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喰の果て
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鬼は喰らい喰らわれ、強くなっていく。
赤鬼も黒鬼も最初は小さな餓鬼だった。
気付けば赤鬼は他の鬼より強くなり、周りの妖すら喰らい尽くしてしまっていた。
畏れられると騒がしかった鬼も消えた。
あんなに喰っても減っていた腹も、あまり減らなくなっていた。
殺気も必要なくなって、静かな山のてっぺんでゴロリと昼寝をするようになった。
「おやおや、今日も暇そうだねえ」
「…なんだ、白。暇なのはお前だろ。よくもまあチョロチョロと来るもんだ」
美しい羽衣をまとい白い髪をなびかせ、フワフワと空を浮かぶは清らかな天人。白い瞳はキラキラと瞬いていた。
「知っているかい?この山三つ超えた先、さらに大きな湖の奥に、強い強い黒鬼ってのがいるんだそうよ」
「黒鬼?」
「そう。赤鬼みたいに強過ぎて、辺りに妖は現れないんだと。お前さんとどちらが強いかねえ?」
「ふーん」
和やかに話す白の話に、ほんの少し興味を持った。
俺と同じ強い鬼。一体どんな奴だろう。
それが赤鬼の、黒鬼へ会いに行くキッカケだった。
随分昔の話だ。遠い遠い昔話。
黒鬼の屋敷の日がよく当たる床で、赤鬼は転がって昼寝をしていた。サワサワと風で葉が揺れる音がする。
ピクリと瞼を開けると、そこには美しく笑っている白がいた。
「おやおや…どうやら黒鬼に、喰われちまったようだね。赤鬼」
「…ああ?」
白の瞳はキラキラと輝く。清らかな力。
この場にはそぐわない清浄な力。
ドンドン、ドンドン強くなる。
「!! てめえ!」
赤鬼が殺気を飛ばし刀を抜くが、白は素早く動き赤鬼の首を掴んで持ち上げた。
クスクス嗤う白い天人。
清らかな筈なのに、何故かギラギラとした狂気の混じった目で赤鬼を凝視する。
「ねえ赤鬼?お前じゃ黒鬼をヤるのは無理かい?あんなに妖共を喰ったのに、まだ追いつかないのかい?
ずっとずっと待っていたのに、ちいとも黒鬼は喰われないじゃないか」
「俺を…使うなんざ…千年早え…」
びくともしないたおやかな白の腕を、赤鬼はギリギリと潰すように握り締める。
鬼に清浄な力は猛毒で、赤鬼の首をドンドン蝕んでいく。
オオオオオオオォォォ……
黒い闇が辺り一面包み込み、白の力を押し潰していく。
赤鬼が白の腕に火柱を上げ、業火で燃やした。
その瞬間、黒鬼が静かに猛烈な速さで走って白に近づき、戦斧が両腕を奪っていた。
ビシャビシャと血が流れ続けるのも気にせず、白は憎々しげに黒鬼を睨んだ。
「黒鬼風情が…いつになったら喰われるか」
清らかな力を闇がドンドン包み込む。
「チョロチョロすんなや。この羽虫」
黒鬼の目は、怒りで轟轟と力を撒き散らしていた。
赤鬼は一歩、地を踏み鳴らす。刀閃が白の首を裂いた。
「斬る者間違えとるぞ。赤鬼!お前が狙うは黒鬼じゃ!」
ーー首はケタケタ笑いながら、天へ還って行った。
闇は清らかな力を全て消すまで渦巻いた。
黒鬼は赤鬼の髪を掴むと、白に蝕まれた首に喰らいつく。じゅうじゅうと血を啜り、べろりと舐めた。
「何を簡単に寝首かかれとる。阿呆が」
「うるせえ。酒に酔ってただけだ」
赤鬼は、首を触って癒えているのを確かめた。
「白は、お前を狙っとったんか」
「はん。あの羽虫、ワタシに喰われるのは気に入らんから、他の鬼を差し向ける腰抜けよ」
「そうか。じゃあ次は喰らうか」
「あんなん喰うな。腹下すわ」
赤鬼は黒鬼を不思議そうに見た。
「どうした。随分怒っとる」
「あの力のせいで小鬼が減ったわ。もう少しで産まれる鬼がいたのにな」
「わかったわかった。おれの瘴気をくれてやる」
赤鬼はゆらりと力を流していく。
辺りに充満する気配。
黒鬼の闇と赤鬼の瘴気がゆらゆらと溶けていく。
一人でいた時は、こんなこと考えもしなかった。
赤鬼は黒鬼の顎を掴む。
己の瘴気を黒鬼の中へ流すように口付けた。
赤鬼も黒鬼も最初は小さな餓鬼だった。
気付けば赤鬼は他の鬼より強くなり、周りの妖すら喰らい尽くしてしまっていた。
畏れられると騒がしかった鬼も消えた。
あんなに喰っても減っていた腹も、あまり減らなくなっていた。
殺気も必要なくなって、静かな山のてっぺんでゴロリと昼寝をするようになった。
「おやおや、今日も暇そうだねえ」
「…なんだ、白。暇なのはお前だろ。よくもまあチョロチョロと来るもんだ」
美しい羽衣をまとい白い髪をなびかせ、フワフワと空を浮かぶは清らかな天人。白い瞳はキラキラと瞬いていた。
「知っているかい?この山三つ超えた先、さらに大きな湖の奥に、強い強い黒鬼ってのがいるんだそうよ」
「黒鬼?」
「そう。赤鬼みたいに強過ぎて、辺りに妖は現れないんだと。お前さんとどちらが強いかねえ?」
「ふーん」
和やかに話す白の話に、ほんの少し興味を持った。
俺と同じ強い鬼。一体どんな奴だろう。
それが赤鬼の、黒鬼へ会いに行くキッカケだった。
随分昔の話だ。遠い遠い昔話。
黒鬼の屋敷の日がよく当たる床で、赤鬼は転がって昼寝をしていた。サワサワと風で葉が揺れる音がする。
ピクリと瞼を開けると、そこには美しく笑っている白がいた。
「おやおや…どうやら黒鬼に、喰われちまったようだね。赤鬼」
「…ああ?」
白の瞳はキラキラと輝く。清らかな力。
この場にはそぐわない清浄な力。
ドンドン、ドンドン強くなる。
「!! てめえ!」
赤鬼が殺気を飛ばし刀を抜くが、白は素早く動き赤鬼の首を掴んで持ち上げた。
クスクス嗤う白い天人。
清らかな筈なのに、何故かギラギラとした狂気の混じった目で赤鬼を凝視する。
「ねえ赤鬼?お前じゃ黒鬼をヤるのは無理かい?あんなに妖共を喰ったのに、まだ追いつかないのかい?
ずっとずっと待っていたのに、ちいとも黒鬼は喰われないじゃないか」
「俺を…使うなんざ…千年早え…」
びくともしないたおやかな白の腕を、赤鬼はギリギリと潰すように握り締める。
鬼に清浄な力は猛毒で、赤鬼の首をドンドン蝕んでいく。
オオオオオオオォォォ……
黒い闇が辺り一面包み込み、白の力を押し潰していく。
赤鬼が白の腕に火柱を上げ、業火で燃やした。
その瞬間、黒鬼が静かに猛烈な速さで走って白に近づき、戦斧が両腕を奪っていた。
ビシャビシャと血が流れ続けるのも気にせず、白は憎々しげに黒鬼を睨んだ。
「黒鬼風情が…いつになったら喰われるか」
清らかな力を闇がドンドン包み込む。
「チョロチョロすんなや。この羽虫」
黒鬼の目は、怒りで轟轟と力を撒き散らしていた。
赤鬼は一歩、地を踏み鳴らす。刀閃が白の首を裂いた。
「斬る者間違えとるぞ。赤鬼!お前が狙うは黒鬼じゃ!」
ーー首はケタケタ笑いながら、天へ還って行った。
闇は清らかな力を全て消すまで渦巻いた。
黒鬼は赤鬼の髪を掴むと、白に蝕まれた首に喰らいつく。じゅうじゅうと血を啜り、べろりと舐めた。
「何を簡単に寝首かかれとる。阿呆が」
「うるせえ。酒に酔ってただけだ」
赤鬼は、首を触って癒えているのを確かめた。
「白は、お前を狙っとったんか」
「はん。あの羽虫、ワタシに喰われるのは気に入らんから、他の鬼を差し向ける腰抜けよ」
「そうか。じゃあ次は喰らうか」
「あんなん喰うな。腹下すわ」
赤鬼は黒鬼を不思議そうに見た。
「どうした。随分怒っとる」
「あの力のせいで小鬼が減ったわ。もう少しで産まれる鬼がいたのにな」
「わかったわかった。おれの瘴気をくれてやる」
赤鬼はゆらりと力を流していく。
辺りに充満する気配。
黒鬼の闇と赤鬼の瘴気がゆらゆらと溶けていく。
一人でいた時は、こんなこと考えもしなかった。
赤鬼は黒鬼の顎を掴む。
己の瘴気を黒鬼の中へ流すように口付けた。
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