鬼ノ噺

とりとり

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黒の遊戯

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餓鬼の頃は腹を満たすのが楽しかった。
気が済むまで満たしていたら、周りに妖はいなくなっていた。

弱い鬼を喰うのも飽きてしまい、戯れに人里へ降りてみた。

そこにあるは、整った屋敷に甘い香り。
血を浴びず、破れもない人間共の着物を見ると無性にそれが欲しくなった。

そこに住まう人間を喰い散らし、手に入れるも物足りない。
欲しかった屋敷は血の海で、着物も着心地が悪かった。

ニンマリ笑って黒鬼は、人里をジッと眺めてた。
どうすれば、思い通りのモノが手に入る?
永く長く眺め続け、人を攫えば良いと理解した。

作れる人間だけを選び、闇で攫って作らせた。
整った屋敷が立ち、美しい着物を着る。
屋敷は世話が必要だと人が言うから、そのままそこで生かさせた。

弱い人間に殺気なんて必要もなく、ただ穏やかに暮らしていく。

だが、人は鬼共の大好物。

殺気がないと寄り付いていく。少しずつ人は減っていった。

黒鬼はもう人を攫うのが面倒だった。
チョロチョロしている小鬼を掴んで、一人の女の前に投げ捨てた。

「小鬼にお前らの仕事を教えろ。小鬼、喰らわず覚えりゃ居付いて良いぞ。嫌なら燃やす」

女はガタガタ震えながら、頭を下げる。
小鬼は首を傾げながらも、薄ら理解したようだった。

女は小鬼に色々教えた。段々小鬼の数が増え、他の人間も教え出す。
何故か笑い声も聞こえるようになっていき、まるで人里のようだった。

黒鬼はなにも手を出さず、唯々暮らしを眺めていた。

ある時、地面を揺るがす轟音が轟いた。
空には美しい羽衣を纏う白い天人。煌めく瞳に蔑みを隠しもせず、こちらを見ている。

「鬼風情が人の真似して里を作ったか。返してもらうぞ黒鬼。人は我らの創ったモノぞ」

黒鬼は面倒そうに白を見た。不味そうで喰う気がしない。

白は清浄な力で当たり一面包み込む。
小鬼はキーキー苦しみ出した。天人の力は弱い小鬼には毒だった。

「小鬼!嫌だ!止めてくれ!」
女が小鬼を抱きしめながら、天人に向かって叫んでいた。
「愚かな女よ。鬼に心を捧げたか。もう消えろ」
白は憐れな女を見下ろすと人差し指をスイと横に振る。
女の首が落ち、身体がパタリと倒れた。
小鬼は女にしがみつき、キーキー鳴いていた。

黒鬼は戦斧を掴み、ゆらりと立った。
「人を奪われた間抜けの白が、なにを戯言言うとるか」
黒い闇が白い力を押し潰す。
「消えるのはお前だ。羽虫」

尋常じゃない殺気に瘴気、闇が渦巻き、この世の地獄とはこのことだ。
小鬼達は瘴気を受けて、ギラギラと瞳を輝かせた。
人間は人のカタチを留められず、化け物に変化した。

狙うは白。
全ての目が天人を喰らおうと睨み付け、一斉に襲い出す。

「愚かモノ共!還る道を閉ざしたか!」
白は叫ぶが、みな聞く耳持たず、黒鬼の闇を纏って掴み掛かる。動けぬ白の身体を化け物ごと黒の戦斧が二つに裂いた。

「許さぬ黒鬼!いつか私が塵にしてやる!」
白は霞のように姿を散らし消えていった。

ボロボロになった屋敷の側で、キーキーと鳴きながら女の身体を齧る小鬼がいた。

小鬼は徐々に人のカタチになっていき、ポロポロと目から水を流して女の身体を抱きしめた。
「母さま、母さま…」

黒鬼は、不思議そうに産まれたばかりの鬼を眺める。
「喰ろうた女を母と呼ぶか」

涙に頬を濡らす鬼は、黒鬼を見る。
「お前にはわからぬモノだ。ここの小鬼しかわからぬモノだ…ああ、母さま…」
女の身体を抱いて、鬼はトボトボ去っていった。

まだ残ってる小鬼達は、人のカタチが壊れた化け物達を呼ぶように、キュウキュウと寂しそうに鳴いていた。

黒鬼の唇がゆっくり弧を描く。

「ふふ…そうか、ワタシにはわからぬか」

何故鳴く? 

わからない。

ーーーー面白い。

「小鬼よ、屋敷を直すがいい。人が残した物を使おうぞ。お前らが教わったことを新たに産まれる小鬼に教えろ。ワタシがわかるまで、やっておけ」

黒鬼は楽しげに、小鬼達を眺めていた。

いつかワタシも涙を流すか?

愚かになる日が訪れるかと想像するだけで、笑いが込み上げてきた。


ああ、退屈が消えていく。



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