「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな

文字の大きさ
15 / 128
悪役令嬢回避編

婚約者の役目

しおりを挟む
 王妃様とランチをご一緒した翌日から、何故か王太子妃教育の合間に婚約者様との『語らい』の時間なるものが組み込まれた。何ゆえ?

 まぁ、現在の婚約者様は、記憶の中のライトノベルのように、アニエスを憎々しげに睨んだり、文句を言ったりはしないから、別に構わないと言えば構わないんだけど。

「アニエス嬢は、普段はどんなことをされているの?」

「わたくしですか?王太子妃教育を終えたあとは、少しの読書くらいでしょうか」

「食べ物は何が好き?」

「特別、好き嫌いはありませんが、スコーンは好きです」

「色は何が好き?」

「そうですね、青・・・でしょうか」

 ええい!お見合いかいっ!
というか、生まれた時から婚約者で、4歳で顔合わせしてるというのに、今頃そんなこと聞くんかい!

 どんだけ婚約者に興味なかったのよ。
お姉さん、呆れを通り越して、情けなくなって来たよ。

 と、ふと考える。
アニエスは、アニエスはこの婚約者様のことを何か知ってるのだろうか?

 自分に興味を持ってくれていない人を、ずっと好きだったアニエス。
 婚約者とはいえ、王太子の彼に自分から何かを聞くようなこと、なかったんじゃないかな。

「マリウス殿下は、何色がお好きですか?」

「・・・初めて聞かれたな。それもそうか。僕は王太子で、アニエス嬢という婚約者がいるんだから、そんなこと聞いてくる人なんていないか。そうだね、僕も青色が好きだな。晴れ渡った空の色が好きだ」

「殿下の瞳の色ですね。食べ物の好き嫌いは?」

「僕は、ピーマンが得意でないかな。母にいつも叱られてたよ」

 あー。大体の子供は、あの独特の味が嫌いよね。

 誰からも聞かれたことがない、か。
アニエスは、お父様やお母様だけでなく、使用人たちも「どんなお菓子がお好きですか?」とかいつも聞いてくれていた。

 だけど、王太子である彼に、そんなことを聞けるのは、家族か、よほど近くに仕える人くらいだろう。

 苦笑しながらも話す婚約者様の顔を見ていると、妙な使命感みたいなものが湧いて来る気がした。

 これって多分、友達出来なくてボッチになってる子に声かけちゃうみたいな、そういうやつ?

 うん。婚約者様。
私はあなたが、ライトノベルの中でアニエスにしたことは許せないけど、あなたを憎いとは思わない。

 あれが実際にあった過去なら、私は多分あなたのことを永遠に許せないし、憎み続けるだろう。
 だけど、アレはライトノベルの世界の中のことだ。

 もしも、この先あれと同じ道筋を辿るとしても、あなたが同じ行動をしないように、導いてあげるのが、大人わたしの役目のような、そんな気がした。



 



しおりを挟む
感想 324

あなたにおすすめの小説

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~

クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。 同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。 ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した… 誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

処理中です...