【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき

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第三十三話 イチャイチャ雨宿り

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 目的地の大きな木のうろの中に入る頃には、雨に打たれて服や髪がだいぶ濡れてしまった。

「結構降ってきましたね。ここで待っていましょう」

「そうだね。それにしても、本当に降ってくるとは……今日だけで、アイリーンの新しい一面を色々と見られた気がするよ」

 川で魚を獲ったり、雨が降りそうなのを予測したり、エルヴィン様の前でしたことがないことを沢山したから、そう言われるのも無理はない。

「エルヴィン様、私のタオルを貸しますから、急いで拭いてください」

「その必要は無いよ」

 エルヴィン様は答えながら指を鳴らすと、足元に魔法陣が現れる。それから間もなく、エルヴィン様の体や服から、一瞬にして沢山の水滴が飛び出してきた。

「濡れた時は、こうやって水気を飛ばしてしまえばいいんだ」

「凄い、魔法でそんなことが出来るのですね。あの、よければ私にもしてもらえると……」

「そうしてあげたいのは山々なんだけど、この魔法は自分に使うことを想定して、魔法の回路を組んでいるんだ。出来ないことも無いとは思うけど、万が一失敗したら……ってこともあるからね」

「そうなんですか? それなら仕方がないですね」

「その代わりと言ってはなんだけど、僕が君の体を拭いてあげるよ」

「えぇっ!?」

 一瞬だけ、私の体を拭きたいから嘘をついているのかと思ったけど、エルヴィン様の言葉から嘘の臭いはしない。

 私ったら、エルヴィン様のことを一瞬でも疑ってしまうだなんて。自分の浅はかさに腹が立つ。

「今日はアイリーンに頼りっぱなしで、情けないところばかり見せてしまったからね。これくらいはさせてほしい」

「情けなくなんかないですよ。エルヴィン様は、こういう自然の中で生活したことがないんですから、仕方がないことです」

「励ましてくれてありがとう。だが、これは僕のワガママなんだが……君の前では、常にカッコいい僕であり続けたいんだよ」

 いつもエルヴィン様にドキドキさせられっぱなしだけど、今の言葉と微笑みは、まるで心臓を鈍器で叩かれたかのような、強い高鳴りを感じた。

「……わ、わかりました。お願いします」

 自分の顔どころか、体中が熱くなるのを感じながら、エルヴィン様にタオルを渡してから、背中を向ける。すると、とても優しい手つきで頭が拭かれる感覚を感じた。

「痛かったら言ってね」

「大丈夫です……」

 もの凄く恥ずかしいけど、それと同じくらい心地よくも感じていた私は、返事が少し上の空になっていた。

 誰かに髪を拭いてもらうのなんて、まだ小さかった頃に両親にしてもらった時以来だけど……こんなに気持ちがいいものだったなんて……。

 これもきっと、心を許しているエルヴィン様がしてくれているだろう。他の男性にされたら、全く違う感情を持っていたと思う。

「前々から思っていたけど、アイリーンの髪ってとても綺麗だね」

「そ、そんなことはないですよ! エルヴィン様のほうが、サラサラで素敵な髪ですよ!」

「そうかな? 僕はアイリーンの方が素敵だと思うけど……」

「いいえ、そんなことはありません!」

 ただでさえ恥ずかしくてドキドキしているのに、急にそんなことを言わないでほしい。ビックリしすぎて、変な声が出ちゃったよ。

「よし、こんなところかな。次は尻尾を拭くね」

「し、尻尾……」

 さっきは何とか誤魔化したけど、今回は狭い場所だから、尻尾を振ってどうこうするのは無理だと悟った私は、小さく頷いた。

「はい……んっ」

「痛かったかい?」

「いえ、ちょっとくすぐったかっただけです」

 恥ずかしさをグッと堪えながら尻尾に触られた途端、変な声が出てしまった私は、これ以上声が出ないように口を両手で抑えて必死に抵抗する。

 尻尾は敏感なせいで、くすぐったいような、ムズムズするような、変な感じがする。体もさっきより熱くなっている気がするし、息も荒くなってきた。

 こんな変な感じ、初めてだよ……早く終わってほしいような気がするし、ずっと触っていてほしいような気もする。自分の体のことなのに、自分が一番わからない。

「はい、大体拭けたよ。アイリーン以外の孤族の人とは、何人か会ったことはあるけど、尻尾を触ったことは無かったから、とても新鮮な体験が出来たよ」

「そう、ですか……それはよかったです」

「アイリーンがよければ、フワフワな時にまた触らせてもらえないかな?」

「えっ!? その……た、たまになら……いいですよ」

 あれだけ恥ずかしい思いをしたのだから、断るのが正しいのかもしれないけど、期待に満ちたエルヴィン様を断るなんて、私には出来ない。

 それに……心の奥の方で、また触ってもらいたいと思ってしまっている。

「体の方はさすがにあれだから、自分で拭いてくれるかな?」

「わかりました」

 タオルを返してもらい、それなりに拭き終わったタイミングを見計らっていたかのように、エルヴィン様は着ていた上着を、フワッと優しくかけてくれた。

「本当なら、魔法で水分を飛ばしてあげたいのだけど……今の僕には、これぐらいしか出来ない」

「せっかく乾かしたのに、また濡れちゃいますよ」

「それで君が暖かくなるのなら、安いものさ。それに、アイリーンの良い匂いが服に染みついたら、僕にとってこれほど素晴らしいことはない」

「に、におっ!?」

「あはははは、冗談に決まっているだろう? アイリーンは本当に可愛いなぁ」

「む、むぅ~!」

 さっきまでの緊張はどこへやら。私は頬をプクーッと膨らませながら、エルヴィン様の腕をポカポカと叩いた。

 ……やっぱりエルヴィン様と一緒にいると、とても楽しいし、家族以外の人で、自分をさらけ出せる数少ない人だ。心が休まると同時に、言葉では表せないような暖かさも感じる。

「上着、暖かいなぁ……」

 ボソッと呟きながら、自然と襟元を顔の近くに持っていき、スンッ……と鼻を鳴らした。

 ……はっ!? 私としたことが、人の冗談には怒っておいて、自分はこんな……変態みたいなことをして、身勝手にもほどがある!
 おねがい、今のところをエルヴィン様に見られてませんように……!

「僕の服、良い匂いする?」

 み、見られてたぁぁぁぁぁ! もうダメだ……私はおしまいだぁ……エルヴィン様に変態のレッテルを張られて、捨てられちゃうんだ……!

「どうしたんだい? いくらでも嗅いでくれていいからね」

「えっ……エルヴィン様、私を気持ち悪がらないんですか? 貸した服の匂いを嗅いでたんですよ?」

「アイリーンなら全然構わないよ」

「そ、そうですか……で、では……」

 本人からお許しが出たので、再び匂いを嗅ごうとする。
 エルヴィン様の匂いって、なんだかホッとする匂いで、いつまでも嗅いでいたくなる魅力がある。

 できれば、毎日上着を貸してもらいたい……そんな浮ついたことを考えていた私は、服が濡れて服の下がぼんやりと見えていることに気がついて、血の気が一気に引いていった。

「あの、エルヴィン様……今更ですけど、見ましたか?」

「……?」

「なにも見てないならいいんです! 気にしないでください!」

 よかった、服が濡れて透けて見えてしまっていたらどうしようかと思ったけど、杞憂で済んだ。

 濡れたせいで、私の下着……を見られるのは困るけど、もっと困るものが私にはある。

 それは、ゲオルク様のところにいた時に、あの三つ子に付けられた、もう一生消えないであろう無惨な傷跡だ。
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