【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜

ゆうき

文字の大きさ
5 / 56

第五話 呪われた頭脳

「失礼いたします!」

 お父様の書斎の前にやってくると、淑女としてはあるまじき行為と言われてもおかしくないくらい、扉を勢いよく開いた。

 中では、オールバックにした金髪と、口ひげを蓄えた勇ましい雰囲気が特徴的な男性――私の父であるレオナルド・ワーズが、書類仕事をしていた。
 その隣では、お義母様がサポートをしている。

「エルミーユ、何の用だ。貴様に構っている暇など無い。わかったらさっさと消えろ」
「あのっ! どうして私の婚約破棄と、コレットとヴィルイ様が改めて婚約するのを許したんですか!?」

 お父様の言葉なんて一切気にせずに近くまで行くと、お父様が仕事に使っている机をバンっと叩いた。

「どうして? はあ……あなたは本当に馬鹿ですのね。コレットが婚約者を探していて、エルミーユに婚約者がいるのを羨ましがっていたのは、あなたも知っているでしょう?」

 確かにコレットは、よく私に婚約者がいて羨ましい、自分も早く欲しいと言っていた。

 コレットにだって、婚約の話は来ていなかったわけじゃない。
 でも、やれ顔が好みじゃないとか、やれ年上は嫌だとか、ワガママを言って断り続けているのを、私は知っている。

「コレットは婚約者を欲しがっていた。中でも、特にヴィルイはとても優しく、顔立ちも整っているからか、婚約者としてヴィルイを求めた。私達は、コレットの望みを叶えるために、知恵と技術を提供した。それだけだ」

 ……今の話を聞いていると、ただコレットがヴィルイ様と婚約したいとワガママを言ったから、私から奪ったようにしか聞こえない。

「い、一体何をされたのですか?」
「大したことではない。コレットの怪我が本物に見えるように、舞台で特殊な化粧をしている人間を呼んだのと、貴様の母の真実……いや、嘘をほんの少しだけ、社交界にバラまいただけだ」

 そうか、見たことがない傷があったのも、お母様のことについての話も、お父様の案だったのね……コレットのワガママを聞く為だけに、そこまでするなんて信じられない。

「古くから付き合いがある家同士の婚約を破棄すれば、両家の関係に亀裂が走ってしまう問題もあったが、同じ家なら何も問題はなかろう」
「忌々しいエルミーユが嫁いで幸せになるよりも、愛するコレットが嫁いで幸せになった方が良いですものね」
「っ……! そんなの、納得できませんわ!」
「納得だと? 何を偉そうにしている、バケモノめ。言葉を慎まんか。貴様は我々の言うことを素直に聞いていれば良いのだ! それとも、また罰を与えられたいか!」

 怒鳴られた私の脳裏に、昔の記憶がいくつも蘇る。

 あれはまだ三歳の頃。確か四月の九日だったかしら。
 春の陽気で、庭のチューリップが咲いたことに喜んでいた私に、騒がしいと叱られ、その日の食事を抜かれた。

 同年の七月の二十日。
 夏の陽気で暑苦しかった昼過ぎに、私の人形をコレットに取られてしまい、そのことでコレットに怒ったら、姉なんだから我慢しろと、お父様にきつく叱られた。

 更に時は過ぎ、同年の十月の三日。
 庭にたまに遊びにきていた猫に、こっそり餌を与えていたのだが、それがお義母様に見つかってしまい、猫を殺処分された。そのことを悲しんでいたら、私が悪いのに泣きわめくなと叩かれた。

 他にも、年が明けて一月の十四日。
 その年の初雪に感動して、庭で楽しく遊んでいたら、仕事の邪魔だから騒ぐなと叱られ、罰として寒い倉庫の中に一晩閉じ込められた。

 他にも数えきれないくらい、色々と酷いことをされてきたが、とにかく私は幼い頃から、感情を表に出すと叱られ、もっと令嬢らしく振舞えと言われる生活を送ってきた。

 ……赤ん坊の時の記憶もだけど、こんなに細かい日にちや、内容まで完璧に覚えているなんて、執念深い人間だと思われるかもしれない。
 でも、私だってこんな嫌な思い出を覚えていたくないし、思い出したくもない。
 忘れたくても……どう頑張っても、忘れられない。私の頭が、忘れるということを許さない。

 これが私が家で虐げられる、もう一つの理由。
 実は私は、生まれた時から異常といっても良いくらい、記憶力が良い。
 見たものを瞬時に覚え、一生忘れることが出来ない。もはや呪いといってもいいくらいだ。

 そんな頭があるせいで、私は社交界での作法やマナー以外の教育を、一切受けさせてもらえてない。
 お父様曰く、勉強をして変な知識を付けられたら困るとのことらしい。

 それでも私は勉強がしたくて、一度隠れて勉強をしようとしたことがあるのだけど、すぐに見つかって、酷い罰を与えられたことがある。

「それでは、私は一体どうすれば……!」
「知らん」
「そんな無責任な……」
「無責任? ここまで責任をもって育てた親に向かって、その口のきき方はなんだ。とにかく、もう決定は覆らない。わかったら、部屋で大人しくしていろ」
「…………」
「なにを突っ立っている。おい、エルミーユを部屋に連れて行け」
「かしこまりました」

 呆然と立ち尽くしていると、部屋の中にいた使用人に引っ張られて、部屋を追い出されると、屋敷の裏にある小屋に押し込まれた。

 この小屋は、私が寝泊まりをしている場所だ。
 家具はボロボロで、壁や屋根には穴が開き、床の一部は腐ってしまっている。

「……どうして、こんなことに……」

 私は、ベッドの上に置かれた、汚れてきっているクマのぬいぐるみを、ギュッと抱きしめる。

 このぬいぐるみは、お母様が亡くなった時に、手紙と一緒に持っていたものだ。
 どうしてこんなものを持っていたのかわからないけど、これはお母様からのプレゼントだと思っていて、今も大切にしているの。

「やっと結婚して、この地獄から逃げられると思っていたのに……お母様、私……私……」

 私のつぶやきと共に、強く抱きかかえられたぬいぐるみに、悲しみと絶望の雫がぽたりと落ちた――

あなたにおすすめの小説

妹の身代わりの花嫁は公爵様に溺愛される。

光子
恋愛
  お母様が亡くなってからの私、《セルフィ=ローズリカ》の人生は、最低なものだった。 お父様も、後妻としてやってきたお義母様も義妹も、私を家族として扱わず、家族の邪魔者だと邪険に扱った。 本邸から離れた場所に建てられた陳腐な小さな小屋、一日一食だけ運ばれる質素な食事、使用人すらも着ないようなつぎはぎだらけのボロボロの服。 ローズリカ子爵家の娘とは思えない扱い。 「お義姉様って、誰からも愛されないのね、可哀想」 義妹である《リシャル》の言葉は、正しかった。   「冷酷非情、血の公爵様――――お義姉様にピッタリの婚約者様ね」 家同士が決めた、愛のない結婚。 貴族令嬢として産まれた以上、愛のない結婚をすることも覚悟はしていた。どんな相手が婚約者でも構わない、どうせ、ここにいても、嫁いでも、酷い扱いをされるのは変わらない。 だけど、私はもう、貴女達を家族とは思えなくなった。 「お前の存在価値など、可愛い妹の身代わりの花嫁になるくらいしか無いだろう! そのために家族の邪魔者であるお前を、この家に置いてやっているんだ!」 お父様の娘はリシャルだけなの? 私は? 私も、お父様の娘では無いの? 私はただリシャルの身代わりの花嫁として、お父様の娘でいたの? そんなの嫌、それなら私ももう、貴方達を家族と思わない、家族をやめる! リシャルの身代わりの花嫁になるなんて、嫌! 死んでも嫌! 私はこのまま、お父様達の望み通り義妹の身代わりの花嫁になって、不幸になるしかない。そう思うと、絶望だった。 「――俺の婚約者に随分、酷い扱いをしているようだな、ローズリカ子爵」 でも何故か、冷酷非情、血の公爵と呼ばれる《アクト=インテレクト》様、今まで一度も顔も見に来たことがない婚約者様は、私を救いに来てくれた。 「どうぞ、俺の婚約者である立場を有効活用して下さい。セルフィは俺の、未来のインテレクト公爵夫人なのですから」 この日から、私の立場は全く違うものになった。 私は、アクト様の婚約者――――妹の身代わりの花嫁は、婚約者様に溺愛される。 不定期更新。 この作品は私の考えた世界の話です。魔法あり。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。 だが彼に溺愛され家は再興。 見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。

秘密の多い令嬢は幸せになりたい

完菜
恋愛
前髪で瞳を隠して暮らす少女は、子爵家の長女でキャスティナ・クラーク・エジャートンと言う。少女の実の母は、7歳の時に亡くなり、父親が再婚すると生活が一変する。義母に存在を否定され貴族令嬢としての生活をさせてもらえない。そんなある日、ある夜会で素敵な出逢いを果たす。そこで出会った侯爵家の子息に、新しい生活を与えられる。新しい生活で出会った人々に導かれながら、努力と前向きな性格で、自分の居場所を作り上げて行く。そして、少女には秘密がある。幻の魔法と呼ばれる、癒し系魔法が使えるのだ。その魔法を使ってしまう事で、国を揺るがす事件に巻き込まれて行く。 完結が確定しています。全105話。

地味令嬢の私が婚約破棄された結果、なぜか最強王子に溺愛されてます

白米
恋愛
侯爵家の三女・ミレイアは、控えめで目立たない“地味令嬢”。 特に取り柄もなく、華やかな社交界ではいつも壁の花。だが幼いころに交わされた約束で、彼女は王弟・レオンハルト殿下との婚約者となっていた。 だがある日、突然の婚約破棄通告――。 「やはり君とは釣り合わない」 そう言い放ったのは、表向きには完璧な王弟殿下。そしてその横には、社交界の華と呼ばれる公爵令嬢の姿が。 悲しみも怒りも感じる間もなく、あっさりと手放されたミレイア。 しかしその瞬間を見ていたのが、王家随一の武闘派にして“最強”と噂される第一王子・ユリウスだった。 「……くだらん。お前を手放すなんて、あいつは見る目がないな」 「よければ、俺が貰ってやろうか?」 冗談かと思いきや、なぜか本気のご様子!? 次の日には「俺の婚約者として紹介する」と言われ、さらには 「笑った顔が見たい」「他の男の前で泣くな」 ――溺愛モードが止まらない!

【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?

雨宮羽那
恋愛
 元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。 ◇◇◇◇  名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。  自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。    運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!  なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!? ◇◇◇◇ お気に入り登録、エールありがとうございます♡ ※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。 ※「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」様にも掲載しております。 ※小説内容にはAI不使用です。 ※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!

aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。 そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。 それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。 淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。 古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。 知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。 これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。

妹の身代わりに殺戮の王太子に嫁がされた忌み子王女、実は妖精の愛し子でした。嫁ぎ先でじゃがいもを育てていたら、殿下の溺愛が始まりました・長編版

まほりろ
恋愛
 国王の愛人の娘であるアリアベルタは、母親の死後、王宮内で放置されていた。  食事は一日に一回、カビたパンやまふ腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。  しかしアリアベルタはそれでもなんとか暮らしていた。  アリアベルタの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。  その妖精はアリアベルタに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。  ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたアリアベルタは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。 ※中編を大幅に改稿し、長編化しました。2025年1月20日 ※長編版と差し替えました。2025年7月2日 ※コミカライズ化が決定しました。商業化した際はアルファポリス版は非公開に致します。 ※表紙イラストは猫様からお借りしています。