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第八話 絶体絶命
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「……はぁ」
森に入って三日目の朝。私は大きな木を背にして座り込みながら、大きく溜息を漏らした。
もっと早く抜けられると思っていたのだけど、森は想像以上に広かった。それに加えて、ずっと離宮で薬を作っていたことによる体力と筋力の低さも相まって、思うように進めない。
こんなことになるなら、もっと体を鍛えておけばよかった。でも、日に日に薬のノルマが増えていたから、体をしっかりと鍛えられるほどの時間を確保するのは、あまり現実的ではなかった。
「休んでても仕方がないわね。少しでも進まないと」
私は土で汚れた足に、やや無理やり力を入れて立ち上がると、奥に向かって進んで行く。
進むといっても、こっちで合っているかの保証はない。なにせ、町がある方角なんてわからないし、その方角自体も知る方法がない。
「あ、この野草……たしか一応食べられるはずだわ……」
進む途中、薬を作る時に使う野草を見つけた私は、そのまま野草に噛り付いた。苦くておいしくないけど、栄養価は結構高かったと記憶している。
「この真っ赤な果実も、おいしくはないけど、水分が豊富に入ってたはず。この木の実は……毒があるからダメ。この紫色のキノコ……うん、明らかに毒っぽい」
今まで勉強した薬の知識を活かして、食べられるものを選別して集めていく。これが出来るおかげで、三日も生き延びられていると言っても過言ではない。
ちなみにだけど、ハウレウから貰った食べ物や水は、もう無くなってしまっている。
「……あっ! あそこに見えるのは……リンゴだわ!」
食料を探しながら進んでいると、リンゴの木が群生している場所を見つけた。まだ青いのもあったけど、半分くらいは赤く熟していて、とてもおいしそうだ。
いくつかいただいていけば、しばらくの間は食料に困ら無さそうだ。筋力が無いから、たくさんは持っていけないのが悔やまれるけど、仕方がない。
「それじゃあありがたく……あれ?」
あともう少しでリンゴの木に到着というところで、何かがリンゴの木の上にいるのを見つけた。
そこにいたのは……真っ白な体に、顔に赤い模様が入っている猿だった。
「も、もしかして……アカジサル? もうほとんど見かけない珍しい猿のはずなのに、こんな森の中に生き残りがいたの?」
アカジサルは、元々真っ白な体毛の猿だけど、雌へアピールするために、赤い果実を潰して得た果汁を顔に塗る習性がある。それが文字に見えるからアカジサルと呼ばれている。
見た目は白くて綺麗な猿だけど、彼らはとある理由で、とても危険な動物として、駆除されたと聞いたことがある。
「まだ生き残りがいたことは驚きね……絡まれる前にここを立ち去ろう」
「…………」
「き、気づかれた……?」
立ち去る前に、アカジサル達と視線がぶつかってしまった。まだ敵と認識はされてないのか、ジッと見てくるだけで、襲ってくる気配は無い。
このままゆっくりと後ろに下がっていけば、敵意が無いと思ってもらえるだろう。そう考えて後ずさりをしていると、少し太めの枝を踏んでしまった。
枝なんて、踏めば当然折れてしまう。その音が思ったよりも大きかったせいか、アカジサルは甲高い鳴き声を上げながら、私に向かって一直線に向かってきた。
「きゃあ!? に、逃げなきゃ!!」
私はスカートの裾が木の枝に引っ掛からないように持ちながら、全速力で逃げる。
彼らには絶対に捕まってはいけない。それどころか、引っかかれたり噛まれたりしてもいけない。それがわかっている私は、とにかく全速力で走った。
「はぁ……はぁ……あっ!!」
元々体力がないうえに、慣れない外の生活による疲労もあってか、私は足をもつれさせて転んでしまった。
このままだと、私は彼らに殺されてしまう。しかし、逃げたくても疲労で体が思うように動いてくれない。
ここまでなのだろうか。せっかくハウレウ達が私を逃がして、自由にしてくれたのに、彼らの努力と好意を無駄にするというの?
……そんなの、嫌だ!!
「最後の最後まで、あがいてやる! すうぅぅぅぅ……あぁぁぁぁぁぁ!!!!」
体は動かない。戦う力もない。そんな私に思いついたことは、大声を出してアカジサル達を驚かして追い払うことだった。
これがうまくいくかなんて保証は無い。むしろ、彼らを余計に興奮させてしまうだけかもしれない。それでも、黙ってやられるよりかは、幾分良いと思う。
「……キー!!」
「っ……!」
一瞬だけ怯んでくれたけど、結局逃げださなかったアカジサル達は、私の顔を丸呑みにしようと、大きく口を開けながら飛びついてきた。
これは、もうダメだ……そう思った瞬間、私に噛みつこうとしていたアカジサルの顔に、どこからか飛んできた大きな石が直撃した。
「い、今のは……」
驚いたのは私だけじゃなかった。彼らもどこから攻撃されたのか分からず、辺りを警戒している。
一体誰なの? 私を助けてくれたけど、まだ味方かどうかわからないし、油断は絶対にしてはいけない……そう思っていると、草陰から人影が飛び出してきた。
森に入って三日目の朝。私は大きな木を背にして座り込みながら、大きく溜息を漏らした。
もっと早く抜けられると思っていたのだけど、森は想像以上に広かった。それに加えて、ずっと離宮で薬を作っていたことによる体力と筋力の低さも相まって、思うように進めない。
こんなことになるなら、もっと体を鍛えておけばよかった。でも、日に日に薬のノルマが増えていたから、体をしっかりと鍛えられるほどの時間を確保するのは、あまり現実的ではなかった。
「休んでても仕方がないわね。少しでも進まないと」
私は土で汚れた足に、やや無理やり力を入れて立ち上がると、奥に向かって進んで行く。
進むといっても、こっちで合っているかの保証はない。なにせ、町がある方角なんてわからないし、その方角自体も知る方法がない。
「あ、この野草……たしか一応食べられるはずだわ……」
進む途中、薬を作る時に使う野草を見つけた私は、そのまま野草に噛り付いた。苦くておいしくないけど、栄養価は結構高かったと記憶している。
「この真っ赤な果実も、おいしくはないけど、水分が豊富に入ってたはず。この木の実は……毒があるからダメ。この紫色のキノコ……うん、明らかに毒っぽい」
今まで勉強した薬の知識を活かして、食べられるものを選別して集めていく。これが出来るおかげで、三日も生き延びられていると言っても過言ではない。
ちなみにだけど、ハウレウから貰った食べ物や水は、もう無くなってしまっている。
「……あっ! あそこに見えるのは……リンゴだわ!」
食料を探しながら進んでいると、リンゴの木が群生している場所を見つけた。まだ青いのもあったけど、半分くらいは赤く熟していて、とてもおいしそうだ。
いくつかいただいていけば、しばらくの間は食料に困ら無さそうだ。筋力が無いから、たくさんは持っていけないのが悔やまれるけど、仕方がない。
「それじゃあありがたく……あれ?」
あともう少しでリンゴの木に到着というところで、何かがリンゴの木の上にいるのを見つけた。
そこにいたのは……真っ白な体に、顔に赤い模様が入っている猿だった。
「も、もしかして……アカジサル? もうほとんど見かけない珍しい猿のはずなのに、こんな森の中に生き残りがいたの?」
アカジサルは、元々真っ白な体毛の猿だけど、雌へアピールするために、赤い果実を潰して得た果汁を顔に塗る習性がある。それが文字に見えるからアカジサルと呼ばれている。
見た目は白くて綺麗な猿だけど、彼らはとある理由で、とても危険な動物として、駆除されたと聞いたことがある。
「まだ生き残りがいたことは驚きね……絡まれる前にここを立ち去ろう」
「…………」
「き、気づかれた……?」
立ち去る前に、アカジサル達と視線がぶつかってしまった。まだ敵と認識はされてないのか、ジッと見てくるだけで、襲ってくる気配は無い。
このままゆっくりと後ろに下がっていけば、敵意が無いと思ってもらえるだろう。そう考えて後ずさりをしていると、少し太めの枝を踏んでしまった。
枝なんて、踏めば当然折れてしまう。その音が思ったよりも大きかったせいか、アカジサルは甲高い鳴き声を上げながら、私に向かって一直線に向かってきた。
「きゃあ!? に、逃げなきゃ!!」
私はスカートの裾が木の枝に引っ掛からないように持ちながら、全速力で逃げる。
彼らには絶対に捕まってはいけない。それどころか、引っかかれたり噛まれたりしてもいけない。それがわかっている私は、とにかく全速力で走った。
「はぁ……はぁ……あっ!!」
元々体力がないうえに、慣れない外の生活による疲労もあってか、私は足をもつれさせて転んでしまった。
このままだと、私は彼らに殺されてしまう。しかし、逃げたくても疲労で体が思うように動いてくれない。
ここまでなのだろうか。せっかくハウレウ達が私を逃がして、自由にしてくれたのに、彼らの努力と好意を無駄にするというの?
……そんなの、嫌だ!!
「最後の最後まで、あがいてやる! すうぅぅぅぅ……あぁぁぁぁぁぁ!!!!」
体は動かない。戦う力もない。そんな私に思いついたことは、大声を出してアカジサル達を驚かして追い払うことだった。
これがうまくいくかなんて保証は無い。むしろ、彼らを余計に興奮させてしまうだけかもしれない。それでも、黙ってやられるよりかは、幾分良いと思う。
「……キー!!」
「っ……!」
一瞬だけ怯んでくれたけど、結局逃げださなかったアカジサル達は、私の顔を丸呑みにしようと、大きく口を開けながら飛びついてきた。
これは、もうダメだ……そう思った瞬間、私に噛みつこうとしていたアカジサルの顔に、どこからか飛んできた大きな石が直撃した。
「い、今のは……」
驚いたのは私だけじゃなかった。彼らもどこから攻撃されたのか分からず、辺りを警戒している。
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