【完結】聖女の私は利用されていた ~妹のために悪役令嬢を演じていたが、利用されていたので家を出て幸せになる~

ゆうき

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第十九話 久しぶりの社交界へ

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 村の瘴気が完全に浄化されたのがわかった日から少し経ったある日、私は部屋でゆっくりと読書をしていると、アルベール様がやってきた。

「アルベール様、どうかされましたか?」
「ええ、少々お話がありまして」
「なんでしょうか?」
「近々、我が国が主催のパーティーが開かれるんです。領土のことも解決して余裕が出来たので、俺もそこに出席する予定なんです。それで、一緒に参加していただけないでしょうか?」

 私がパーティーに? そういえば、最近社交界に全然出ていなかったわね……アルベール様と婚約を結んでからは、一度も参加すらしていない。

「貴族達に、リーゼ嬢を俺の婚約者として紹介するのはもちろんですが、国王陛下と謁見をして、あなたが聖女だというのをお伝えしないとならないのです」
「なるほど、確かにそれは必要ですわね。わかりました、是非参加させていただきます」

 快く引き受けると、アルベール様は嬉しそうに頷いた。

 久しぶりの社交界だから、失礼が無いようにしなければいけないわね。元々失礼の塊みたいなことをしていたんだから、それが出ないようにしないと。


 ****


「うぅ……お、俺の婚約者はどうしてこんなに美しいんだ……それでいて、天使のような愛らしさも兼ね備えている……ま、まさに無敵ではないか……! か、感動で前が見えない……」

 パーティーの当日の夜、社交界用のドレスに身を包み終えた私の所にアルベール様がやってくると、私の部屋に入って来て早々に、大粒の涙を流して喜んでいた。

「だ、だからそういうお世辞は結構ですから!」
「お世辞だって!? 俺があなたにお世辞なんて言うはずがない! 伝えていることは、全て俺の思った正直な心です!」
「う、うぅ~~~~っ!! あ、あなたなどに想われても、気持ち悪いだけですわ!!」

 フンッと勢いよく鼻から息を出しながらそっぽを向く。そしてそれから間もなく、私は自分の言動を大きく後悔した。

「い、いや……今のは違くて……つい咄嗟に昔のような口調が……!」
「ぐっ……ふふっ……い、いつもの聖女らしい優しさも素晴らしいが、罵られるのも悪くない……!」
「……え、えぇ……」

 てっきり怒られるか、嫌われてしまうかと思っていたのに、まさか喜ばれるとは思ってもなかった……アルベール様のことが、時々よくわからないわ……。

 いや、今はアルベール様の思考を気にしている場合じゃない。昔みたいな態度を取らないようにしなきゃって思ってたのに、もう出てしまってるじゃないの! 落ち着いて……演じる必要ないのだから、落ち付いて……!

「お二人共、そろそろご出発のお時間ですよ」
「え、ええ。それじゃあ出発しましょう。アルベール様、涙を拭いてください」
「ありがとうございます……」

 まだ涙を流していたアルベール様のお顔をハンカチで拭いてから、私達は会場であるサラム国のお城へと向かう。

 アルベール様からお聞きした限りでは、馬車でそこまで時間はかからないらしいけど、遅刻するよりかは、早めについた方が良いわよね。

「……素朴な疑問があるのですが、よろしいでしょうか?」
「何かしら?」
「お二人は、どうしてずっと手を繋いでおられるのですか?」

 私達の付き添いで来てくれたクラリスは、小首を傾げながら疑問を投げかけてきた。

 ……言われてみれば、確かにそうね。馬車に乗るときに手を貸してもらってから、ずっと繋ぎっぱなしだわ。

 前までは、こんなことをされたら恥ずかしかったはずなのに、今までの経験で耐性が付いたみたいで、手を繋ぐ程度では動じなくなっている。

「ああ、少しでもリーゼ嬢に触れていたくて、すっかり離すことを忘れていた!」
「もう、なにをしているんですか……」
「あはは、申し訳ない。ですが、リーゼ嬢も離す気が無かったのではありませんか?」
「えっ!? そんなことはありませんわ!」
「仲睦まじいのは結構ですが、あまり人のいらっしゃらない所でしてくださいね。見ているこっちが恥ずかしくなりますので」

 クスクスと笑いながら言うクラリス。一方の私は、何とも言えない気恥ずかしさで顔を赤らめることしか出来なかった。

「照れるリーゼ嬢も、なんて美しいんだ! あなたには手加減という言葉が無いのですか!?」
「それはこっちの台詞ですわ! アルベール様こそ、毎日のように私のことを際限なく褒めているではありませんか!」
「褒める? それは違いますよ。先程もお伝えしましたが、俺は心で思った本当のことを伝え、事実に感動しているだけです!」
「う、うぅ~! クラリス、助けて~!」
「うふふっ……」

 何を言っても通じないアルベール様に根負けしてしまい、クラリスに助けを求めるが、クラリスは楽しそうに笑っているだけだった。

 ……結局パーティー会場に着くまで、私はアルベール様の褒め言葉を受け続け、クラリスに照れる姿を見られてしまった。

 アルベール様に褒めてもらえるのは、嬉しくないと言ったら嘘になるし、不思議とドキドキする。でも、もう少し加減を覚えてもらいたいのも事実だ。

「到着したようですね。さあ、行きましょう」
「はい」

 私はアルベール様に手を借りて馬車を降りると、そこにはサラム国のお城があった。真っ白なのが特徴的なこのお城は、その綺麗さで見る人間を虜にする。

 私も漏れなくその一人になっていた。このお城をゆっくりと眺めながら、アルベール様やクラリスと一緒にお茶を飲みたいわ。

「どうかされましたか?」
「お城の綺麗さに見惚れておりましたわ」
「え、俺の綺麗さにだって?」
「そ、そんなことは言っておりませんわ!」
「あはは、肩の力を抜いてもらうための冗談ですよ。この城も確かに綺麗だが、リーゼ嬢の足元にも及びません」
「わ、わかりましたから……行きましょう」

 そのままアルベール様にエスコートされて、会場の入口にやってきた。周りには、今日参加する貴族や、パーティーの関係者達が、忙しなく動いていた。

「そういえば、今回はラトゥール家は参加するのかしら……」
「リーゼ嬢のご実家は、参加されないそうですよ。もし参加していると知っていたら、あなたをお誘いしたりしません」
「お気遣いしていただき、ありがとうございます」

 ああよかった。こんな所で会ったら、また面倒なことになりかねないもの。極力合わない方が正解だわ。

「むっ……あれは確か……ヴレーデ国の、ラトゥール男爵家のご令嬢では?」
「あら、本当……最近お見かけしなかったから、社交界が平和だったのに……またあの馬鹿みたいなのをも無いといけないのね。憂鬱だわ」
「全くだ。おや、お隣にいるのはサヴァイア家の当主殿。どうして彼女と一緒に?」
「婚約破棄をされたばかりで、もう新しい殿方を見つけるなんて、さすが性悪女ですこと」
「そうだな。あんな女を選ぶなんて、サヴァイア家の家長は見る目が無いな」

 私のことを知っている方がいらっしゃったようで、ヒソヒソと私の話をする声が聞こえてくる。

 言われても仕方がないことをしていたのだから、私を悪く言われるのは構わない。でも、アルベール様が悪く言われるのは、本当に心苦しい。

「アルベール様、私のせいであなたにご迷惑を……」
「胸を張ってください」
「え?」

 いつにもまして真面目な表情を浮かべるアルベール様。私もそれに釣られて、背筋を伸ばしてみせた。

「あなたは少々やり方を間違ったのかもしれない。でも、あなたの心は慈愛に満ち、とても真っすぐで、美しいのもまた事実。それに背を向けてはなりません。共に、堂々と行きましょう。大丈夫、何か言われても、夫である俺が守りますから」
「もう……結婚はまだ正式にしておりませんわ」
「おっと、これは失敬! とにかく、あんな心の無い言葉など、気にする必要は無いですよ」

 あんな心無い言葉を突き付けられたのに、アルベール様に慰めていただいたら、心がスッと軽くなった。

 落ち込んでばかりはいられないわね。これ以上失敗をしないためにも、もっとしっかりしないと。
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