【完結済】婚約者の王子に浮気されていた聖女です。王子の罪を告発したら婚約破棄をされたので、外で薬師として自由に生きます!

ゆうき

文字の大きさ
108 / 115

第百八話 完成

しおりを挟む
 目を覚ますとそこは精霊の世界ではなく、アンデルクのお城にある、私の部屋だった。

 どうやら無事に帰れたみたいね……うっ、まだ症状は完全に収まっていないようね。高熱で頭がフラフラしてるし、体中がかゆい。

 でも、クレシオン様が言うには、石化病はかなり弱体化しているとのことだから、私が症状を抑えるために作っていた薬が、治療に使えるはずだ。

「早速試してみよう……」

 私は、既に聖女の力が付与されている解熱剤を飲み、かゆみ止めの塗り薬を体中に塗ってみる。すると、驚く程症状は改善していった。

 やった……これなら治せる! 私の薬で、みんなを助けられる!

「オーウェン様、薬が出来ましたよ!」
「…………」

 ダメだ、精霊様の世界では元気そうだったけど、あれはあくまで精神体だったからこそだ。今のオーウェン様の体は石化病に蝕まれたままだから、目を覚まさないのだろう。

 早く薬を飲ませないと……でも、どうすれば……。

「……は、恥ずかしがっててもダメよね。オーウェン様、失礼します」

 以前船酔いの薬を飲ませた時のように、私は飲み薬を口に含むと、オーウェン様にキスをして、口移しで薬を飲ませた。あとは塗り薬をして……これでよし!

「……うっ……ここは……」
「オーウェン様! 良かった……治ったんです! 石化病が!」
「石化病が? 言われてみれば、かゆみも高熱も無い……そうか、クレシオン殿が言っていた、病の力が弱まるというのが働いたのか!」
「はい! これで……アンデルクは救われる!」

 あまりの嬉しさに涙をこぼしていると、オーウェン様が私を優しく抱きしめてくれた。そして、そのままの状態で、私だけにしか聞こえないくらい小さな声で、耳打ちをしてきた。

「喜んでばかりもいられない。この先、きっとカーティスはエリンを独占と石化病の特効薬を独占するだろう」
「えっ? でも、薬は民に配るって……」
「本当にすると思うか?」
「うっ……正直に言わせてもらえるなら、全然思えないです」
「そこでだ。俺に作戦がある。いいか――」

 オーウェン様は、この先どうすればいいかの作戦を、私にこっそりと教えてくれた。

 その内容は、あまりにも単純だが、効果は絶大だろう。下手したら、国家を揺るがすくらいの事件になりかねない。

「俺としては、このままカーティスが玉座に座っている限り、国を腐らせる可能性は大きい。だから、今のうちに処理しておいた方がいいだろう」
「ず、随分な言いようですね……」
「間違っていないと思うが。とにかく、薬をもってカーティスの所に向かおう」
「その前に、お祈りだけいいですか?」
「ああ、わかった」

 私はオーウェン様に許可をいただいてから、隣の部屋にある精霊様……いいえ、クレシオン様の像の前で、両膝をついた。

 クレシオン様、アンデルクを作っていただき、ありがとうございます。石化病も、何とかなりそうです。私の力なんて、たかが知れてるけど、少しでも多くクレシオン様のことを民に広め、感謝の気持ちをお伝えできればと思っています――

「……ふう」
「終わったのか?」
「はい。行きましょう!」

 石化病の薬を持てるだけ持って部屋を出ると、部屋の前で倒れている兵士の人を発見した。

 いや、それどころじゃない。あちこちに石化病で倒れ、苦しんでいる人がいる! 私達が倒れている間に、こんなに広がっていたなんて!

「オーウェン様、手分けして治療しましょう! やり方は……オーウェン様なら大丈夫ですよね?」
「問題ない。これでもアトレの助手として活動してきたからな」

 頼りになるオーウェン様に、他の患者をお任せして、急いで別の患者の元に向かって治療薬を与えると、すぐに顔色が良くなってくれた。

「エリン様……これは、聖女の薬ですか……?」
「はい。元凶を何とかしたので、あとは私の作る薬があれば、皆治ります!」
「な、なんと……! もう死ぬしか無いと思っていたのに……!」

 倒れていた兵士は、自分を含めて立ち上がった人達を見て、感極まって涙を流した。

 無理もない、こんな正体不明の病気が爆発的に流行って、治す方法もなかったのだから、不安で仕方がなかっただろうし。

「オーウェン様の方は……」

 あ、腕で大きな丸を作って、大丈夫だとアピールしているわね。なんだかとても可愛らしいかも……って、何を呑気なことを考えてるのよ!

「とりあえず、この辺りはもう患者はいないようだ。さあ、空の所へ行こう!」
「はい!」

 私とオーウェン様は手を繋いで廊下をすすみ、途中で倒れている石化病患者を治療しつつ進んでいると、すぐにカーティス様の部屋までやってきた。その隣には、以前いなかったバネッサの姿もある。

「失礼します。石化病の薬が完成しました!」
「おぉ……そうか……はやく、バネッサに……」

 遠目からでもわかる。バネッサは今まさに限界を迎えようとしていることが。急いで薬を飲ませて、体の方も塗らないと……。

「貴様、それは以前の薬だろう……!」
「これで治るんです!」
「ふざけるな! 治らなかったら極刑にするぞ!」
「黙って見ていてください!」

 治療薬の投与を終わらせると、バネッサはすぐに目を覚ました。まだ状況がつかめていないのか、周りの状況を確認している。

「ここは……?」
「目を覚ました……!? あぁ、愛するわが妻……君が無事で、僕は天にも昇る気分だよ……!」
「カーティス様? 私は一体……?」
「君は例の病のせいで、ずっと意識が無かったんだよ!」

 相手は憎むべき相手ではあるけど、こうして目の前で命が助かったのを見ると、無事に助けられて良かったと思っちゃうわ。

「早く、僕にも薬を寄こせ!」
「はい、すぐに投薬します」
「うむ……おお! 体がかゆくない!? 熱も下がった! さすが聖女の薬は違うな!」

 同じ薬をカーティス様にも投薬すると、見違えるように元気になった。腕をブンブンと振り回して、その元気さをアピールしている。

「それで、この薬はまだあるのか?」
「まだ少し、私の部屋にあります」
「ならそれを全て寄こせ! そして早く同じものを作れ! もちろん、死ぬまでな!」
「今、なんと……?」
「貴様の耳は腐ってるのか!? ここで! 一生! 薬作り!!」

 さすがにそこまで細かく言われなくても、ちゃんと伝わっている。

 やっぱりこの展開になるわよね……半分くらいは予想通りだ。あとは、残りの半分も当たってるかの確認をしよう。

「作った薬は、どうするんですか? 配るんですか?」
「バカが、市民がどうなろうと知ったことではない。僕らさえいれば、国を作るなど容易いからな!」
「…………」
「体調が良くなったおかげか、異様に体を動かしたい気分ですわ。カーティス様、回復祝いとして、その薬を高く売って得たお金で楽しみましょう」
「おお、それはいいな!」

 残りの半分も、無事に的中したみたい。ここまではオーウェン様の計画通りだ。あとは、作戦完了までオーウェン様とは別行動だ。

 それにしても、相変わらずカーティス様もバネッサも、人の上に立つ人間の発言とは思えないわね。聞いているだけでイライラしてくる。とりあえず落ち着こう……。

「すー……はー……」

 よし、ほんの少しだけ落ち着いた。ここで怒らずに、作戦通りに動こう。

「あの、私がここに残る以上、薬屋としての活動は無期限休止ということになりますよね?」
「当然だ。なに、僕は優しいからな。その辺の手続きはしておいてやる」
「ありがとうございます。というわけでオーウェン様……しばらくはアトレを開けないので、ここで解散です」
「そうだな。薬が作れない俺は、国に帰ってのんびり生活しているよ」
「はい。良いですよね、カーティス様?」
「ふん、薬も作れない人間など興味はない! 今回は僕達を助かるのに貢献したから、殺さずに城を出してやる! ありがたく思え!」
「ありがとうございます。では、さようなら」

 オーウェン様はそう言うと、既にまとめてある荷物を持って、どこか寂し気な雰囲気で去っていった。

 これも作戦とはいえ……オーウェン様と離れ離れになるのがつらい……胸の奥に、ぽっかりと穴が開いたみたい。

「さあ、そうと決まれば作りまくってもらう。材料はこちらに任せておけ」
「今まで通りですね。わかりました」

 せっかく大きな犠牲を払ってまで逃げだした城だったが、結局元の場所に戻ってきてしまった。

 でも、今回は孤独だったあの時と違う。仮初の婚約者と友人、そしてハウレウだけという私の世界に、オーウェン様やココちゃん、ファファル、アルブ様……他にも沢山の人がいる。そして、空の上からは、お母さんもハウレウもジル様も見守ってくれている。

「うん、大丈夫……私は大丈夫」

 オーウェン様、私……寂しいのを我慢して、ここでの仕事を遂行しますから……そちらは任せましたよ……!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。

加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。 そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……

【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?

なか
恋愛
「キズモノのお前とは婚約破棄する」 顔にできた顔の傷も治らぬうちに第二王子のアルベルト様にそう宣告される 大きな傷跡は残るだろう キズモノのとなった私はもう要らないようだ そして彼が持ち出した条件は婚約破棄しても身体を寄越せと下卑た笑いで告げるのだ そんな彼を殴りつけたのはとある人物だった このキズの謎を知ったとき アルベルト王子は永遠に後悔する事となる 永遠の後悔と 永遠の愛が生まれた日の物語

全ルートで破滅予定の侯爵令嬢ですが、王子を好きになってもいいですか?

紅茶ガイデン
恋愛
「ライラ=コンスティ。貴様は許されざる大罪を犯した。聖女候補及び私の婚約者候補から除名され、重刑が下されるだろう」 ……カッコイイ。  画面の中で冷ややかに断罪している第一王子、ルーク=ヴァレンタインに見惚れる石上佳奈。  彼女は乙女ゲーム『ガイディングガーディアン』のメインヒーローにリア恋している、ちょっと残念なアラサー会社員だ。  仕事の帰り道で不慮の事故に巻き込まれ、気が付けば乙女ゲームの悪役令嬢ライラとして生きていた。  十二歳のある朝、佳奈の記憶を取り戻したライラは自分の運命を思い出す。ヒロインが全てのどのエンディングを迎えても、必ずライラは悲惨な末路を辿るということを。  当然破滅の道の回避をしたいけれど、それにはルークの抱える秘密も関わってきてライラは頭を悩ませる。  十五歳を迎え、ゲームの舞台であるミリシア学園に通うことになったライラは、まずは自分の体制を整えることを目標にする。  そして二年目に転入してくるヒロインの登場におびえつつ、やがて起きるであろう全ての問題を解決するために、一つの決断を下すことになる。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話 2025.10〜連載版構想書き溜め中

氷の公爵は、捨てられた私を離さない

空月そらら
恋愛
「魔力がないから不要だ」――長年尽くした王太子にそう告げられ、侯爵令嬢アリアは理不尽に婚約破棄された。 すべてを失い、社交界からも追放同然となった彼女を拾ったのは、「氷の公爵」と畏れられる辺境伯レオルド。 彼は戦の呪いに蝕まれ、常に激痛に苦しんでいたが、偶然触れたアリアにだけ痛みが和らぐことに気づく。 アリアには魔力とは違う、稀有な『浄化の力』が秘められていたのだ。 「君の力が、私には必要だ」 冷徹なはずの公爵は、アリアの価値を見抜き、傍に置くことを決める。 彼の元で力を発揮し、呪いを癒やしていくアリア。 レオルドはいつしか彼女に深く執着し、不器用に溺愛し始める。「お前を誰にも渡さない」と。 一方、アリアを捨てた王太子は聖女に振り回され、国を傾かせ、初めて自分が手放したものの大きさに気づき始める。 「アリア、戻ってきてくれ!」と見苦しく縋る元婚約者に、アリアは毅然と告げる。「もう遅いのです」と。 これは、捨てられた令嬢が、冷徹な公爵の唯一無二の存在となり、真実の愛と幸せを掴むまでの逆転溺愛ストーリー。

【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~

夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」 婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。 「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」 オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。 傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。 オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。 国は困ることになるだろう。 だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。 警告を無視して、オフェリアを国外追放した。 国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。 ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。 一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。

処理中です...