【完結済】婚約者の王子に浮気されていた聖女です。王子の罪を告発したら婚約破棄をされたので、外で薬師として自由に生きます!

ゆうき

文字の大きさ
14 / 115

第十四話 完治

しおりを挟む
 薬作りに没頭していたら、外はいつの間にか日が落ちて暗くなり始めていた。

 私ってば、随分と集中して薬を作っていたみたいだ。おかげでたくさん薬は出来たけど、同時に強い空腹感にも襲われた。

 そういえば、今朝においしくない野草を食べたっきり、何も口にしていなかった。それじゃあお腹がすくのも当然だわ。

「とりあえず薬は出来たから、オーウェン様に渡したら食料を探しに行こうかしら」
「え、エリンさん!!」
「オーウェン様、丁度今そっちに行こうと……そんなに慌てて、どうしたんですか?」

 まるで私が行こうとしたタイミングを見計らっていたかのように、オーウェン様は凄い勢いで階段を上がってきた。

「ココが、ココが……」
「ココ様がどうかしたんですか!?」
「目を覚ましたんです!」
「えっ……本当ですか!?」

 もしかして、ココ様の容体が急変したのかと思ったけど、私に聞かされたものはとても喜ばしいものだった。

 早く容体を確認して、この薬を飲ませてあげなくちゃ!

「ちょうど薬がたくさん出来たんです! ココ様にこれを飲ませましょう!」
「はい!」

 オーウェン様と一緒にココ様のいる地下に向かうと、そこにはまだボーっとした状態のココ様が、寝ぼけ眼で私のことを見つめてきた。

「お姉ちゃん、誰……?」
「ココ、この人はココの薬を作ってくれた薬師の方だ」
「はじめまして、ココ様。私はエリンと申します。お体の具合はどうですか?」
「……頭がボーっとしてる……」

 しばらく眠っていたのだから、ボーっとしてしまうのは当然のことだろう。意思疎通も出来ているし、シミの範囲も更に減っている。もう少し休めば動けるようになるわね。

「熱もかなり引いたみたいですね。このお薬を飲んで休んでいれば、元気になれますよ」
「うぅ~……お薬嫌い……」
「ちゃんと飲まないと元気になれないぞ」
「は~い……」

 オーウェン様に促されて、渋々ココ様は薬を口にすると、目をギュッと瞑って苦みに耐えながらも、なんとか薬を飲みほした。

 ココ様とお話をしている時は、兄としての側面が出ていて、なんだかとても微笑ましいわ。

「エリンさん、改めてお礼を言わせてください。ココを助けていただき、本当にありがとうございました」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「いえいえ、私は当然のことを――」

 ぐぅぅぅぅぅ……。

「…………」

 盛大にお腹の虫が鳴いた私は、無意識に口を固く閉ざしていた。その代わりと言っては何だけど、自分でも驚くくらい顔が熱くなった。

 こ、こんな大きなお腹の音を聞かれてしまうなんて……恥ずかしすぎて死んでしまいそうだ。

「昨日買ってきたパンでよろしければ、すぐにお出しできますよ。時間を少しいただければ、スープもお出しできます。ココの命の恩人にお出しするには、あまりにも粗末なもので心苦しいですが……」
「い、いえ! お気になさらず! 今のはその……喉が鳴っただけですから!」

 ちょっと待って。喉が鳴るってなに? 確かに鳴ることはあるけど、言い訳にしてはあまりにも苦しすぎる。もう少しまともな言い訳をすればよかった……。

「お兄ちゃん、わたしもお腹がすいちゃった!」
「わかった、それじゃあ栄養を摂れるように、スープを作るとしよう。エリンさん、俺は上で作ってくるので、ココのことをお願いできますか?」
「わかりました」
「では、よろしくお願いします」

 そう言い残して、オーウェン様はそそくさと一階へと戻っていった。残された私は、ココ様に視線を移した。

「……? お姉ちゃん、わたしの顔に何かついてる?」
「いえ、何もついてないですよ。ココ様が元気になってくれてよかったと思っているだけです」
「そっか! お姉ちゃんが喜んでくれると、わたしも嬉しいよ! ところで、どうして私のことを様を付けて呼ぶの?」
「その呼び方で慣れてしまっているので、自然とそうお呼びしているだけですよ」
「ふーん……? ねえ、わたしのことは呼び捨てで呼んでよ!」

 い、いきなりそう言われても……オーウェン様の時のように断りたいけど、目の前でキラキラと目を輝く姿を見てしまうと、断りにくいわ……。

「それじゃあ……ココちゃん」
「あ、それもいいね! えへへ、それじゃあわたしはエリンお姉ちゃんって呼ぶね! あ、敬語も禁止だよ! だって、わたし達はお友達だから!」
「お友達?」
「うんっ! こうして出会ってお話したら、もうお友達でしょ?」

 お友達……なんだか嬉しいわ。唯一の友人がバネッサだけだったんだけど、結局演技だったわけだから、ココちゃんが本当の初めてのお友達だ。

「ふふっ、そうですね……じゃなくて、そうね。私達は……お友達ね」

 微笑みながらお友達の部分を強調して伝えると、ココちゃんは満面の笑顔で頷いてくれた。

 ……か、可愛いわ……子供が大好きなハウレウが見たら、きっとメロメロになっていただろう。

「……ハウレウ……今頃何してるかしら……」

 自分が何とか生きようと必死に森をさまよっていたことや、ココちゃんを治すことに必死になっていたせいで、ハウレウのことを考える余裕がなかった。

 私がいないことがバレて、酷い仕打ちにあってなければいいだけど……精霊様、ハウレウにどうかご加護を……。

「エリンお姉ちゃん、どうしたの? 凄く悲しそうだよ?」
「ううん、なんでもないわ。心配してくれありがとう」
「ならよかった! ねえねえ、エリンお姉ちゃんって、薬師なんだよね?」
「うーん、薬師になりたいって思ってるだけで、まだちゃんとした薬師ではないのよ」

 簡単に説明をしてみたけど、ココちゃんはよくわかっていないようで、小首を傾げていた。

「そうなの? よくわからないけど……わたしのお薬以外のも作れるの?」
「ええ、もちろんよ。ココちゃんよりも小さい頃からたくさん勉強をして、薬を作れるようになったのよ」
「わぁ、すごいすごい! わたしはお勉強が苦手だから、尊敬しちゃうよ! どんなお薬があるの!?」
「そうね、例えば……オーウェン様と初めて出会った時に、傷薬を作ったんだけど――」

 私はなるべくココちゃんにもわかりやすいように、薬の作り方や用途をかみ砕いて話し始めた。

 薬の話を聞くココちゃんは、ずっと目を輝かせ、とても楽しそうで……結局オーウェン様が私達を呼びに来るまで、ずっと薬の話をしてあげた。

 薬に興味を持ってくれたみたいだから、将来はいつか私のような薬師を目指してくれるかもしれないわね。もしそうなったら……私のような利用されるだけの人間ではなくて、多くの人に慕われる薬師になってほしいな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話 2025.10〜連載版構想書き溜め中

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

追放された聖女は幻獣と気ままな旅に出る

星里有乃
恋愛
 精霊国家トップの魔力を持つ聖女ティアラは、王太子マゼランスの妃候補として約束された将来が待っているはずだった。ある日、空から伝説の聖女クロエが降りてきて、魔力も王太子も奪われ追放される。  時を同じくして追放された幻獣と共に、気ままな旅を始めることに。やがて運命は、隣国の公爵との出会いをティアラにもたらす。 * 2020年2月15日、連載再開しました。初期投稿の12話は『正編』とし、新たな部分は『旅行記』として、続きを連載していきます。幻獣ポメの種族について、ジルとティアラの馴れ初めなどを中心に書いていく予定です。 * 2020年7月4日、ショートショートから長編に変更しました。 * 2020年7月25日、長編版連載完結です。ありがとうございました。 * この作品は、小説家になろうさんにも投稿しております。

婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。

石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。 やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。 失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。 愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

処理中です...