『ラノベ作家のおっさん…異世界に転生する』

来夢

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第1章 異世界転生

第25話

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 デートを終えてレリクさんが手配してくた伯爵家の馬車で屋敷に帰る。

屋敷に戻ると、伯爵が玄関ホールで赤ちゃんを抱っこしていた。いつもの威厳のある顔とは違って柔かな笑顔だ。父親の顔ってやつだな。

「おっ。ようこそヴェル君。家族ともども世話になったそうだな」

「お帰りなさいませ伯爵閣下。こちらこそお世話になっています」

ジュリエッタは頬を少し膨らませて「ちょっとお父様。先に娘に挨拶じゃないの?もぅ。でもいいわヴェルなら許す」直ぐに機嫌を直した。デートの効果なのか?機嫌が直るのが早すぎる。

「すまんすまん。相変わらずヴェル君の事になると寛容だな。それにエリザベートからも聞いているよ。何でも一月分の仕事を1日で済ませたんだって?」

「お父様。2時間です」

「それは凄い。天才とはいるもんだな。姫殿下も鬼才だと呼ばれているが、私はヴェル君の方が上だと思うな」

「ええ。それであなた。あの件なんですが」

「おお。おまえの事をエリザベートと呼ぶ件か。ジュリエッタの婿の候補なんだ。構わないよ。何なら私の事を義父さんと呼ぶかね?」

「やっ、いやっ、そのそれはご容赦願います」

「ヴェルったら、噛むなんて面白いわね」

『ありえねぇよ。どうしてこんなに軽いんだ!』

「それで、明日の王城への行く件で話がある。注文したスーツが届いているそうだから、着替えてから執務室に来なさい」

「はい。それでは着替えたら直ぐに伺います」

そう答えると、買ったスライムを受け取って客室に戻った。客室に戻ると、スライムを机に置いて服を脱ぎ始める。届いたスーツはどこにあるのかと探していると扉をノックする音が鳴る。

「どうぞ。開いてます」

そう答えると、メイドさん二人が荷物を抱えてやって来た。

「旦那様から、明日の服が届いたので試着するようにとのことなので失礼します」

パンイチ靴下、恥ずかしいにもほどがある。なんでこんなタイミングでうっかり返事をしてしまったんだろう。くそっやっちまった。俺のバカ。

「自分で着替えますので置いておいていただけますか」

「いえ。これが私達の仕事なのでお任せを」

結局、メイドさん達に着替えをさせられた。

着替えをさせられると、何だか今まで着ていた一張羅とは着心地が違った。生地を触ってみるとシルクのような肌触りで高級感が半端ない。コートを着てみたが、カシミアのような感触で暖かい。

「坊ちゃま。お似合いですわ」

「本当ですか。ありがとうございます」

メイドさんは、そう言うのだが、こんな子供にまで社交辞令とは、メイドさんと言う職業も大変なんだと思う。

メイドさんに鏡を見せられて『馬子にも衣装だな。だいたいここまでの格好したことないし…』と、思う。

「それでは伯爵閣下がお待ちになっております」

メイドさんに執務室の位置を知っているかと尋ねられたので「はい。把握しています」と答えると、足早に客室を出た。

 一人で廊下を歩きながら『しかしいつもならジュリエッタがギャラリーに来るんだけどな~』と辺りを見回してしまう。いつの間にかジュリエッタの事を気にかける機会が増えてきた。

まあ専属騎士になるしいずれは結婚もするのだからこんなものか。しかし。まだ9歳と10歳だ。何度も言うけど早すぎないか?なぜみんなが事を急ぐのか意味不明だ。

執務室では執事さんが扉の前で待っていた。

「ヴェル様。旦那様がお待ちです。どうぞお入り下さい」

「はい。ありがとうございます」

そう答えると、執事さんは扉を開けた。

「伯爵閣下。お待たせしました」

「うむ。それではこっちに掛けなさい」

「失礼します」

ソファーに腰掛けるように促されたので遠慮無く腰掛けると、伯爵は俺の前に腰掛ける。

「まず話と言うのは、本当にジュリエッタの専属騎士になるのか意思をまず確かめたい。ちなみに私はヴェル君が娘を貰ってくれるなら大賛成なんだ」

親子ともどもプレッシャーを掛けてくる。断るつもりは無いが、この状況で断れる人間がいるなら見たいものだ。

「はい。私の覚悟は決めてます。お嬢さんおを守ると約束をしました」

「そう言ってくれると思ったよ。それでは正式に王城で儀式を交わそうか」

「えっ、専属騎士になるには儀式が必要なんですか?」

思わず立ち上がってしまった。まさか儀式の為に王都まで行かなければならないなんて聞いていない。

「おや、知らなかったのかい?上級貴族になると社交界で周知することになっているんだ。二人の事を認められれば、この先余計なちょっかいを掛けられずに済むからね」

そう言う理由があるなら、もっと早く言ってもしいものだ。こちらにも心の準備があるだろう?口に出して言えないないので、溜息を吐いて腰を下ろした。

「なるほど。社交界も大変ですね」

「そうだよ。ヴェル君狙いの貴族避けにはこうするしか無いんだ」

「はい?僕の為なんですか?ジュリエッタじゃなくて」

「そうだよ。君はコレラ治療で姫殿下を救った救世主だからね。王城では英雄扱いだ。娘も心配だが娘はヴェル君意外は見向きもしない。だからだよ」

オレってそんなに女性にだらしがないように見えるのか?だが、面倒な事になるのは目に見えている。

そもそも英雄の定義は良く分からないが持ち上げすぎだよ。

「なんだか疲れますね」

しみじみとそう言うと、伯爵も溜息を吐いた。

「ああ。特に上級貴族はね。それにしても、ヴェル君のお陰で王城でコレラ感染者が出ても誰も死ななかった。しかもアルコール消毒とマスクだったか?あの対策のお陰で王城内で感染が広がらなかったのだ。もっと誇ってもいいのだぞ」

伯爵はそう言うのだが、何を誇ったらいいのか分からない。

「効き目について絶対の自信があったわけではありません。でも誰も悲しまずに済んで良かったです」

「ああ。陛下も姫様が感染した時の取り乱し方が異常だった。まぁ、姫様は王国が始まって以来の鬼才だといつも仰られていたからな」

「少し気になるのですが、天才とか鬼才とかどのような判断で?」

「うん。姫は絶対暗記能力の持ち主なんだよ。本などを瞬時に覚えれるそうだ」

生前そんなような能力を持った、小説やら漫画は見た事はあった。実際にそう言った人物が身近には居なかったので、都市伝説的なものとしか思わなかったけど、実際にそう言った人物がいると分かると、実際に会って話をしてみたいと興味を持つ。

「ああ。なるほど。どおりで」

「えらいあっさりとしているな。もっと驚くと思ったよ」

「正直能力で天才とか鬼才とか、呼ばれ方にはあまり興味はありません。本当の天才っていうのは地頭というか、頭の回転の速さとか、瞬時に的確な答えを導き出せる者だと思います」

「なるほどな、確かに言われてみればそうかもな。記憶力が完璧でもそれを活かせないと意味が無いと言う事か」

「ええ。机の上でどんな良い戦略を考え出せても、結局戦うのは血の通った人間です。体調の良し悪しもあれば気分もある。そこを正しい判断が出来て、どんな戦況下でも戦いに勝てる人間を英雄と僕は考えます。鬼才とか英雄とかの称号っていうのを、人の噂で勝手につけるのって何か微妙ですよね。後の歴史家が付けるのならともかく」

「まったくそのとおりだが、しかし、ヴェル君と喋っていると君がとても子供だとはとても思えないよ、どこかの軍師と喋っているそんな不思議な感覚だよ」

伯爵は、言った後に苦笑いをする。少し饒舌に語り過ぎたと反省する。

「子供なのに生意気言って申し訳ありません」

「いやいいんだ。実際コレラ危機を君は救ったんだ。結果を見るなら君は英雄だよ。他が認めなくても私は認めるよ。そんな英雄に娘をやれるなんて私は幸せだ」

日本にいた時の知識だとは明かせないので他人の手柄を横取りしたような気分になるな。それでも重要なのは結果だ。母達が死なずに済み俺の運命も大きく変わったんだ。チート知識が非難されるようなことになろうが構いやしない。

「英雄は大袈裟だとは思いますが、伯爵さまの評価に相応しい人間になれるようこれからがんばります」

「ずいぶんと、自己評価が苦手なようだね。その謙虚さも好きだがね。それでは、これからも宜しく頼むよ。君ならひょっとして実力で上級貴族になれそうだ」

「まずは足元をしっかり見て進みたいと思います」

「模範解答過ぎていつも驚かされるよ。それと、君は礼儀作法は完璧だけど、ダンスはいかがかな?王都へ行ったら、宴もあるだろうから確認しておきたいんだが」

「自慢じゃありませんが、僕はぼっちだったんですよ。ダンスのダの字も分かりません」

社交ダンスは一人では覚えられないし、音楽を鳴らす楽器すら生まれてこのかた見た事もないしな。それにしても、王都で宴って、また面倒だなこりゃ。

「そっか。ヴェル君でも出来ない事があるんだと思うと少し安心するよ。それではジュリエッタと夕食後から練習だ。食事が終ったら叩き込んで貰いなさい」

「えっ、今日一日で覚えるのですか?」

そう驚くと、伯爵は首を横に振る。

「一日とは言わないよ。王都には馬車で2泊3日の旅だ。宿場村の宿でも練習出来るし、王都の屋敷でも練習できる。君なら何とかしそうだ。がんばれ」

王都まで3日も掛かるとは知らなかった。それに無茶振りにも程がある。だからといって開き直ってできませんというわけにもいかない。

 伯爵との話しが終わり、部屋に行くとジュリエッタが部屋の前で待ち構えていた。

「お父様との話はどうだった?」

「王都行ったら、宴があるかも知れないから、ジュリエッタに社交ダンスを教えて貰いながら特訓だってさ」

「ふふふ。私が手取り足取り教えるから大丈夫。任せておいて」

既に聞かされていたのだろう。ジュリエッタは特に驚く事もなく、笑顔で胸を叩いた。

 夕食を摂ると、早速ダンスホールでレッスンだ。ジュリエッタに手を引かれて付いて行くと、屋敷の一角にダンスホールはあった。それにしても屋敷の中にダンスホールがあるとは……流石は上級貴族の屋敷だ。

周りに気を取られながらホールに入ると、ダンスを教えてくれる講師の先生が待っていた。

ダンスの講師は「初めまして。私の名はミッシェルと申します。以後お見知り置き下さい」と、恭しく頭を下げた。

俺も挨拶をすると、早速ジュリエッタと講師は一緒に見本を見せてくれる事になった。

「ヴェル。今から手拍子のタイミングをやって見せるから、同じタイミングで手拍子をお願いね」

「了解だよ」

手拍子を任されると、ジュリエッタは貴族令嬢らしく優雅に社交ダンスの手本を見せてくれるのだが、俺は手本だと言う事を忘れてしまい思わず見惚れてしまった。ヤバイ。

それから、自分の出番となる。まずはステップの練習だ。ちなみに日本でいた時やった事のあるダンスはオクラホマミキーサーとマイムマイムだけである。どう考えても役に立ちそうもないし無理だろこれ…

それから講師の先生の言うとおり手拍子に合わせて練習をした。鍛えた身体能力と、重力魔法で体を軽くするというインチキを行い3時間でなんとか1曲覚えた。

「ここまで来たら、後はぶっつけ本番でなんとかなるでしょ」

「そっかな~。まるで自信が無い」

「あら、ヴェルにしては消極的ね」

「ま、なるようにしかならないからね」

「でもがんばりましょ」

「は~い」と気の無い返事をすると、ジュリエッタは溜息を吐いた。一生懸命教えてくれたジュリエッタには申し訳ない。

「それじゃ明日は早いわ。お風呂に入って寝ましょうか?」

「そうするよ」

 それからお風呂に入ると、当たり前のようにジュリエッタが俺の部屋にやってきたが、明日は朝早くから王都に行く準備をしなくてはならないので、魔力操作をして手早く意識を手放すのであった。
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