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第1章 異世界転生

第60話

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 神界から戻ると、1人だけ残った筈のジュリエッタも含め全員一緒に意識が戻った。

「どうでしょうか?年齢到達前なので成功は正直無理と言うものです。失敗しても落ち込んだりする必要はありませんから気楽にステータスカードの確認をしてください」

神父に声を掛けられたので、ばれないように神様の言うとおりカードに魔力を流す。ステータスカードが薄っすら輝いて表示される。

【剣士 ヴェルグラッド・フォン・フォレスタ】

ステータスの詳細やスキルの詳細などの情報は、個人情報なので隠蔽されている。小説どおり、いや、俺が記憶を小説にトレースしただけだ。今のこれは設定なんかじゃなくリアルなんだと思い直す。

「え?まさか成功をしたのですか?!」

オレ達3人が同時に頷くと神父は口を開けたまま止まっている。

陛下とマーレさんは一瞬想像どおりと言う顔をすると、笑顔で神父に「この事はけっして口外せぬように。もし口を滑らせる事があるようなら、今後の支援は打ち切らせてもらう」と念を押す。

「もっ、もちろんですとも。私にも立場がありますので」

我に帰って返事をしたものの、まだ受け入れがたいと言う顔をしている。ま、そうだろうね。ホント、勇者、聖女、賢者なんて見せなくて良かった。ここで奇跡だなんだと大騒ぎされてもめんどくさいからな。

「それでは王城へと戻るぞ。ここは神託の儀のメイン会場だから邪魔になるしな」

「神託のことについて陛下にお伝えすべきことがあるのですがお時間いただいても?」

「うむ。この後打ち合わせあるのだが、1時間程度なら何とかしてみよう」

「充分です」

こうして王城へ向う。これだけ大事になったんだ。陛下の耳に入れるべきだし、そもそも子供3人だけの秘密にしておくには重過ぎる。後ろ盾も欲しい。

馬車では3人だけになったのだが、誰一人として口を開かない。彼女達も思う事があるのだろう。それでも口裏を合わせておかないと、俺だけでは判断が出来ない。

「なぁ、ジュリエッタ。陛下にどこまで話すべきだと思う?」

「そうね。まず隠しておかなければならないのは、私の過去の記憶とヴェルに異世界の記憶がある事かな」

「私も同意見です。歴史が変わった以上言う必要はないかと」

「そうだな。過去は既に改変されているからそこを煽る必要はないね。神様から未来の事を聞かされたと言う事にしよう。でも王族には真偽サーチのスキルがあるよね。大丈夫かな?」

「たぶん大丈夫です。身内に真偽サーチのスキルを使うほど、お父様は常識外れではありません。スキルを使えば分かりますし」

「そっか」

「それで、ヴェルに質問があるのですが、異世界の記憶があると言う話だったのですが、それなら、私達の事を今までどう思われていたのでしょうか?」

うわ、それ聞く?なんの準備もしてないぞ?思わず「正直に言うと子供とか孫かな?」と、答えると二人とも驚愕した顔のまま固まった。

『やべ~!言い方間違えた!!』

我ながら、本当に馬鹿だ。

マイアは直ぐに我に返ると血相を変え「子供はともかくとして孫って!!それでよく私達の専属騎士になろうと思いましたね!!」と、いつもより激しく言い募る。もう詰ってると言っていいだろう。

「ゴメン!!上手く言えないんだ。記憶的にはそうだけど、ただ生まれ変わって体も心もリセットされた不思議な感じなんだ。だから見た目どおり10歳だと思ってくれていい。たまにおっさんぽい事を言うのは、その記憶の名残みたいなものかな?」

他に言いようがない。最近はおっさんモードは突っ込みだけである。今は心と精神が馴染んだといった感じ?そうじゃないと、ただのロリコンのおっさんか保護者のじいさんだ。それだけは勘弁して欲しい。

「どうりで大人びていると思っていたわよ。私は結構前から何となくだけど気付いていたけどね」

「今思えばジュリエッタは役者だな。大人びているとは思っていたけど、まさか僕と一緒で転生前の記憶があるなんて予想もして無かったよ。一瞬地球からの転生?と思ったことはあったけど」

「神様との契約で言ったら駄目という約束があったのよ」

「確かに契約したなら言えるわけないよな。それで、二人ともこれからどうする?まあ色々明らかになったわけだし、念のため聞くけど専属騎士を解除するかい?」

神は結ばれる運命であると言っていたけど、中の人がおっさんの記憶ありとカミングアウトしたからな。キモイと言われて専属騎士を解除されても仕方が無い。

「ま、まさか!!ヴェルを好きになったのは今の姿なのです。じゃ聞きますが、本当の事を知った今、私達の事が嫌いなのですか?」

「そうよ、ずっとここまで辛抱して我慢してきたのにあんまりだわ!!」

二人は涙目になり俺を睨む。どうやら取り越し苦労だったようだが、正直どう表現していいのか分からん。

「好きに決まってるじゃないか。嫌いなら専属騎士になってないし、ただ騙しているみたいで申し訳ない気持ちになっただけだよ。ごめんな」

「それならいいです。でもこれからは専属騎士を解除するなんて言わないで下さい。一生傍に置いて貰いますからご覚悟を!」

「私の記憶を知った上でなら論外よ、ヴェル。ヴェルと添い遂げる為にがんばったのだから。二度とそんな事を言わないで」

「はい。ごめんなさい。二度と言いません」

そう謝ると、二人は腕を組みうんうんと頷く。機嫌が直ったようで良かった良かった。

その後も、今までとは何も変えず生活すると話がまとまると、馬車は王城に入って陛下の執務室と通された。

執務室に入ると、陛下とマーレさんがソファーの正面に腰掛け、促されるままにオレ達は横一線に腰掛ける。

「さてと、お疲れであったな。上手くいくとは思っていたが3人が無事成功して嬉しい限りだよ」

「ありがとうございます。それで実は陛下に話をしておかなくてはならない事があります」

「うむ。その為に時間を取ったのだ。遠慮無く話すがよい」

俺達3人はステータスカードを取り出すと偽装せずにそのまま陛下に提示して、勇者、聖女、賢者である事を明かした。これには陛下とマーレさんも目玉が飛び出すかと思うくらい凝視したまま言葉を失っていた。

「私達は教会で祈りを捧げていると、神様に呼ばれて神界へと行きました。神様は魔王が数年以内に復活をして、勇者の私がもしも倒されると、魔王が世界を蹂躙して星が滅びると…」

それから、勇血の話、魔王の存在はいかにして生まれるものなのか、今後の未来に何が起こるのかを話すと、陛下とマーレーさんは二人とも目を瞑り表情を険しくする。

しばらくして陛下が目を開け、俺の顔をじっと見て口を開く。

「なるほど。平和な世の中だが、人は欲深い者。それに、この国は勇者の末裔が住む国だとは言い伝えでは聞いてはいたが、まさかそなた達が勇者の末裔だとはな…魔王軍は勇者達の血を狙ってこの国を滅ぼそうとしているのか。それにしても、竜脈と迷宮の関係ともなれば他国や冒険者を巻き込むことになるな」

「はい。勇者の私だけ倒せれば、魔王は安泰です。とは言え他国に説明無しに今迷宮を封印するのは理解を得られないでしょう」

「それで、そなた達はどうするつもりだ?」

それを俺に聞きますか?ま、当事者だから仕方が無いのか。でもここはジュリエッタの記憶がどれほど残っているのかは分からないが話し合いをしてから答えを出すのが正解かな。

「今ここで答えを出す事はできないので屋敷に戻ってから3人で話し合いたいと思います」

「そうだな。話し合いの結果は教えて欲しい」

「はい」

「陛下。そろそろ時間でございます」

「まだ3人は勇者の血はどうであれ子供だ。この世界の命運を委ねるのは心苦しいが、神に選ばれた以上は君達3人に世界を委ねるしかない。出来るだけの事はする。頼んだぞ」

「はい。分かりました。全力を尽くします」

おっさんの記憶があって良かったと思う。これが本当に10歳だったら、プレッシャーに耐えられないかも、と言うよりそもそもこの流れとかほとんど理解出来ないよな。ジュリエッタもそう思ってるんじゃないか?

そう思いながらソファーから立ち上がると、オレ達は屋敷へと戻ることにした。

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