『ラノベ作家のおっさん…異世界に転生する』

来夢

文字の大きさ
31 / 67
第1章 異世界転生

第31話

しおりを挟む
【マイアSide】

コレラの非常事態宣言を受けて、わたくしは父の厳命で王宮の自室に引き篭もっていた。

たまに、廊下から衛兵や従者達の声が聞こえてくきますが、残念ながらこの王都でもコレラ感染者が急増していると言うネガティブな内容ばかりでした。

そんなある日、私のごく身近なところで、ええ、侍女のエーレがコレラに感染したという衝撃的なニュースが入ってきたのです。漠然と自分やその周りは大丈夫なのではと思っていたこともあり、それは目の前に突然現れた危機でした。

警戒は続けていましたが、私も突然口から大量の白い水のようなものを吐き出し、床を汚してしまったのです。

いつもなら、じいやか侍女がお付でいるのですが、コレラの感染予防の為に誰も私室にいません。

布団を必死で掴み、なんとかにベッドの這い上がって「誰か!」と助けを求めると、ドアが開き「姫様!!」と衛兵が飛び込んで来ました。

薄れゆく意識の中で「私は、天に召されてしまうのでしょうか?」とぼんやりつぶやいていました。

「そんなことはかありませぬ。必ずやお救い致します!!」

「私は、恋も知らずに死んでいくなんて嫌です」

つい出た言葉がこれでは恥ずかしい限りですが、まだこの世に生を受けて9年しか経っていないのに、本に憧れ自分もこれからと思っていた恋もせず死に直面するなんてと自分を恨めしく思いました。

それから、薄れゆく意識の中で生まれてからの人生が鮮明に思い出されました。これが本で読んだ事のある走馬灯と言うものなのでしょうか?

◇ ◆ ◇

私は、この国の第一王女として生を受けました。それが幸いなのか不幸なのか分かりませんが、今までは幸せだったような気がします。

あれは3歳半の頃だったでしょうか?私は大きな病気を患い今のように生死を彷徨った事があります。その時の記憶などあまありませんが、一命を取りとめた事がきっかけだったのでしょうか?あるスキルに目覚めました。瞬間記憶能力です。

その時は、気がつかなかったのですが、4歳になりお父様が専属の教師を付けて勉強を始めるよう言いました。もともと、本が好きでしたので、既に文字は読めていましたが、誰にもその話はしていません。

父から言われた次の日から、教師が絵本を使い朗読を教え始めてくれることになりました。

教師は私に同じ絵本を見せて「姫様、この文字を記憶するように、続けて読んで下さい。さすれば、文字を読むスピードが上がります」と言ったのです。

私は絵本を持ち「きおく?ですか?」そう言ったのです。

今思うと、それがスキル発動の詠唱だったのでしょう。絵本に書かれたページが脳に刷り込まれた気がしました。私は本置き、本の内容をすらすらと読み教師に聞かせました。

「これは凄い!陛下にすぐにお伝えせねば!!」

教師は慌てて部屋を飛び出して行きました。

あの時は大事になるとは思いもせず、特に何も考えなどありませんでした。4歳ですからね。今ならけっして言いません。だって面倒です。

お父様と教師は戻ってくるや、私の能力を再確認すると、お父様は幼い私を抱え「素晴らしい!この子は神から遣わされた鬼才かも知れぬ!!」と大喜び。その時はただお父様が喜んでいるのを見て自分は良いことをしたのだと思っていました。

その後文官が文献を調べたようで、その結果、過去にはそういったスキルではなく先天的に瞬間記憶能力を持つ人間がいたそうです。私は教師からこの能力の事を詳細に教えていただきました。

その晩の事です。布団に入り、本を読み始めましたが、何かが違うのでは?と違和感を覚え幼いながらに物思いに更けました。

違和感が明らかになったのは、私の場合は「記憶」と詠唱しなければ物事を覚えられないと言う事でした。つまりスキルです。

お父様と文官が苦労して調べ、教えてもらったので申し訳なくてそのことは今まで誰にも言ってはいません。それに、12歳までは魔法やスキルを使えることはないのです。うっかりこれはスキルですと言えば今よりもずっと面倒な事になるに違いありません。

スキルならばの利点もありました。魔力を流しながら本を読んでいると、意識を無くしどんな時でも安眠出来ますし、どうでもいい日常などは覚えなくてもよいのです。悲しい記憶に縛られることもありません。

それから2年ほど経ちました。あの時のショックは今でも忘れません。それは、私の6歳の誕生パーティーの時に社交デビューした時の事でした。

各国の王侯貴族からそれとなく縁談の誘いやアプローチを受け、それなりに会話をしましたが『何ですか?会話の内容の程度が低すぎやしませんか?』同年代の子供達と会話が成り立たなかったのです。

そう言えば、5歳上の兄との会話も、何となく物足りなさを感じるので当然かもしれません。なので、その気持ちを両親にも吐露しました。

「お父様、お母様。このままでは、私は結婚出来ないかも知れません。その…言い方が悪いのですが、程度が低くすぎて周りの子供達と上手く会話がかみ合わないのです」

「うむ。やはり同じ年ぐらいの子供では物足りなかったか。瞬間記憶能力は素晴らしいが、このような弊害が出るとは思いもよらなかったな」

「でもマイア。ある程度は妥協は必要なのではありませんか?身近な上級貴族ではあなたを超える、子供などいないのですから。年を重ねれば埋められるかもしれませんし…」

「それは分かっています……でも私は本の物語のような恋愛結婚したいのです」

そう頑なに拒否するのは、やはり本の影響なのかも知れません。恋愛の話に思いを馳せない女性などいるはずが無いのです。

私は自分に相応しい相手が見つかるまで安易にフィアンセなど作る気にはなりません。絶対に後悔します。

◇ ◆ ◇

微睡みながら幼い頃を思い出していると、突然目が覚めました。すると、口や鼻に奇妙な布をした王宮医療技師のウォーレス伯が目の前にいたのです。少し驚きましたがそれは内緒です。

「姫殿下。気分はいかがでしょうか?」

「私はいったい?」

「ええ。コレラに感染して3日間も眠りになられておられました。もう峠を越えたので大丈夫ですよ」

私は右手に違和感を覚え首を捻り確認をすると、ガラスの瓶にゴムが繋がれた管が右腕に刺さっていたのです。

「これは?」

「これは、ある人物が考案した生理食塩水という点滴にございます。なんでも人間の体に流れる成分と同じ成分であるとの事」

「なんと言うことでしょう。さぞかし高名な研究者が考えたものなのでしょうね」

「ははは。実はその人物は表舞台に立つ意思はございません。内密との事で私も強く口止めされているのです」

「それはいけません。私の命を救った恩人なのです。是非、直接御礼を申し上げたく存じ上げます」

「分かりました。その者には伝えておきます。まだまだ姫殿下は病み上がりでございます。今はごゆるりとご静養くださいませ」

それから、私の命を救ってくれた者に感謝をして療養し始めました。とは言っても引き篭もって寝ているだけですが…
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

処理中です...