そこは獣人たちの世界

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第二章

*村代表の屋敷

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まさかキオが巨白虎を一撃で沈めるとは思わなかった。受け流しは俺の訓練のかいもあったといえるだろうが、受け流しようの魔素纏いに無駄が多かったな。
いや、今はそれはどうでもいい。キオも少し休ましたからいよいよ報告のためにがっつりインフィリアに入らなくちゃいけなくなる。まだ本調子とは言えなさそうだが、ここにいてもそのうちヘビーボアが寄ってきて休むどころではなくなる。俺がすべて処理しちまえば、ただでさえ被害の出てる収穫量に支障が出るだろう。もっとも、ここはそんなくらいで困る村ではないんだが、パッスは別だからな。
村に入り中央通りを進む。この広めの通りはまだいい。だが依頼者の家は路地に深く入ったところにある屋敷だ。路地はもちろん、村の家々に比べても明らかに広いこの屋敷の中も気をつけなくちゃいけない。
路地に入ってからは明らかにキオもさらに緊張感を増していた。まぁ俺がこれだけ気を詰めてれば当然か。耳欠けの鼠種の奴まで普通に歩いているからな。もっとも何もしてこなければこちらから仕掛けるのは論外だ。耳欠けというだけでは悪事を働いているという証拠にはならない。
門を通り過ぎて屋敷の大きな扉の前につくと勝手に開く。いや、中なら開けたようだ。一部の貴族の連中が従者にさせる格好をさせている。犬種で前にいた猫種とは違うようだが、真似というよりはつながりがあるんだろうな。

「うわ、メイド姿かー。雄なのに。」

「おい、声を出すな。」

「あ、ごめん。」

冥土姿というのがよくわからなかったが、眉をしかめるのもわかる。白のワンピースと黒のスカート姿はまさに雌という格好だ。雄である凛々しい顔をして彼には、正直あまりに合わない。

「お待ちしておりました。主がお待ちです。二階へどうぞ。」

「あぁ、入らせてもらう。」

顔に似合わず声は低くなく、むしろ甲高い。声だけなら服装に似合うかもしれないな。そんなことを考えつつ、入ってすぐに見える大きな階段、入り口から二階までまっすぐに敷かれた赤いじゅうたん。何度見ても見えと欲にまみれた屋敷だ。
キオからも軽くため息が聞こえた。俺も同じ気持ちだが行くしかない。俺たちがまっすぐ階段を登ろうとしたところで従者がお辞儀しつつこちらを止めてきた。

「お連れのお方は仕事内容と関係ないようでしたら一階のほうでおもてなし致しますが。」

「パートナーだ。余計なことは気にしなくていい。」

「これは失礼しました。申し訳ありません。」

キオのほうを向いて一階の奥の部屋に誘っていたが、俺が返せばまた深々と頭を下げて今度こそ下がっていった。今のはパートナーなのか最終確認のためか、さっそく仕掛けてきたのか、どっちかわからないな。
キオが何か聞きたそうにこっちを見てたが首を横に振る。話すのならせめて屋敷外でにしたいところだ。屋敷内だとどこにどういう魔道具があるかわからない。もっとも俺がいれば直に仕掛けては来ないだろうが。
二階にはまた別の従者が頭を下げる。今度は兎種か。他人の空似じゃなきゃ前も二階はこいつだったな。さっきの奴といいこいつも雄なのに雌のような格好をさせられているが、こいつの場合は顔的にもさらに似合っているといえるか。いや、似合ってるかどうかなんて失礼か。
ふと、キオが着ても似合うかとちょっと想像しかけちまったが、今はそんなことを妄想してる場合じゃないんだ。

「ここからは私がご案内します。下のものは新人なのですが、失礼はなかったですか?」

「いや、特にはなかった。さっさと依頼主のところに案内してくれ。場所は知ってるからこっちだけで向かってもいいんだが。」

「そういうわけにはいきません。どうぞこちらへ。」

何度か来たことがあるからこいつらの主であり、俺たちの依頼主の部屋もわかっているんだが、案内はするようだ。従者としての教授か、はたまたそうするよう仕向けられてるのか、難しいところだ。
二階の右奥のやたら目ったら金の装飾がされた扉を従者がノックし、金の取っ手をポケットから手袋を取り出して装着してから開く。わざわざそんなことをするなら初めからつけて色と毎回思うもんだが、俺も年に何度も来るような場所じゃないわけだ。それにつつきすぎるのは危険だろう。
中に入れば赤くド派手なぶ厚いコートを着た緑肌の竜種の男が部屋の奥からにんまりとこちらを見ていた。カレントを見た直後だからか、やたら目ったらと出っ張った腹が余計に品がないように見えてしまう。それにカレントのような大きな翼もなく、頭から角が生えてるだけだ。翼持ちだったとしてもあのコートに収まる程度なわけだ。

「お待ちしておりましたガロさん!来ていただいたということは、村のものから報告のあったホワイトグレータータイガーの討伐を終えたということでしょうか?」

「あぁ、その通りだ。」

「おぉ!よかったよかった。これでわが村のヘビーボアの輸出を再開できます。」

「ただ問題が一つあった。依頼にはホワイトグレータータイガーは一匹とあったが出現したのは3匹だった。予想よりもひどい被害が発生しているだろうが、依頼は依頼だ。3匹分の報酬をもらうことになる。」

「なっ!3匹も!?これは失礼しました。村からはホワイトグレータータイガー特有の白い靄の報告はあったのですが、被害者が出る前にヘビーボア狩りを中断させてしまったので、まさか複数いるとは思いもしませんでした。」

よくこれだけ口が回るもんだ。初めての時は俺だって少し騙されたもんだ。だが今は違う。どうやったのかはわからないが、確実にこいつはその3匹を自分たちで引っ張ってきているんだ。もちろんこいつ自身はこの屋敷にいただけだろうが。

「理解があって助かる。では俺たちはギルド本部に戻る。種類を変えて送ってくれればいい。報酬は遅れても構わない。」

「いえ、そういうわけにはいきませんよ。こちらで書類を用意するので持って行ってください。明日までには仕上げます。」

はやりきたか、断るのは簡単だ。だがこちらのためにというのを押してこられているうえに、送るよりも俺たちが渡す方が相手にとってもいい。どう考えても断らない方がいいだろう。
実際に前の俺なら断らず、書類を受け取るまで滞在しただろうが、今はキオがいる。だが、キオがいるということで断るのもそれはそれで今後に危険があるかもしれないか。余裕を見せておいた方がいいな

「わかった。明日までは待つ。だが明日に用意できていない場合、一度こちらを寄るがすぐに帰還させてもらう。」

「えぇ、それで構いません。急いで用意しますので・・・」

「あぁ、引き取らせてもらう。」

この流れは泊っていけという流れだったがさっさと出るに限る。その前から牽制もしておいた。従者が開けた扉を出る際に背後からジトリとにらまれる気配がした。
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