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第5話 ちょっぴり見返せた!
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「大丈夫……ちゃんと直したんだもん。絶対に面白いわ!」
あれから一週間が経った。この前と同じ場所、同じ時間に立っていた私は、高鳴る胸を押えながら、あの男性が来るのを待っていた。
大丈夫……大丈夫……何度も自分で見直しもしたし、マリーにも見てもらった。言われた部分の修正もちゃんとした。きっと大丈夫!
「待たせたな」
「い、いえ! えっと……こんにちわ」
「こんにちわ」
緊張しながら待っていると、先週見た男性が歩いてやって来た。
改めてこう見ると、本当に理想の王子様にそっくりだわ……こんな事って現実にあるのね。別人だってわかってても、顔を見るだけでドキドキしちゃうわ。
「それで、どの程度直してきた?」
「全部直してきました」
「……? 全部だと?」
「え、はい。最低限直せって言われたところはもちろん、他にも書かれた改善点は全部直しました」
「……あの量をか……」
あ、あれ……なんでそんな、こいつは一体何を言っているんだ、バカなのか? って言いたげな、微妙な顔で見つめてくるのかしら……。
はっ!? 私の妄想の中での王子様は基本笑顔だったけど、現実でこういう微妙な感じの表情を見ると、案外これもありなような気がしてきたわ!
「その熱意は受け取った。読ませてもらう」
「あ、はい」
原稿用紙を渡すと、読んでるのか疑わしく思う程の速度で読み始める。所々で鉛筆でまた何かを書きこんでいるけど、概ねスラスラと読んでいる印象を受ける。
っていうか……前回もこの速度で読んでたのかしら!? スラスラを超えてると思うんだけど! もしかして、今回は適当に読んでるだけ!?
「読み終わった」
「はやっ!? それで……どうでしたか?」
「前回よりは改善されているな。気になった部分に改善点を書いたが、それでも良くなっている。この一週間で直したとは思えない程だ」
「っ……!? やったー!」
百点満点とはいかない言葉だけど……それでも私の物語が、王子様が少しは認められた。ううん、それだけじゃない……生まれて初めて、マリー以外の人に認められた。それが、私にはすごく嬉しくて……子供のように飛び跳ねて喜んでしまった。
「大げさだな」
「当然よ! 私の王子様をバカにした人を、ちょっぴり見返せたんだか……ら……はっ……ご、ごめんなさい! つい嬉しくて……」
思わず本音が出てしまったにも関わらず、この人は特に怒る素振りなど見せず、何か考えるように、手を顎に当てていた。
「ふむ……この短期間で指摘した部分の修正が出来る根性があって、文章自体の素質も悪くない。これは……アリだな」
「えっと、何をぶつぶつ言ってるのですか?」
「お前、名前は?」
「私ですか? ルイ――ごほん、ティア・ファルダーです」
あ、危ない危ない……いつもの様に本名を名乗ってしまうところだった。別にエクエス家に迷惑がかかるとかは、凄くどうでもいいんだけど、難癖をつけてこられたら、こっちが迷惑だからね。
「ティアだな。俺はユース。ユース・ディオスだ。俺をそんなに見返したいのなら、明日の十四時に、この紙に書かれた場所に来い。俺の名前を出せば案内してくれる。来れないならその次の日でもいい」
「え、ええ?」
「悪いが、そろそろ戻る時間だ。そうだ、その原稿も忘れずに持って来い。いいな」
前回同様に、有無も言わさずに私に一枚の紙を渡した彼——ユース・ディオス様は、小走りで去っていった。
な、なんていうか……うん、凄くマイペースな人なんだなっていうのはわかった。あとあまり愛想もないわね。
「なんにせよ、少しは私の王子様を認めてくれた……のかしら。でももっと認めさせて、ぎゃふんと言わせないと気が済まないわ! って、今はとりあえず紙を確認しましょう」
手渡された一枚の紙を見ると、そこには地図と住所が書かれていた。えっと……この近くにある街、パークスのとある場所を示しているみたい。
「明日来てくれって言ってたわよね。この時間なら何時も空いてるし、行ってみようかしら」
とりあえず今日も何かされたわけじゃないし、危険は無さそうだわ。今日は帰って、指摘された部分の修正をしましょう。
****
「ここね……」
翌日、今回こそついていくと駄々をこねるマリーをなだめてから家を出た私は、ユース様から貰った紙に書かれた場所にやって来ると、とても大きな建物が私を出迎えてくれた。
エクエス家の屋敷ほどではないにしろ、中々に立派な建物ね。門の看板には、出版ギルド・イズダーイと書かれているわ。
イズダーイねぇ……イズダーイ? 何処かで聞いた事があるような……そうだ! いろんな本を出版している、超大手のギルドの名前じゃない! もしかして、ユース様ってここの関係者なのかしら?
「さて、とりあえず入ったけど……どうすればいいのかしら。あの受付の人に聞けばいいのかな」
ユース様の名前を出せば案内してくれるって言ってたし、受付の人に聞いてみよう。そう決めた私は、ゆっくりと受付へと向かった。
「いらっしゃいませ。ご用件をお伺いいたします」
「ティア・ファルダーと申します。ユース・ディオス様と十四時に約束をしているのですが」
「ティア様ですね。お待ちしておりました。ご案内いたします」
「ありがとうございます」
受付の女性はそう言うと、私を二階の部屋へと通してくれた。こじんまりとしているけど、清潔感があるし明るくて好感が持てる。
「ユースはすぐに参りますので、お掛けになってお待ちください」
「わかりました」
女性を見送ってから数分もしないうちに、部屋の中にノックが響く。それとほぼ同時に、ユース様が部屋の中へと入ってきた。
「待たせた。まさか本当に来るとは思ってなかったが……よっぽど俺を見返したいようだな」
「あなたから呼び出したのに、随分な言いようですね」
「冗談だから気にするな」
少しタチの悪い冗談だなと思う私の対面に、ユース様は静かに腰を下ろした。その表情は、何故かとても真剣だった。
「改めて自己紹介をする。俺はユース・ディオス。イズダーイの第一編集部の編集長をしている」
「やっぱりここの関係者だったんですね……って……へんしゅーちょー!?」
嘘でしょ、どうみてもまだ二十代にしか見えないのに、大手のイズダーイの編集長なんて信じられない。そういった重役って、もっと年配の方がやるものじゃないの?
「えっと、失礼ですけど……おいくつですか……?」
「二十五だが」
「私と十個しか変わらないの!? その若さで編集長!?」
「イズダーイは実力主義だからな。役職と歳は関係ない。それに編集長といっても、第一編集部の話だからな。俺より上の連中は沢山いる」
「ひょえぇ~……」
よくわからないけど、私には凄いとしか言えないわ……ビックリしすぎて語彙力が完全に行方不明……。
「本題に入っていいか?」
「あ、ごめんなさい。どうぞ」
「ティア。俺と一緒に本を作って、頂点を取らないか?」
「本を作るって……え、もしかして……」
「そうだ。俺が担当編集者になって、ティアと共にあの物語を完成させて、本として売り出す」
「えぇぇぇぇぇ!?」
い、今まで読んでた側だったに、書く側になれって事よね!? そんなのいきなり言われても困るわよ!
「で、でも私の物語はつまらないって言いましたよね?」
「ああ、現段階ではな。だが……素人でちゃんと形に出来るのは素晴らしい才能だ。それに、俺はお前の根性を評価したい」
「根性?」
「俺を見返すために、俺の指摘した部分をしっかり直すその根性だ」
た、確かに見返したくて、睡眠時間を削って必死に書いたけど……そんなに褒められる事なのかしら……褒められて育ってないから、なんだか変な気分だわ。
「その、私がそんな……本を出せるような物語を書ける人間に本当に見えるんですか?」
「見える。そうじゃなければここに呼んだりなどしない」
即答だった。よっぽど私の事を評価してくれているのだろう。そう思うと、なんだかすごく胸の奥が熱くなるっていうか……嬉しいわ。
「もちろん、このままでは出版なんて夢のまた夢だ。改善点は山の様にあるし、そもそもまだ完結していないのだろう? 続きを書くうちに、修正どころか書き直す事になるかもしれない。はっきり言って、かなりきつい。それでもお前ならやれると思っている……俺にとって、ティアは磨けば光る原石に見えるんだ」
「…………」
真っ直ぐと私を見つめるユース様の目に、嘘偽りがあるようには見えない。きっと本気で私の事を評価してくれてるし、本気で頂点を目指しているのだろう。
悪くない話かも。もし本になれば、全世界に私の王子様の素晴らしさを伝えられるし、ユース様をぎゃふんと言わせられるかもしれない。それに、沢山売れれば生活が豊かになって、マリーに楽をさせられる。
——よしっ。
「わかりました。よろしくお願いします、ユース様」
「決まりだ。よろしくな、ティア。あと、そんな堅苦しい呼び方じゃなくて構わない」
「じゃあ、ユースさんで」
私は椅子から立ち上がると、同様に立ち上がったユースさんと握手を交わした。
私が本当に本なんて出版できるか、正直まだ半信半疑だけど……やってみなきゃわからないわよね! よーし、出版を目指して頑張るわよー!
あれから一週間が経った。この前と同じ場所、同じ時間に立っていた私は、高鳴る胸を押えながら、あの男性が来るのを待っていた。
大丈夫……大丈夫……何度も自分で見直しもしたし、マリーにも見てもらった。言われた部分の修正もちゃんとした。きっと大丈夫!
「待たせたな」
「い、いえ! えっと……こんにちわ」
「こんにちわ」
緊張しながら待っていると、先週見た男性が歩いてやって来た。
改めてこう見ると、本当に理想の王子様にそっくりだわ……こんな事って現実にあるのね。別人だってわかってても、顔を見るだけでドキドキしちゃうわ。
「それで、どの程度直してきた?」
「全部直してきました」
「……? 全部だと?」
「え、はい。最低限直せって言われたところはもちろん、他にも書かれた改善点は全部直しました」
「……あの量をか……」
あ、あれ……なんでそんな、こいつは一体何を言っているんだ、バカなのか? って言いたげな、微妙な顔で見つめてくるのかしら……。
はっ!? 私の妄想の中での王子様は基本笑顔だったけど、現実でこういう微妙な感じの表情を見ると、案外これもありなような気がしてきたわ!
「その熱意は受け取った。読ませてもらう」
「あ、はい」
原稿用紙を渡すと、読んでるのか疑わしく思う程の速度で読み始める。所々で鉛筆でまた何かを書きこんでいるけど、概ねスラスラと読んでいる印象を受ける。
っていうか……前回もこの速度で読んでたのかしら!? スラスラを超えてると思うんだけど! もしかして、今回は適当に読んでるだけ!?
「読み終わった」
「はやっ!? それで……どうでしたか?」
「前回よりは改善されているな。気になった部分に改善点を書いたが、それでも良くなっている。この一週間で直したとは思えない程だ」
「っ……!? やったー!」
百点満点とはいかない言葉だけど……それでも私の物語が、王子様が少しは認められた。ううん、それだけじゃない……生まれて初めて、マリー以外の人に認められた。それが、私にはすごく嬉しくて……子供のように飛び跳ねて喜んでしまった。
「大げさだな」
「当然よ! 私の王子様をバカにした人を、ちょっぴり見返せたんだか……ら……はっ……ご、ごめんなさい! つい嬉しくて……」
思わず本音が出てしまったにも関わらず、この人は特に怒る素振りなど見せず、何か考えるように、手を顎に当てていた。
「ふむ……この短期間で指摘した部分の修正が出来る根性があって、文章自体の素質も悪くない。これは……アリだな」
「えっと、何をぶつぶつ言ってるのですか?」
「お前、名前は?」
「私ですか? ルイ――ごほん、ティア・ファルダーです」
あ、危ない危ない……いつもの様に本名を名乗ってしまうところだった。別にエクエス家に迷惑がかかるとかは、凄くどうでもいいんだけど、難癖をつけてこられたら、こっちが迷惑だからね。
「ティアだな。俺はユース。ユース・ディオスだ。俺をそんなに見返したいのなら、明日の十四時に、この紙に書かれた場所に来い。俺の名前を出せば案内してくれる。来れないならその次の日でもいい」
「え、ええ?」
「悪いが、そろそろ戻る時間だ。そうだ、その原稿も忘れずに持って来い。いいな」
前回同様に、有無も言わさずに私に一枚の紙を渡した彼——ユース・ディオス様は、小走りで去っていった。
な、なんていうか……うん、凄くマイペースな人なんだなっていうのはわかった。あとあまり愛想もないわね。
「なんにせよ、少しは私の王子様を認めてくれた……のかしら。でももっと認めさせて、ぎゃふんと言わせないと気が済まないわ! って、今はとりあえず紙を確認しましょう」
手渡された一枚の紙を見ると、そこには地図と住所が書かれていた。えっと……この近くにある街、パークスのとある場所を示しているみたい。
「明日来てくれって言ってたわよね。この時間なら何時も空いてるし、行ってみようかしら」
とりあえず今日も何かされたわけじゃないし、危険は無さそうだわ。今日は帰って、指摘された部分の修正をしましょう。
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「ここね……」
翌日、今回こそついていくと駄々をこねるマリーをなだめてから家を出た私は、ユース様から貰った紙に書かれた場所にやって来ると、とても大きな建物が私を出迎えてくれた。
エクエス家の屋敷ほどではないにしろ、中々に立派な建物ね。門の看板には、出版ギルド・イズダーイと書かれているわ。
イズダーイねぇ……イズダーイ? 何処かで聞いた事があるような……そうだ! いろんな本を出版している、超大手のギルドの名前じゃない! もしかして、ユース様ってここの関係者なのかしら?
「さて、とりあえず入ったけど……どうすればいいのかしら。あの受付の人に聞けばいいのかな」
ユース様の名前を出せば案内してくれるって言ってたし、受付の人に聞いてみよう。そう決めた私は、ゆっくりと受付へと向かった。
「いらっしゃいませ。ご用件をお伺いいたします」
「ティア・ファルダーと申します。ユース・ディオス様と十四時に約束をしているのですが」
「ティア様ですね。お待ちしておりました。ご案内いたします」
「ありがとうございます」
受付の女性はそう言うと、私を二階の部屋へと通してくれた。こじんまりとしているけど、清潔感があるし明るくて好感が持てる。
「ユースはすぐに参りますので、お掛けになってお待ちください」
「わかりました」
女性を見送ってから数分もしないうちに、部屋の中にノックが響く。それとほぼ同時に、ユース様が部屋の中へと入ってきた。
「待たせた。まさか本当に来るとは思ってなかったが……よっぽど俺を見返したいようだな」
「あなたから呼び出したのに、随分な言いようですね」
「冗談だから気にするな」
少しタチの悪い冗談だなと思う私の対面に、ユース様は静かに腰を下ろした。その表情は、何故かとても真剣だった。
「改めて自己紹介をする。俺はユース・ディオス。イズダーイの第一編集部の編集長をしている」
「やっぱりここの関係者だったんですね……って……へんしゅーちょー!?」
嘘でしょ、どうみてもまだ二十代にしか見えないのに、大手のイズダーイの編集長なんて信じられない。そういった重役って、もっと年配の方がやるものじゃないの?
「えっと、失礼ですけど……おいくつですか……?」
「二十五だが」
「私と十個しか変わらないの!? その若さで編集長!?」
「イズダーイは実力主義だからな。役職と歳は関係ない。それに編集長といっても、第一編集部の話だからな。俺より上の連中は沢山いる」
「ひょえぇ~……」
よくわからないけど、私には凄いとしか言えないわ……ビックリしすぎて語彙力が完全に行方不明……。
「本題に入っていいか?」
「あ、ごめんなさい。どうぞ」
「ティア。俺と一緒に本を作って、頂点を取らないか?」
「本を作るって……え、もしかして……」
「そうだ。俺が担当編集者になって、ティアと共にあの物語を完成させて、本として売り出す」
「えぇぇぇぇぇ!?」
い、今まで読んでた側だったに、書く側になれって事よね!? そんなのいきなり言われても困るわよ!
「で、でも私の物語はつまらないって言いましたよね?」
「ああ、現段階ではな。だが……素人でちゃんと形に出来るのは素晴らしい才能だ。それに、俺はお前の根性を評価したい」
「根性?」
「俺を見返すために、俺の指摘した部分をしっかり直すその根性だ」
た、確かに見返したくて、睡眠時間を削って必死に書いたけど……そんなに褒められる事なのかしら……褒められて育ってないから、なんだか変な気分だわ。
「その、私がそんな……本を出せるような物語を書ける人間に本当に見えるんですか?」
「見える。そうじゃなければここに呼んだりなどしない」
即答だった。よっぽど私の事を評価してくれているのだろう。そう思うと、なんだかすごく胸の奥が熱くなるっていうか……嬉しいわ。
「もちろん、このままでは出版なんて夢のまた夢だ。改善点は山の様にあるし、そもそもまだ完結していないのだろう? 続きを書くうちに、修正どころか書き直す事になるかもしれない。はっきり言って、かなりきつい。それでもお前ならやれると思っている……俺にとって、ティアは磨けば光る原石に見えるんだ」
「…………」
真っ直ぐと私を見つめるユース様の目に、嘘偽りがあるようには見えない。きっと本気で私の事を評価してくれてるし、本気で頂点を目指しているのだろう。
悪くない話かも。もし本になれば、全世界に私の王子様の素晴らしさを伝えられるし、ユース様をぎゃふんと言わせられるかもしれない。それに、沢山売れれば生活が豊かになって、マリーに楽をさせられる。
——よしっ。
「わかりました。よろしくお願いします、ユース様」
「決まりだ。よろしくな、ティア。あと、そんな堅苦しい呼び方じゃなくて構わない」
「じゃあ、ユースさんで」
私は椅子から立ち上がると、同様に立ち上がったユースさんと握手を交わした。
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