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第七十九話 旅は順調に……?
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無事に船酔いが治ったオーウェン様と一緒に、のんびりと綺麗な景色を堪能していると、船は無事に目的地の町へと到着した。
辺りは既に暗くなってしまっているため、ここで船は一旦止まるそうだ。ここから数日ほどこれを繰り返して、アンデルクを横断するということだ。
「さっきの町と、あんまり雰囲気は変わらないんですね」
「同じ河港だということと、どちらもアンデルクにある町だから、文化の違いも無いのだろうね」
「なるほど、きっとそうですね」
「さてと、それじゃあまずは宿を探すとしよう。食事は部屋を取れてから考えよう」
「わかりました」
もう辺りは暗いというのに、多くの人で活気づく町中を、オーウェン様と手を繋いで歩き始める。
この辺りは酒場が多いみたいで、色んな場所から楽しそうな声や、ケンカしているような声が聞こえてくる。
パーチェの夜も、ここと同じ様に明るい町だけど、ケンカの声は聞こえてこなかった。この辺りは住んでいる人によって変わる点なのね。
「む、どうやらあれが宿屋のようだ」
「入ってみましょう」
宿屋に入ると、さっそく宿屋のご主人が私達を出迎えてくれた。でも、その表情は少し申し訳なさそうな雰囲気を醸し出していた。
「いらっしゃいませ。お泊りですか?」
「ええ。俺と彼女の二人なんですけど」
「もうしわけございません。本日は既に満室でして……」
「そうでしたか。ではこの辺りに別の宿はありますか?」
「この宿を出て左にまっすぐ五分程歩いた場所に、別の宿屋がございます」
「わかりました。アトレ、行こう」
せっかく見つけた宿屋だったのに、追い返されてしまったわ。満室だから仕方ないけど、ちょっと残念だ。
——その後も別の宿屋に行ってみたけど、そこも満室だった。さらに別の宿を紹介してもらい、そこに向かい、満室でを繰り返し……五件目の宿屋で、ようやく部屋が空いている宿を見つけることが出来た。
「一部屋だけ、お二人にピッタリの部屋の空きがございますが、いかがされますか?」
「ではそれでお願いします」
「オーウェン様、見つかってよかったですね」
「そうだな」
「お客様、お部屋は三階の一番奥でございます。どうぞごゆっくりおくつろぎください」
宿屋のご主人に教えてもらった私達は、さっそく言われた通りの部屋に向かう。
私達にピッタリの部屋と言っていたけど……なにがピッタリなのだろう? ちょっとだけワクワクする。
「……あれ?」
部屋に入ると、そこは少し狭いけど、隅々まで手入れが行き届いた綺麗な部屋だった。ここに来る客を想って手入れをしているんだということが伝わり、とても好印象だ。
ただ、一つだけ問題があった。それは……。
「オーウェン様、ベッドが一つしかありませんよ?」
「そうだな……それも、普通のベッドより大きい」
「大きいベッド……あっ!」
わ、私達にピッタリってそういうこと!? どうしよう……いつも同じ部屋で寝ているけど、ベッドは別々で寝ているから、いざ同じベッドで寝ろと言われると、緊張してしまう。現に、私の胸は驚くほど高鳴っている。
「アトレ、もし君が嫌なら別の宿を探すという手もあるよ」
「で、でも……ここ以外のところは全部満室でしたよ?」
「それはそうだが……まだ行っていない宿もあるかもしれない」
「無い可能性もありますよね? 万が一見つからなくて、戻って来たらこの部屋も埋まってたら、野宿することになってしまいますよ?」
まだまだ目的地に着くまで何日もかかるというのに、野宿なんてして病気にでもなったら、笑い話にもならない。
そんなことで、オーウェン様が病気になることに怯えるくらいだったら、私はオーウェン様と一緒に寝ることを選択するわ。
「わかった。それじゃあここで一泊しようか」
「はい。あっ……もしかして、オーウェン様は別の宿がよかったですか?」
「そんなことはない。俺はアトレと一緒に寝ても良いと思っているからね」
「そ、そうなんですね」
こんな時でも、オーウェン様はいつも通りというか、堂々としているというか……私なんてこんなに緊張しているというのに。やっぱりオーウェン様は凄いなぁ。
「宿も見つかったことだし、荷物を置いて食事をしに行こうか。長旅でお腹がすいただろう?」
「はい」
咄嗟に返事をしてしまったけど、実はあまりお腹はすいていない。厳密に言うと、さっきまではペコペコだったけど、一緒に寝ることを考えたら、空腹なんてどこかにいってしまった。
でも、ちゃんと食べないとオーウェン様に心配をかけちゃうし、食べずに体力が落ちて倒れたら、それも心配をかけちゃう。そんなの嫌だから、ご飯はしっかり食べないとね。
「さあ行こう。何か食べたいものとかあるか?」
「そ、そうですね……せっかくですし、この辺りでしか食べられないものを食べてみたいです」
「それはいいな。宿の主人に聞けば、教えてくれるかもしれない。一緒に行ってみよう」
「はい」
いまだに高鳴っている胸の音を感じながら、オーウェン様と手を繋ぐ。すると、オーウェン様の手が、いつもよりも湿っていることに気が付いた。
もう何度もオーウェン様の手を握っているけど、こんなに手汗をかいてるのははじめてだ。たくさん歩いたから、体が火照っているのかしら……?
まさか、疲れて熱が出たなんてことはないわよね!? 一応風邪薬ならいつでも作れるようにしているから、大丈夫だと思うけど……もしそうなら、凄く心配だわ……。
辺りは既に暗くなってしまっているため、ここで船は一旦止まるそうだ。ここから数日ほどこれを繰り返して、アンデルクを横断するということだ。
「さっきの町と、あんまり雰囲気は変わらないんですね」
「同じ河港だということと、どちらもアンデルクにある町だから、文化の違いも無いのだろうね」
「なるほど、きっとそうですね」
「さてと、それじゃあまずは宿を探すとしよう。食事は部屋を取れてから考えよう」
「わかりました」
もう辺りは暗いというのに、多くの人で活気づく町中を、オーウェン様と手を繋いで歩き始める。
この辺りは酒場が多いみたいで、色んな場所から楽しそうな声や、ケンカしているような声が聞こえてくる。
パーチェの夜も、ここと同じ様に明るい町だけど、ケンカの声は聞こえてこなかった。この辺りは住んでいる人によって変わる点なのね。
「む、どうやらあれが宿屋のようだ」
「入ってみましょう」
宿屋に入ると、さっそく宿屋のご主人が私達を出迎えてくれた。でも、その表情は少し申し訳なさそうな雰囲気を醸し出していた。
「いらっしゃいませ。お泊りですか?」
「ええ。俺と彼女の二人なんですけど」
「もうしわけございません。本日は既に満室でして……」
「そうでしたか。ではこの辺りに別の宿はありますか?」
「この宿を出て左にまっすぐ五分程歩いた場所に、別の宿屋がございます」
「わかりました。アトレ、行こう」
せっかく見つけた宿屋だったのに、追い返されてしまったわ。満室だから仕方ないけど、ちょっと残念だ。
——その後も別の宿屋に行ってみたけど、そこも満室だった。さらに別の宿を紹介してもらい、そこに向かい、満室でを繰り返し……五件目の宿屋で、ようやく部屋が空いている宿を見つけることが出来た。
「一部屋だけ、お二人にピッタリの部屋の空きがございますが、いかがされますか?」
「ではそれでお願いします」
「オーウェン様、見つかってよかったですね」
「そうだな」
「お客様、お部屋は三階の一番奥でございます。どうぞごゆっくりおくつろぎください」
宿屋のご主人に教えてもらった私達は、さっそく言われた通りの部屋に向かう。
私達にピッタリの部屋と言っていたけど……なにがピッタリなのだろう? ちょっとだけワクワクする。
「……あれ?」
部屋に入ると、そこは少し狭いけど、隅々まで手入れが行き届いた綺麗な部屋だった。ここに来る客を想って手入れをしているんだということが伝わり、とても好印象だ。
ただ、一つだけ問題があった。それは……。
「オーウェン様、ベッドが一つしかありませんよ?」
「そうだな……それも、普通のベッドより大きい」
「大きいベッド……あっ!」
わ、私達にピッタリってそういうこと!? どうしよう……いつも同じ部屋で寝ているけど、ベッドは別々で寝ているから、いざ同じベッドで寝ろと言われると、緊張してしまう。現に、私の胸は驚くほど高鳴っている。
「アトレ、もし君が嫌なら別の宿を探すという手もあるよ」
「で、でも……ここ以外のところは全部満室でしたよ?」
「それはそうだが……まだ行っていない宿もあるかもしれない」
「無い可能性もありますよね? 万が一見つからなくて、戻って来たらこの部屋も埋まってたら、野宿することになってしまいますよ?」
まだまだ目的地に着くまで何日もかかるというのに、野宿なんてして病気にでもなったら、笑い話にもならない。
そんなことで、オーウェン様が病気になることに怯えるくらいだったら、私はオーウェン様と一緒に寝ることを選択するわ。
「わかった。それじゃあここで一泊しようか」
「はい。あっ……もしかして、オーウェン様は別の宿がよかったですか?」
「そんなことはない。俺はアトレと一緒に寝ても良いと思っているからね」
「そ、そうなんですね」
こんな時でも、オーウェン様はいつも通りというか、堂々としているというか……私なんてこんなに緊張しているというのに。やっぱりオーウェン様は凄いなぁ。
「宿も見つかったことだし、荷物を置いて食事をしに行こうか。長旅でお腹がすいただろう?」
「はい」
咄嗟に返事をしてしまったけど、実はあまりお腹はすいていない。厳密に言うと、さっきまではペコペコだったけど、一緒に寝ることを考えたら、空腹なんてどこかにいってしまった。
でも、ちゃんと食べないとオーウェン様に心配をかけちゃうし、食べずに体力が落ちて倒れたら、それも心配をかけちゃう。そんなの嫌だから、ご飯はしっかり食べないとね。
「さあ行こう。何か食べたいものとかあるか?」
「そ、そうですね……せっかくですし、この辺りでしか食べられないものを食べてみたいです」
「それはいいな。宿の主人に聞けば、教えてくれるかもしれない。一緒に行ってみよう」
「はい」
いまだに高鳴っている胸の音を感じながら、オーウェン様と手を繋ぐ。すると、オーウェン様の手が、いつもよりも湿っていることに気が付いた。
もう何度もオーウェン様の手を握っているけど、こんなに手汗をかいてるのははじめてだ。たくさん歩いたから、体が火照っているのかしら……?
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