婚約者に騙されて巡礼をした元貧乏の聖女、婚約破棄をされて城を追放されたので、巡礼先で出会った美しい兄弟の所に行ったら幸せな生活が始まりました

ゆうき

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第四十四話 鈍すぎ聖女

 せっかくジーク様と穏やかで幸せな時間を過ごしていたというのに、邪魔するかのようなタイミングで現れたアンドレ様。ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべてるあたり、本当に邪魔しにきたのかもしれません。

「貴様、周りに女を侍《はべ》らせて、何をしに来た」
「祭を楽しんでいたら、旧友の顔があったから声をかけにきたのさ。何か悪いかな?」
「……?」
「えっと、周りの目がある時のアンドレ様は、こんな感じです。以前会った時は、周りの目が無かったから横暴でしたけど……」
「なるほど」

 アンドレ様に聞こえないように、ジーク様にそっと耳打ちをして教えて差し上げると、小さく頷いて納得していました。

 いつも横暴で、とても王族とは思えないアンドレ様ですが、公共の場では割と普通の方だったりします。それをずっと続けてくれれば、変なゴタゴタが起こらなくて良いんですけどね……。

「ふむ、ジェニエス学園とゲール学園が共に手を取り合って準備した交流祭だ。そうやって楽しんでいる姿を見ると、こちらとしても身を粉にして準備した甲斐があるものだ」
「ふん、そんなの兄上に聞けば一発でバレるような嘘を言うな。お前がやっている事は別だろう」
「はいはい、そこで何をしているのかな?」

 バチバチに睨み合っているお二人の間に割って入るように、クリス様が生徒会の人達と一緒にやってきました。

 仕事熱心なクリス様達の事ですから、きっと見回りか運営に関するお仕事をしていたのでしょう。それにしても、完璧なタイミングです!

「確かに、あなたもしっかりお仕事はされておりましたね」
「ふっふっふっ……そうだろう?」
「書類に名前を書くだけで、それ以外の仕事は全て他の生徒会の人間に任せるという、完璧な仕事っぷりでしたね。おかげでこちらの仕事……特に私の仕事が増えて、中々に充実した毎日を過ごせましたよ」

 偉そうに胸を張っていたアンドレ様は、クリス様の暴露が効いたようで、少しだけ胸を張るのをやめました。結構可愛い所もあるんですね。

「それは結構。今後、今回の経験が糧になるような事があるのを祈ってる」
「ええ。きっとベルモンド家の家長を継いだ際に役に立つでしょう。その時は、そんな男の事もいたなと、酒の肴になればいいですね」

 ……あ、これわかっちゃいました。クリス様、結構怒っていらっしゃる! ここまでストレートに嫌味を言うなんて、めったに無いですもん!

「まあ君達が仲良さそうで安心した。そうじゃなきゃ……」

 途中でツカツカと歩き出したアンドレ様は、私達にしか聞こえない距離で、小声でとんでもない事を仰いました。

「その絆をぶち壊す快感を味わえないもんなぁ……」

 私の顔のまじかで、しかも変な笑い方をしながら舌なめずりするアンドレ様は、申し訳ありませんが……生理的に無理です! 申し訳ありません!

「まあ、今のうちに幸せを堪能しておきな……これから先、もう二度と味わう事が出来なくなるんだからな……!」
「……なら貴様は、今のうちに吠えておくといい。もう二度と俺達に関わらなくなるのだからな」
「クククッ……本当に面白い男だぜ、お前はよ。本番は良い勝負《ころしあい》をしようぜぇ……ギャハハハハ!!」

 最初から最後までマイペースを貫いたアンドレ様は、周りの女性達と共に、祭りの中へと消えてきました。

 はぁ、せっかくジーク様と楽しい食事をしていたというのに、完全に水を刺されてしまいました。

「兄上、どうしてここに?」
「見回りさ」
「な、なるほど……その、さっきは助けてくれてありがとうございました!」
「気にしないでおくれ。一緒に回れない事への、せめてもの謝罪って事で」
「まったく、兄上は昔から律義な男だ」
「確かにそうかもしれませんけど、私にはクリス様のそういうところも魅力の一つだと思いますよ?」

 何気なく言った言葉……だったはずが、何故かクリス様は困ったように笑い、ジーク様は少ししょんぼりしてしまっていました。

 え、今の言葉ってそんな酷い内容のものだったんでしょうか!? あぁ……私ったら……なんて馬鹿なんでしょうか……!

「私にもあるなら、ジークにも魅力はあるよね?」
「も、もちろんありますよ!」
「……!」

 今まで落ち込んでいたクリス様は、少し期待に満ちたような目で、私の事を見つめてきました。

 言っておきますけど、私はジーク様の事を異性として好きという自覚してますからね? そんな私は良い所を言うなんて、朝飯前ですよ!

「まず優しい所がいいですね! 普段の言動のせいで隠れがちですけど、ジーク様はいつも私に気にかけてくれるんです! もちろん私だけじゃなく、家族や使用人様達にもです!」
「あ、ああ……」
「あとあと、たまに見せる照れた顔とか可愛いですし、怒った顔や戦闘してる時の顔は怖いけど、とても凛々しくてカッコいいです!」
「し、シエル?」
「知ってますか? ジーク様って小食なんですよ! ギャップが可愛いと思いませんか? さっき一緒に買った屋台のごはん、大体が私が食べちゃいました! え、私が食べ過ぎ……? うぅ……」
「大丈夫だから、ほら涙を拭いて」
「……テンションの差についていけん……」

 まだまだ言い足りないんですが、食べ過ぎのメンタルダメージが大きすぎて……ちょっと涙ぐんじゃいました。

 でも、もう大丈夫! さあ、ジーク様の良い所はまだまだありますよ!

「さて、熱が入って来てるところ悪いんだが、お開きにしよう」
「な、なんでですか!?」
「見てごらん」

 クリス様の指差す方向を見ると、ジーク様は壁にもたれながら、頭を抱えていました。顔は耳まで真っ赤になり、何処か悶えているような感じです。

「もしかして、病気でしょうか!?」
「いや違うから……さすがに鈍すぎて心配になるレベルだね……」

 クリス様の仰ってる事がよくわかりませんが……私としては、ジーク様の良さの一部を語れて大満足です!

「そうだ、せっかくですし、一緒に屋台を周りませんか? おいしそうなものが沢山あって!」
「そうしたいのは山々だけどね……」
「会長、仕事は大体終わってますし、残ってる分は俺達でやっておくんで」
「だね~。会長はの~んびり休んで、武闘大会に備えるのよ~」
「あ、おい! まったく話を聞かない連中なんだから……」

 一緒にいた生徒会のメンバーに取り残されたクリス様は、困った様に笑いながら、頭をかいていました。

「まあそういうわけで、行く所が無くなってしまった哀れな子羊に、旅の機会を与えてくれるかい?」
「もちろんです。いろんなものがあるので、世界が広がると思いますよ! ねっ、ジーク様!」
「ああ。俺も食ったが、興味深いものも多かった。さすが二大学園の交流祭に出店する連中の品は、レベルが違う」
「それじゃ、コロシアムの控室で食べようか。あそこなら静かに食べられるだろう」

 コロシアム……なんだかすごそうな響きですが、周りを見ても、そんな戦えそうな場所なんてどこにもありません。

 まさか、校舎を使って戦いを始めるとか無いですよね!? そんな事をしたら、校舎が吹っ飛んじゃいます!

「訓練施設の事を覚えているか?」
「石で飛ぶ奴ですか?」
「あれの応用で、巨大な魔法空間を作ったそうだ。そこは今来ている人間全員は余裕で入れる」
「す、凄い……!」
「ただ、大きさや観客の安全面を考慮したら、選手の安全面まで手が回らなくてね……怪我人は出るかもしれないね」
「全員それに関する書類にサインはしてるんだろ? なら問題は無い」

 巨大空間だったり、安全面だったり……よくわかりませんけど、凄くて大変なのは伝わりました!

「行き方だけど、入場者に配ったキーホルダーが鍵になっている。前にかざしてごらん」

 言われた通りにすると、私の前の空間が歪み、空間の裂け目が生まれました。

 言われた通りにやっただけなんですから、危険が無いのはわかってますけど……ちょっと怖いですね……。

「ここは……!」

 空間の裂け目を通ると、そこはさっきまで見ていた景色ではなく……巨大なコロシアムの前でした――

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