私のことはお気になさらず

領民と領主

「この後、街に行くぞ」 

　朝食のあとに、突然ヴィル様からそう言われた。

　街に？
え、すごく楽しみなんだけど！

　街の人は、領主であるヴィル様のお顔を知っているから、領主夫人として初のお披露目になる。

「すごく綺麗だけど、初めて見るわ」

「グリフォン公爵領で行っている絹産業で作られたドレスとショールです。奥様はお若く可愛らしいですから淡いお色にしました」

　私の髪はピンク色だから、今まであまり淡い色のドレスは着なかったのだけど、このラベンダー色は綺麗だし、自分で思っていたよりも似合っている気がする。

　それに、ショールも繊細なレース編みで素敵。

　テンション爆上がりで玄関に向かうと、すでにヴィル様がお待ちになっていた。

　シンプルな白のシャツと黒のトラウザーズだけど、素敵。

　ヴィル様は、背も高くて男らしい容姿だから、シンプルな洋服でもかっこいいのよね。

　というか、何を着られても似合うわ～

「お待たせいたしました」

「よく、似合っている」

「あ、ありがとうございます」

　ヴィル様は、無口であまり多くを語られないけど、新しい髪型をした時や新しいドレスを着ると、必ず褒めて下さる。

　ヴィル様と共に街の入り口で馬車から降りて歩き出すと、領民の皆さんが声をかけてきた。

「領主様！」

「領主様、ご結婚おめでとうございます」

「新しいワインが出来たんです！後で領邸にお届けします」

「領主様」「領主様」

　領地に来ると、どれだけヴィル様が領民の人たちに慕われているのかがよく分かる。

　王都の本邸の使用人にもだけど、ヴィル様は厳しくも優しい。

　うちのお父様たちも領民には慕われているけど、まぁお父様は馬鹿正直な人だから。

　すれ違う誰もが笑顔で話しかけて来て、ヴィル様もそれに応えている。

　みんな、私のことをチラチラ見てるけど、何も聞かないのね。

　結婚されたのは、知っているはずだけど・・・

　もしかして妻だと思われていない？？

「領主様」

「ああ、ロバートか。ティア、街を任せているロバートだ。ロバート、妻のティアだ」

　ヴィル様の元にやって来たのは、栗色の髪に焦茶色の瞳をした青年だった。

「奥様。はじめまして。ロバートも申します」

「ティアです。よろしくね」

「ティア、ロバートはセリノの息子だ」

「まぁ、そうなのですね」

　どこかで見た顔だと思ったのよ。
ロバートが歳を重ねたらセリノになるわね。

　それからロバートの案内で、街をヴィル様と歩いた。

　すれ違う皆が会釈してくれて、ヴィル様が慕われているのが良く分かったわ。