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第6話 母国が崩壊しても、聖女の仕事は続く
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あれから二年後――私は完全に瘴気が無くなった街を、お城の屋上から眺める……なんて事もしたかったけど、聖女にはまだまだやる事は盛りだくさんだ。今はガレス様と一緒に国中を周り、瘴気に侵されて苦しんでる人の浄化や治療を行っている。
本当は大規模浄化の時に、民の瘴気も一緒に闇魔法で飲む込めればよかったんだけど、流石にそれは出来なかった。
「フェリシア、どうだ?」
「大丈夫。瘴気は全部浄化できました。でも……その変異した腕は……もう……」
「なーに、随分とごつくなってカッコいいじゃねーか! それよりも、助けてくれて本当にありがとうな、聖女様!」
「うっ……うぅ……よかった……本当によかった……聖女様、うちの旦那を助けてくれて……本当にありがとうございました……!」
私が今見ていた患者は、瘴気のせいで右腕がボコボコに腫れあがり、そのまま浸食されていたら、大型のオークにでもなってしまっていただろう。何とか食い止められてよかった。
……その腕を治す術もあればいいのに。いや、最初からあきらめていたら駄目ね。もっと聖女として光魔法も闇魔法も上達して、完全にモンスター化してしまっても治せるようになってみせるわ。
「さて、とりあえずこの村の浄化は全て終わったかな?」
「はい。もう患者はいないみたいです」
「わかった。今日もありがとうフェリシア」
「いえそんな……聖女として当然の事をしてるだけです。それよりも、いつも護衛をしてくれてありがとうございます」
「それこそ当然の事だよ。さあ、今日はもう遅い。宿屋に泊まって、明日城に戻るとしようか」
ガレス様の提案に頷いて見せると、彼は何故かキョロキョロと周りを確認してから、私にそっと手を差し伸べた。
最近のガレス様は、こうして私の手を取ってエスコートしてくれる事がとても多い。場合によってはお姫様だっこをされる時もある。
嬉しいんだけど……嬉しいだけど! こっちとしてはドキドキしすぎてそれどころじゃない! 二年前のあの大規模浄化の日以来、このドキドキは減るどころか、どんどん増している。
……やっぱり私、ガレス様の事が……。
「そうだフェリシア。君の母国の事は聞いたかい?」
「はい」
宿屋に向かう途中に投げかけられたガレス様の質問に、私は小さく頷く。
実は、最近アインベルト国の問題が解決されてきたからか、国が豊かになってきた。その影響もあり、他国の難民を少しずつ受け入れている。中には私の母国であるガトリオ国からの難民もいて、その人の浄化をする際に話を聞いた。
その難民曰く、今の聖女――妹のサリィアが全く仕事をしないせいで、結界が著しく弱まり、瘴気やモンスターが国に入り込んでしまった。当然瘴気に侵される人も出始めてる。それでもサリィアは遊び惚け、国も何もしてくれなかった。
結果、国では大規模な暴動が起こり、民と王家の争いが今も行われているそうだ。そして……その戦争に巻き込まれたサリィアとピエール様は、民の手でこの世を去ってしまったとの事だ。
……実はこうなるんじゃないかとは思っていた。サリィアはワガママだし聖女の勉強をしていない。それに周りの大人達も、サリィアを甘やかしていたから、サリィアがやりたくないって言えば、素直にそれを許してしまうのは容易に想像できた。だから追放をされた日に抗議したんだ。
何の罪もないガトリオ国の民が瘴気に侵され、戦渦に巻き込まれるのはとても心が痛む。だから、私はアインベルト国に逃げてきたガトリオ国の民の浄化や怪我の治療を率先して行っている。ガレス様達の理解もあるから、とても助かっているの。
「実は父上と兄上に、とある事を提案していてね。近い将来、ガトリオ国を我が領土にしようとしている。もちろんガトリオ国の民は、我が国の大切な民として迎え入れる。そうすれば、フェリシアが堂々とガトリオの民を救えるだろう?」
「そ、それは本当ですか!?」
「ああ。もうガトリオ王家はボロボロみたいだから、領土にするのはそれほど大変じゃないだろう。ただ、多くの民や土地の浄化が必要だから、君に負担がかかって――」
「やります! 民を救えるなら……悲しみが生まれなくなるなら、いくらでも!」
あまりにも僥倖すぎる。この話が実現すれば、この国の聖女として、私は母国の民を救える。国王陛下やノア様といった王家の方々もお優しい方ばかりだから、ガトリオ国の民が虐げられる心配もないだろう。
「本当にありがとうございます、ガレス様……」
「お礼を言うのはこちらだよ。せめてものお返しとして、これから先……ずっと君の隣で、君を守らせてくれ」
「え……? それって……」
聞きようによっては、完全にプロポーズ……なのでは? ど、どうしようどうしよう! 嬉しいけど心の準備が……! いや待って落ち着いて私。もしかしたら、深い理由なんてないかもしれない! もしそうなら、私が勝手に舞い上がってるだけの恥ずかしい人になっちゃう!
「宿屋が見えてきたね。入ろうか」
「ひゃい!」
ドキドキで声を裏返しながら、私はガレス様と一緒に宿屋に入ると、宿屋のご主人に笑顔で出迎えられた。
「これは聖女様に王子様! 此度は村を救ってくれて、本当にありがとうございました!」
「僕は何もしていない。感謝の言葉は彼女にだけ送ってほしいな」
「そ、そんな事無いです! ここに来るまでずっと守ってくれてますし、苦しんでる人を励ましたり……ガレス様は自分を卑下しすぎです!」
「ふふっ、ありがとう。二人なんだが、部屋の準備をしてもらえるかな」
「勿論でございます! うちで一番のお部屋をご用意します!」
「ありがとう」
宿屋のご主人は笑顔でそう言いながら、私達を二階の部屋の前まで案内してくれた。
「お部屋はこちらです。ではどうぞ……ごゆっくり!」
大きくお辞儀をしたご主人を見送ってから部屋に入る。中はとてもスッキリしているうえ、清潔で好感が持てる……のはいいんだけど、一つ重大な事に気づいた。
「あ、あれ……? ベッドが……一つしかない」
「……あははっ……これは主人にしてやられたな」
……そう。私達二人が泊まる部屋なのに、ベッドが一つしかない。これでは……ガレス様と同じベッドで寝る事に……!? そ、そんなの考えるだけで気絶しそう!
だ、だって……年頃の男女が同じベッドで寝るなんて……そ、そんなの……アレしかないじゃない!
「フェリシア、ベッドは君が使ってくれ。僕は床で寝るから」
「ゆ、床!?」
「これでも瘴気の調査で色んな所に赴いた際に、野宿は何度も経験していてね。地面に比べれば、床なんて可愛いものさ」
言われてみれば、確かに土の上で寝るよりはいいかもしれないけど、だからといって一国の王子様を床で寝かすなんて前代未聞すぎる。
それに……その、私……ガレス様と一緒に寝たいし……。
「あ、あのあの……その……い、いい……一緒に……」
「……フェリシア……いいのかい?」
「は、はい……私、ガレス様となら……あっ! ガレス様が嫌なら無理にとは……」
「ありがとう。とても光栄だよ。僕も君となら……いや、君が良い。美しく、清らかでとても強い心を持つ君となら」
「えっ……」
「僕は君を愛しているんだ。出会ったあの日から……僕は君に心を奪われていたんだ」
「っ……! ガレス様……私……嬉しいです」
あまりの嬉しさに、私はガレス様に勢いよく抱き着いてしまった。そんな私の事を優しく受け入れてくれたガレス様は、優しく抱きしめ返してくれた。
どうしよう、嬉しすぎて涙が止まらない。やっぱり二年前からずっと感じていたこのドキドキや気持ちは、ガレス様への愛だったんだ……!
「これからも……国を守る聖女として、そしてあなたの妻として、隣に置いてくれますか?」
「もちろん。僕と一緒にどこまでも歩んでほしい。絶対に君を守るし、悲しませないから」
「嬉しい……!」
「君に涙は似合わないよ。ほら、ちゃんと笑って」
私の頬を流れる涙を拭ってくれたガレス様に、私は今出来る精一杯の笑顔を浮かべると、嬉しそうに頬を綻ばせるガレス様と誓いの口づけを交わした――
本当は大規模浄化の時に、民の瘴気も一緒に闇魔法で飲む込めればよかったんだけど、流石にそれは出来なかった。
「フェリシア、どうだ?」
「大丈夫。瘴気は全部浄化できました。でも……その変異した腕は……もう……」
「なーに、随分とごつくなってカッコいいじゃねーか! それよりも、助けてくれて本当にありがとうな、聖女様!」
「うっ……うぅ……よかった……本当によかった……聖女様、うちの旦那を助けてくれて……本当にありがとうございました……!」
私が今見ていた患者は、瘴気のせいで右腕がボコボコに腫れあがり、そのまま浸食されていたら、大型のオークにでもなってしまっていただろう。何とか食い止められてよかった。
……その腕を治す術もあればいいのに。いや、最初からあきらめていたら駄目ね。もっと聖女として光魔法も闇魔法も上達して、完全にモンスター化してしまっても治せるようになってみせるわ。
「さて、とりあえずこの村の浄化は全て終わったかな?」
「はい。もう患者はいないみたいです」
「わかった。今日もありがとうフェリシア」
「いえそんな……聖女として当然の事をしてるだけです。それよりも、いつも護衛をしてくれてありがとうございます」
「それこそ当然の事だよ。さあ、今日はもう遅い。宿屋に泊まって、明日城に戻るとしようか」
ガレス様の提案に頷いて見せると、彼は何故かキョロキョロと周りを確認してから、私にそっと手を差し伸べた。
最近のガレス様は、こうして私の手を取ってエスコートしてくれる事がとても多い。場合によってはお姫様だっこをされる時もある。
嬉しいんだけど……嬉しいだけど! こっちとしてはドキドキしすぎてそれどころじゃない! 二年前のあの大規模浄化の日以来、このドキドキは減るどころか、どんどん増している。
……やっぱり私、ガレス様の事が……。
「そうだフェリシア。君の母国の事は聞いたかい?」
「はい」
宿屋に向かう途中に投げかけられたガレス様の質問に、私は小さく頷く。
実は、最近アインベルト国の問題が解決されてきたからか、国が豊かになってきた。その影響もあり、他国の難民を少しずつ受け入れている。中には私の母国であるガトリオ国からの難民もいて、その人の浄化をする際に話を聞いた。
その難民曰く、今の聖女――妹のサリィアが全く仕事をしないせいで、結界が著しく弱まり、瘴気やモンスターが国に入り込んでしまった。当然瘴気に侵される人も出始めてる。それでもサリィアは遊び惚け、国も何もしてくれなかった。
結果、国では大規模な暴動が起こり、民と王家の争いが今も行われているそうだ。そして……その戦争に巻き込まれたサリィアとピエール様は、民の手でこの世を去ってしまったとの事だ。
……実はこうなるんじゃないかとは思っていた。サリィアはワガママだし聖女の勉強をしていない。それに周りの大人達も、サリィアを甘やかしていたから、サリィアがやりたくないって言えば、素直にそれを許してしまうのは容易に想像できた。だから追放をされた日に抗議したんだ。
何の罪もないガトリオ国の民が瘴気に侵され、戦渦に巻き込まれるのはとても心が痛む。だから、私はアインベルト国に逃げてきたガトリオ国の民の浄化や怪我の治療を率先して行っている。ガレス様達の理解もあるから、とても助かっているの。
「実は父上と兄上に、とある事を提案していてね。近い将来、ガトリオ国を我が領土にしようとしている。もちろんガトリオ国の民は、我が国の大切な民として迎え入れる。そうすれば、フェリシアが堂々とガトリオの民を救えるだろう?」
「そ、それは本当ですか!?」
「ああ。もうガトリオ王家はボロボロみたいだから、領土にするのはそれほど大変じゃないだろう。ただ、多くの民や土地の浄化が必要だから、君に負担がかかって――」
「やります! 民を救えるなら……悲しみが生まれなくなるなら、いくらでも!」
あまりにも僥倖すぎる。この話が実現すれば、この国の聖女として、私は母国の民を救える。国王陛下やノア様といった王家の方々もお優しい方ばかりだから、ガトリオ国の民が虐げられる心配もないだろう。
「本当にありがとうございます、ガレス様……」
「お礼を言うのはこちらだよ。せめてものお返しとして、これから先……ずっと君の隣で、君を守らせてくれ」
「え……? それって……」
聞きようによっては、完全にプロポーズ……なのでは? ど、どうしようどうしよう! 嬉しいけど心の準備が……! いや待って落ち着いて私。もしかしたら、深い理由なんてないかもしれない! もしそうなら、私が勝手に舞い上がってるだけの恥ずかしい人になっちゃう!
「宿屋が見えてきたね。入ろうか」
「ひゃい!」
ドキドキで声を裏返しながら、私はガレス様と一緒に宿屋に入ると、宿屋のご主人に笑顔で出迎えられた。
「これは聖女様に王子様! 此度は村を救ってくれて、本当にありがとうございました!」
「僕は何もしていない。感謝の言葉は彼女にだけ送ってほしいな」
「そ、そんな事無いです! ここに来るまでずっと守ってくれてますし、苦しんでる人を励ましたり……ガレス様は自分を卑下しすぎです!」
「ふふっ、ありがとう。二人なんだが、部屋の準備をしてもらえるかな」
「勿論でございます! うちで一番のお部屋をご用意します!」
「ありがとう」
宿屋のご主人は笑顔でそう言いながら、私達を二階の部屋の前まで案内してくれた。
「お部屋はこちらです。ではどうぞ……ごゆっくり!」
大きくお辞儀をしたご主人を見送ってから部屋に入る。中はとてもスッキリしているうえ、清潔で好感が持てる……のはいいんだけど、一つ重大な事に気づいた。
「あ、あれ……? ベッドが……一つしかない」
「……あははっ……これは主人にしてやられたな」
……そう。私達二人が泊まる部屋なのに、ベッドが一つしかない。これでは……ガレス様と同じベッドで寝る事に……!? そ、そんなの考えるだけで気絶しそう!
だ、だって……年頃の男女が同じベッドで寝るなんて……そ、そんなの……アレしかないじゃない!
「フェリシア、ベッドは君が使ってくれ。僕は床で寝るから」
「ゆ、床!?」
「これでも瘴気の調査で色んな所に赴いた際に、野宿は何度も経験していてね。地面に比べれば、床なんて可愛いものさ」
言われてみれば、確かに土の上で寝るよりはいいかもしれないけど、だからといって一国の王子様を床で寝かすなんて前代未聞すぎる。
それに……その、私……ガレス様と一緒に寝たいし……。
「あ、あのあの……その……い、いい……一緒に……」
「……フェリシア……いいのかい?」
「は、はい……私、ガレス様となら……あっ! ガレス様が嫌なら無理にとは……」
「ありがとう。とても光栄だよ。僕も君となら……いや、君が良い。美しく、清らかでとても強い心を持つ君となら」
「えっ……」
「僕は君を愛しているんだ。出会ったあの日から……僕は君に心を奪われていたんだ」
「っ……! ガレス様……私……嬉しいです」
あまりの嬉しさに、私はガレス様に勢いよく抱き着いてしまった。そんな私の事を優しく受け入れてくれたガレス様は、優しく抱きしめ返してくれた。
どうしよう、嬉しすぎて涙が止まらない。やっぱり二年前からずっと感じていたこのドキドキや気持ちは、ガレス様への愛だったんだ……!
「これからも……国を守る聖女として、そしてあなたの妻として、隣に置いてくれますか?」
「もちろん。僕と一緒にどこまでも歩んでほしい。絶対に君を守るし、悲しませないから」
「嬉しい……!」
「君に涙は似合わないよ。ほら、ちゃんと笑って」
私の頬を流れる涙を拭ってくれたガレス様に、私は今出来る精一杯の笑顔を浮かべると、嬉しそうに頬を綻ばせるガレス様と誓いの口づけを交わした――
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