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89話 囁き少女の家庭事情
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文化祭の劇に向けて、配られた台本に目を通し、まずは台詞を一つ一つ覚えていく。
「『どうしたんだ、大丈夫か?』」
「もっと王子様要素欲しいかなぁ」
「なんだよ王子様要素って」
三十分ほどの劇の予定だが物語はあくまで子ども向け、ストーリーはそこまで長くなく、所々で引き伸ばしが必要だ。
「なんていうの…『どうしたんだい子猫ちゃんっ、僕の胸に飛び込むかい?』的な?」
「そんな王子に惚れるやつ居ないだろ」
そんな響の横で演技一本の菖蒲は、一華と佑馬に演技の指南をされていた。
「源さん!次はエサが貰えなくて飢え死にしそうな猫の顔!」
『し、死にますぅ…?』
「そんな演技はしなくてよろしいっ。菖蒲ちゃん、会話パートがない代わりに、表情で伝えなきゃだから表現筋のトレーニングしよっかっ」
一華を真似することで菖蒲も演技に磨きをかけていく。
帰り道、菖蒲とカフェに寄り道をし、文化祭諸々の談笑をする。
「響さん、やること多くて大変そうでしたね」
「いやいや、菖蒲の方も大変そうだったろ。でも、一番大変そうなのは…」
「おそらく、美神さんでしょうね」
人魚姫の前半を務める美神だが、見た目を除くと問題点だらけだった。
『おい魔女よ、我の声を代償に…人間の足を貰うぞ!』
『んー美神ちゃん?人魚姫はもっと穏やかだと思うなー』
『そうであるか…コホン!魔女殿!声と足を交換しようぞ!』
台詞や役柄云々の前に、まずは言葉遣いと一人称から直す必要がある。
「ミカエルも頑張ってたし、どうにかなるか」
「えぇ、美神さんに負けないように私も頑張ります!」
菖蒲とカフェで盛り上がりすぎてしまい、気がつくと空が藍色になり始めていた。
「つい話過ぎちゃいましたねっ」
「菖蒲といるとあっという間に時間が過ぎるな」
「…最近そのキザな感じハマってるんですか?あんまり似合ってませんよ?」
ドラマやアニメでは胸がトキメキそうなセリフだが、響の性格を知り尽くしている菖蒲にとっては、違和感でしかないのだろう。
「まぁでも、明日も劇の練習頑張りましょうね!」
「…また有咲さんたちにおもちゃにされるのか…」
そんな話をしていると、前からカツカツとアスファルトとヒールがぶつかる音が近づいてくる。
響は何気なく通り過ぎる気でいたが、菖蒲の足が止まる。
「っお母さん?」
「え?」
菖蒲の反応に響も止まると、菖蒲の母らしき人物は響の前で立ち止まった。
女性としてはやや高め、菖蒲と同じ至極色の髪を片方の肩から垂らし、濃いめのメイクに高級感漂うコートに身を包んだ女性は無言で菖蒲の手を掴む。
「っお、お母さん!?」
菖蒲の声は母には届いていないらしく、グイグイと手を引く。
「っちょっと」
縋るような目をする菖蒲を見ると、気がつくと菖蒲に手が伸びていた。
「何のつもり?てか、あなた誰?」
「菖蒲のお母さんですか?自分は同じクラスの道元響で、菖蒲の彼氏です」
『彼氏』その言葉に菖蒲の母は眉を歪める。
その瞬間、あまりにも冷えきった手が響の頬に飛んで来る。
「っお母さん!」
「あなたが菖蒲の彼氏?菖蒲は私に似て、男の見る目が無いのね」
突然のことに唖然とする響を尻目に、菖蒲の母は変わらず手を強引に引っ張る。
菖蒲の母は途中で止まると、こちらを振り向きもせずに忠告をする。
「これ以上菖蒲に関わらないで、この子は普通の学生生活なんてできる器じゃないから」
響を心配し抵抗する菖蒲にも、響同様手が伸びる。
菖蒲は頬を撫でると、諦めたのか大人しく歩き始める。
「…響さん、ごめんなさい…また明日です」
止めに走ろうと思ったが、人様の家庭に出しゃばるのは筋違いで、何よりなんて声を掛けるべきなのかが分からなかった。
「既読も無しか」
家に着き、菖蒲に電話やチャットを送るが一切反応は無かった。
いつもは数分で既読が付くため、おそらく連絡手段を絶たれたのだろう。
「菖蒲のお母さん、話通り冷たい人だったな」
翌朝、いつもは外で待っている菖蒲の姿が無かった。
寝坊かと思い、十数分待ったが来る気配はなく、足早に学校へ向かった。
「あ、響さん…おはようございます」
「おはよう菖蒲…あの後、何も無かったか?」
響の問いに菖蒲の表情が曇り、黙ったままでも何かあったのかは明白だった。
「お母さんにスマホ没収されちゃって…あと、今日から一緒に登校と下校…出来なそうです」
「そうか、なら学校でイチャイチャするしかないか」
「っふふ、何言ってるですかっ」
響のその言葉にやや表情が明るくなった。
その日の劇の練習、菖蒲は家の都合で休んでいた。
「菖蒲殿、表情が暗かったぞ。何かあったのであろうか」
「確かにちょっと心配だよね」
心配をする美神たちには、余計な心配をさせないようにいい感じに誤魔化し、響は久しぶりに静かで孤独な下校をした。
「『どうしたんだ、大丈夫か?』」
「もっと王子様要素欲しいかなぁ」
「なんだよ王子様要素って」
三十分ほどの劇の予定だが物語はあくまで子ども向け、ストーリーはそこまで長くなく、所々で引き伸ばしが必要だ。
「なんていうの…『どうしたんだい子猫ちゃんっ、僕の胸に飛び込むかい?』的な?」
「そんな王子に惚れるやつ居ないだろ」
そんな響の横で演技一本の菖蒲は、一華と佑馬に演技の指南をされていた。
「源さん!次はエサが貰えなくて飢え死にしそうな猫の顔!」
『し、死にますぅ…?』
「そんな演技はしなくてよろしいっ。菖蒲ちゃん、会話パートがない代わりに、表情で伝えなきゃだから表現筋のトレーニングしよっかっ」
一華を真似することで菖蒲も演技に磨きをかけていく。
帰り道、菖蒲とカフェに寄り道をし、文化祭諸々の談笑をする。
「響さん、やること多くて大変そうでしたね」
「いやいや、菖蒲の方も大変そうだったろ。でも、一番大変そうなのは…」
「おそらく、美神さんでしょうね」
人魚姫の前半を務める美神だが、見た目を除くと問題点だらけだった。
『おい魔女よ、我の声を代償に…人間の足を貰うぞ!』
『んー美神ちゃん?人魚姫はもっと穏やかだと思うなー』
『そうであるか…コホン!魔女殿!声と足を交換しようぞ!』
台詞や役柄云々の前に、まずは言葉遣いと一人称から直す必要がある。
「ミカエルも頑張ってたし、どうにかなるか」
「えぇ、美神さんに負けないように私も頑張ります!」
菖蒲とカフェで盛り上がりすぎてしまい、気がつくと空が藍色になり始めていた。
「つい話過ぎちゃいましたねっ」
「菖蒲といるとあっという間に時間が過ぎるな」
「…最近そのキザな感じハマってるんですか?あんまり似合ってませんよ?」
ドラマやアニメでは胸がトキメキそうなセリフだが、響の性格を知り尽くしている菖蒲にとっては、違和感でしかないのだろう。
「まぁでも、明日も劇の練習頑張りましょうね!」
「…また有咲さんたちにおもちゃにされるのか…」
そんな話をしていると、前からカツカツとアスファルトとヒールがぶつかる音が近づいてくる。
響は何気なく通り過ぎる気でいたが、菖蒲の足が止まる。
「っお母さん?」
「え?」
菖蒲の反応に響も止まると、菖蒲の母らしき人物は響の前で立ち止まった。
女性としてはやや高め、菖蒲と同じ至極色の髪を片方の肩から垂らし、濃いめのメイクに高級感漂うコートに身を包んだ女性は無言で菖蒲の手を掴む。
「っお、お母さん!?」
菖蒲の声は母には届いていないらしく、グイグイと手を引く。
「っちょっと」
縋るような目をする菖蒲を見ると、気がつくと菖蒲に手が伸びていた。
「何のつもり?てか、あなた誰?」
「菖蒲のお母さんですか?自分は同じクラスの道元響で、菖蒲の彼氏です」
『彼氏』その言葉に菖蒲の母は眉を歪める。
その瞬間、あまりにも冷えきった手が響の頬に飛んで来る。
「っお母さん!」
「あなたが菖蒲の彼氏?菖蒲は私に似て、男の見る目が無いのね」
突然のことに唖然とする響を尻目に、菖蒲の母は変わらず手を強引に引っ張る。
菖蒲の母は途中で止まると、こちらを振り向きもせずに忠告をする。
「これ以上菖蒲に関わらないで、この子は普通の学生生活なんてできる器じゃないから」
響を心配し抵抗する菖蒲にも、響同様手が伸びる。
菖蒲は頬を撫でると、諦めたのか大人しく歩き始める。
「…響さん、ごめんなさい…また明日です」
止めに走ろうと思ったが、人様の家庭に出しゃばるのは筋違いで、何よりなんて声を掛けるべきなのかが分からなかった。
「既読も無しか」
家に着き、菖蒲に電話やチャットを送るが一切反応は無かった。
いつもは数分で既読が付くため、おそらく連絡手段を絶たれたのだろう。
「菖蒲のお母さん、話通り冷たい人だったな」
翌朝、いつもは外で待っている菖蒲の姿が無かった。
寝坊かと思い、十数分待ったが来る気配はなく、足早に学校へ向かった。
「あ、響さん…おはようございます」
「おはよう菖蒲…あの後、何も無かったか?」
響の問いに菖蒲の表情が曇り、黙ったままでも何かあったのかは明白だった。
「お母さんにスマホ没収されちゃって…あと、今日から一緒に登校と下校…出来なそうです」
「そうか、なら学校でイチャイチャするしかないか」
「っふふ、何言ってるですかっ」
響のその言葉にやや表情が明るくなった。
その日の劇の練習、菖蒲は家の都合で休んでいた。
「菖蒲殿、表情が暗かったぞ。何かあったのであろうか」
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