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第三話 そっけない婚約者
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「あ、エルミーユお姉様じゃないの。ちゃんと仕事は終えてきたの?」
「ええ、もちろん」
先に使用人と一緒に玄関に来ていたコレットは、つまらなさそうにフンッと鼻から息を漏らした。
ちゃんと仕事をしたのに、不満げな顔をされるのも、おかしな話だ。いつものことだけど。
「どうしてコレットがお出迎えを?」
「あたしも、今日のお茶会に呼ばれているからだよ。何も聞かされてないわけ?」
「ええ、何も聞かされておりませんわ」
「くすっ……そういえばそうだったね。エルミーユお姉様ってば、本当に可哀想~……あ、来た!」
ガタガタと音をたてながら馬車がやってくると、一人の男性が、爽やかな笑顔を浮かべながら馬車から降りてきた。
彼の名は、ヴィルイ・ジョレッド様。伯爵の爵位を持つジョレッド家の長男で、私の婚約者だ。
短く揃えたサラサラな金の髪と、甘いルックスが印象的な男性で、社交界の若い女性から絶大な人気がある。性格も温厚で、誰にでも分け隔てなく優しいお方だ。
とはいっても、なぜか最近は私に対してだけは、随分と冷たい態度を取っているのだけど……。
「お出迎えありがとうございます、ワーズ子爵家の皆様」
「ごきげんよう、ヴィルイ様。本日はお忙しい中お越しくださり、誠にありがとう存じます」
「んっ……ああ」
スカートの裾を軽く持って頭を下げると、ヴィルイ様はそっけない態度で挨拶を返した。
いや、そっけないを通り越して、関わりたくないという意思すら感じるのは、私の気のせいだろうか?
「ごきげんよう、ヴィルイ様! 今日もとても良い笑顔で、クラクラしちゃいそうです!」
「ははっ、ごきげんようコレット。今日も元気だね。僕のために茶会に参加してくれてありがとう」
「いいんですよ! ささっ、行きましょ!」
「そんな引っ張らなくても、僕は逃げないよ」
ヴィルイ様はコレットと一緒に、私を置いて屋敷の中に入っていった。
……いや、別にいいのだけど……明らかにその態度は、婚約者である私の前でするものじゃないと思うのだけど……?
****
「どうですかヴィルイ様、このケーキはあたしが厳選に厳選を重ねて選んだ一品なんです! はい、あーん!」
「あーん……うん、とてもおいしいよ。僕のために用意してくれるなんて、コレットはとても優しいね」
「そんなことないですよ~!」
私は屋敷の中庭で紅茶を飲みながら、目の前で繰り広げられる、二人の会話に溜息を漏らした。
私の知らない間に、この二人は随分と仲良くなったみたい。その仲の良さは、さながら新婚ほやほやの夫婦のようだ。
さっきも思ったが、私に冷たい態度を取るのはいいとしても、婚約者である私の前で、そんなやり取りを見せるのは、やはりおかしいだろう。
婚約者の私だって、食べさせあうだなんてしたことがない。それも、人前だなんてもってのほかだ。
それに、今日は私とヴィルイ様だけのお茶会の予定だったのに、どうしてコレットを呼んだのかも気になる。
「エルミーユ、どうしたんだ。そんなに僕達のことを見つめて。もしかして、嫉妬しているのかい?」
「嫉妬なんてしておりませんわ」
強がりでも何でもなく、嫉妬なんてこれっぽっちもしていない。
これが愛する人だったら、嫉妬の一つでもしていたかもしれないけど、私は彼のことを愛していないもの。
「ごめんなさい、エルミーユお姉様……あたしが無神経だったばっかりに、そんな強がらせちゃって……」
「だから私は……」
「そんなに謝る必要はないよ、コレット。君は何も悪くない。悪いのは、嫉妬をしたエルミーユなのだから」
そんなことを言われるようなことは、なにもしていない。どうして私が悪者扱いされるのか、全く理解できない。
「ヴィルイ様、そんなことを言わないで。たとえそうだとしても、大好きなお姉様を悪く言われたら、あたし悲しい……うぅっ……」
「コレット……」
コレットお得意の泣き真似にまんまと騙されてしまったヴィルイ様は、両手で顔を覆うコレットの肩を優しく抱いた。
相変わらずコレットは、人前だと猫を被っているわね。一度でいいから、家にいる時の姿を見せてあげたいわ。
「ところでヴィルイ様。本日は何か大切なお話があると伺っておるのですが」
「ああ、そうだった。今日の茶会は、君と大切な話をするつもりで開いたんだ。それと一緒に、聞きたいこともあってね」
「私に聞きたいことですか。それは構いませんが、どうしてコレットが同席しているのでしょうか? 大切なお話なら、二人きりの方がよろしいかと」
「いや、コレットにはここにいてもらう必要がある」
そう言うと、ヴィルイ様はコレットの肩を更に強く抱き寄せると、衝撃的な言葉を口にした。
「なぜなら、僕は君との婚約を破棄して、コレットと婚約することが、正式に決まったからだ」
「ええ、もちろん」
先に使用人と一緒に玄関に来ていたコレットは、つまらなさそうにフンッと鼻から息を漏らした。
ちゃんと仕事をしたのに、不満げな顔をされるのも、おかしな話だ。いつものことだけど。
「どうしてコレットがお出迎えを?」
「あたしも、今日のお茶会に呼ばれているからだよ。何も聞かされてないわけ?」
「ええ、何も聞かされておりませんわ」
「くすっ……そういえばそうだったね。エルミーユお姉様ってば、本当に可哀想~……あ、来た!」
ガタガタと音をたてながら馬車がやってくると、一人の男性が、爽やかな笑顔を浮かべながら馬車から降りてきた。
彼の名は、ヴィルイ・ジョレッド様。伯爵の爵位を持つジョレッド家の長男で、私の婚約者だ。
短く揃えたサラサラな金の髪と、甘いルックスが印象的な男性で、社交界の若い女性から絶大な人気がある。性格も温厚で、誰にでも分け隔てなく優しいお方だ。
とはいっても、なぜか最近は私に対してだけは、随分と冷たい態度を取っているのだけど……。
「お出迎えありがとうございます、ワーズ子爵家の皆様」
「ごきげんよう、ヴィルイ様。本日はお忙しい中お越しくださり、誠にありがとう存じます」
「んっ……ああ」
スカートの裾を軽く持って頭を下げると、ヴィルイ様はそっけない態度で挨拶を返した。
いや、そっけないを通り越して、関わりたくないという意思すら感じるのは、私の気のせいだろうか?
「ごきげんよう、ヴィルイ様! 今日もとても良い笑顔で、クラクラしちゃいそうです!」
「ははっ、ごきげんようコレット。今日も元気だね。僕のために茶会に参加してくれてありがとう」
「いいんですよ! ささっ、行きましょ!」
「そんな引っ張らなくても、僕は逃げないよ」
ヴィルイ様はコレットと一緒に、私を置いて屋敷の中に入っていった。
……いや、別にいいのだけど……明らかにその態度は、婚約者である私の前でするものじゃないと思うのだけど……?
****
「どうですかヴィルイ様、このケーキはあたしが厳選に厳選を重ねて選んだ一品なんです! はい、あーん!」
「あーん……うん、とてもおいしいよ。僕のために用意してくれるなんて、コレットはとても優しいね」
「そんなことないですよ~!」
私は屋敷の中庭で紅茶を飲みながら、目の前で繰り広げられる、二人の会話に溜息を漏らした。
私の知らない間に、この二人は随分と仲良くなったみたい。その仲の良さは、さながら新婚ほやほやの夫婦のようだ。
さっきも思ったが、私に冷たい態度を取るのはいいとしても、婚約者である私の前で、そんなやり取りを見せるのは、やはりおかしいだろう。
婚約者の私だって、食べさせあうだなんてしたことがない。それも、人前だなんてもってのほかだ。
それに、今日は私とヴィルイ様だけのお茶会の予定だったのに、どうしてコレットを呼んだのかも気になる。
「エルミーユ、どうしたんだ。そんなに僕達のことを見つめて。もしかして、嫉妬しているのかい?」
「嫉妬なんてしておりませんわ」
強がりでも何でもなく、嫉妬なんてこれっぽっちもしていない。
これが愛する人だったら、嫉妬の一つでもしていたかもしれないけど、私は彼のことを愛していないもの。
「ごめんなさい、エルミーユお姉様……あたしが無神経だったばっかりに、そんな強がらせちゃって……」
「だから私は……」
「そんなに謝る必要はないよ、コレット。君は何も悪くない。悪いのは、嫉妬をしたエルミーユなのだから」
そんなことを言われるようなことは、なにもしていない。どうして私が悪者扱いされるのか、全く理解できない。
「ヴィルイ様、そんなことを言わないで。たとえそうだとしても、大好きなお姉様を悪く言われたら、あたし悲しい……うぅっ……」
「コレット……」
コレットお得意の泣き真似にまんまと騙されてしまったヴィルイ様は、両手で顔を覆うコレットの肩を優しく抱いた。
相変わらずコレットは、人前だと猫を被っているわね。一度でいいから、家にいる時の姿を見せてあげたいわ。
「ところでヴィルイ様。本日は何か大切なお話があると伺っておるのですが」
「ああ、そうだった。今日の茶会は、君と大切な話をするつもりで開いたんだ。それと一緒に、聞きたいこともあってね」
「私に聞きたいことですか。それは構いませんが、どうしてコレットが同席しているのでしょうか? 大切なお話なら、二人きりの方がよろしいかと」
「いや、コレットにはここにいてもらう必要がある」
そう言うと、ヴィルイ様はコレットの肩を更に強く抱き寄せると、衝撃的な言葉を口にした。
「なぜなら、僕は君との婚約を破棄して、コレットと婚約することが、正式に決まったからだ」
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