【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜

ゆうき

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第三十五話 緊張の夜

 結局ブラハルト様の部屋で過ごすことになった私は、暗闇の中で、一人で寝るにはあまりにも大きすぎるベッドに横になりながら、緊張で胸を高鳴らせていた。

 今日から、私はブラハルト様と一緒に寝る……うぅ、考えるだけで体が熱くなりすぎて、燃えてしまいそうだ。

 ブラハルト様のことだから、何も言わずに手を出してくるなんてことはしないと思うけど……やっぱり変に緊張してしまう。

「…………」

 まだ仕事をするブラハルト様に背を向けていた私は、顔だけ動かしてブラハルト様の様子を伺う。

 私が眠れるように暗くした部屋の中、小さなランプの明かりだけを頼りに仕事をするブラハルト様の姿は、美しくも少し儚い雰囲気が漂っていた。

 本当は、ブラハルト様が休むまで、私も休むつもりはなかったのだけど、良いから先に休めとブラハルト様に強めに言われたから、こうして先に休ませてもらっている。

「よし、区切りも良いし今日は休むか……」
「っ……!」

 ブラハルト様は体を大きく伸ばすと、クローゼットから着替えを出して寝間着に着替える。

 あ、危なかった……いくら暗いとはいえ、ランプの明かりはあるから、着替えているところはぼんやりと見えてしまう。
 だから、急いで目を瞑ったのだけど……完全な暗闇となった向こうで、布の擦れる音だけが聞こえるという状況は、私の緊張感を更に高めてきた。

「ふぅ……」
「…………」

 布の擦れる音が止むと同時に、ブラハルト様の息遣いが聞こえてきた。それと同時に、ブラハルト様の気配が私に近づいてきた。

 きっと今頃、私の隣にブラハルト様が寝に来るのね。き、緊張しすぎて口から色々なものが出そう……。
 そんなことを思っていると、肩の下までしかかかっていなかった掛け布団が、顔の近くにまでかけ直された。

「これで寒くないだろう。おやすみ、エルミーユ」

 私の頭を優しく撫でながら、静かにそう言ったブラハルト様は、布団ではなくてソファに寝転んだ。

 ちょ、ちょっと待って。どうしてベッドに寝ないの? 確かに床は駄目だと言ったけど、だからといってソファなら良いとも言っていない。
 起きていたことがバレてしまうけど、ブラハルト様が体調を崩す方が嫌だ。

「……ブラハルト様、ちゃんとベッドでお休みください」
「やはり起きていたのか」

 都合よくランプが消し忘れられていたおかげで、あまり音を立てずにブラハルト様の所に向かうが、寝転がっているブラハルト様とバッチリ目があってしまった。

 ……ブラハルト様には、私が起きていたことはバレバレだったようね。
 それに、こうして私がベッドに連れていこうとすることも。
 だから、私が来やすいようにランプを消さずにおいたのね。

「はい……緊張して眠れなくて」
「そうだろうな。なにせ、いきなりこんなことになってしまったんだからな。俺のことは気にせずに休むと良い」
「それは駄目ですわ。ブラハルト様はお仕事でお疲れなのですから、ちゃんとした所で休みませんと。あ、そうですわ。代わりに私が――」
「却下」

 私がソファで寝ると提案しようと思ったのに、少しムッとした顔のブラハルト様に、即座に止められてしまった。

「まだ言い終わってないのですが……」
「私が代わりに……とか言うつもりだったんだろう? そんなことは、絶対に許可できない」
「凄いですね、どうしてお分かりになられるのですか?」
「愛する妻のことがわからなくてどうする?」
「っ……」

 いきなりそんなことを言うのは、ズルいと思う。思わず声になっていない声が漏れ出てしまったわ。

「と、とにかくベッドでちゃんと寝てくれないと、ブラハルト様のことを嫌いになっちゃいます」
「そんなことを言うなら、俺だってエルミーユが変な所で寝たら、嫌いになる」
「…………」
「…………」

 本気ではないとはわかっていても、嫌いになるだなんて言われたら、もう私達に選択肢はなかった……結局、二人揃って仲良く同じベッドで、仰向けに寝転がった。

「誰かと一緒に寝るなんて、幼い頃に母にしてもらって以来だから、なんだか不思議な感じだ」
「そうなのですね。私は……誰かと一緒に寝たことがないので……」
「あっ……すまない、無神経なことを言ってしまった」
「お気になさらないでください。経験が無いからこそ、この温もりがとても心地よくて……嬉しく思ってたのです」

 元々は、ただの政略結婚としてここに嫁いできたから、まさかこんなふうに結ばれることも、一緒に寝ることも……そして、心の底から幸せになれるなんて、考えてもいなかった。

「一人で寝るなんて、寂しかっただろう?」
「慣れてしまえば、どうってことはありませんわ。ただ……まだ幼い頃、一人で眠ろうとしていた時に……どうして私は虐められるのか、どうしてお母様と一緒にいさせてくれなかったのか、どうして幸せになれないのか……理由は当時から知ってましたが……納得できなくて。ずっと泣いていたこともありました」

 こんな重い話をしたら、きっと困らせてしまうのはわかってるけど、こういうこともブラハルト様に知ってほしいと思って、つい……。

「俺には、君の過去を聞くことは出来ても、つらくて冷たい過去を変えたりは出来ない。だが、これからを暖かく幸せな未来には出来る」

 私にそう言うと、ブラハルト様は私の手をそって握ってきた。

 突然のことだったから、驚いてしまったけど……その温もりやブラハルト様の優しさが伝わってきて、胸の奥が暖かい気持ちでいっぱいになった。

「君はもう一人じゃない。俺やマリーヌ、屋敷のみんながいる。それに、彼もいるだろう?」

 ブラハルト様の視線の先には、直してくれたクマのぬいぐるみが、いつもと同じにこやかな顔で、枕元に置かれていた。

「ありがとう存じます、ブラハルト様。私は……あなたのおかげで、本当に幸せになれました」
「俺だって、君のおかげでかけがえのない人に出会えた。本当に感謝しているよ」

 ブラハルト様は、私に体を向ける。私もそれにつられて体を向けると、互いにそっと寄り添った。
 そして……そのままブラハルトは、私のおでこにキスをした。

「あっ……」
「今日はここまでな。これ以上は、エルミーユも俺も、ドキドキしすぎて寝れなくなってしまう」

 気遣ってくれるのは嬉しいけど、もうすでにドキドキしすぎて眠れる気がしない。

 結局その後、私は外から朝日が差し込んでくる時間になっても、一睡もすることが出来なかった。

 あ、明日こそはちゃんと眠れますように……。

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