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第八十一話 エリンの隠された一面
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■オーウェン視点■
「え、エリン!? 大丈夫か!?」
船長殿に奢ってもらったぶどうジュースを一口飲んだエリンは、突然机に突っ伏してしまった。
もしかして、なにか毒でも盛られていたのか!? くそっ、完全に油断していた!
「嬢ちゃん、大丈夫か!?」
「一体何を飲ませたんだ!? 事と次第によっては、この場で斬り捨てるぞ!」
「ただのぶどうを使った酒だ! 変な物は注文してねーよ!」
「……酒?」
見た目はただのジュースにしか見えないが……確かにぶどうジュースから、ほんのりと酒の匂いはする。
「エリン、しっかりしろ!」
「……うぅ……あれぇ……オーウェン様だぁ! えへへ……なんで顔が三つになってるんですかぁ?」
急いでエリンの体を起こして状態を確認すると、エリンは俺の心配をよそに、満面の笑顔を俺に向けた。
「俺の顔は一つしかないぞ! それよりも、苦しいところとかないか!?」
「ぜんっぜん大丈夫ですよぉ? あっ、カッコいい顔が五つに増えました~! こんなにあったら、私困っちゃいますぅ! あはははっ!」
「…………」
と、とりあえず痛いとか苦しいとか、そういうのは無さそうで安心したが……この感じは、もしかして一口飲んだだけで酔っぱらったのか……?
「船長殿、早とちりで過激な態度を取ってしまい、大変申し訳なかった」
「いや、俺様こそ悪かったな……まさか嬢ちゃんが、ほとんどアルコールが入ってない酒で泥酔するほど、酒に弱いとは思ってなくてよ……ちゃんと飲む前に酒だって言っておけばよかったな」
「あ~っ! なんでオーウェン様が謝ってるんですか! オーウェン様をいじめちゃダメなんですから!」
「エリン……じゃなかった。アトレ、俺は大丈夫だから」
「ダ~メ~で~す~! オーウェン様はすぐ私に心配かけないようにするんですから!」
さっきからいつもの呼び方になっていたことに気づき、すぐに修正する俺に、エリンはいつもより紅潮した頬をパンパンに膨らませて、俺に怒りをぶつけてくる。
酔っぱらうと、こんなに性格が変わるんだな……これはこれで可愛いと思ってしまうのは、さすがに不謹慎だろうか。
とにかく、これ以上食事をするのは無理そうだな。会計を済ませて、早くエリンを休ませよう。
「さあ、宿に帰ろう」
「は~い!」
「兄ちゃん、ここは全部俺様に奢らせてくれ。せめてもの詫びだ」
「いえ、そういうわけにはいきません」
「頼む! 俺のメンツを守るためと思って!」
俺としては、悪気はなかったのだから、そんなに気に病まなくていいと思っているのだが、船長殿は一切引く気は無さそうだ。
「わかりました。では、ごちそうになります」
「おう、任せとけ!」
俺はエリンをおんぶしながら、船長殿に頭を下げると、ゆっくりと酒場を後にした。
宿まではそこまで距離が無いとはいえ、ゆっくりはしていられないな。早く帰らないと。
「オーウェン様~? 今日はお姫様だっこじゃないんですかぁ?」
「この方が安全だからな」
「なんでですか~! 私はお姫様だっこがいいです~!」
「また今度な」
駄々をこねる子供を相手にするように、優しい口調で伝えると、むぅ~と不満げな声を漏らしながら、俺の背中に顔をうずめた。
……やはり酔っぱらったエリンも愛らしい。いつもはこんなに俺に甘えることなんて無いから、そのギャップがたまらない。
やるつもりは一切無いが、たまに酒を飲ませて、甘えん坊なエリンを見たいと思えるくらいには愛らしい。
「えへへぇ……オーウェン様の背中、おっきい~好き~……」
「そ、それはなによりだ。どこか気持ち悪いとかないか?」
「ありませ~ん! あ、でも……頭がフワフワして、オーウェン様がいつもの千倍くらいカッコよく見えます~! にへへぇ」
エリン、さすがにそれ以上は勘弁してくれないか? そんな愛らしい姿を見せられたら、俺は爆発四散するか、このドキドキから逃れる為に、己の剣を腹に突き刺してしまうかもしれない。
さすがに誇張表現かもしれないが、それくらい……甘々なエリンが愛らしくてな……こんなの見せられて、冷静でいろという方が無理な話だ。
「落ち着け……こういう時こそ、冷静になるんだ」
「なにをブツブツ言ってるんですか~? 」
「なんでもないよ。ほら、宿に着いた」
頭をぐりぐりと背中にこすりつけるエリンの愛らしさに何とか耐えきった俺は、無事に部屋に帰ってくることが出来た。
……なんだか、異様に疲れたな。体は全然疲れていないんだが、精神的に疲れた。エリンを寝かしつけたら、俺もさっさと寝てしまおう。
「さあ、今日はもう寝るよ」
「まだ眠くないもん!」
もんって……可愛すぎて、そろそろ俺の体が耐えきれないんだが? 可愛いを過剰摂取すると、こんなにつらいんだな。ある意味幸せな悩みだが。
「もっとお話したいし、イチャイチャもしたいし……」
「それはまた今度な。ほら、ベッドに寝て」
「なら、オーウェン様が一緒が良い!」
「それなら、寝るまで枕元にいるよ」
「だめ~! 朝までずっと抱きしめ合うの~!」
酔っぱらっているというのもあるが、さっきから言っていることが、随分と大胆だ。エリンって、本当はこういうことをしたかったりするのか?
俺は、愛するエリンとすることなら、なんだってしようと思う。だが……そんな俺に出されたお題が、中々にハードルが高い。
……正直なところ、このベッドはエリンに使わせて、俺は適当に寝れば良いと思っていたから、一緒に寝るのは想定外だったりする。
別に嫌と言うわけではない。家では同じ部屋で寝ているし、いつかは同じベッドで寝ようとは思っている。俺だって男だからな。愛する人と一緒に寝てみたいと思うのは、普通のことだろう?
あぁ、その……なんだ、一線はまだ超えるつもりは無いぞ。そういうのは結婚してからだ。
「ねえ、オーウェン様~!」
「わかったから、そんなに引っ張らないでくれ。あと、他の客に迷惑になるから、静かにな」
「は~い!」
俺が隣に寝たことにご満悦の表情を浮かべるエリンは、俺にギュッと抱きついた。
さすがに同じベッドで寝ながら抱き着かれるのは、緊張してしまうな。だが、エリンがこんなに喜んでいるのだから、ちゃんと甘えさせてあげたい。
「そんなに顔を胸にうずめたら、熱いし息苦しいだろう」
「そ、そんなことはありません……ぜぇ……ぜぇ……」
「言ってる傍から苦しそうじゃないか。ほら、少し離れて」
「いやです~! 一人にしないでください~!」
「一人って、俺はずっと一緒にいるだろう?」
「ぐすっ……カーティス様とバネッサに裏切られて、ハウレウもいなくなって……もう一人ぼっちはやだぁ……! お母さぁん……助けてよぉ……!」
さっきまでは元気に笑っていたというのに、大粒の涙を流し始めてしまった。
エリンの境遇は聞いているから、エリンのつらさや悲しみもわかっていたつもりだったが……酔っぱらったことで、心の奥底にあった感情が、表に出てきたのかもしれない。それも、俺が思ってる以上に強い心が。
こんなことにも気づいてあげられないなんて……なにがエリンの彼氏だ。笑ってしまうよ。
「エリンは一人じゃない。俺もココも、それに今まで出会った人もいる。だから、悲しむ必要は無いんだ」
「オーウェン様……」
エリンの頭を撫でながら、諭すように伝える。すると、エリンは涙で潤んだ瞳を俺に向けてきた。
「……一人ぼっちじゃないって証拠、見せてください」
「ああ、もちろん」
目を閉じて何かを待つように俺に顔を向けるエリンの唇を、優しく塞いであげた。
そのキスで安心したようで、エリンは再び俺の胸に顔をうずめると、すやすやと寝息を立て始めた。
「——おやすみ、エリン。良い夢を」
「え、エリン!? 大丈夫か!?」
船長殿に奢ってもらったぶどうジュースを一口飲んだエリンは、突然机に突っ伏してしまった。
もしかして、なにか毒でも盛られていたのか!? くそっ、完全に油断していた!
「嬢ちゃん、大丈夫か!?」
「一体何を飲ませたんだ!? 事と次第によっては、この場で斬り捨てるぞ!」
「ただのぶどうを使った酒だ! 変な物は注文してねーよ!」
「……酒?」
見た目はただのジュースにしか見えないが……確かにぶどうジュースから、ほんのりと酒の匂いはする。
「エリン、しっかりしろ!」
「……うぅ……あれぇ……オーウェン様だぁ! えへへ……なんで顔が三つになってるんですかぁ?」
急いでエリンの体を起こして状態を確認すると、エリンは俺の心配をよそに、満面の笑顔を俺に向けた。
「俺の顔は一つしかないぞ! それよりも、苦しいところとかないか!?」
「ぜんっぜん大丈夫ですよぉ? あっ、カッコいい顔が五つに増えました~! こんなにあったら、私困っちゃいますぅ! あはははっ!」
「…………」
と、とりあえず痛いとか苦しいとか、そういうのは無さそうで安心したが……この感じは、もしかして一口飲んだだけで酔っぱらったのか……?
「船長殿、早とちりで過激な態度を取ってしまい、大変申し訳なかった」
「いや、俺様こそ悪かったな……まさか嬢ちゃんが、ほとんどアルコールが入ってない酒で泥酔するほど、酒に弱いとは思ってなくてよ……ちゃんと飲む前に酒だって言っておけばよかったな」
「あ~っ! なんでオーウェン様が謝ってるんですか! オーウェン様をいじめちゃダメなんですから!」
「エリン……じゃなかった。アトレ、俺は大丈夫だから」
「ダ~メ~で~す~! オーウェン様はすぐ私に心配かけないようにするんですから!」
さっきからいつもの呼び方になっていたことに気づき、すぐに修正する俺に、エリンはいつもより紅潮した頬をパンパンに膨らませて、俺に怒りをぶつけてくる。
酔っぱらうと、こんなに性格が変わるんだな……これはこれで可愛いと思ってしまうのは、さすがに不謹慎だろうか。
とにかく、これ以上食事をするのは無理そうだな。会計を済ませて、早くエリンを休ませよう。
「さあ、宿に帰ろう」
「は~い!」
「兄ちゃん、ここは全部俺様に奢らせてくれ。せめてもの詫びだ」
「いえ、そういうわけにはいきません」
「頼む! 俺のメンツを守るためと思って!」
俺としては、悪気はなかったのだから、そんなに気に病まなくていいと思っているのだが、船長殿は一切引く気は無さそうだ。
「わかりました。では、ごちそうになります」
「おう、任せとけ!」
俺はエリンをおんぶしながら、船長殿に頭を下げると、ゆっくりと酒場を後にした。
宿まではそこまで距離が無いとはいえ、ゆっくりはしていられないな。早く帰らないと。
「オーウェン様~? 今日はお姫様だっこじゃないんですかぁ?」
「この方が安全だからな」
「なんでですか~! 私はお姫様だっこがいいです~!」
「また今度な」
駄々をこねる子供を相手にするように、優しい口調で伝えると、むぅ~と不満げな声を漏らしながら、俺の背中に顔をうずめた。
……やはり酔っぱらったエリンも愛らしい。いつもはこんなに俺に甘えることなんて無いから、そのギャップがたまらない。
やるつもりは一切無いが、たまに酒を飲ませて、甘えん坊なエリンを見たいと思えるくらいには愛らしい。
「えへへぇ……オーウェン様の背中、おっきい~好き~……」
「そ、それはなによりだ。どこか気持ち悪いとかないか?」
「ありませ~ん! あ、でも……頭がフワフワして、オーウェン様がいつもの千倍くらいカッコよく見えます~! にへへぇ」
エリン、さすがにそれ以上は勘弁してくれないか? そんな愛らしい姿を見せられたら、俺は爆発四散するか、このドキドキから逃れる為に、己の剣を腹に突き刺してしまうかもしれない。
さすがに誇張表現かもしれないが、それくらい……甘々なエリンが愛らしくてな……こんなの見せられて、冷静でいろという方が無理な話だ。
「落ち着け……こういう時こそ、冷静になるんだ」
「なにをブツブツ言ってるんですか~? 」
「なんでもないよ。ほら、宿に着いた」
頭をぐりぐりと背中にこすりつけるエリンの愛らしさに何とか耐えきった俺は、無事に部屋に帰ってくることが出来た。
……なんだか、異様に疲れたな。体は全然疲れていないんだが、精神的に疲れた。エリンを寝かしつけたら、俺もさっさと寝てしまおう。
「さあ、今日はもう寝るよ」
「まだ眠くないもん!」
もんって……可愛すぎて、そろそろ俺の体が耐えきれないんだが? 可愛いを過剰摂取すると、こんなにつらいんだな。ある意味幸せな悩みだが。
「もっとお話したいし、イチャイチャもしたいし……」
「それはまた今度な。ほら、ベッドに寝て」
「なら、オーウェン様が一緒が良い!」
「それなら、寝るまで枕元にいるよ」
「だめ~! 朝までずっと抱きしめ合うの~!」
酔っぱらっているというのもあるが、さっきから言っていることが、随分と大胆だ。エリンって、本当はこういうことをしたかったりするのか?
俺は、愛するエリンとすることなら、なんだってしようと思う。だが……そんな俺に出されたお題が、中々にハードルが高い。
……正直なところ、このベッドはエリンに使わせて、俺は適当に寝れば良いと思っていたから、一緒に寝るのは想定外だったりする。
別に嫌と言うわけではない。家では同じ部屋で寝ているし、いつかは同じベッドで寝ようとは思っている。俺だって男だからな。愛する人と一緒に寝てみたいと思うのは、普通のことだろう?
あぁ、その……なんだ、一線はまだ超えるつもりは無いぞ。そういうのは結婚してからだ。
「ねえ、オーウェン様~!」
「わかったから、そんなに引っ張らないでくれ。あと、他の客に迷惑になるから、静かにな」
「は~い!」
俺が隣に寝たことにご満悦の表情を浮かべるエリンは、俺にギュッと抱きついた。
さすがに同じベッドで寝ながら抱き着かれるのは、緊張してしまうな。だが、エリンがこんなに喜んでいるのだから、ちゃんと甘えさせてあげたい。
「そんなに顔を胸にうずめたら、熱いし息苦しいだろう」
「そ、そんなことはありません……ぜぇ……ぜぇ……」
「言ってる傍から苦しそうじゃないか。ほら、少し離れて」
「いやです~! 一人にしないでください~!」
「一人って、俺はずっと一緒にいるだろう?」
「ぐすっ……カーティス様とバネッサに裏切られて、ハウレウもいなくなって……もう一人ぼっちはやだぁ……! お母さぁん……助けてよぉ……!」
さっきまでは元気に笑っていたというのに、大粒の涙を流し始めてしまった。
エリンの境遇は聞いているから、エリンのつらさや悲しみもわかっていたつもりだったが……酔っぱらったことで、心の奥底にあった感情が、表に出てきたのかもしれない。それも、俺が思ってる以上に強い心が。
こんなことにも気づいてあげられないなんて……なにがエリンの彼氏だ。笑ってしまうよ。
「エリンは一人じゃない。俺もココも、それに今まで出会った人もいる。だから、悲しむ必要は無いんだ」
「オーウェン様……」
エリンの頭を撫でながら、諭すように伝える。すると、エリンは涙で潤んだ瞳を俺に向けてきた。
「……一人ぼっちじゃないって証拠、見せてください」
「ああ、もちろん」
目を閉じて何かを待つように俺に顔を向けるエリンの唇を、優しく塞いであげた。
そのキスで安心したようで、エリンは再び俺の胸に顔をうずめると、すやすやと寝息を立て始めた。
「——おやすみ、エリン。良い夢を」
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