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第2話 初めての浄化
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「ここどこ……? ごほっごほっ! うっ……酷い瘴気……」
荒野に蔓延する紫色の霧のせいで、思い切りむせこんでしまった。
この霧が瘴気と呼ばれているものだ。瘴気とは、様々な土地にある魔力が乱れると発生する。見た目は紫色の霧のようなものだ。
瘴気が発生すると、土地の魔力の乱れが更に発生し、新たな瘴気が生まれる。更にこの瘴気は大地や植物、水をも汚染してしまう。そして動物が瘴気を取り込み過ぎると、体調を崩していまい……最悪の場合、モンスター化してしまったり、死に至る。
動物という括りには、当然人間も含まれる。つまり、瘴気を放っておくと、モンスターや死体が蔓延る、死の大地になってしまう。
この瘴気に対抗できるのが、光の魔力を持つ聖女だけ。聖女の持つ光の魔力は、瘴気を浄化する事が出来るの。それに、瘴気やモンスターの侵入を阻止する結界も張れる。
「この辺りは、瘴気に汚染されてしまってるのね……と、とにかくこのままでは私が瘴気でやられちゃうわ……光の加護よ、悪しき魔力から我が身体を守りたまえ」
魔法の詠唱をすると、私の足元に真っ白な魔法陣が出現した。それから間もなく、身体から優しい光が溢れ……その光は私の身体を包み込んでくれた。
これは簡易的な結界魔法。これがあれば、とりあえずは瘴気のせいで死んじゃう事はないだろう。
でも、このままではいつかは食糧不足で倒れてしまうのは明らかだ。とにかくまずは食糧と……あとは水を探さないと……。
そう思い、あても無く歩き続けた。とにかく歩き続けた。瘴気によって荒れてしまい、食料も水もない大地を。
「お腹すいた……あっ!」
どれだけ歩いたのだろうか。少し先ではあったけど、そこには広大な森が広がっていた。
森だったら……もしかしたら食料や水があるかもしれない。少なくとも、こんな荒野を歩いているよりも可能性はあるはず!
「とにかく行ってみよう」
慎重に森の中に入ってみると、そこもやはりというべきか、瘴気に犯されてしまっている。木自体は沢山あるけど、どれもほとんど腐ってしまっている。こんな状況では、食べ物があるとは思えない。
……結界の外の世界って初めて来たけど、聞いていた以上に酷い有様だ。これでは聖女がいなければ生活できないのも頷ける。
「はぁ……はぁ……」
更に奥に進んだはいいけど、ずっと飲まず食わずで歩き通しな身体が悲鳴を上げ始めた。食料も水も見つかる気配もないし、あてもなく歩いたせいで、森の出口もどっちかわからない。
……私、きっとここで死ぬんだ……悪魔の子として、当然の死に方なのかもしれない。でも……死ぬくらいなら、せめて最後に聖女らしい事をして死にたい。
「……この森を浄化しよう」
聖女に出来る事の代名詞と言える、瘴気の浄化。それをすれば、この森から瘴気が無くなる。流石に枯れた木々は蘇らないけど、それでもやらないよりはマシだろう。
「儀式をちゃんと受けられなかったけど、大丈夫だよね……我が身体に秘められたる光よ、かの地を覆う邪悪な魔力を浄化せよ!」
詠唱と共に、私の足元に白い魔法陣が展開されると、身体から強い光が溢れ出る。その光は波状となって辺りに広がっていき――瘴気を消滅させていく。
「うん、うまくいった! って……あれ?」
消滅する――はずだったのだが、この辺りの瘴気はかなり濃度が高いのか、紫の霧は全て消えていなかった。もう一度試してみたけど、やはり結果は同じだった。
「そんな……全て浄化できないと、残った瘴気がまた新たな瘴気を生み出してしまう……それでは意味がないのに……」
悪魔の子として追放されて、結局何も果たせないまま私は死ぬの? 私は……今まで何のために生きてたの……?
瘴気に苦しむ民を救うために、この身を捧げる覚悟までしたのに……私……私は……!
「嫌だ……聖女として、役に立ちたい……!」
涙が落ちた地面に、私の知らない漆黒の魔法陣が展開された。それから間もなく、私の前には漆黒の球体が現れた。
こんな魔法、私は知らない。どう考えても光魔法には見えないし……もしかして、これが闇魔法なの? 魔法の効果も、発動した理由もわからないけど……。
「お願い、この森の瘴気を……!」
私の願いに応えるように、球体はふわりと上空に浮くと、辺りにある瘴気をどんどんと飲み込んでいき――辺りの瘴気は完全に消滅した。
凄い……これが闇魔法……!? 闇魔法は破壊や呪いといった魔法が多いって文献で見た事があるけど、瘴気を飲み込んでしまう魔法もあるなん……て……?
「あ、あれ……?」
まるで身体中から力が抜けてしまったかのように、私はその場にうつ伏せに倒れてしまった。
もしかして……さっきの闇魔法の反動……? よくわからないけど、身体に全く魔力を感じないし、力が入らない。それに……凄く眠い……。
「私……ここで死んじゃうのかな……でも……最後にちょっとだけ……聖女らしい事が出来て……よかっ……た……」
****
「……うっ……」
なんだろう。私は冷たい地面の上に寝ていたはずなのに、今はとても柔らかいものの上にいる。もしかしてここは雲の上? それにしては、どうしてこんなに暖かく感じるのだろう? 死んじゃっても感覚は残っているものなのだろうか?
「よかった、目が覚めたんだね」
「……?」
眼鏡が無いせいでぼんやりとしか見えないけど、誰かが私の事を見ているのはわかる。声からして男性……のような気もするけど、中性的な声だから断言が出来ない。
「えっと……?」
「ああ、眼鏡が無ければ見えないか。申し訳ない」
その方は、優しい手つきで私に眼鏡をかけてくれた。そのおかげで、ようやく私が置かれている状況が理解できた。
どうやら私は大きなベッドに寝かされているみたい。部屋は凄く広くて豪華な作りなところを見るに、王家が住むお城か貴族の屋敷の一室だと思う。
そして私に眼鏡をかけてくれた方は、やはり男性だった。真っ黒でサラサラな髪を伸ばして、片目を隠しているのが特徴的だ。
そして何より、そのお顔がビックリするくらい整っている。私のような地味な女が近くにいるのがおこがましいと思ってしまうくらいだ。
「あの、私はどうしてここにいるのでしょう?」
「僕達が森の瘴気の調査をしていたら、突然瘴気が一気に消えたんだ。それで急いでその原因を調べていたら、君が倒れていた。だから城に運んできたんだ。医者が言うには、魔力を一気に使った事が原因だろうと言っていたよ。ちなみに丸一日眠っていたよ」
ここはやっぱりお城だったのね。それにしても、倒れているところを助けてもらったなんて、随分とご迷惑をおかけしてしまったようだ。
「助けていただき、ありがとうございました。えっと……」
「僕はガレス。ガレス・アインベルトだ」
「あ、アインベルト……?」
確かその名前は、私の住んでいた国の近くにある、小さな国の名前だ。という事は……この方はアインベルト国の王家の方? それならこんな立派な部屋に連れて来てくれた事も頷ける。
「君の名前は?」
「あ、申し遅れました。私はフェリシア・バギーニャと申します」
「フェリシアか。良い名前だね。美しい君にはピッタリだ」
「ふぁ!? あ、ありがとうございます」
ここまでの会話の中でずっと表情が乏しかったガレス様は、ほんの僅かに口角を上げた。それだけで凄く印象が変わるし、なにより……美しすぎてドキドキしてしまう。
自慢ではないけれど、私は生まれてから男性経験が全く無い。幼い頃からずっと聖女になるために勉強の毎日だったから。元婚約者のピエール様とも、手を繋ぐのどころか、触れた事すらない。
それくらい、私は男性への免疫が無いというのに――
「うん、運んだ時は熱があったけど、今は下がったみたいだね」
「ひゃあああ!?」
「ん? どうかしたかい?」
ガレス様は自らのおでこを、私のおでこに当てて熱を測り始めた。ただでさえ男性慣れしてないのに、こんなに近くに男性の顔が……しかもとんでもなく美しいガレス様が……。
「は、はひゅう……」
「ふぇ、フェリシア? 急にどうした? わ、わからないが……とにかく医者を呼んでくる!」
なんだか遠くからガレス様の声が聞こえるような……あ、駄目……もう……限界……きゅう……。
荒野に蔓延する紫色の霧のせいで、思い切りむせこんでしまった。
この霧が瘴気と呼ばれているものだ。瘴気とは、様々な土地にある魔力が乱れると発生する。見た目は紫色の霧のようなものだ。
瘴気が発生すると、土地の魔力の乱れが更に発生し、新たな瘴気が生まれる。更にこの瘴気は大地や植物、水をも汚染してしまう。そして動物が瘴気を取り込み過ぎると、体調を崩していまい……最悪の場合、モンスター化してしまったり、死に至る。
動物という括りには、当然人間も含まれる。つまり、瘴気を放っておくと、モンスターや死体が蔓延る、死の大地になってしまう。
この瘴気に対抗できるのが、光の魔力を持つ聖女だけ。聖女の持つ光の魔力は、瘴気を浄化する事が出来るの。それに、瘴気やモンスターの侵入を阻止する結界も張れる。
「この辺りは、瘴気に汚染されてしまってるのね……と、とにかくこのままでは私が瘴気でやられちゃうわ……光の加護よ、悪しき魔力から我が身体を守りたまえ」
魔法の詠唱をすると、私の足元に真っ白な魔法陣が出現した。それから間もなく、身体から優しい光が溢れ……その光は私の身体を包み込んでくれた。
これは簡易的な結界魔法。これがあれば、とりあえずは瘴気のせいで死んじゃう事はないだろう。
でも、このままではいつかは食糧不足で倒れてしまうのは明らかだ。とにかくまずは食糧と……あとは水を探さないと……。
そう思い、あても無く歩き続けた。とにかく歩き続けた。瘴気によって荒れてしまい、食料も水もない大地を。
「お腹すいた……あっ!」
どれだけ歩いたのだろうか。少し先ではあったけど、そこには広大な森が広がっていた。
森だったら……もしかしたら食料や水があるかもしれない。少なくとも、こんな荒野を歩いているよりも可能性はあるはず!
「とにかく行ってみよう」
慎重に森の中に入ってみると、そこもやはりというべきか、瘴気に犯されてしまっている。木自体は沢山あるけど、どれもほとんど腐ってしまっている。こんな状況では、食べ物があるとは思えない。
……結界の外の世界って初めて来たけど、聞いていた以上に酷い有様だ。これでは聖女がいなければ生活できないのも頷ける。
「はぁ……はぁ……」
更に奥に進んだはいいけど、ずっと飲まず食わずで歩き通しな身体が悲鳴を上げ始めた。食料も水も見つかる気配もないし、あてもなく歩いたせいで、森の出口もどっちかわからない。
……私、きっとここで死ぬんだ……悪魔の子として、当然の死に方なのかもしれない。でも……死ぬくらいなら、せめて最後に聖女らしい事をして死にたい。
「……この森を浄化しよう」
聖女に出来る事の代名詞と言える、瘴気の浄化。それをすれば、この森から瘴気が無くなる。流石に枯れた木々は蘇らないけど、それでもやらないよりはマシだろう。
「儀式をちゃんと受けられなかったけど、大丈夫だよね……我が身体に秘められたる光よ、かの地を覆う邪悪な魔力を浄化せよ!」
詠唱と共に、私の足元に白い魔法陣が展開されると、身体から強い光が溢れ出る。その光は波状となって辺りに広がっていき――瘴気を消滅させていく。
「うん、うまくいった! って……あれ?」
消滅する――はずだったのだが、この辺りの瘴気はかなり濃度が高いのか、紫の霧は全て消えていなかった。もう一度試してみたけど、やはり結果は同じだった。
「そんな……全て浄化できないと、残った瘴気がまた新たな瘴気を生み出してしまう……それでは意味がないのに……」
悪魔の子として追放されて、結局何も果たせないまま私は死ぬの? 私は……今まで何のために生きてたの……?
瘴気に苦しむ民を救うために、この身を捧げる覚悟までしたのに……私……私は……!
「嫌だ……聖女として、役に立ちたい……!」
涙が落ちた地面に、私の知らない漆黒の魔法陣が展開された。それから間もなく、私の前には漆黒の球体が現れた。
こんな魔法、私は知らない。どう考えても光魔法には見えないし……もしかして、これが闇魔法なの? 魔法の効果も、発動した理由もわからないけど……。
「お願い、この森の瘴気を……!」
私の願いに応えるように、球体はふわりと上空に浮くと、辺りにある瘴気をどんどんと飲み込んでいき――辺りの瘴気は完全に消滅した。
凄い……これが闇魔法……!? 闇魔法は破壊や呪いといった魔法が多いって文献で見た事があるけど、瘴気を飲み込んでしまう魔法もあるなん……て……?
「あ、あれ……?」
まるで身体中から力が抜けてしまったかのように、私はその場にうつ伏せに倒れてしまった。
もしかして……さっきの闇魔法の反動……? よくわからないけど、身体に全く魔力を感じないし、力が入らない。それに……凄く眠い……。
「私……ここで死んじゃうのかな……でも……最後にちょっとだけ……聖女らしい事が出来て……よかっ……た……」
****
「……うっ……」
なんだろう。私は冷たい地面の上に寝ていたはずなのに、今はとても柔らかいものの上にいる。もしかしてここは雲の上? それにしては、どうしてこんなに暖かく感じるのだろう? 死んじゃっても感覚は残っているものなのだろうか?
「よかった、目が覚めたんだね」
「……?」
眼鏡が無いせいでぼんやりとしか見えないけど、誰かが私の事を見ているのはわかる。声からして男性……のような気もするけど、中性的な声だから断言が出来ない。
「えっと……?」
「ああ、眼鏡が無ければ見えないか。申し訳ない」
その方は、優しい手つきで私に眼鏡をかけてくれた。そのおかげで、ようやく私が置かれている状況が理解できた。
どうやら私は大きなベッドに寝かされているみたい。部屋は凄く広くて豪華な作りなところを見るに、王家が住むお城か貴族の屋敷の一室だと思う。
そして私に眼鏡をかけてくれた方は、やはり男性だった。真っ黒でサラサラな髪を伸ばして、片目を隠しているのが特徴的だ。
そして何より、そのお顔がビックリするくらい整っている。私のような地味な女が近くにいるのがおこがましいと思ってしまうくらいだ。
「あの、私はどうしてここにいるのでしょう?」
「僕達が森の瘴気の調査をしていたら、突然瘴気が一気に消えたんだ。それで急いでその原因を調べていたら、君が倒れていた。だから城に運んできたんだ。医者が言うには、魔力を一気に使った事が原因だろうと言っていたよ。ちなみに丸一日眠っていたよ」
ここはやっぱりお城だったのね。それにしても、倒れているところを助けてもらったなんて、随分とご迷惑をおかけしてしまったようだ。
「助けていただき、ありがとうございました。えっと……」
「僕はガレス。ガレス・アインベルトだ」
「あ、アインベルト……?」
確かその名前は、私の住んでいた国の近くにある、小さな国の名前だ。という事は……この方はアインベルト国の王家の方? それならこんな立派な部屋に連れて来てくれた事も頷ける。
「君の名前は?」
「あ、申し遅れました。私はフェリシア・バギーニャと申します」
「フェリシアか。良い名前だね。美しい君にはピッタリだ」
「ふぁ!? あ、ありがとうございます」
ここまでの会話の中でずっと表情が乏しかったガレス様は、ほんの僅かに口角を上げた。それだけで凄く印象が変わるし、なにより……美しすぎてドキドキしてしまう。
自慢ではないけれど、私は生まれてから男性経験が全く無い。幼い頃からずっと聖女になるために勉強の毎日だったから。元婚約者のピエール様とも、手を繋ぐのどころか、触れた事すらない。
それくらい、私は男性への免疫が無いというのに――
「うん、運んだ時は熱があったけど、今は下がったみたいだね」
「ひゃあああ!?」
「ん? どうかしたかい?」
ガレス様は自らのおでこを、私のおでこに当てて熱を測り始めた。ただでさえ男性慣れしてないのに、こんなに近くに男性の顔が……しかもとんでもなく美しいガレス様が……。
「は、はひゅう……」
「ふぇ、フェリシア? 急にどうした? わ、わからないが……とにかく医者を呼んでくる!」
なんだか遠くからガレス様の声が聞こえるような……あ、駄目……もう……限界……きゅう……。
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