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第二章
過去視 前編
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3000年前にいたという人間の話、ガロはその話を聞いたら完全に巻き込まれることになるだろうからという不安もあってか、結構厳しい顔でどうしたいか聞いてきたけど、聞きたいという興味の方が上回っちゃったからね。
「じゃあガロ、少しソファーの端に座れ、キオ君は体を横に。ガロを膝枕にしてもいいぞ。」
「うぇ!?し、しませんよ。」
まぁとりあえず従って横になった方がいいだろう。でも確かにいくら大きいソファーといえ、ガロが横に座った状態じゃ僕が全身横になるのは無理だ。足はガロのほうに向けつつ下に落としておいて、頭は腕かけを枕にして横になった。
「ディバン、本当にやるのですか?」
「そうは言っても話すよりもこれが一番いいだろ?」
「何をするつもりなのか、聞いてもいいか?」
「あぁ、キオ君にこれから第二国王が残した記録を見せる。キオ君、あとでガロと話すのは構わないが、ここでは見た内容は喋らないように。」
「え、あ、はい。でも記録を見せるって?」
魔道具か何かを使うんだろうか?でもそれならわざわざ横にさせられた意味が分からない。考えてたらディバンさんが立ち上がってこっちに近づいてきた。
「ガロ、少しキオ君の頭に触れるが、すぐにすむ。」
「なっ、いや、必要なことならいい。」
「行くぞキオ君、過去視。」
「え?」
つんっとおでこをつつかれたと思ったら、その瞬間、目の前の景色が一変した。さっきまできれいな王都のグランドマスターの部屋だったのに、急に薄汚いぼろの木造の酒場らしき場所の景色だった。
そこでディバンさんと瓜二つの姿、だけど鱗の色は緑に近い青、ターコイズブルーとでもいえばいいんだろうか、そんな色をしたかなりガタイのいい和竜、じゃなくって神龍種の人が、獅子種の集団の一人の頭をつかんでいた。他にもいっぱい獅子種の人が倒れ込んでいるけど、みんな片づけたってところだろうか?服装は上裸で生傷が多く、なんというか賊という言葉がよく合いそうな見た目だ。そんな景色を完全に俯瞰している状態で少し困惑する。
「お前らのボスはどこにいる?なぜここにいない?最近急に人攫いの腕が落ちたのと関係がありそうだな?」
「え、なにごと?人攫い?」
『あぁそうだキオ君。これは元第二国王であり、初代グランドマスターが人攫いを生業としていた裏の賊をとらえているシーンだ。』
「え、ディバンさん!?どこ?」
目の前の人が発した言葉でないのはわかる。急に見てた映像を一時停止するように空間が止まりきったからだ。しかも頭に直接響いてくるような声でちょっとグワングワンする。どこかにいるってわけじゃない?
『俺様は語りかけてるがそこにはいない。なんとなくわかるかな?』
「あ、はい、なんとなくわかります。」
『質問がある時は今のように声を出してくれれば過去視を止めて答える。では続けるぞ』
そ、それだけ?って思ったけど、これが3000年前の出来事ってことなんだろう。この後にこの時代に来たらしい人間が出てくるんだろうからおとなしく見ていればいいだろう。
「ボ、ボスはこの町の北にある、山小屋にずっと通ってる、そこに一人、かっさらってきたやつがいるが、そいつに惚れこんじまったらしい。もうボスは、俺たちを見ていないさ。」
「なるほど、あのボスあってこその集団だったからな。ボスがさらいをやめて稼ぎが少なくなり、部下だけでやろうとしてお粗末になったわけか。」
「ケっそういう、ことだ。まさか国王様が来るとは、予想外だったけどな。」
この人攫い集団はそのボスがいる間はかなり巧妙に仕事をしていたってのは結構怖い話だな。そしてこの流れはおそらく、なんて考えてたら映像が止まった。あ、映像ではないのかな?俯瞰とはいえほんとにその場にいるかのようだし。
『キオ君、少し場面を飛ばすぞ?察しはついたと思うが、その山小屋にとらえられた女性はニンゲンだ。』
「やっぱりそうなんですね・・・」
僕がそう答えると一気に景色が変わった。さっき言ってた山小屋だろう。僕がこの世界に初めに来た時に見たログハウスに似ているから、もしかしたら同じものかもしれない。
そして俯瞰で見えるのは小屋だけじゃない。疲弊し、立派だったであろう鬣がボロボロになったおそらくボスと呼ばれてた獅子種の人を見下す先ほどの神龍種の人、初代グランドマスターだ。このころはギルドがなかったようだし、まだ国王だったようだけど。
「何か、言い残すことはあるか?」
「エリーには、手を、出すな。いや、見も、するな。あれは、俺の、妻だ。」
「さらった相手だろ。どうするかは見て決める。」
「・・・そうか。」
もう立ち上がれもしないほど疲れているように見えたのに、横に落ちていた完全に折れた剣を拾い上げ、国王に向かって突っ込んでいった。いや、突っ込んだはずだったが、国王が手を前に突き出すとまるでボスだけが時間が止まったように体を軽く宙に浮かせた状態で止まっていた。
「静止。」
「す、すごい、力だ。」
『あぁ、そうだろ?これが初代ギルドマスターの時の力だ。俺様もここまですごい静止は使えない。ただ、この後は首を跳ねる。飛ばすぞ?』
その言葉に思わず生唾を飲んだ。いや、しょうがないんだろう。見せられたわけじゃないけど、あの獅子の人はいくつもの人をさらい、もしかしたら犯し、そして売っていったんだろうから。
少しシーンがとぶとすでに小屋の中だった。小屋の中は乱雑かと思ったらかなり小ぎれいだった。その一番奥の部屋に入るとその部屋だけは異常なほどに綺麗だった。外の見える窓も遮られたりしておらず、あたりの平原に咲く花を見れるようになっているようだ。
それだけじゃない、料理できるようにとキッチンもあって、食器もかなり豪華なのがそろえられている。当然シンクもきれいだし、キッチンはガロの家にあったのくらい便利そうに見えた。
ただそこに一人、窓際で国王の来訪を驚くようにたたずむ獅子種の女性の足にはこの部屋の雰囲気に似つかわしくない黒い鎖輪がはめられていて、部屋の角にと繋がれていた。部屋の中ら自由に歩けるだろうけど、おそらく部屋からは出れない鎖の長さだろう。もしかしたら窓からなら出られなくはないかもだけど、あれを外せなければ意味はないだろう。
その獅子種の女性を見て、一番に思ったことはきれいだということだ。どこにあるのかは知らないけどお風呂とかにもしっかり入っていたようだ。だけどそういうことじゃない、不思議と目を奪われるんだ。
「どなた?」
「っ!あぁ、わたしは一応この国の国王をしている、ディエティという者だ。人攫い集団の捕虜となっているあなたを助けに来た。」
「国王自らですか?それはすごいですね。まるで王女様にでもなったみたい。」
ウフフと笑う彼女の姿に国王は完全に目を奪われていた。僕も一瞬素敵だなんて思っちゃったけど、いやいや、僕にはガロがいるし、この人、一応人間なんだよね。獅子種なのはたぶん、そういうことなんだろう。
「と、とりあえず枷を外す。おとなしくしていてくれ。」
「はい。」
「これは、魔素を使えなくする枷か。だが、はめている者にしか効果はないようだな。触れるものすべてに効力をもたらす方でないならば、物質経年。」
俯瞰視点が近づいたのでよく見てみると、確かに何やら複雑な模様が描かれていた。これも魔道具の一種なんだろう。でも国王が触れて物質経年と唱えるとあっけなくさび付いたようになり、力を入れてバキリとはずしてしまった。多分経年劣化させたんだろう。
「これで自由の身だ町までは送ろう。」
「いえ、それはできません。私は、ここに住み続けます。」
「なっ、なぜだ!?」
「え、なんで!?」
思わず僕も声を出しちゃった。あんな風にとらわれれたんだ、ここはとてもいい思い出がある場所とは言えないだろう。もちろん人間なのを隠すのは必要だろうけど、いったん町にはいきたいはずだ。
「私は、その、かなり特殊な種族なのです。一見獅子種に見えるでしょうが、これは一時的なものです。そして何より、腹に子がいます。今動くのは避けたいのです。」
「っ!あれとの子か・・・」
確かにゆったりとした服を着てて気づかなかったけど、よく見ると少しお腹が膨れているようだ。膨れてるのがわかるほどってことはあまり動くのは勧められないだろう。ただそのお腹の子を、この国王が生ませる気があればだが。
「そうです。彼は確かに私をさらいました。ですがどうやら私を気に入ってしまったようで、二が採用に対応はされましたが、かなり丁寧に扱ってくれましたよ。悪い人でなければ、いい夫になったでしょう。」
「そうか、生まれてくる命に罪はない。ここで出産するのか?」
「そのつもりです。」
「そうか、ならわたしが面倒を見よう。一応出産への知識もある。」
「国王様が、ですか?」
「あぁ、なんでも身につけろと父親の教えでね。」
困ったように顔をゆがませたけど、何とも優しい声に聞こえて、いろんな教育をして大変ではあったのだろうけど、悪いものじゃなかったことがうかがえた。
「じゃあガロ、少しソファーの端に座れ、キオ君は体を横に。ガロを膝枕にしてもいいぞ。」
「うぇ!?し、しませんよ。」
まぁとりあえず従って横になった方がいいだろう。でも確かにいくら大きいソファーといえ、ガロが横に座った状態じゃ僕が全身横になるのは無理だ。足はガロのほうに向けつつ下に落としておいて、頭は腕かけを枕にして横になった。
「ディバン、本当にやるのですか?」
「そうは言っても話すよりもこれが一番いいだろ?」
「何をするつもりなのか、聞いてもいいか?」
「あぁ、キオ君にこれから第二国王が残した記録を見せる。キオ君、あとでガロと話すのは構わないが、ここでは見た内容は喋らないように。」
「え、あ、はい。でも記録を見せるって?」
魔道具か何かを使うんだろうか?でもそれならわざわざ横にさせられた意味が分からない。考えてたらディバンさんが立ち上がってこっちに近づいてきた。
「ガロ、少しキオ君の頭に触れるが、すぐにすむ。」
「なっ、いや、必要なことならいい。」
「行くぞキオ君、過去視。」
「え?」
つんっとおでこをつつかれたと思ったら、その瞬間、目の前の景色が一変した。さっきまできれいな王都のグランドマスターの部屋だったのに、急に薄汚いぼろの木造の酒場らしき場所の景色だった。
そこでディバンさんと瓜二つの姿、だけど鱗の色は緑に近い青、ターコイズブルーとでもいえばいいんだろうか、そんな色をしたかなりガタイのいい和竜、じゃなくって神龍種の人が、獅子種の集団の一人の頭をつかんでいた。他にもいっぱい獅子種の人が倒れ込んでいるけど、みんな片づけたってところだろうか?服装は上裸で生傷が多く、なんというか賊という言葉がよく合いそうな見た目だ。そんな景色を完全に俯瞰している状態で少し困惑する。
「お前らのボスはどこにいる?なぜここにいない?最近急に人攫いの腕が落ちたのと関係がありそうだな?」
「え、なにごと?人攫い?」
『あぁそうだキオ君。これは元第二国王であり、初代グランドマスターが人攫いを生業としていた裏の賊をとらえているシーンだ。』
「え、ディバンさん!?どこ?」
目の前の人が発した言葉でないのはわかる。急に見てた映像を一時停止するように空間が止まりきったからだ。しかも頭に直接響いてくるような声でちょっとグワングワンする。どこかにいるってわけじゃない?
『俺様は語りかけてるがそこにはいない。なんとなくわかるかな?』
「あ、はい、なんとなくわかります。」
『質問がある時は今のように声を出してくれれば過去視を止めて答える。では続けるぞ』
そ、それだけ?って思ったけど、これが3000年前の出来事ってことなんだろう。この後にこの時代に来たらしい人間が出てくるんだろうからおとなしく見ていればいいだろう。
「ボ、ボスはこの町の北にある、山小屋にずっと通ってる、そこに一人、かっさらってきたやつがいるが、そいつに惚れこんじまったらしい。もうボスは、俺たちを見ていないさ。」
「なるほど、あのボスあってこその集団だったからな。ボスがさらいをやめて稼ぎが少なくなり、部下だけでやろうとしてお粗末になったわけか。」
「ケっそういう、ことだ。まさか国王様が来るとは、予想外だったけどな。」
この人攫い集団はそのボスがいる間はかなり巧妙に仕事をしていたってのは結構怖い話だな。そしてこの流れはおそらく、なんて考えてたら映像が止まった。あ、映像ではないのかな?俯瞰とはいえほんとにその場にいるかのようだし。
『キオ君、少し場面を飛ばすぞ?察しはついたと思うが、その山小屋にとらえられた女性はニンゲンだ。』
「やっぱりそうなんですね・・・」
僕がそう答えると一気に景色が変わった。さっき言ってた山小屋だろう。僕がこの世界に初めに来た時に見たログハウスに似ているから、もしかしたら同じものかもしれない。
そして俯瞰で見えるのは小屋だけじゃない。疲弊し、立派だったであろう鬣がボロボロになったおそらくボスと呼ばれてた獅子種の人を見下す先ほどの神龍種の人、初代グランドマスターだ。このころはギルドがなかったようだし、まだ国王だったようだけど。
「何か、言い残すことはあるか?」
「エリーには、手を、出すな。いや、見も、するな。あれは、俺の、妻だ。」
「さらった相手だろ。どうするかは見て決める。」
「・・・そうか。」
もう立ち上がれもしないほど疲れているように見えたのに、横に落ちていた完全に折れた剣を拾い上げ、国王に向かって突っ込んでいった。いや、突っ込んだはずだったが、国王が手を前に突き出すとまるでボスだけが時間が止まったように体を軽く宙に浮かせた状態で止まっていた。
「静止。」
「す、すごい、力だ。」
『あぁ、そうだろ?これが初代ギルドマスターの時の力だ。俺様もここまですごい静止は使えない。ただ、この後は首を跳ねる。飛ばすぞ?』
その言葉に思わず生唾を飲んだ。いや、しょうがないんだろう。見せられたわけじゃないけど、あの獅子の人はいくつもの人をさらい、もしかしたら犯し、そして売っていったんだろうから。
少しシーンがとぶとすでに小屋の中だった。小屋の中は乱雑かと思ったらかなり小ぎれいだった。その一番奥の部屋に入るとその部屋だけは異常なほどに綺麗だった。外の見える窓も遮られたりしておらず、あたりの平原に咲く花を見れるようになっているようだ。
それだけじゃない、料理できるようにとキッチンもあって、食器もかなり豪華なのがそろえられている。当然シンクもきれいだし、キッチンはガロの家にあったのくらい便利そうに見えた。
ただそこに一人、窓際で国王の来訪を驚くようにたたずむ獅子種の女性の足にはこの部屋の雰囲気に似つかわしくない黒い鎖輪がはめられていて、部屋の角にと繋がれていた。部屋の中ら自由に歩けるだろうけど、おそらく部屋からは出れない鎖の長さだろう。もしかしたら窓からなら出られなくはないかもだけど、あれを外せなければ意味はないだろう。
その獅子種の女性を見て、一番に思ったことはきれいだということだ。どこにあるのかは知らないけどお風呂とかにもしっかり入っていたようだ。だけどそういうことじゃない、不思議と目を奪われるんだ。
「どなた?」
「っ!あぁ、わたしは一応この国の国王をしている、ディエティという者だ。人攫い集団の捕虜となっているあなたを助けに来た。」
「国王自らですか?それはすごいですね。まるで王女様にでもなったみたい。」
ウフフと笑う彼女の姿に国王は完全に目を奪われていた。僕も一瞬素敵だなんて思っちゃったけど、いやいや、僕にはガロがいるし、この人、一応人間なんだよね。獅子種なのはたぶん、そういうことなんだろう。
「と、とりあえず枷を外す。おとなしくしていてくれ。」
「はい。」
「これは、魔素を使えなくする枷か。だが、はめている者にしか効果はないようだな。触れるものすべてに効力をもたらす方でないならば、物質経年。」
俯瞰視点が近づいたのでよく見てみると、確かに何やら複雑な模様が描かれていた。これも魔道具の一種なんだろう。でも国王が触れて物質経年と唱えるとあっけなくさび付いたようになり、力を入れてバキリとはずしてしまった。多分経年劣化させたんだろう。
「これで自由の身だ町までは送ろう。」
「いえ、それはできません。私は、ここに住み続けます。」
「なっ、なぜだ!?」
「え、なんで!?」
思わず僕も声を出しちゃった。あんな風にとらわれれたんだ、ここはとてもいい思い出がある場所とは言えないだろう。もちろん人間なのを隠すのは必要だろうけど、いったん町にはいきたいはずだ。
「私は、その、かなり特殊な種族なのです。一見獅子種に見えるでしょうが、これは一時的なものです。そして何より、腹に子がいます。今動くのは避けたいのです。」
「っ!あれとの子か・・・」
確かにゆったりとした服を着てて気づかなかったけど、よく見ると少しお腹が膨れているようだ。膨れてるのがわかるほどってことはあまり動くのは勧められないだろう。ただそのお腹の子を、この国王が生ませる気があればだが。
「そうです。彼は確かに私をさらいました。ですがどうやら私を気に入ってしまったようで、二が採用に対応はされましたが、かなり丁寧に扱ってくれましたよ。悪い人でなければ、いい夫になったでしょう。」
「そうか、生まれてくる命に罪はない。ここで出産するのか?」
「そのつもりです。」
「そうか、ならわたしが面倒を見よう。一応出産への知識もある。」
「国王様が、ですか?」
「あぁ、なんでも身につけろと父親の教えでね。」
困ったように顔をゆがませたけど、何とも優しい声に聞こえて、いろんな教育をして大変ではあったのだろうけど、悪いものじゃなかったことがうかがえた。
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