そこは獣人たちの世界

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第三章

山を目指して

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ひどい特訓の連日だったけど、おかげですっかり剣と盾での戦い方は様になったと思う。西側から聖都を出れば眼前にそびえる山脈。あそこまで歩きってのがまた大変な話だ。あっちには町はもちろん村もないので馬車なんて出てない。結構離れてるはずだけど、それだけ危険な山脈ってことでもある。

「まっすぐつくなら4日は歩きどおしになる。きつかったら途中休んでもいいけどな。」

「うん、覚悟してる。そのために昨日のうちに寝溜めておいたわけだし。」

珍しくというか、ちょっと残念というか、この3日間くらいガロとそういうことをしていない。できるだけ歩き通すためにしっかり眠るようにいわれたからだ。この調査が終わるまではお預けだろうな。
出発の時はそんなのんきなことも考えてられたけど、道中はなかなかに厄介な旅になった。まず歩く道は舗装などされていない。まぁこれは慣れたもんだけど、そういう場所には魔物がつきもので、まっすぐ目的地のほうに歩くのもままならない。
聖都を出てしばらくは魔物の気配の一つもなかったのに、僕が気づくよりも先にガロが気づいて進路を変える。

「わかるか?擬態草蛇だ。この辺には沸くと聞いていたが、それほど聖都から離れてないのにあんなのが普通にいるとはな。」

「ミミキュリーウィードスネーク?よくわかったね。僕はこの位置でようやくなんかいるってわかるくらい。でもあいつなら一応塔で戦ったよ。」

「あのゴウさんの塔か。そういえばそうだったな。ならば対処も出来なくはないか。だが無駄な体力は使わない方がいい。」

「そうだね、向こうもこっち側に気づいてないのか、向かってくる様子もないし。」

わざわざ少しそれてよけたのに倒しに行く必要はないとその時は思ってたけど、ガロがちょっとイラついた様子でジグザグに進んでいく。気配感知のあちこちに擬態草蛇の気配を感じる。結構な数がいるんだな。

「倒すのには手間はかからないか、これならよけずに進む方が体力の消耗は抑えられるか?」

「んー、僕はどっちでもいいよ。そこはガロの判断に任せる。」

「そうか、当初の予定通りならよけて進むが、本当に邪魔なやつだけ潰そう。」

「了解。」

そんなことを言ったけど、しばらくはジグザグに進むばかりで気配はあちこちに感じながらもこっちに向かってくるほど近づくこともなかった。でも目の前の3つの気配に明らかに近づいていく。腰につけておいた盾とショートハンガーに手をかける。
3つの気配がゆっくりとだけどこっちに近づいてくる。どれも擬態草蛇の気配だ。向かってきたら切り捨てると思ってたらガロがいつかの時に買ってた鋼鉄のグラディウスをポーチから抜いて素早く3匹を仕留めていた。

「ぼ、僕の出る幕はなさそうだね。」

「今は体力温存しておけ。まだまだ歩くんだぞ?奥に見えるもりまでまず2日はかかるしな。いや、この調子だと二日半はかかりそうか。」

今は草原だけど、途中から山に向かって伸びていっている森に入ることになる。そこまでが長いわけだ。というか山に入ってからも世界竜のところまで登ることになるから、あくまで山につくまで4日歩きどおしの予定なだけだし、ここで僕が体力使うのはよくないか。なんか予定通りいかなそうだし。
そのあとも基本的にジグザグに進みながら時折まとまった蛇をガロが狩りとる。夜になったからといって擬態草蛇は眠って動かなくなったりしない。あいつらは獲物が近くに来ると起きるだけで、昼も夜も関係ないんだ。
少しうらやましくも感じるよ。いや別に一日くらい歩き続けてるのは平気だ。でも眠気が全くないわけじゃない。寝ていいよと言われればすぐ眠れるくらいには疲労感だってある。だからって一日一日休んでたらきりがない。
出会う魔物は蛇ばかりで飽きてきた二日目に、孤立した大きめの気配を感じる。だいぶ離れてるけど、姿も見えた。見た目はソロウルフだけど大きそうな個体だった。向こうからも見えただろうがこっちに寄ってこなかった。

「あんなに成長したソロウルフがいるとはな。もしかしたら上位種に進化してるのかもしれないな。」

「そういうのもあるの?」

「魔素を多くえて魔物だって成長する。色んな牛種がいるが、始めは暴れ牛だった個体とかもいるかもな。得た魔素の属性で変わったりするとかも考察されてるが、詳しくは俺も知らないな。」

「そっか。でも種族そのものが変わることはないのかな。」

「それもわからないとしか言いようがない。だがとりあえず地上の魔物なら大体冒険者が狩っていくからよほどの魔物にならない。」

なるほど、それで海の魔物は危険なのか。ということは基本的には空の魔物も危険っぽいけど、空になら魔法で対処も出来なくはないか。

「それにしても、さっきの奴はなんでこっち来なかったんだろ?」

「そういうのができるから上位種かもといったんだ。俺たちの気配を感じて戦ってかなわないと逃げる魔物もいる。角鹿がいい例だな。」

「あー、そっか。魔物なら何でもかんでも襲ってくるとは限らないもんね。」

もっとも危険性の低い魔物でも死に追い詰めれば反撃だってする。生きてるんだから当然っちゃ当然だけど。あの大きいソロウルフもこっちから寄っていってたら襲ってきてたかもしれないな。
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