『ラノベ作家のおっさん…異世界に転生する』

来夢

文字の大きさ
60 / 67
第1章 異世界転生

第60話

しおりを挟む
 神界から戻ると、1人だけ残った筈のジュリエッタも含め全員一緒に意識が戻った。

「どうでしょうか?年齢到達前なので成功は正直無理と言うものです。失敗しても落ち込んだりする必要はありませんから気楽にステータスカードの確認をしてください」

神父に声を掛けられたので、ばれないように神様の言うとおりカードに魔力を流す。ステータスカードが薄っすら輝いて表示される。

【剣士 ヴェルグラッド・フォン・フォレスタ】

ステータスの詳細やスキルの詳細などの情報は、個人情報なので隠蔽されている。小説どおり、いや、俺が記憶を小説にトレースしただけだ。今のこれは設定なんかじゃなくリアルなんだと思い直す。

「え?まさか成功をしたのですか?!」

オレ達3人が同時に頷くと神父は口を開けたまま止まっている。

陛下とマーレさんは一瞬想像どおりと言う顔をすると、笑顔で神父に「この事はけっして口外せぬように。もし口を滑らせる事があるようなら、今後の支援は打ち切らせてもらう」と念を押す。

「もっ、もちろんですとも。私にも立場がありますので」

我に帰って返事をしたものの、まだ受け入れがたいと言う顔をしている。ま、そうだろうね。ホント、勇者、聖女、賢者なんて見せなくて良かった。ここで奇跡だなんだと大騒ぎされてもめんどくさいからな。

「それでは王城へと戻るぞ。ここは神託の儀のメイン会場だから邪魔になるしな」

「神託のことについて陛下にお伝えすべきことがあるのですがお時間いただいても?」

「うむ。この後打ち合わせあるのだが、1時間程度なら何とかしてみよう」

「充分です」

こうして王城へ向う。これだけ大事になったんだ。陛下の耳に入れるべきだし、そもそも子供3人だけの秘密にしておくには重過ぎる。後ろ盾も欲しい。

馬車では3人だけになったのだが、誰一人として口を開かない。彼女達も思う事があるのだろう。それでも口裏を合わせておかないと、俺だけでは判断が出来ない。

「なぁ、ジュリエッタ。陛下にどこまで話すべきだと思う?」

「そうね。まず隠しておかなければならないのは、私の過去の記憶とヴェルに異世界の記憶がある事かな」

「私も同意見です。歴史が変わった以上言う必要はないかと」

「そうだな。過去は既に改変されているからそこを煽る必要はないね。神様から未来の事を聞かされたと言う事にしよう。でも王族には真偽サーチのスキルがあるよね。大丈夫かな?」

「たぶん大丈夫です。身内に真偽サーチのスキルを使うほど、お父様は常識外れではありません。スキルを使えば分かりますし」

「そっか」

「それで、ヴェルに質問があるのですが、異世界の記憶があると言う話だったのですが、それなら、私達の事を今までどう思われていたのでしょうか?」

うわ、それ聞く?なんの準備もしてないぞ?思わず「正直に言うと子供とか孫かな?」と、答えると二人とも驚愕した顔のまま固まった。

『やべ~!言い方間違えた!!』

我ながら、本当に馬鹿だ。

マイアは直ぐに我に返ると血相を変え「子供はともかくとして孫って!!それでよく私達の専属騎士になろうと思いましたね!!」と、いつもより激しく言い募る。もう詰ってると言っていいだろう。

「ゴメン!!上手く言えないんだ。記憶的にはそうだけど、ただ生まれ変わって体も心もリセットされた不思議な感じなんだ。だから見た目どおり10歳だと思ってくれていい。たまにおっさんぽい事を言うのは、その記憶の名残みたいなものかな?」

他に言いようがない。最近はおっさんモードは突っ込みだけである。今は心と精神が馴染んだといった感じ?そうじゃないと、ただのロリコンのおっさんか保護者のじいさんだ。それだけは勘弁して欲しい。

「どうりで大人びていると思っていたわよ。私は結構前から何となくだけど気付いていたけどね」

「今思えばジュリエッタは役者だな。大人びているとは思っていたけど、まさか僕と一緒で転生前の記憶があるなんて予想もして無かったよ。一瞬地球からの転生?と思ったことはあったけど」

「神様との契約で言ったら駄目という約束があったのよ」

「確かに契約したなら言えるわけないよな。それで、二人ともこれからどうする?まあ色々明らかになったわけだし、念のため聞くけど専属騎士を解除するかい?」

神は結ばれる運命であると言っていたけど、中の人がおっさんの記憶ありとカミングアウトしたからな。キモイと言われて専属騎士を解除されても仕方が無い。

「ま、まさか!!ヴェルを好きになったのは今の姿なのです。じゃ聞きますが、本当の事を知った今、私達の事が嫌いなのですか?」

「そうよ、ずっとここまで辛抱して我慢してきたのにあんまりだわ!!」

二人は涙目になり俺を睨む。どうやら取り越し苦労だったようだが、正直どう表現していいのか分からん。

「好きに決まってるじゃないか。嫌いなら専属騎士になってないし、ただ騙しているみたいで申し訳ない気持ちになっただけだよ。ごめんな」

「それならいいです。でもこれからは専属騎士を解除するなんて言わないで下さい。一生傍に置いて貰いますからご覚悟を!」

「私の記憶を知った上でなら論外よ、ヴェル。ヴェルと添い遂げる為にがんばったのだから。二度とそんな事を言わないで」

「はい。ごめんなさい。二度と言いません」

そう謝ると、二人は腕を組みうんうんと頷く。機嫌が直ったようで良かった良かった。

その後も、今までとは何も変えず生活すると話がまとまると、馬車は王城に入って陛下の執務室と通された。

執務室に入ると、陛下とマーレさんがソファーの正面に腰掛け、促されるままにオレ達は横一線に腰掛ける。

「さてと、お疲れであったな。上手くいくとは思っていたが3人が無事成功して嬉しい限りだよ」

「ありがとうございます。それで実は陛下に話をしておかなくてはならない事があります」

「うむ。その為に時間を取ったのだ。遠慮無く話すがよい」

俺達3人はステータスカードを取り出すと偽装せずにそのまま陛下に提示して、勇者、聖女、賢者である事を明かした。これには陛下とマーレさんも目玉が飛び出すかと思うくらい凝視したまま言葉を失っていた。

「私達は教会で祈りを捧げていると、神様に呼ばれて神界へと行きました。神様は魔王が数年以内に復活をして、勇者の私がもしも倒されると、魔王が世界を蹂躙して星が滅びると…」

それから、勇血の話、魔王の存在はいかにして生まれるものなのか、今後の未来に何が起こるのかを話すと、陛下とマーレーさんは二人とも目を瞑り表情を険しくする。

しばらくして陛下が目を開け、俺の顔をじっと見て口を開く。

「なるほど。平和な世の中だが、人は欲深い者。それに、この国は勇者の末裔が住む国だとは言い伝えでは聞いてはいたが、まさかそなた達が勇者の末裔だとはな…魔王軍は勇者達の血を狙ってこの国を滅ぼそうとしているのか。それにしても、竜脈と迷宮の関係ともなれば他国や冒険者を巻き込むことになるな」

「はい。勇者の私だけ倒せれば、魔王は安泰です。とは言え他国に説明無しに今迷宮を封印するのは理解を得られないでしょう」

「それで、そなた達はどうするつもりだ?」

それを俺に聞きますか?ま、当事者だから仕方が無いのか。でもここはジュリエッタの記憶がどれほど残っているのかは分からないが話し合いをしてから答えを出すのが正解かな。

「今ここで答えを出す事はできないので屋敷に戻ってから3人で話し合いたいと思います」

「そうだな。話し合いの結果は教えて欲しい」

「はい」

「陛下。そろそろ時間でございます」

「まだ3人は勇者の血はどうであれ子供だ。この世界の命運を委ねるのは心苦しいが、神に選ばれた以上は君達3人に世界を委ねるしかない。出来るだけの事はする。頼んだぞ」

「はい。分かりました。全力を尽くします」

おっさんの記憶があって良かったと思う。これが本当に10歳だったら、プレッシャーに耐えられないかも、と言うよりそもそもこの流れとかほとんど理解出来ないよな。ジュリエッタもそう思ってるんじゃないか?

そう思いながらソファーから立ち上がると、オレ達は屋敷へと戻ることにした。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

処理中です...