鬼ノ噺

とりとり

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糸紡ぎ

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シュルシュルと糸を紡ぐ。

一人の女が蜘蛛になった。
男をずっとずっと待ち続け、悲しみが恨みになり、恨みが憎しみになり、糸はいつの間にか大蜘蛛の巣になっていた。
何も知らず遊び戻った男は、あっという間に腹の中。

大蜘蛛は、嘆く女を喰らっては、情を、恨みを、憎しみを糸で紡ぐ。いろんな色が出来上がる。
男も喰らえば真っ赤な糸が出来上がる。

色とりどりの糸を持ち、蜘蛛は屋敷にやってくる。

「黒鬼様。良い糸が出来ましたんよう。如何です?」
「おや、蜘蛛。久しいな」

屋敷の入り口で楽しそうに口元を動かしながら、蜘蛛は6本の腕を器用に動かして、黒鬼に糸を見せる。

妖も知恵のある者は、相手を選んで世渡り上手に生きていた。
女の情念で生まれたこの蜘蛛も、喰うか喰われるかの世界を商いで生き延びた。

「また力を頂ければ、黒糸もお作りできますよ?」
キチキチと口を動かし上手に喋る。

「ふむ。おい小鬼、着物を織るのに必要か?」
すぐに現れた小鬼は、ピョンピョン飛んで色んな糸を欲しがった。

「じゃあ、黒糸作るか。蜘蛛、夜に来い」
「はいはい。ではまた夜に」

黒糸作る時の黒鬼の闇は、蜘蛛にとって極上の餌だった。
ウキウキと足取り軽く、屋敷の外へ蜘蛛は出て行った。

夜になり、庭に訪れた蜘蛛が巣を作る。
それを酒を呑みながら見ている黒鬼。

「なんだ?今夜は糸紡ぎの日か?」
赤鬼がひょっこり現れ、面白そうに巣を眺める。

「おや、赤鬼様。貴方様も如何です?力を頂ければ美しい糸を作れますよう?」
もう一つ美味い餌が手に入ると蜘蛛は期待に目を輝かせていた。

「俺は別に着物なんざ、どうでも良いから興味ねえなあ」
「赤鬼、お前の力を蜘蛛にやれ。山を壊した詫び寄越せ」
「おや、山の抉れはやはり赤鬼様の仕業でしたか」

蜘蛛はキチキチと笑う。

黒鬼は、綺麗な糸で手打ちにしてやると赤鬼を睨む。小競り合いで山を抉ったことを、まだ許していなかった。

「しつこいねえ。まあいいや。じゃあ蜘蛛、流してやるから受け取んな」

赤鬼は肩をすくめて黒鬼を見た後、蜘蛛の巣にふわりと焔を流していく。
あっという間に燃え広がるが、糸は切れずに燃え続け、白色が金になる。キラキラと美しい金糸が出来上がった。

「流石、赤鬼様。なんて美味い瘴気だろう」

蜘蛛は嬉しそうに紡いでいく。
シュルシュル紡ぐと、再び巣を作り始める。

「こんなことよくやるねえ」
赤鬼は、床に置いてある酒瓶を拾い上げ、そのまま口にした。

「何を言うか。ワタシのお陰でお前は山猿から鬼になっとろうが。すぐにボロボロの着物を纏いおって見苦しい」
「黒鬼は本当に着物好きだなあ」

全く気にせず笑う赤鬼は、もう一口ぐいと呑む。

巣を作る蜘蛛が、ふと動きを止めた。

「鬼様がた、どうも糸が震えます。何か来ますよう?」
「ああん?」

黒鬼はチラリと辺りを見廻した。
この辺は妖が殆どいない筈なのに、何故か瘴気が漂いだす。
遠くの方で、ドオンと轟音が響いている。

「…またデカイのが来るな」
「空から来ますよう」
「ははっ、狙いはどっちだ?」

月は雲に隠れて、闇しか見えない。
山が騒めき、木々が揺れだし、庭の周りも風が吹き出した。

雲が流れて月が現れると、見えて来たのは首が長い二つ頭の背に翼が生えた竜。

二つ頭は二人の鬼に狙いを定め、口を開け咆哮を上げた。
ビリビリと音が響き、蜘蛛は強い殺気にヒィと縮こまる。
赤鬼は刀を抜き、黒鬼は戦斧を掴んだ。

「なんだ。両方狙うとよ」
「随分、余裕があるんだねえ」

二人は狙いを定めた頭に向かって、それぞれ軽やかに跳んでいく。

だが、竜は鬼に噛み付かず、二つ頭の口の中からバチバチと雷が生まれ、鬼達に向かって炸裂した。

「テメエ、なに吐いてんだ!山壊れんだろ!面倒くせえこと増えるだろうが!」

赤鬼は、山抉ってネチネチ言ってきた黒鬼を思い出しブチ切れた。

「この蛇、ちったあ考えろ!山直すの面倒くせえんだよ!」

黒鬼は、ボロボロにされた山を小鬼達にせっせと直させたのを思い出しブチ切れた。

怒りに染まった鬼達は、吐かれた雷ごと頭と一緒に切り裂いた。
黒鬼は怒りが収まらず、更に竜の身体を蹴り飛ばした。

竜の体は遠くに飛んで隣の山に落ちていった。轟音が遠くから聞こえてくる。

「おやおや、まあまあ」
蜘蛛の巣に、竜の首を切った時の血がザアザアと降ってきた。
蜘蛛はスルスルと糸を紡ぐ。

「チッ、糸もやり直しか」

黒鬼は蜘蛛が巣を一から作り直してるのを見て、あの蛇喰らってやればよかったと飛ばした方を睨みつけた。
赤鬼は、山が壊れなくてよかったなあとすっかり寛いで酒を呑んでいた。

「さて、黒鬼様。ご機嫌直して、力を流してくださいなあ」
蜘蛛はキチキチと笑う。

黒鬼はゆらりと闇を糸に流す。白い糸はあっという間に艶やかな黒糸になっていく。

「ああ美味しや。流石、黒鬼様」
ウットリした声を出しながら、蜘蛛が紡ぐ黒い糸。

すっかり夜がふけた頃ーー

「どうぞ、お受け取りくださいまし」
蜘蛛は、艶やかな黒糸と煌びやかな金糸を差し出した。

「ああ、それと…こちらはお二人が倒した竜の糸でございます。美味しゅう味でしたので、おまけで付けさせていただきますよう」

そうして鮮やかな赤い糸を差し出した。

「お二人の糸と一緒に使えば、美しい着物が出来上がりましょう」

蜘蛛は、二人の鬼に丁寧にお辞儀をした。

「また、どうぞご贔屓に」





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