そこは獣人たちの世界

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第二章

過去視 後編

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『また場面を飛ばす。一気に出産後までだ。さすがにそのあたりをキオ君に見せるわけにはいかないからな。』

「はい、わかりました。」

いいシーンだったけど、止められてディバンさんに告げられる。まぁ確かにそこは見せるシーンじゃないよね。あんまり長くなっちゃうとあれだし。ん?長く?あぁ!

「あ、始める前に待ってください!あの、僕どういう状態なんですか?」

『ん?あぁ、過去視をしているこの時間は実際には全然時は立っていないから安心しろ。』

「そうですか・・・わかりました。」

納得はいかなかったけど、ディバンさんがそういうならあんまり時間は立たないんだろう。でもこういう時に何秒とか何分とか何時間とか具体的な時間がないのは不便だし、ちょっと不安にもなる。といってもしょうがないか。

『じゃあ続けるぞ。この先が君が一番求めているところだろうからな。』

「え?」

僕が一番求めているところってのがわからないが、過去視の映像が動き始めた。場所は同じ山小屋だが、さっき見た獅子種の女性がタオルに包まれた獅子種の赤子を抱いていた。

「あれとの子が生まれてしまったな。いや、子には罪はないか。責任をもって育てよう。」

「ここで育てては、いけないのですね?」

「いや?ここでわたしとともに育てようという意味だ。拒否するか?」

「国王様のあなたが、ですか?ここのところほぼ毎日来ていますが、いいのでしょうか・・・」

あぁ、国王様、完全に惚れこんじゃってるんだね。これを見ると、ガロが僕に惚れたのも何となくそれが原因なんじゃないかと思うところはある。でもそれはきっかけに過ぎないんだ。
だって彼女はどうやら生んだこの片親であるはずの賊のボスには完全には惚れこんでなかったみたいだし。もし完全に愛し合っていたのなら鎖はいらなかっただろうし、殺したはずの相手の国王とこうも仲良くはしてないだろう。

「わたしの仕事が今このあたりの街おこしだから問題ない。まだまだかかりそうだからな。」

「そうですか。もしかしたらそのころには私も歩けるように・・・あ、まずいかもしれません。」

「何がだ?」

「やっぱり戻るんですね、これだけしていないと・・・すぐわかりますよ、見ていてください。」

子を抱いていた獅子種の女性が急に光り始めた。あ、これは見たことがある。僕が見たのは自分自身が光っているところだけど、元の姿である人間に戻る時の光だ。

「な、なんだ!?どうしたエリ!」

「大丈夫です。もう収まりましたよ。」

「エリ、なのか?だが、その姿は・・・」

そういえば獅子種のこの女性、思い出してみればたしかあのボスはエリーって言ってたけど、エリって名前なのか。どういう漢字を使うのかわからないけど、よく聞くような名前ではある。でもなんでエリーだったんだろう?さらわれたときにそう名乗ったのだろうか、それとも聞き間違えか、おっとそこはどうでもいいか。
エリさんに光が出てたのはほんとに一秒かそこらくらいで人間の姿になった。僕の知ってるような顔ではないけど、漆黒のような黒髪が異様に長い。髪が異様にロン毛なのは、もしかしたら獅子種の時は髪の毛がなかった影響で手入れしてないからなのかもしれない。でも肌はきれいなまんまだ。
まぁやっぱり国王は驚くよね。そりゃ驚くだろう。人間の姿なんて見たことがないだろうから。そして何より目の前で突然姿が変わったのだから。こう見てると、よくガロは怖がったりはせずに受け入れてくれたんだよね、元に戻って驚いてはいたみたいだけど。

「これが私本来の姿、人間という種族の姿です。」

「ニンゲン・・・古文書に乗っていたニンゲンか!?いや、確かに、そのピンクのような薄い肌に毛は頭に集中している姿は伝えの通りだが、伝説の部類だと思っていた。」

「私もこの世界に来た頃は恐ろしい人食いの獣が二足で歩く姿に驚いたものです。でもそれ以上に捕らえられ、犯されを続けてもう感覚がくるってしまったのですけど。」

おぉ、壮絶な人生だな・・・僕もそうなっていた可能性があったんだから余計に怖い。おっとりしているようだけど、内心不安でいっぱいだろう。

「んな!?あのボスが初めてではないのか!?」

「そうですね。あの方は比較的優しく扱ってくれました。どうにも惚れてしまったのには弱く、やさしく扱いたいが、逃がしたくないと言われました。不思議な人でしたね。」

「・・・いや、その言葉で片づけていいものではないぞ。だが、なぜニンゲン種なのに獅子種の姿になっていたのだ?」

「私が彼に犯されていたからですよ。その前は犬種、さらにその前は鰐種の姿でした。鰐種の方はかなりひどかったですよ。同種の姿になってもぼろきれのように扱われ、飽きないやつだと言われ続けましたが、大金持ちの犬種に借金があったらしく、やむなく私を手放したとか。そしてその犬種が馬車でわたしを送る道中に彼がさらったのです。」

聞きたくないほど壮絶だった。そういえば2000年前の淫行の魔族も人間だっていってたっけ。つまりエリさんもそうなっていた可能性があったわけだ。飲まれずによく耐えたもんだ。

「そこまで話さなくてもよかったのだが、安心するといい。わたしは無理に詰めよるつもりもなく、わたしの周囲にも万が一そういう輩がいたらわたしが直々に排する。」

「それは頼もしいですね、よろしくお願いします。」

にっこりと穏やかに笑いながら子を抱き座ったままお辞儀をした彼女を、同じように穏やかな目で見つめる国王のシーンで映像が止まった。

『まぁこの後に結局このエリが王にいろいろと詰め寄る。こんな感じだ。』

「え?」

また聞き返したけどその答えは返ってこずに映像が始まる。山小屋のままだが、床には金の模様で刺しゅうの入った真っ赤なカーペットが敷かれていた。
子供用ベットも設置されていてソファーに座りそこを見つめるエリさんはまだ人間のままだ。そしてエリさんの隣で国王も二人をやさしく見つめていた。

「どうやら寝たようだな。ではよければ続きを聞かせてくれないか?そのギルドという機関について。」

「うふふ、ディエティさんはこの話好きですね。いいですよ。えっとギルドというのは冒険者が務めて、依頼を受けて魔物がりしたり、町の住民の手伝いをしたりする話は申しましたよね?」

「あぁ、聞いたぞ。」

「それではランク制度の話でもしましょうかね。でもギルドって私にとってはおとぎ話のようなものなんですよ?」

「かまわないさ、だがこの世界にはキチンと魔物がいる。ならその機関を作れるかもしれないだろ?」

「うふふ、そうですね。」

何とも楽しそうにしながらエリさんがランク制度の話をし始めた。A,B,C,Dと今のようなランク制度にくわえて、Aの上にSがあるという話になった。

「なぜSが上なのだ?この世界にもABCDの概念はある。おそらくエリより前に来たニンゲンが広めたのだろう。だがSは相当後ろだったはずだぞ?」

「たぶん何かの頭文字なんだと思います。Sだからスーパー?それともスペシャル?ちょっとわからないですけど、よくお話ではSが一番上となっています。Aが一番上のお話もありましたけどね。」

「なるほど、Sが特別感がある文字なのか。」

なるほど、エリさんも僕と同じように小説をよく読む人っぽいな。でも前調べたらたしかSって最高、至高、崇高みたいな意味のスプリームみたいなのが由来じゃなかったっけ?まぁスーパーもスペシャルも由来かもしれないけど。

「うふふ、そうですね。・・・あなたと話していると、楽しいですね。一人の時は、この子の面倒もあるにはありますが、やはり少し寂しいです。」

「・・・そうはいうが、わたしにもやるべきことがある。ここの町おこしもだいぶ佳境に近づいてきた。時期に、移動するときがくる。どうするのだ?」

「この姿では出歩けませんよ。古文書にもあるだけじゃなく、注目の的になります。できれば避けたいのです。」

このころはこの人が国王だから国から狙われるってことにはならないだろうけど、それ以前に奇異の目で見られるのは確定だ。それだけじゃなく、今はフリーなわけで性的な面でも王がどこまで守り切れるかわからない。

「そうはいうが・・・」

「なので、私をあなたと同じ種族の姿にしていただけませんか?もちろん、私では国王の愛人など本来は・・・え?」

エリさんが何か言い終わる前に、国王がソファーに押し倒していた。その目は見たことある。ガロが僕を見る目と似ている。獲物を見る目だ。ほんのりエリさんの肩が震えて、国王が体を引いた。

「す、すまん。君がこういうことをされてきたという話を聞いておいて、わたしはなにを。」

「うふふ、それはいいんですよ。私でいいといってくれているようで、うれしいです。人と話すのがこんなに楽しいんなんて、元の世界でも、この世界のこれまでもあまり感じませんでしたから。あなたとなら、そういう関係もいいって思ってる自分がいるんです。」

「エリ、だが体の負担は大きいぞ?まだ子が生まれてからそれほど立っていない。」

「大丈夫ですよ。これまでは子が生まれた後もすぐにしていましたから。どうやら結構、丈夫になったみたいなんです。前とは違って。」

「・・・そうか、そこまで言われたら、添え食わぬは雄の恥だな。子供はしっかり眠っているか?」

「えぇ、場所だけ、移しましょうか。」

「ここでやってはうるさくて起こすかもしれないからな。」

何って甘ったるい雰囲気!え、僕もいつもこんな感じなの!?いやいやいや、あ、でも、こんな感じかも・・・でも、しょうがないじゃん。だってガロ相手だし。というか結構急展開だったな!あ、映像が止まった。

『かなり急だっただろ?だがこの後二人目の神龍種の子を産んだ後、エリは死去した。この時は気丈にふるまっていたが、体柄の影響は大きかったのだろう。』

そういうとちょっと場面が飛ぶ。神龍種らしい角がすでに生え始めていて這い歩く子供とすでに二足で歩き始めているようで、不安げに神龍種の女性を見つめる獅子種の子がまず目に入る。
そしてかなり苦しげにお腹をさするエリさんらしき神龍種の女性はもう出産間近な雰囲気ほどにお腹が大きくなっていた。それをもう一人不安げに横でお腹をさするのは国王だ。場所が変わってない、あの小屋のまま。前見た外の景色だし、カーペットや子供用ベットもそのまま使われている。

「大丈夫か?」

「ごめん、この子は産み切るわ。でも、そのあとは、わからない。」

「そうか、結局この家から出せてやれなかった。わたしががっつきすぎたせいだ。ようやく強避妊薬も作れたというのに。」

「いいえ、私からも誘うこともよくあったわ。しょうがないことよ。」

あぁなるほど、そのために強避妊薬はできたのか。でも本当に危なかったなら子宝封印もあったはず。この時代にはなかったのか?

「それにそもそも、私は子供が欲しかったの。だから封印も断ったでしょ?」

「そう、だったな。」

断ったのはエリさんか。もしかしたら元の世界で子供関連で何かあったのかもしれない。かなりつらそうな表情に、国王もこれ以上は言葉では触れず、お腹をやさしくさすっていた。

『よし、キオ君に見せるのはここまでだ。さぁ目覚めるんだ。』

「あ、終わりですね。わかりました。」

もう少しあの光景を見ておきたいと思ったが、映像は国王もエリさんもおなかを触りあって止まっている。あの幸せはもう長くは続かないんだなと、少し寂しい気持ちで視界が暗転移していった。目を開くと、元のグランマスタールームの景色で、ちゃんと自分の手とかも見えるようになっていた。
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