126 / 128
番外編
聖なる夜に《レイノルド視点》
しおりを挟む
僕はクリスマスが嫌いだった。
街中が浮かれてて、みんな幸せそうで。
でも、クリスマスはミサがあるから、父上も母上もお忙しくて。
プレゼントは貰えたけど、僕はいつも1人だった。
1人で料理を食べて、1人でケーキを食べて。
ずっと1人だった。イザベラと婚約するまでは。
イザベラと婚約したのは、僕たちが10歳の時だ。
何度目かのお茶会の時に、クリスマスの話題になった。
イザベラは3人姉妹の真ん中で、いつも姉と妹にケーキの苺を取られてしまうのだと言った。
僕は、それでも1人で食べるケーキより、何倍も美味しいだろうと思った。
だから、思わず言ってしまったんだ。
「甘やかされてる令嬢は呑気で良いな」って。
そんなこと、思ってもいなかったのに。
婚約者を傷つけたかったわけじゃないのに。
彼女は、びっくりした顔をして、それから寂しそうに微笑んだ。
僕は子供だったんだ。
彼女がものすごく傷ついたことが理解ったのに、謝ることが出来なかった。
そんなことを言ってしまったからか、イザベラはその日以降、僕の前で笑わなくなった。
月に1回開かれるお茶会でも、言葉少なで、曖昧に微笑むだけ。
その様子に、母上から何かあったのかと問われた。
まさか、酷いことを言ってしまったとも言えず俯く僕に、母上は週末のクリスマスはファレノプシス伯爵家にお邪魔してはどうかと提案してきた。
家族団欒で、楽しい時間を過ごしているところへ、僕が?
それに、僕の顔を見たら、またイザベラが悲しそうな顔をする。
だけど、母上の言いつけにより、僕はクリスマスにプレゼントを持ってファレノプシス伯爵家を訪れることになった。
馬車から降りる勇気が出ない。
このまま、プレゼントを預けて帰ってしまおうか。
その方が、せっかくのクリスマスに、イザベラに嫌な思いをさせずに済む。
そう決意して、馬車から降りた僕は目の前に立つ門番に、執事を呼んでくれるように頼んだ。
門番はすぐに執事を呼んでくれる。
「ノックス侯爵子息様。ようこそお越し下さいました。どうぞ、中へ」
「ああ、悪いけど、所用が出来たんだ。だから、これをイザベラ嬢に渡してもらえないだろうか?」
「え?お待ちください。すぐにお嬢様をお呼びいたしますから」
「いや、せっかく家族で楽しんでいるのだろう?渡してくれれば構わない。無理をお願いして悪いけど」
僕がそう言うと、執事は僕からプレゼントを受け取ってくれた。
「じゃあ、お願いするね。あ。メリークリスマス。良い夜を」
僕はそう言うと、再び馬車に乗り込み、ノックス侯爵家へと戻ることになった。
帰っても、父上も母上もいない。
だけど、ほんの少しだけ、あたたかい気持ちになった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「ふふっ」
「なに?イザベラ。思い出し笑い?」
膝の上に座らせたイザベラが、何かを思い出したのか笑みを漏らした。
「このブローチ、覚えていらっしゃる?」
「あ。まだ使っててくれたんだ」
「もちろんですわ。レイノルド様からのはじめてのクリスマスプレゼントですもの」
薔薇を模したブローチは、10年たった今では少し色褪せて見えた。
それでも大切に、イザベラはその身に付けてくれている。
あの後、ノックス侯爵家まで追いかけてきたイザベラに「一緒に過ごしたかったのに。レイノルド様にも楽しんでもらいたかったのに」と泣きながら言われた僕は、イザベラと2人でクリスマスを過ごすことになった。
その年以来、イザベラはクリスマスは家族ではなく、僕と過ごしてくれる。
イザベラは聖なる夜に贈られた、僕へのプレゼントだ。
街中が浮かれてて、みんな幸せそうで。
でも、クリスマスはミサがあるから、父上も母上もお忙しくて。
プレゼントは貰えたけど、僕はいつも1人だった。
1人で料理を食べて、1人でケーキを食べて。
ずっと1人だった。イザベラと婚約するまでは。
イザベラと婚約したのは、僕たちが10歳の時だ。
何度目かのお茶会の時に、クリスマスの話題になった。
イザベラは3人姉妹の真ん中で、いつも姉と妹にケーキの苺を取られてしまうのだと言った。
僕は、それでも1人で食べるケーキより、何倍も美味しいだろうと思った。
だから、思わず言ってしまったんだ。
「甘やかされてる令嬢は呑気で良いな」って。
そんなこと、思ってもいなかったのに。
婚約者を傷つけたかったわけじゃないのに。
彼女は、びっくりした顔をして、それから寂しそうに微笑んだ。
僕は子供だったんだ。
彼女がものすごく傷ついたことが理解ったのに、謝ることが出来なかった。
そんなことを言ってしまったからか、イザベラはその日以降、僕の前で笑わなくなった。
月に1回開かれるお茶会でも、言葉少なで、曖昧に微笑むだけ。
その様子に、母上から何かあったのかと問われた。
まさか、酷いことを言ってしまったとも言えず俯く僕に、母上は週末のクリスマスはファレノプシス伯爵家にお邪魔してはどうかと提案してきた。
家族団欒で、楽しい時間を過ごしているところへ、僕が?
それに、僕の顔を見たら、またイザベラが悲しそうな顔をする。
だけど、母上の言いつけにより、僕はクリスマスにプレゼントを持ってファレノプシス伯爵家を訪れることになった。
馬車から降りる勇気が出ない。
このまま、プレゼントを預けて帰ってしまおうか。
その方が、せっかくのクリスマスに、イザベラに嫌な思いをさせずに済む。
そう決意して、馬車から降りた僕は目の前に立つ門番に、執事を呼んでくれるように頼んだ。
門番はすぐに執事を呼んでくれる。
「ノックス侯爵子息様。ようこそお越し下さいました。どうぞ、中へ」
「ああ、悪いけど、所用が出来たんだ。だから、これをイザベラ嬢に渡してもらえないだろうか?」
「え?お待ちください。すぐにお嬢様をお呼びいたしますから」
「いや、せっかく家族で楽しんでいるのだろう?渡してくれれば構わない。無理をお願いして悪いけど」
僕がそう言うと、執事は僕からプレゼントを受け取ってくれた。
「じゃあ、お願いするね。あ。メリークリスマス。良い夜を」
僕はそう言うと、再び馬車に乗り込み、ノックス侯爵家へと戻ることになった。
帰っても、父上も母上もいない。
だけど、ほんの少しだけ、あたたかい気持ちになった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「ふふっ」
「なに?イザベラ。思い出し笑い?」
膝の上に座らせたイザベラが、何かを思い出したのか笑みを漏らした。
「このブローチ、覚えていらっしゃる?」
「あ。まだ使っててくれたんだ」
「もちろんですわ。レイノルド様からのはじめてのクリスマスプレゼントですもの」
薔薇を模したブローチは、10年たった今では少し色褪せて見えた。
それでも大切に、イザベラはその身に付けてくれている。
あの後、ノックス侯爵家まで追いかけてきたイザベラに「一緒に過ごしたかったのに。レイノルド様にも楽しんでもらいたかったのに」と泣きながら言われた僕は、イザベラと2人でクリスマスを過ごすことになった。
その年以来、イザベラはクリスマスは家族ではなく、僕と過ごしてくれる。
イザベラは聖なる夜に贈られた、僕へのプレゼントだ。
154
あなたにおすすめの小説
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?
魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。
彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。
国外追放の系に処された。
そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。
新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。
しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。
夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。
ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。
そして学校を卒業したら大陸中を巡る!
そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、
鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……?
「君を愛している」
一体なにがどうなってるの!?
悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。
ねーさん
恋愛
あ、私、悪役令嬢だ。
クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。
気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~
クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。
同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。
ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した…
誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる