剣を突き立て、首と胴を切り離すと、男の体は嘘のように動きを止めた。
だが、まだ口はがくがくと動き、グインの突き立てた剣とぶつかってカチカチと音を立てている。
そこに今度はゲバが駆け寄り戦鎚を振り下ろす。
頭部を完全に砕かれた男は、今度こそ総ての動きを止めた。
「ふぅーーーーーーっ」
一同が息を吐く。
「…なんだったんだ、こいつは…。」
アイオリアがぼそり、とこぼした。
「おそらく、自分自身にも死霊術をかけていたんだろう。
…魔力感知が遅れてすまない。」
リョーマが答えた。
「自分が死んでも死人返り…か。」
グインが飛び散った血をぐぃ、とぬぐいながら言った。
この後の事件の顛末はこうだ。
小屋の中には男の手記や魔導書が残されていた。
カーチス・モーレッドと名乗るこの男は、以前魔術師ギルドに所属していた正規のギルド魔術師であったらしい。
だが、死霊術に手を染めたことからギルドに糾弾されることを恐れて逃亡し、その逃亡生活の中で研究を続けていた。
幾度も実験を繰り返し、時には失敗した死人返りに襲われながらも研究を続け、ついに完成にこぎつけた頃、ちょうどこの村のはずれにたどり着いた。
空き家となっていた墓守の小屋に腰を落ち着け、村人の墓地を実験材料に死人返りを行っていたところ、その痕跡を村人に見つけられたのであった。
<獅子隊>の一行は、彼の手記や魔導書などを持ち帰り、冒険者ギルドに証拠物として提出すると、依頼達成の確認を受け、報酬を受け取った。
また、後日、魔術師ギルドよりも別途礼状と少額の礼金が送られた。
こうして、<獅子隊>は鍛えられていくのであった。
「自分が『死人返り』になっちゃった感覚ってどんなのなんだろうねぇ。」
アーサーが考え込む。
「…考えたくないな。」
男の凄惨な骸の姿を思い出したアイオリアは、それ以上の思考をやめた。
「ああなっては自我が残ってるかどうかも怪しいものだ。
できればなりたくない。」
グインも暗い面持ちで言う。
「ええい、どいつもこいつも辛気臭い。飲め飲め、食え食え!!」
ゲバが持ち前の明るさと短絡さ(?)で一行を景気付ける。
このパーティは本当に良かったのかも知れない、とエールをあおりながらアイオリアは思うのであった。
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しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
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ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
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ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
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(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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