「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな

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番外編

聖なる夜に《レイノルド視点》

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 僕はクリスマスが嫌いだった。
街中が浮かれてて、みんな幸せそうで。

 でも、クリスマスはミサがあるから、父上も母上もお忙しくて。

 プレゼントは貰えたけど、僕はいつも1人だった。
 1人で料理を食べて、1人でケーキを食べて。
 ずっと1人だった。イザベラと婚約するまでは。

 イザベラと婚約したのは、僕たちが10歳の時だ。

 何度目かのお茶会の時に、クリスマスの話題になった。

 イザベラは3人姉妹の真ん中で、いつも姉と妹にケーキの苺を取られてしまうのだと言った。

 僕は、それでも1人で食べるケーキより、何倍も美味しいだろうと思った。
 だから、思わず言ってしまったんだ。
「甘やかされてる令嬢は呑気で良いな」って。

 そんなこと、思ってもいなかったのに。
婚約者を傷つけたかったわけじゃないのに。

 彼女は、びっくりした顔をして、それから寂しそうに微笑んだ。

 僕は子供だったんだ。
彼女がものすごく傷ついたことが理解ったのに、謝ることが出来なかった。

 そんなことを言ってしまったからか、イザベラはその日以降、僕の前で笑わなくなった。

 月に1回開かれるお茶会でも、言葉少なで、曖昧に微笑むだけ。
 その様子に、母上から何かあったのかと問われた。

 まさか、酷いことを言ってしまったとも言えず俯く僕に、母上は週末のクリスマスはファレノプシス伯爵家にお邪魔してはどうかと提案してきた。

 家族団欒で、楽しい時間を過ごしているところへ、僕が?
 それに、僕の顔を見たら、またイザベラが悲しそうな顔をする。

 だけど、母上の言いつけにより、僕はクリスマスにプレゼントを持ってファレノプシス伯爵家を訪れることになった。

 馬車から降りる勇気が出ない。
このまま、プレゼントを預けて帰ってしまおうか。

 その方が、せっかくのクリスマスに、イザベラに嫌な思いをさせずに済む。

 そう決意して、馬車から降りた僕は目の前に立つ門番に、執事を呼んでくれるように頼んだ。

 門番はすぐに執事を呼んでくれる。

「ノックス侯爵子息様。ようこそお越し下さいました。どうぞ、中へ」

「ああ、悪いけど、所用が出来たんだ。だから、これをイザベラ嬢に渡してもらえないだろうか?」

「え?お待ちください。すぐにお嬢様をお呼びいたしますから」

「いや、せっかく家族で楽しんでいるのだろう?渡してくれれば構わない。無理をお願いして悪いけど」

 僕がそう言うと、執事は僕からプレゼントを受け取ってくれた。

「じゃあ、お願いするね。あ。メリークリスマス。良い夜を」

 僕はそう言うと、再び馬車に乗り込み、ノックス侯爵家へと戻ることになった。

 帰っても、父上も母上もいない。
だけど、ほんの少しだけ、あたたかい気持ちになった。

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

「ふふっ」

「なに?イザベラ。思い出し笑い?」

 膝の上に座らせたイザベラが、何かを思い出したのか笑みを漏らした。

「このブローチ、覚えていらっしゃる?」

「あ。まだ使っててくれたんだ」

「もちろんですわ。レイノルド様からのはじめてのクリスマスプレゼントですもの」

 薔薇を模したブローチは、10年たった今では少し色褪せて見えた。
 それでも大切に、イザベラはその身に付けてくれている。

 あの後、ノックス侯爵家まで追いかけてきたイザベラに「一緒に過ごしたかったのに。レイノルド様にも楽しんでもらいたかったのに」と泣きながら言われた僕は、イザベラと2人でクリスマスを過ごすことになった。

 その年以来、イザベラはクリスマスは家族ではなく、僕と過ごしてくれる。

 イザベラは聖なる夜に贈られた、僕へのプレゼントだ。


 
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