【完結】聖女の私は利用されていた ~妹のために悪役令嬢を演じていたが、利用されていたので家を出て幸せになる~

ゆうき

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第十一話 未熟な力

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 こんな所で、瘴気に侵された人を見つけるとは思ってもなかった。このアザや咳といった症状は、瘴気に侵された人の初期症状でよくあるし、この瘴気特有の嫌な気配……間違いないと思う。

「あの、このアザと咳はいつから?」
「えっと……一昨日からです」
「一昨日……わかりました。熱やくしゃみとかは?」
「特には……」
「わかりました。あの、アルベール様にお願いがあります」
「お願い? 君のためなら、なんでもしようじゃないか!」

 いつもはちょっとだけ引いてしまうアルベール様の言動が、今はとても頼もしく見えるわ。

「ありがとうございます。ここの使用人の中で、彼女と同じようなアザや咳……あとは微熱がある人を探してください。あと、どこでもいいので彼女と二人きりにしてください」
「わかりました。任せてください」
「終わったら、私の所に来てください。クラリスは先に部屋に戻ってて」
「かしこまりました」

 私の真面目な雰囲気を感じ取ってくれたのか、アルベール様はとても真剣な面持ちで立ち上がり、使用人達を調べてくれた。その間、私は彼女と一緒に、別室へと移動した。

「あの……一体どうされたのですか?」
「突然ごめんなさい。理由はアルベール様が来られたら話します」

 アルベール様が来る前に、彼女の体を更にチェックしてみる。熱は無さそうだけど、ずっと咳き込んでいて、とても苦しそうだ。

 瘴気は基本的に、侵された食べ物や飲み水を含んだ時に侵されるケースと、自然発生した濃度の高い瘴気を吸い込んだ時に症状が出る。だから、別室に移さなくても、他の人に感染する可能性は限りなく低い。

 でも、咳などで出たツバからうつる可能性もあるし、瘴気自体が未だに謎が非常に多いものだというのと、彼女が瘴気に侵されていると知った他の方に、迫害される可能性がある。

 現に、治っても病原体のように扱われ、辛い思いをしている人がいるというのを、何回も聞いたことがある。

「失礼する」
「アルベール様。どうでしたか?」
「調べた結果、他に同じような症状が最近出た人間はいませんでした」
「そうですか、良かった」

 その報告を聞けて、とりあえず一安心だわ。後で一人ずつ確認するのと、この屋敷の近辺に瘴気があるか確認はしないといけないけどね。

「それで、急にどうしたんですか?」
「単刀直入にお話します。彼女の体は、瘴気に侵され始めています。風邪に似た症状に、このアザは瘴気の特徴の一つです。それに、彼女から微かにですが、瘴気の気配を感じます」

 彼女の手をアルベール様に見せながら話すと、当の本人もアルベール様も、驚きを隠せていない様子だった。

「少々お伺いしたいのですが、最近はなにをされてましたか?」
「最近ですか……? つい先日、長期休暇をいただいて、遠い地にある実家に帰省しました」
「そこは瘴気の被害とかありましたか?」
「聞いたことはありません」
「なるほど……ではご実家で動物や魚などを食べませんでしたか?」
「動物……父が狩ってきたイノシシは食べました。後は魚も少々」

 彼女の実家の周りで瘴気の被害が無かったということは、そのイノシシや魚が瘴気の影響がある所から迷い込んできたと考えるのが妥当ね。以前私が浄化をしたリスと同じだろう。

 こういう野生動物が迷い込んできて、その地が段々と瘴気に侵されるというのは珍しくない。

「うぅ……症状が悪化する前に、聖女様に診てもらえるでしょうか……」
「俺の方で、なんとか聖女に診てもらえるように、国に掛け合ってみるよ」
「ありがとうございます……」
「そうだ。リーゼ嬢、一つ疑問があるんですが、よろしいですか?」
「何でしょうか」
「なぜあなたは彼女の瘴気に気づいたのですか? 俺には、瘴気の気配など全くわかりませんでした」

 アルベール様の疑問はもっともだ。そう聞かれると想定したからこそ、情報をなるべく漏らさないように、個室を用意してもらったのだから。

 本当は明かさない方が正解なのかもしれないけど、いつかは話さなきゃと思っていたから、ある意味丁度良かった。アルベール様は私の力を悪事に使う方だとは思えないし、信じても大丈夫よね。

「信じてもらえないかもしれませんが……私は聖女なんです」
「……聖女? ははっ、リーゼ嬢……今は冗談を言う時ではないと思いますよ?」
「リーゼお嬢様、お見せした方がよろしいかと」
「そうね」

 私は彼女の手を優しく取ると、大きく深呼吸をして意識を集中する。すると、私の手が淡い光に包まれた。そして、その光は彼女の体も優しく包み始めた。

「この光は……!?」
「凄い……!」

 二人が驚いている間に、光は収まった。それと同時に、私の体は強い疲労感に襲われ、その場に座り込んでしまった。

「ぜぇ……ぜぇ……ごほっ」
「リーゼお嬢様、大丈夫でございますか? あまり無理をしてはいけません」
「だ、大丈夫よ……いつものことだから」

 私の聖女としては未熟だから、力を使うと異様に疲れてしまう。あのリスの浄化の時は、ほとんど力を使わなかったから何とか大丈夫だったが、今回は思った以上に力を使ったのか、自分の足で立っていられない。

「リーゼ嬢、どうかしたのか!? 顔色が良くありませんが!」
「少々疲れただけですので、ご心配なく……」
「しかし……」
「心配してくれてありがとうございます……ごめんなさい、クラリス……ちょっと休むわ。後はお願いしてもいい……?」
「お任せくださいませ」

 強い疲労で意識を保っていられなくなった私は、クラリスに後を託して、その場で意識を手放した――
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