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第五十六話 抑えきれない気持ち
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もう互いの息が当たるところまで来たのに、サイラス様は突然私をから顔を離すと、私の自分の背中に隠しながら、建物の中の方に体を向けた。
「そこにいるのは誰だ!」
誰かいるの? 私には全然気づかなかった。武術を学んでいるサイラス様の勘が働いたってことかしら。
「あっ……見つかったっす!」
「もう、何やってるんですかぁ! せっかくお二人が本当にラブラブか見たかったですのに! 早く逃げますよ!」
「う~……ひっく。きみたちぃ、ここでなにしてるんだぁ? 僕も混ぜてくれよ~!」
「「…………」」
物陰にいたのは、見知った人物ばかりだった。
私達の様子をこっそり見ていた、ギルドのみんなが、何もわかってなさそうなレージュ様を連れて、一斉に逃げていった。
……もしかして、ここに来てまでの様子を、見られてた……? うそ、やだ……恥ずかしすぎる……!
「ちょ……お前ら、なに覗き見してるんだー!?」
恥ずかしさで固まっている私とは対照的に、サイラス様は体を鍛えているのを最大限に生かした凄い速さで、みんなを追いかけていってしまった。
「急に静かになっちゃった。私、あのままだったら、きっとしちゃってたわよね……キス」
告白もしていないのに、お酒の力を借りて、自分の気持ちを押し付けようとして……サイラス様のことを、考えないで……はあ、自己嫌悪に陥りそう……。
……今日は、部屋に戻って寝よう。ゆっくり寝て、また明日考えよう。
****
「うぅ……頭が痛い……やっぱり、ちょっと飲み過ぎちゃったかしら……」
翌朝。ずきずきと痛む頭を抑えながら、昨日の楽しかったパーティーのことを思い出そうとするが、後半の部分がよく思い出せない。
確か、サイラス様とバルコニーに行って……少しおしゃべりして……みんなが来て、大騒ぎになって……あれ、何か間で抜けているような? ていうか、なんでこの部屋で寝ているの?
「思い出せない……それに、思い出そうとすると、恥ずかしくて死にそうになるわ……」
い、一体昨晩はなにをしようとしてたの? 覚えていないのに、体だけがこんなに恥ずかしさで一杯になるなんて、相当なことよね?
「思い出せそうにないし、サイラス様に直接聞いた方が良いかもしれないわね。まだ屋敷にいるかしら?」
急いでサイラス様の部屋に向かったが、中には掃除をしている使用人しかいなかった。
彼が言うには、サイラス様は既にギルドに行っているとのことだ。
「もう行ってしまったのね。相変わらず仕事熱心な人だわ」
「エリシア様。お言葉ですが、そこまで早い時間でもありませんよ?」
「えっ?」
部屋の隅に置かれている、年代物の大きな時計を見ると、いつもなら既に朝食を済ませて、少しゆっくりしている時間だった。
「もうこんな時間なの!? 朝食を食べてる時間が無いじゃない! 昨日、少し飲み過ぎちゃったから、多分それのせいで寝すぎちゃったんだわ! ごめんなさい、失礼します!」
私は急いでサイラス様の部屋を後にして、自分の部屋に向かうと、いつも身支度を手伝ってくれる女性の使用人が、おろおろとした様子で立っていた。
「ああ、エリシア様! よかった、どこに行かれたのか心配しておりましたわ!」
「ちょっとサイラス様のところに行ってまして! 寝ぼけてて、まさかこんな時間だとは思ってもいなくて!」
「左様でしたか。お疲れでしたので、時間いっぱいまでお休みいただこうと思ったのですが……」
それで起こしに来たら、ベッドがもぬけの殻だったというわけね。それはビックリするのも無理はない。
「こちらにサンドイッチをご用意してあります。それをお召し上がりになられている間に、髪の方をセットさせていただきますわ」
「わざわざありがとうございます」
呑気に寝ていた私とは違い、とても仕事の出来る使用人に深い感謝をしながら、無事に身支度を整えた私は、いつも通りくらいの時間にギルドに到着することが出来た。
時計を見た時は、本当に焦ったわ……あんなに寝坊したのなんて、生まれて初めての経験だもの。大きな仕事が終わって気が緩んでいるのかもしれないわね……気を引き締めないと。
「朝礼まで時間があるし、サイラス様のところに行きましょう」
サイラス様がいつも仕事をしているギルド長室に行くと、いつもの書類の山と、以前私がプレゼントした花が飾られている机に向かって仕事をしていた。
「ん? おはようエリシア! 調子はどうだ?」
「おはよう、サイラス様。ちょっと二日酔いみたいな感じだけど、とりあえずは大丈夫。それよりも、あの……私、昨晩は結構酔ってたみたいで、断片的にしか思い出せなくて。バルコニーに行ったことは覚えているのだけど……その後、私と何かした?」
「あの後? 君を俺の部屋まで送り届けて、使用人に任せて部屋に戻ったよ。使用人から聞いた感じだと、着替えている間にウトウトして、そのまま眠ってしまったそうだね」
「ぜ、全然覚えてない……それで、バルコニーにではなにをしてたの? それにサイラス様の部屋では?」
「……ああ、気にしなくていいよ。結局未遂だったしね」
えぇ!? なにそれ、凄く気になるのだけど!? 未遂って、一体私は何をしていたの!?
「あはははっ! なに、次は酒の力なんて借りないで、俺が最高の場を用意するから、何も問題無いさ! それと、部屋に関しては、酔い潰れて熟睡しちゃったから、一番近い俺の部屋に運んだだけさ。他意はないよ」
「なるほど、部屋についてはそれで良いとして……結局私は、昨日何をしたの!? もうっ! 教えてよー!」
結局サイラス様は、最後まであのバルコニーで何をしていたのか教えてくれなかった。
仕方がないから、何をしていたか知ってる人がいないか、聞いてまわったのだけど……結局、誰に聞いても教えてくれなかった。
それどころか、なんだか凄くニヤニヤされたというか……暖かい目で見られたというか……。
「……ああ、エリシア様。おはようございます」
「レージュ様、おはよう――って、顔が真っ青ですよ? 大丈夫ですか?」
「た、ただの二日酔いですので……薬も飲んできたので、じきに良くなるかと……」
な、なるほど。あれだけ飲み続けていれば、二日酔いになってもおかしくないわね。
私もお酒のせいで、昨日のことを一部しか覚えていないし……これからは、勧められてもあまり飲まないようにしましょう……。
「そこにいるのは誰だ!」
誰かいるの? 私には全然気づかなかった。武術を学んでいるサイラス様の勘が働いたってことかしら。
「あっ……見つかったっす!」
「もう、何やってるんですかぁ! せっかくお二人が本当にラブラブか見たかったですのに! 早く逃げますよ!」
「う~……ひっく。きみたちぃ、ここでなにしてるんだぁ? 僕も混ぜてくれよ~!」
「「…………」」
物陰にいたのは、見知った人物ばかりだった。
私達の様子をこっそり見ていた、ギルドのみんなが、何もわかってなさそうなレージュ様を連れて、一斉に逃げていった。
……もしかして、ここに来てまでの様子を、見られてた……? うそ、やだ……恥ずかしすぎる……!
「ちょ……お前ら、なに覗き見してるんだー!?」
恥ずかしさで固まっている私とは対照的に、サイラス様は体を鍛えているのを最大限に生かした凄い速さで、みんなを追いかけていってしまった。
「急に静かになっちゃった。私、あのままだったら、きっとしちゃってたわよね……キス」
告白もしていないのに、お酒の力を借りて、自分の気持ちを押し付けようとして……サイラス様のことを、考えないで……はあ、自己嫌悪に陥りそう……。
……今日は、部屋に戻って寝よう。ゆっくり寝て、また明日考えよう。
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「うぅ……頭が痛い……やっぱり、ちょっと飲み過ぎちゃったかしら……」
翌朝。ずきずきと痛む頭を抑えながら、昨日の楽しかったパーティーのことを思い出そうとするが、後半の部分がよく思い出せない。
確か、サイラス様とバルコニーに行って……少しおしゃべりして……みんなが来て、大騒ぎになって……あれ、何か間で抜けているような? ていうか、なんでこの部屋で寝ているの?
「思い出せない……それに、思い出そうとすると、恥ずかしくて死にそうになるわ……」
い、一体昨晩はなにをしようとしてたの? 覚えていないのに、体だけがこんなに恥ずかしさで一杯になるなんて、相当なことよね?
「思い出せそうにないし、サイラス様に直接聞いた方が良いかもしれないわね。まだ屋敷にいるかしら?」
急いでサイラス様の部屋に向かったが、中には掃除をしている使用人しかいなかった。
彼が言うには、サイラス様は既にギルドに行っているとのことだ。
「もう行ってしまったのね。相変わらず仕事熱心な人だわ」
「エリシア様。お言葉ですが、そこまで早い時間でもありませんよ?」
「えっ?」
部屋の隅に置かれている、年代物の大きな時計を見ると、いつもなら既に朝食を済ませて、少しゆっくりしている時間だった。
「もうこんな時間なの!? 朝食を食べてる時間が無いじゃない! 昨日、少し飲み過ぎちゃったから、多分それのせいで寝すぎちゃったんだわ! ごめんなさい、失礼します!」
私は急いでサイラス様の部屋を後にして、自分の部屋に向かうと、いつも身支度を手伝ってくれる女性の使用人が、おろおろとした様子で立っていた。
「ああ、エリシア様! よかった、どこに行かれたのか心配しておりましたわ!」
「ちょっとサイラス様のところに行ってまして! 寝ぼけてて、まさかこんな時間だとは思ってもいなくて!」
「左様でしたか。お疲れでしたので、時間いっぱいまでお休みいただこうと思ったのですが……」
それで起こしに来たら、ベッドがもぬけの殻だったというわけね。それはビックリするのも無理はない。
「こちらにサンドイッチをご用意してあります。それをお召し上がりになられている間に、髪の方をセットさせていただきますわ」
「わざわざありがとうございます」
呑気に寝ていた私とは違い、とても仕事の出来る使用人に深い感謝をしながら、無事に身支度を整えた私は、いつも通りくらいの時間にギルドに到着することが出来た。
時計を見た時は、本当に焦ったわ……あんなに寝坊したのなんて、生まれて初めての経験だもの。大きな仕事が終わって気が緩んでいるのかもしれないわね……気を引き締めないと。
「朝礼まで時間があるし、サイラス様のところに行きましょう」
サイラス様がいつも仕事をしているギルド長室に行くと、いつもの書類の山と、以前私がプレゼントした花が飾られている机に向かって仕事をしていた。
「ん? おはようエリシア! 調子はどうだ?」
「おはよう、サイラス様。ちょっと二日酔いみたいな感じだけど、とりあえずは大丈夫。それよりも、あの……私、昨晩は結構酔ってたみたいで、断片的にしか思い出せなくて。バルコニーに行ったことは覚えているのだけど……その後、私と何かした?」
「あの後? 君を俺の部屋まで送り届けて、使用人に任せて部屋に戻ったよ。使用人から聞いた感じだと、着替えている間にウトウトして、そのまま眠ってしまったそうだね」
「ぜ、全然覚えてない……それで、バルコニーにではなにをしてたの? それにサイラス様の部屋では?」
「……ああ、気にしなくていいよ。結局未遂だったしね」
えぇ!? なにそれ、凄く気になるのだけど!? 未遂って、一体私は何をしていたの!?
「あはははっ! なに、次は酒の力なんて借りないで、俺が最高の場を用意するから、何も問題無いさ! それと、部屋に関しては、酔い潰れて熟睡しちゃったから、一番近い俺の部屋に運んだだけさ。他意はないよ」
「なるほど、部屋についてはそれで良いとして……結局私は、昨日何をしたの!? もうっ! 教えてよー!」
結局サイラス様は、最後まであのバルコニーで何をしていたのか教えてくれなかった。
仕方がないから、何をしていたか知ってる人がいないか、聞いてまわったのだけど……結局、誰に聞いても教えてくれなかった。
それどころか、なんだか凄くニヤニヤされたというか……暖かい目で見られたというか……。
「……ああ、エリシア様。おはようございます」
「レージュ様、おはよう――って、顔が真っ青ですよ? 大丈夫ですか?」
「た、ただの二日酔いですので……薬も飲んできたので、じきに良くなるかと……」
な、なるほど。あれだけ飲み続けていれば、二日酔いになってもおかしくないわね。
私もお酒のせいで、昨日のことを一部しか覚えていないし……これからは、勧められてもあまり飲まないようにしましょう……。
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