【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜

ゆうき

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第五十四話 ごきげんよう

「あはははははっ! 未来のお嫁さんのついでくれた酒を飲むのは、なんて格別なんだ~!」

 食事を始めて約一時間後。すっかり出来上がって上機嫌なエドガー様は、私がグラスについだワインを一気に飲み干すと、楽しそうに笑った。
 お父様とお義母様も、相当お酒が回っているようで、顔が随分と赤くなっている。

 実は、お店の人に事前にお願いして、私以外に出された食事や飲み物には、シュムゲ様が用意した自白剤が入っている。
 それに加えて、出されたワインもかなりアルコールの度数が高いものを用意してもらっている。

「ちょっとエルミーユお姉様! エドガー様にお酌をするのは、あたしの役目なんだから!」
「駄目ですわ。これは未来の妻である、私の役目ですの」
「あ~ん、ボクちんのために争わないで~!」

 私達が絡んでいるのが気に食わなくて怒るコレットに、クネクネと動きながら女性のような声色で話すエドガー様……なにこの地獄絵図は……強烈過ぎて、一瞬意識が遠くなったわ……。

 このままでは、大嫌いな家族やエドガー様と一緒にいるストレスで、本当に意識を失くしてしまいそうだから、そろそろ本題に入るとしよう。

「そうだ、結婚をする前に、一つエドガー様にお聞きしたいことがありまして」
「なになに~? 君のためなら、なんだって答えちゃうよ~!」
「イリチェ村の橋を壊させたのって、エドガー様やお父様達なんですの?」
「なんだい、そんなことぉ? そうだよ~! ボクがワーズ家やシュムゲと手を組んでやらせたことだよ! 彼に橋をどっかーん! てね」
「え、それ言っちゃっていいの~?」

 エドガー様の暴露に驚いたコレットは、少し心配そうな顔をするが、エドガー様はそんなことなど一切気にせず、ケラケラと笑い続ける。

「だいじょ~ぶだって! コレットちゃんは心配性なんだから~。ほら、もう終わったことだしぃ? それに、エルミーユはこんなボクでも愛してくれるし!」
「はい、それはもちろん」

 ……ここまで自意識過剰だと、むしろ尊敬の念すら抱いてしまいそうだわ。どうすればこんな性格になれるのか、ちょっと興味がある。

「それでは、浮気の噂も、私達を襲撃したのも?」
「全部、ぜ~んぶボク達さ! あ、実際にやってくれたのは、ボクの大親友のシュムゲ君だけどね!」

 やっぱり、シュムゲ様が言っていたことは正しかったのね。この調子で、言質を取らせてもらおう。

「まあ、全部でしたの!? どうしてそんなことを?」
「単なる復讐みたいな? ワーズ家の人達も、君が幸せになるのはヤダ! ってことで、利害が一致しちゃってさ! 持つべきものは古い知人だよねぇ~」
「ふん、あなたが私達を脅してやらせたくせに、偉そうにものを言わないで頂戴!」
「それは言わないお約束でしょう! それに、あなた達もこの結果には満足でしょう?」
「……それは確かにそうですわね。エルミーユが幸せになるなんて、考えるだけで虫唾が走りますわ」

 いくら酒と薬の効果があるとはいえ、本人の前で堂々と言う内容ではないと思うわ。
 まあ、こんな言葉で一々傷ついていたら、ワーズ家で生活なんて出来やしないけどね。

「だが、我々は貴様のことを認めたわけではない」
「そ、そんなぁ~! ボクちん悲しいっ!」
「お父様もお母様も、愛しのエドガー様をいじめちゃ駄目だよ!」

 それにしても、お父様とお義母様の、エドガー様に対する評価が、先程と比べて随分と変わってきているわね。古い知人設定はどこにいったのかしら。
 これも、お酒と自白剤の影響で、隠していた気持ちが出てきたのだろう。

「あははっ、まあ色々あったけどさ、今度はちゃんとボクが守るからさ。だから安心してボクのものになってよ」
「いえ、結構です」
「えぇっ!? そんなイジワル言わないでさぁ~!」
「だって……」

 私はそこで言葉を切ると、右手スッと上げる。すると、部屋の外がドタドタと騒がしくなってきた。
 それから間もなく、多くの人達が部屋の中に入ってきた。
 そこに立っていたのは……ルミス様率いる騎士団と、ブラハルト様、そしてシュムゲ様だ

「はぁ!? き、騎士団だって!? どうしてこんな所にいるんだ!?」
「わわっ何が起こってるの~!? エドガー様、助けて!」
「そんなの知るか!」

 突然現れたルミス様やシュムゲ様の登場で、混乱しているのだろう。エドガー様の表情から、余裕が無くなってきた。

 そんな状態で、私はブラハルト様の元に駆け寄ると、そのまま強く抱きしめ合った。

「よく頑張ったね、エルミーユ。無事に言質は取れたよ」
「は? なんでお前らが仲良くしてんの!? 別れたんじゃないのかよ!!」
「別れてもいませんし、あなたのような最低な男と結婚なんて、死んでもお断りですわ」

 エドガー様は、私に怒った時と同じく、気に入らないことが起きたストレスで顔を歪ませてから、ターゲットを私からシュムゲ様に変える。

「そこの底辺ドブネズミ野郎、どうしてそっちにいる!? 裏切ったのか!? ちゃんと望んだ分の金は払っただろう!?」
「随分な言いようだな、勘違いナルシスト。てめえよりも、こいつはもっと多額の金を払ったから、こっちについただけだ」
「はぁ!? 金を貰ったからって、仕事の依頼人であるボクを裏切るなんて、馬鹿じゃないのか!?」
「ふん、良い面するじゃねか。いつもの飄々とした態度はどこいった?」
「っ……!」
「所詮てめえは、貴族上がりの甘ちゃんよ。俺のような闇の世界の住人を、もっと警戒するべきだったな」

 激昂していつもの調子を完全に崩すエドガー様とは対照的に、見下すように鼻を鳴らすシュムゲ様という光景は、本当につい最近まで手を組んでいた方々とは思えない。

「兄上、あなたの負けです」
「負け……? ふざけんじゃねえよ……ボクが負けるだなんて、ありえない……ありえない! ありえねぇぇぇぇぇぇぇ!?!? ふざけんな、このゴミ共が! こんな所で終わるくらいなら、お前らも道連れにしてやる!!」
「っ……!?」
「まずはお前からだ、エルミーユぅぅぅぅ!!!!」

 エドガー様は、狂気を感じさせる表情を浮かべながら、懐からナイフを取り出して、突進してきた。その狙いは……私だった。

 だが、それを予測していたのか、ブラハルト様はエドガー様の懐に入り、その拳を顔の真ん中に深々とめり込ませた。

「うがっ……!? い、痛い……痛いよぉぉぉぉ!! ブラハルト、お前……! 世界でただ一人の兄に向かって、何をするんだ!? ボクの美しい顔に傷が付いたら、どうしてくれる!?」
「うるさい。これ以上喚き散らして、エルミーユを不快にさせるな」
「不快なのはこっち――」
「うるさい」
「うごっ……や、やめろと――」
「うるさい」

 口答えをするエドガー様の顔に、再び拳がめり込む。その後も、数回ほど何か言おうとしていたが、全てブラハルト様の拳によって強制的に黙らされた。

 いつも優しくて穏やかブラハルト様が、こんな攻撃的になるのは、初めて見る。
 これほどまでに怒り狂うほど、今までエドガー様に対して積もりに積もったものがあったのだろう。
 その感情が、エドガー様が私に襲い掛かって来たことで、爆発したのね。

「…………」
「やっと静かになったな。すまない、エルミーユ。嫌なものを見せてしまった」
「いえ。守ってくれてありがとう存じます」
「ルミス殿、またなにをするかわからないので、早く彼らの拘束を」
「おう! 全員、かかれー!」

 ルミス様の号令の元、騎士団の方々はお父様達を拘束し、逃げられなくしてしまった。

「我々騎士団が、しっかりとあなた方の自白を聞かせていただきました。さあ、一緒に来ていただきますよ」
「ふざけないでちょうだい! 私達を誰だと思っているの!?」
「全ての元凶はその男だ! 我々は利用されていただけだ! だから早く拘束を解け!」

 利用されていた……ね。確かにエドガー様に脅されて始めたことではあったのだろうけど、私が幸せになるのが気に食わなくて、協力していたくせに、よく言うわ。

「ちょっとエルミーユお姉様、助けてよぉ!! あたし達、家族でしょ!? たくさん一緒に遊んだじゃん!」

 遊んだ? 遊びと称して、私のことをいじめていただけよね? 嫌がることを言っていただけよね?

「そうですわよ! 今こそ、育ててもらった恩を返す時ですわよ!」

 育てた恩? 私のことを目の敵にして虐げ、育児なんてコレットのことしかしていないのに、どうやって恩を感じ、返せばいいの?

「ここで見捨てたら、きっと貴様の母も悲しむぞ」

 私のお母様……お父様の勝手で孕まされ、それでも私を産んでくれて、愛そうとしてくれたのに、お父様に酷い扱いを受けて……ほとんど私と会えずに亡くなったお母様。
 とても優しいお方だったから、こんなことをしたら悲しむかもしれないけど……相手は酷いことをしてきた方々だから……見捨てても、きっと悲しまないわよね。

「今回は丁度良い機会ですので、今まで私を散々虐げてきたことや、お母様にしてきた仕打ち……その他諸々を、今回の件と一緒に公表させていただくつもりです。ですので……どうか、素直に破滅してくださいまし」
「え、エルミーユ、貴様ぁ……!! もしそんなことをしたら、どうなるかわかっているのか!?」

「わかっておりますわ。でも、今の私には恐るるに足りません。なぜなら、もう破滅の一途しかない家に出来ることなど、たかが知れてますもの」
「仮にあなた方に何かできたとしても、我々アルスター家は、どんなことにも屈することはありません」
「くっ……!」
「ではごきげんよう、お父様、お母様、コレット。最初から最後まで、あなた達のことは大嫌いでしたわ」

 その言葉を最後に、私は彼らに背を向けて、レストランを後にした。

 これで……本当に、やっと家族との因縁に決着がついたのね……。

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