「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな

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聖女覚醒編

窮地《マリア視点》

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 どうして、こんなことになってしまったのかな。

 登校途中に、後ろから声をかけられて、道を聞かれたから教えてたのに、数人の男の人に馬車に押し込められた。

 目隠しと猿轡をされて、そのままどこかへ運ばれて・・・

 声を出しても無駄だし、出したら殺すって言われて・・・
 どうにか猿轡だけは外してくれたけど、手足は拘束されてるから目隠しは取れないし、恐怖で喉がこわばって、声なんか出なかった。

 アニエス様・・・
心配させてしまってるかもしれない。

 私を連れてきた男たちは、一体なにが目的なんだろう?

 私は平民だし、決して裕福な家庭ではない。だから、身代金なんて取れるわけがない。

 聖女だから?
でも、私は認定はされたけど、まだ全然聖女としての力なんか出せてなくて、だから教会だって王家だって、身代金なんて出してくれるわけない。
 それに、教会や国にそんなことしたら、捕まる可能性の方が高い。

 じゃあ、何のために?
他国?他国に売り渡すつもり?

 え?そんなことになったら・・・
もうアニエス様に会えない?
 いや。そんなのは嫌。
だって私、決めたんだもの。アニエス様の、王太子妃になるアニエス様のお役に立てるようになりたいって。

 逃げ・・・なきゃ。
とにかく手の拘束だけでも解けたら、目隠しも足の拘束も解けると思う。

 最悪、お花摘みだと言ってでも、逃げるチャンスを見つけなきゃ。

 人がいるのかどうかもわからないけど、声をあげてみた。

「あっ、あのっ・・・」

 頑張って、はりあげたつもりの声は掠れて、蚊の鳴くような声になってた。
 情けない。
アニエス様ならきっと、勇敢に立ち向かわれるのに。

 あの方は・・・
恋愛ごとには全然慣れてなくて、あの王太子殿下の寵愛にすら気付いてなくて。
 でも、それに気付いてからは、殿下の言葉や行動に赤面したりする、本当に可愛らしい方なのに、誰かのためになら、いつも勇敢に立ち向かわれる。

 アニエス様のようになりたいって。アニエス様のようになろうって決めたはずなのに。

「なんだ?」

「あっ、あのっ、お、お花摘みに行かせてください」

「お花摘みぃ?お上品なこった。小便だろ?小便。言ってみろよ?言えたら行かせてやるぜ。それともここで、漏らすか?んん?」

 返ってきた声は下品で、私は自分の顔に熱がたまるのを感じた。
 実際に行きたいわけではない。ないけど・・・
 こんな下品な人相手に、そんな言葉を口にしなきゃいけないなんて。

 だけど。

「しょ・・・小便に行かせてください」

「ひゃーっはっはっはっ。いいぜ、立ちな。手と足は外してやるが、逃げようなんて思うなよ」

 逃げれるかどうかはわからない。
だけど、周囲の様子くらいなら確認できる。
 逃げれる機会を伺わないと!

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