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第二章
油断大敵
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今切られたことを感じ取ったかのように、少し遅れて巨大な白虎の首元から紫色の血が流れだす。これで依頼終了か、僕はほんと、ついてきただけだったな。
「油断するなキオ、気配がおかしい。巨白虎の靄が薄まる気配がない。」
「え?でも今倒したんじゃ!?」
ちょっと離れているために大きな声での会話になったけど、確かに僕の回りまで靄が漂ってるままだ。すぐに消えないにしてもむしろ虎の奥の方がより濃くなってるようにも見える。
「ちっ、もう一匹居やがる。おそらくだが今のを見られていたな。単純には動いてくれそうにないぞ。見えないなら魔素感知を使え。」
僕の位置からは視認できなかったけど、魔素感知を使うと分かる。靄にまみれて薄めになってきてるガロのさらに先にそこに横たわる虎と同じくらいの存在を感じる。
「依頼では一匹って乗ってたよね?」
「おそらく別個体がいることは依頼主もわかっていただろうが、あえて乗せなかったんだろうな。だが一応相手は村人だからな、靄だけを確認し一匹と乗せたともいえる。」
確かにガロの言う通り、もし戦闘経験のないような普通の人がホワイトグレータータイガーの白い靄だけを視認して逃げてきたとしても、この村周辺で魔素の靄から生まれ出でる可能性がわずかにあるとはいえ、いてもせいぜい一匹と思うのが当然だろう。
「さっきのを見られてたって言ってたけど大丈夫そう?」
「倒す分には問題ない。だが、ついてこれるか?」
僕が魔素で気配を感じたほうにとガロが剣を向ける。倒す分には問題ない、それは僕から離れることになるってことか。ここにいたほうが邪魔にはならないだろうけど、何かあった時には慣れてるってのは危ないか。
「頑張るよ!」
「そうか、距離を離されてもまずい、突っ込んでくる!」
ガロが飛び出すと完全に靄の中にと消えて行ってしまった。でも魔素感知で虎の父のガロの位置もなんとなくはわかる、僕も剣を握りつつできうる限り全力でそっち側にと向かう。
靄が濃くなってきている。さっきみたいにあっけなく倒したんだとしても、白虎の出したこの靄は少しましになるとはいえ、すぐに消えるものじゃない。でもちゃんとガロの気配はそこにある。そっちに向かって走ればいい。多少離れいているけど、このあたりなら声が聞こえるだろうか。
「ガロ!終わったの!?」
「キオ!後ろだ!」
後ろといわれて振り向くと、僕に今にも襲い掛からんと飛びついて来ているホワイトグレータータイガーの姿が見えた。命の危機だと思ったからだろうか、それとも別の何かの影響だったのか、その瞬間だけ時の流れがすごくゆっくりに感じた。
大きな牙をむき出しにし、鋭い爪を立てているのに気づかなかったのは、ガロとその奥の虎に集中しすぎていて後ろに魔素感知を使っていなかったせいだ。常に全方位にといわれ続けていたのに。
そんなことを思ってももう遅い、今にも引き裂かれる。そう思ったら僕の体はほとんど無意識に動いた。とっさに魔素纏いで身体強化と剣の強化をして、迫りくる巨体を受けそらしていた。
体をそらす中、白い無防備な横腹が見える。今そこに剣を打ち込みたかったけど、受け流した影響でちょっとしびれて動かせそうにない。とっさに刃に添えていた左手を突き出した。
「サンダーショット!」
バチバチ!と結構けたたましい音を立てて僕が打ち出したサンダーショットはホワイトグレータータイガーの腹を突き抜けた。ドサリと倒れる音がする。僕が倒れたわけじゃない。ホワイトグレータータイガーが倒れたんだ。
「実戦レベルとは言ったが、ほんとに一撃で倒せるとはな。大丈夫かキオ?魔素を使いすぎた感覚はないか?」
「え?あ、僕が、倒したの?」
「あぁそうだ。なんだ、実感がないか?死んだふりでもない。きっちり死んでいる。まぁその確認が面倒で俺は首をとっちまうんだが、首がりせずに狩った個体なら解体所で高くつくぞ。」
ガシガシと大剣で僕がサンダーショットを打ち込んだホワイトグレータータイガーをつつくが全く反応しない。ほんとに無意識レベルだったけど、一発で仕留めちゃったんだ。そう思ったらふと膝から崩れ落ちた。
「お、おい!大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫。ちょっと怖かっただけ。あれ、立てない?」
「魔素の使い過ぎだな。身体強化のためにかなり大量に消費していたように見えた。その上にこの巨体を貫き一撃で沈める威力だ。かなり魔素を込めたんだろうな。まぁ防衛本能だ仕方ない。」
そういうとなぜかガロもその場に座り込んだ、気づけば周りの靄はかなり薄れてきていてあたりの様子も少しずつ分かるようになってくる。ガロが来た方のちょっと離れたところにまた首と体が分かれたホワイトグレータータイガーの姿が見えた。
「それにしてもキオを狙うとはな。もう一匹が俺の感知内に入ってきたと思ったら、一気にキオのほうから近づいて来ていた。さすがに焦ったぞ。後ろの感知ができていなかったのか?」
「あはは、ごめん。ガロが見えなくて不安で、前に意識が行き過ぎてたみたい。」
「はぁ、受け流しからの魔法の打ち込みを含めてかなりいい動きをしていたんだが、無意識だったようだし、今後はもっと周囲に魔素感知を広げろよ?」
「うん、わかってるよ。」
「俺は死体を回収してくる。少し休んどけ。」
ガロは立ち上がってまず最初に倒した虎を回収するようだ。鮮度とかの問題かな?僕も立ち上がりたかったけど、もう少し休まないと無理そうだ。せっかく一匹仕留めたけど格好付かないや。
「油断するなキオ、気配がおかしい。巨白虎の靄が薄まる気配がない。」
「え?でも今倒したんじゃ!?」
ちょっと離れているために大きな声での会話になったけど、確かに僕の回りまで靄が漂ってるままだ。すぐに消えないにしてもむしろ虎の奥の方がより濃くなってるようにも見える。
「ちっ、もう一匹居やがる。おそらくだが今のを見られていたな。単純には動いてくれそうにないぞ。見えないなら魔素感知を使え。」
僕の位置からは視認できなかったけど、魔素感知を使うと分かる。靄にまみれて薄めになってきてるガロのさらに先にそこに横たわる虎と同じくらいの存在を感じる。
「依頼では一匹って乗ってたよね?」
「おそらく別個体がいることは依頼主もわかっていただろうが、あえて乗せなかったんだろうな。だが一応相手は村人だからな、靄だけを確認し一匹と乗せたともいえる。」
確かにガロの言う通り、もし戦闘経験のないような普通の人がホワイトグレータータイガーの白い靄だけを視認して逃げてきたとしても、この村周辺で魔素の靄から生まれ出でる可能性がわずかにあるとはいえ、いてもせいぜい一匹と思うのが当然だろう。
「さっきのを見られてたって言ってたけど大丈夫そう?」
「倒す分には問題ない。だが、ついてこれるか?」
僕が魔素で気配を感じたほうにとガロが剣を向ける。倒す分には問題ない、それは僕から離れることになるってことか。ここにいたほうが邪魔にはならないだろうけど、何かあった時には慣れてるってのは危ないか。
「頑張るよ!」
「そうか、距離を離されてもまずい、突っ込んでくる!」
ガロが飛び出すと完全に靄の中にと消えて行ってしまった。でも魔素感知で虎の父のガロの位置もなんとなくはわかる、僕も剣を握りつつできうる限り全力でそっち側にと向かう。
靄が濃くなってきている。さっきみたいにあっけなく倒したんだとしても、白虎の出したこの靄は少しましになるとはいえ、すぐに消えるものじゃない。でもちゃんとガロの気配はそこにある。そっちに向かって走ればいい。多少離れいているけど、このあたりなら声が聞こえるだろうか。
「ガロ!終わったの!?」
「キオ!後ろだ!」
後ろといわれて振り向くと、僕に今にも襲い掛からんと飛びついて来ているホワイトグレータータイガーの姿が見えた。命の危機だと思ったからだろうか、それとも別の何かの影響だったのか、その瞬間だけ時の流れがすごくゆっくりに感じた。
大きな牙をむき出しにし、鋭い爪を立てているのに気づかなかったのは、ガロとその奥の虎に集中しすぎていて後ろに魔素感知を使っていなかったせいだ。常に全方位にといわれ続けていたのに。
そんなことを思ってももう遅い、今にも引き裂かれる。そう思ったら僕の体はほとんど無意識に動いた。とっさに魔素纏いで身体強化と剣の強化をして、迫りくる巨体を受けそらしていた。
体をそらす中、白い無防備な横腹が見える。今そこに剣を打ち込みたかったけど、受け流した影響でちょっとしびれて動かせそうにない。とっさに刃に添えていた左手を突き出した。
「サンダーショット!」
バチバチ!と結構けたたましい音を立てて僕が打ち出したサンダーショットはホワイトグレータータイガーの腹を突き抜けた。ドサリと倒れる音がする。僕が倒れたわけじゃない。ホワイトグレータータイガーが倒れたんだ。
「実戦レベルとは言ったが、ほんとに一撃で倒せるとはな。大丈夫かキオ?魔素を使いすぎた感覚はないか?」
「え?あ、僕が、倒したの?」
「あぁそうだ。なんだ、実感がないか?死んだふりでもない。きっちり死んでいる。まぁその確認が面倒で俺は首をとっちまうんだが、首がりせずに狩った個体なら解体所で高くつくぞ。」
ガシガシと大剣で僕がサンダーショットを打ち込んだホワイトグレータータイガーをつつくが全く反応しない。ほんとに無意識レベルだったけど、一発で仕留めちゃったんだ。そう思ったらふと膝から崩れ落ちた。
「お、おい!大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫。ちょっと怖かっただけ。あれ、立てない?」
「魔素の使い過ぎだな。身体強化のためにかなり大量に消費していたように見えた。その上にこの巨体を貫き一撃で沈める威力だ。かなり魔素を込めたんだろうな。まぁ防衛本能だ仕方ない。」
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