「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな

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聖女覚醒編

愛しい人《マリウス視点》

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 抱きしめたアニエスの髪に、顔を埋める。
僕の婚約者は、本当に可愛い。

「私をあなたのお嫁さんにしてください」

 アニエスにそう言われた時、嬉しすぎて気を失いそうだった。

 僕たちは、婚約者同士だ。
だから、2年後には婚姻することが決まっている。

 だけど僕はアニエスのことを、家と家の契約としての婚約者ではなく、心から愛する相手として、結婚したいと思っている。

 何にも興味の持てなかった僕が、僕に興味を失くした婚約者のことを気になり始めた。

 そして、一緒に過ごすうちに、アニエスのことしか見えなくなっていた。

 コロコロとよく変わるその表情。
本人は、貴族令嬢らしく変えてないつもりなのだろうが、ずっと一緒にいた僕には手に取るように分かった。

 誰からも愛される、身分で決して人を見ない性格。

 大切な人のためなら、無茶なことでもやろうとする無鉄砲さ。

 どれもが僕の心をとらえて離さない。

 だから、彼女の侍従であるカイのデートの日、僕はアニエスに贈るプレゼントをポケットに忍ばしていた。

 僕の瞳の色である、サファイアの石の付いた指輪。

 公爵令嬢であり、王太子の婚約者であるアニエスには、大きな石をと思ったのだが、セリオから小さめの、普段使い出来るようなデザインのものをとアドバイスを受けたのだ。

 確かに大きな石のついた指輪は、夜会などでないと付けないだろう。
 特にアニエスは、あまりそういうものを好まない。

 最近、平民の間で、恋人に指輪を贈って結婚を願うというのが、流行っているのだそうだ。

 セリオが何故それを、僕に教えてくれたのかはわからない。
 だけど僕は、セリオのアドバイスに従うことにした。

 婚約者として結婚前にプロポーズするつもりではあるが、学生である今、恋人としてアニエスに結婚を申し込みたい。
 そう思ったのだ。

 だから、デートの最後に水門へと誘った。
水門の内部は、一般の人間は立ち入りが出来ない。

 王都を一望出来る水門で、2人きりで美しい景色を見ながら指輪を渡そう。そう決めていた。

 それなのに。

 まさか、アニエスから指輪を渡されるとは思わなかった。

 アニエスは、セリオを知らない。
もしかしたらカイから聞いたのかもしれないが、それでもアニエスが僕に指輪を贈ろうと思ってくれたことが、嬉しくて仕方なかった。

 何度も口付けて、真っ赤になったアニエスのことが愛しくて仕方ない。

 その赤く染まった細い首筋に、引き寄せられそうになって、僕は慌てて目を逸らした。

 先日、レイノルドがあまりに消沈しているので話を聞いたら、婚約者であるファレノプシス嬢の首筋に、自分のものだという痕を付けたら、痕が消えるまで口をきいてもらえなかったのだそうだ。

 コイツは何をやっているんだか。
その時はそう思ったが、今ならその気持ちがわかる。

 僕のものだという印を付けたい。
彼女を束縛したい。

 自分の欲をグッと堪える。
アニエスに口をきいてもらえなかったら、僕は軽く死ねる。

 アニエスの髪に顔を埋めながら、僕は大きく息を吐いた。



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