『ラノベ作家のおっさん…異世界に転生する』

来夢

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第1章 異世界転生

第27話

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 正面の森から野盗が現れると、あっと言う間に馬車の周りを囲まれた。

俺は短剣を構えながら「大声で名前を呼んだら目を塞ぐ準備を」と、ジュリエッタに小声で指示を出してから馬車に押し込んだ。

「小僧、騎士ナイト気取りか?!小娘を逃がしたつもりかも知れないが無意味だ。見ろよ!御者もあのとおりだ」

リーダー格と思われる野盗が指を差す方向を見ると、伯爵が乗った馬車の御者をしていてくれた護衛達の一人が喉に剣を突きつけられていて、抵抗をしたのだろう、右腕を傷つけられ、血が地面に点々と付いている。

「ちっ!」と、思わず舌打ちしてしまう。

「武器を捨てて馬車から出て来い!変な真似をすれば、御者の命は無いと思え!」

前方の馬車に乗っていた伯爵達は手を上げて、護衛の兵士と一緒に馬車から降りて来た。野盗の情報が掲示板の情報通りなら、金さえ渡せば命までは取らないと書いてあったし、20人と数が多いので指示に従ったのだろう。

ジュリエッタも、もちろんその情報を知っているので、抵抗せずに短剣を握りながら馬車から降りて来た。

ジュリエッタは短剣を足元に置くと、俺も同じように地面に置く。俺一人なら何とでもなるだろうが、人質がいるので手出しは出来ない。

「手を頭の後ろに置いて、大人達はこっちにこい!」

伯爵閣下とレリクさんを含めた護衛の兵士は、野盗達の指示に従い、次は手を後ろに回すように指示をされると、目隠しをされてから。ロープで手足と口を縛られた。

その光景を目の当たりして、オレは思わず笑みがこぼれそうになる。なんたる幸運。伯爵達は目隠しをされていた。

 閃光を唱えるチャンスはここしか無いと思ったのだが、金さえ渡せば命までは取らないと掲示板に書いてあったので、わざわざリスクを犯してまで動くかどうか迷った。

「よし、良く聞け。このガキ達は人質の為に馬車ごと連れて行く」

「俺達をどうするつもりだ!!」

俺は大きな声でリーダー格の男に問うと「おまえたちガキ二人は人質に使うとするよ。お貴族様のガキとなりゃー、身代金もたっぷりと要求出来そうだからな!」と、お頭はあくどい顔をしながらニヤリと笑う。

『くっそ!確かに命は助かるかもしれないが、身代金目的の誘拐の餌になるぐらいなら…自分でなんとかするしかないか』

そう覚悟を決めると、お頭は剣の刃をパシパシ叩きながら、こちらに向って歩いてくる。

「ジュリエッタ!!」

そう大声で叫ぶと、野盗達全員がオレに注目する。それを見計らい「閃光!!!」っと光魔法を放つと俺の全身が眩しく光る。

「「「めっ、目が~」」」と、あちらこちらから悲鳴が上がる。

両手から閃光を放ち光が収まると、野盗達は目を押さえながら悶えている。俺とジュリエッタは、地面に置いた短剣を拾い上げた。

「ヴェル、私にパワーライズを」と小声で言うので直ぐにジュリエッタの手を握り「パワーライズ」と小声で詠唱する。

それから、俺とジュリエッタで野盗の首筋を狙い意識を刈り取っていくと瞬く間に勝負は決着した。それにしても、初めて実戦でバフを使ったが、素早く動ける上に剣も軽くなった。パワーライズの凄さを実感した、

ジュリエッタと一緒に伯爵たちの縄を解き、ジュリエッタは怪我をしていた護衛にヒールを掛けると、伯爵や護衛達は驚愕の表情をしたまま固まっている。

あ~あ、これで完全にバレちゃったよ。

俺は野盗の馬車に積んであったロープで気絶している野盗達に、伯爵達がやられた事と同じ様に、口や手足を縄で縛り、護衛の兵士が木に縛りつけ始めると、伯爵閣下が肩をポンポンと叩く。

「二人とも、詳しい話を聞かせて貰おうかな」

伯爵は口調は優しかったが顔が引き攣っている。これは、言い逃れが出来る状況ではない。

「分かりましたが、ここではちょっと…」

「そうだな、それでは、レリク!野党どもを乗せる馬車の手配をしにサンジュ村に行って来てくれ。それと事情を説明して兵士も連れてくるのだ」

「はっ!!」

そう言うとレリクさんは、もの凄い勢いで馬を走らせて行った。

「それとエルド、馬車の往来が一切無いので恐らくは通行止めになっている筈だ。野盗を討伐したので通行止めを解除するように連絡して参れ」

「はっ!」

護衛の一人であるエルドさんも、馬に跨り来た道を戻って行く。

「さてと、ここからサンジュ村までは馬で飛ばせば片道30分だ。1時間以上時間があるから馬車の中に入って何をしたのか聞かせて貰おうか」

いい訳を考えながら、馬車の中に入ると伯爵は正面に腰掛けると怪訝そうな表情をしながら口を開く。

「さてと…まず助かったのは事実だ。お礼を言うよ、ありがとう。それで君達二人はなぜ12歳に至ってないのに魔法が使えるのかな?それに目隠しをしていたが、はっきりと強い光を感じた。いったいヴェル君は何をしたんだ?」

それから、3歳の頃、本を読んで試しに使ってみたら魔法が使えた事と、魔力操作の練習をしていたら光が強くなり、いつのまにやら閃光を覚えたと説明。ジュリエッタにも、勉強を教えた時に魔力操作の仕方から教えたと説明する。

重力魔法については伏せておいた。

「なるほどって、ありえないだろ。ジュリエッタまで治癒魔法がもう使えるなんて、君達はこの世界の常識を覆したんだ。それについて君の考えを聞かせてくれ」

「僕達は正しい知識を本から得て魔法を習得しました。誰でもと言う訳ではないかもしれません。魔力操作から習得しないと幼い体では魔法が暴走するか、体が耐え切れなくなり最悪死に至る可能性もあると思っています」

「私もその説は正しいと思うよ。神託の儀で与えられる基礎魔法も間違った使い方や暴走すれば大惨事にもなりかねん。まだ9歳のヴェル君が出した結論だとは私としても未だ信じられない気持ちだよ。それにしても君は一体何を目指す?魔法に関してもそうだが、既に常識外れと言っていい」

そう聞かれても回答に困る。自分の中でジュリエッタが最優先。それはもう既定路線であって譲れない。

「僕はあくまでもジュリエッタの専属騎士です。僕のこの知識に教養、魔法に至るまでジュリエッタを守る為に使います。それ以上のことは何も考えていません」

「馬鹿を言うな。これだけの知識と魔法能力があるなら、一個人の為に使うなど馬鹿げている。勇者は神託で得られるものだから資質の問題だが、英雄を目指すくらいは良いと思うが」

「僕はジュリエッタに全てを捧げるつもりです。ジュリエッタを守るために必要であれば何かを目指すこともあるかも知れません。でも先程も申し上げたとおり、今はジュリエッタを守ること以上のことは考えていません」

「ヴェル…」

ジュリエッタは笑顔で涙を流している。

「自分の娘の事だから素直に嬉しいと言っておこう。だが約束をしてくれ。魔法を使える事は私達だけの秘密だ。これは仮の話ではあるが、もし魔王が復活して、勇者がもしこの現代に現れるのなら専属騎士のままでもいい。勇者に協力をして世界を救えるような人物になってくれ」

「はい。専属騎士のままで良いのなら」

そう答えると、二人はほっとした表情を浮かべる。伯爵は、なぜ俺がジュリエッタの専属騎士に固執するのか分からないのだろう。

 夢のとおりであるならば、彼女は聖女になる運命を背負っている。世界を守れと言うなら、専属騎士のままでいれば同じ事だ。夢で見たのが影響しているとは思わないが、そう思う事しか出来ない自分がいた。

それから、伯爵の野盗への尋問を横目にレリクさんの帰りを待つが、いつもと違う伯爵の口調に驚いた。

「おい貴様!伯爵家の馬車と知りこの馬車を襲った罪は死を持って償って貰う。アジトがどこにあるのか吐け!吐けば、情状酌量の余地もあろう」

こんな具合だ。

伯爵の尋問を聞きながら、約40分の間待っていると、レリクさんが兵士15名と幌無しの馬車5台を引き連れて戻って来た。

「閣下、遅くなりました。こちらが、次の宿場村のサンジュ村の兵士長です」

「伯爵閣下。この度は野盗の排除をしていただき、まことにありがとうございました。つきましては、王都から兵士が派兵をされる事が決まっていましたので、王都の冒険者ギルドに討伐完了との連絡をしておきました」

「うむ。ご苦労であった。尋問を進めた結果、アジトはあの山にあるようだ。アジトに仲間は残っていないそうだが、野盗の言う事だから信用は出来ん。兵士5人を選抜して野盗の一人を引き連れてアジトに案内をさせろ。身代金目的の人質がいるやも知れぬ。もし案内の野盗が不穏な動するようなら、処分して戻って参れ。その時は討伐隊を向わせる」

「御意!!」

伯爵は兵士長に指示を出すと、兵士達は野盗一人を連れてアジトに向かうべく山へと消えて行く。

「それでは、馬車を1台と兵士を2名残して、私達はサンジュ村に野盗を連れて向うとしよう。兵士長。日が落ち始めて、今行った兵士達が戻ってこなかったら、連絡係の兵士を一人残して、取り敢えず村へと戻ってくるがよい。先ほども言ったと思うが、討伐隊を向わせる必要があるだろうからな」

「はっ!!」

「それでは、私達はサンジュ村へと急ごう。今回の泊まる宿はきっと驚くぞ」

「そうなんですか?楽しみです」

伯爵はニヤリと笑うと馬車に向かって歩いて行った。何があるんだろう?と思いつつ、ジュリエッタと二人で馬車に乗ると、馬車は宿場町に向って走り出した。

すると、ジュリエッタは俺を手を握り、俺の目を真剣に見た。

「ねぇ、ヴェル。さっきはありがとう。さっきの言葉…凄く嬉しかった。大好きよ」

「お礼を言われることじゃないよ。あの時にもう決めたんから」

少し頬を染めながら、笑顔で面と向ってそんな事を言われると少し照れる。

ジュリエッタは俺の手を握りながら頭を肩に寄せる。最近は、ジュリエッタの事が好きだと自覚をし始めているので役得でしかない。

もう少し二人が大人だったら、唇にキスくらいはしていたかもしれないな…

馬車に揺られながら、あれこれ妄想していると、湯煙の上がるサンジュ村へと到着した。
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