鬼ノ噺

とりとり

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雨鬼

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サアサアと雨が降る。
雨水で緑の匂いは強くなる。
雨雲で陽は隠れ、山は薄暗く、生き物は息を潜め、妖は喜んで駆け回る。

小鬼たちは、泥まみれで山を直していた。
ベチャベチャと歩き、抉れた穴に土を放り投げた。

黒鬼は濡れるのも気にせず、山の中を歩く。
雨に打たれて、綺麗に梳いてある髪先からポタポタと雫を落とす。
目に流れてきた雨水を手で拭っていると、周りをスイと白く透明な魚が泳ぐ。

「妖が戻ってきたか」

黒鬼の山は、屋敷と小鬼を壊さなければ喰われない。
たまに強い闇や瘴気に呑まれて死ぬが、弱い妖には居心地が良い住処だった。

脆い妖相手じゃ、喰った気にもならない。

強い妖には旨味が無く、黒鬼を喰おうとすれば容赦無く潰される恐ろしい山だった。

弱い妖達が戻ると山が生き返る速さが変わる。
この雨も妖が降らせていた。

「ワタシノコ…ワタシノ…」

か細い女の声が聞こえる。
キューキューと小鬼が鳴く声もした。

ゆっくり歩いて近づくと、女が小鬼を抱きしめ撫でていた。ジタバタと動いていた小鬼も、少しずつ大人しくなり甘え出す。

まるで本当の親子のような姿を、黒鬼はジッと見つめていた。

そこへ後ろからパシャリと音がする。
「お前の山の小鬼は、なんで喰わない?」
不思議そうに赤鬼が小鬼を見ていた。

「…さあ、知らん」
黒鬼はポツリと言うと、再び歩き出した。

小鬼には、弱い妖は格好の餌だった。
なのに、あの女を決して喰わない。

サアサアと雨が降り続ける。

子を求める女の妖は、子供は攫うが喰らわない。
攫った子供が育てば喰らう。
可愛いがる癖に、子は何処だと泣き叫ぶ。
泣いて、泣いて、喰らい出す。

昔々の小鬼達。まだ生き残っているかわからない。
記憶が残っているのかなど、考えても詮無いこと。

キュウと気持ち良さげに女に擦り寄る小鬼が遠くで見えた。

「……なんで付いてくる?」

黒鬼が歩いてる後ろを赤鬼が歩いていた。

「うん?濡れたお前を喰いたいからかな」
「ああ?」

黒鬼は立ち止まり、ギロリと赤鬼を睨みつけた。
赤鬼は皮肉げに笑い、黒鬼の瞳を真っ直ぐに見たまま歩いてくる。

一歩、歩く毎にパシャリと水の音がする。

「黒鬼は、雨が降ると必ず山を練り歩くなあ」

黒鬼の濡れた髪をひと房触り、弄ぶ。

「お前は何を探している?」

ジッと黒い瞳を見つめる赤鬼。
赤い瞳を見返す黒鬼は、ついと視線を外す。

「探しものなどありゃせん。ただ見ているだけだ。わからんものをな」
「ん?小鬼か?」
「何でも良いだろう」

黒鬼は、闇をゆらりと流し赤鬼を見た。
葉に落ちる雨音だけが静かに聞こえる。

「赤鬼は、なぜワタシがそんなに欲しい?」
「さあなあ。美味いからか?」
「なぜ、わからん?鬼なら簡単なことだろう?」

鬼が欲するは、自分の血肉にする為。

「何故、血肉にせん?」

黒い瞳は、探るように赤い瞳を見る。
赤鬼は、その視線を簡単に笑い飛ばす。

「それは、黒鬼も同じだろう?」
「喰えば終わりだからだ」
「わかっとるじゃないか。俺もお前も退屈だ」
「ワタシは違う」
「なら、黒鬼は何がわからん?」

「…さてな」

黒鬼は、これ以上話しても無駄だと闇を離散し、屋敷に戻ることにした。

サアサアと雨が降る。

「黒鬼は、知りたいことが多いなあ」
「赤鬼が簡単に考えすぎだ」

赤鬼は横を通り過ぎる黒鬼を抱きしめ、こちらを向かせた。頬を触り、口付ける。

「じゃあ、なんで黒鬼は俺が欲しい?」

何度も何度も、赤鬼は答えなどはなから聞く気がないように唇が触れ、舌先が絡む。

赤い瞳が、面白そうに笑ってる。
「ただ欲しい。それは充分、鬼だと思うが?」

黒鬼は、薄く笑う。
「はっ。そうだな。それは鬼らしい考えだ」

黒鬼は、赤鬼の雨に濡れた首をベロリと舐めた。




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