29 / 126
第2王子の困惑2《ラクトウェル視点》
朝、部屋から出たところで、兄上とバッタリと顔を合わせた。
兄上は王太子としての公務もあるし、なんだか最近忙しそうで、ほとんど顔を合わせたことがなかった。
街でばったりあって以来、気まずくて、だから今も目を逸らしたのは僕の方だった。
兄上は、何も言わずに立ち去って行った。
その後を追いかけて、ふと思いついたように足を止めたのは、兄上の側近のノエル・シュバルツだった。
兄上と同い年の、優秀な男だと噂の人物。
だけど、僕はこの男が苦手だった。
その冷ややかなまでの黒い瞳も、その人を馬鹿にしたような物言いも。
「ラクトウェル殿下には、感謝いたしますよ」
「は?感謝?」
この男が?僕に?
またいつもの、馬鹿にしたようなお小言だと思っていた僕は、馬鹿みたいに聞き返していた。
しまった。
また馬鹿にされる。
「ええ。貴方が婚約者との顔合わせをすっぽかして下さったおかげで、クリストフ王太子殿下は、至宝を手に入れることが出来ました。本当に、感謝申し上げますよ。それでは」
ノエルは自分の言いたいことだけ言うと、さっさと兄上の後を追って行った。
僕が婚約者との顔合わせをすっぽかしたおかげで、兄上が至宝を手に入れた?
あの男はいつもそうだ。
煙に巻くような言い方をする。
だけど、あの皮肉めいた表情が気になった僕は、母上の元に行くことにした。
最近、母上は僕に婚約者がどうとか言わなくなったけど、そういえば婚約者になる予定だった宰相の娘はどうなったんだろう。
「母上。失礼します」
「あら、ラクトウェル。今日は市井に行かなくていいの?」
「・・・っ!」
母上の声は、決して皮肉めいていなかった。
ただ淡々と事実を口にしているだけ。
別に僕に興味がないとか、愛情がないとか、そういうんじゃないと思うのに、何故か胸の中がざわめいた。
「あら?別に叱ってるんじゃないわ。そんな顔をしなくても。むしろ今ではあなたに感謝しているのよ」
また感謝だ。
一体、みんな何を言ってるんだ?
「あなたのおかげで、一番手に入れたかったものを、最高の形で手に入れることが出来たわ。褒美として、そうね、年齢的にもすぐには無理だけど、あなたが学園を卒業して婚姻できる年になったら、その市井のお嬢さんと結婚させてあげるわ」
母上は、全部知っている?
チェリーのことも?
いや。それもそうか。
僕は撒いたつもりだったけど、王家の護衛を務める彼らが、たかが12歳の子供に撒かれるわけがなかった。
だけど、あれほどまでに、王族としての立場を口にしていた母上が、チェリーを認めるなんて。
僕が一体、何をしたというんだ?
兄上は王太子としての公務もあるし、なんだか最近忙しそうで、ほとんど顔を合わせたことがなかった。
街でばったりあって以来、気まずくて、だから今も目を逸らしたのは僕の方だった。
兄上は、何も言わずに立ち去って行った。
その後を追いかけて、ふと思いついたように足を止めたのは、兄上の側近のノエル・シュバルツだった。
兄上と同い年の、優秀な男だと噂の人物。
だけど、僕はこの男が苦手だった。
その冷ややかなまでの黒い瞳も、その人を馬鹿にしたような物言いも。
「ラクトウェル殿下には、感謝いたしますよ」
「は?感謝?」
この男が?僕に?
またいつもの、馬鹿にしたようなお小言だと思っていた僕は、馬鹿みたいに聞き返していた。
しまった。
また馬鹿にされる。
「ええ。貴方が婚約者との顔合わせをすっぽかして下さったおかげで、クリストフ王太子殿下は、至宝を手に入れることが出来ました。本当に、感謝申し上げますよ。それでは」
ノエルは自分の言いたいことだけ言うと、さっさと兄上の後を追って行った。
僕が婚約者との顔合わせをすっぽかしたおかげで、兄上が至宝を手に入れた?
あの男はいつもそうだ。
煙に巻くような言い方をする。
だけど、あの皮肉めいた表情が気になった僕は、母上の元に行くことにした。
最近、母上は僕に婚約者がどうとか言わなくなったけど、そういえば婚約者になる予定だった宰相の娘はどうなったんだろう。
「母上。失礼します」
「あら、ラクトウェル。今日は市井に行かなくていいの?」
「・・・っ!」
母上の声は、決して皮肉めいていなかった。
ただ淡々と事実を口にしているだけ。
別に僕に興味がないとか、愛情がないとか、そういうんじゃないと思うのに、何故か胸の中がざわめいた。
「あら?別に叱ってるんじゃないわ。そんな顔をしなくても。むしろ今ではあなたに感謝しているのよ」
また感謝だ。
一体、みんな何を言ってるんだ?
「あなたのおかげで、一番手に入れたかったものを、最高の形で手に入れることが出来たわ。褒美として、そうね、年齢的にもすぐには無理だけど、あなたが学園を卒業して婚姻できる年になったら、その市井のお嬢さんと結婚させてあげるわ」
母上は、全部知っている?
チェリーのことも?
いや。それもそうか。
僕は撒いたつもりだったけど、王家の護衛を務める彼らが、たかが12歳の子供に撒かれるわけがなかった。
だけど、あれほどまでに、王族としての立場を口にしていた母上が、チェリーを認めるなんて。
僕が一体、何をしたというんだ?
あなたにおすすめの小説
幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい
ゆずまめ鯉
恋愛
通勤途中、猫好きではないのに轢かれそうな黒猫をうっかり助けてしまい、死んでしまった主人公──水縞あいり(26)
鳥の囀りで目を覚ますとそこは天国……ではなく知らない天井だった。
狭い個室にはメイド服がかかっている。
とりあえず着替えて備えつけの鏡を見ると、そこには十代前半くらいの子どもの姿があった。
「この顔……どこか見覚えが……」
幼馴染みで漫画家、ミツルギサイチ(御剣才知)が描く、人気漫画「悪役令嬢が断罪されるまで」の登場人物だということに気がつく。
名前はミレア・ホルダー(本名はミレア・ウィン・ティルベリー)
没落貴族の令嬢で、現在、仕えているフランドル侯爵によって領地と洋館を奪われ、復讐のために、フランドル侯爵の長女イザベラが悪役令嬢になるのを止めず、むしろ後押しして見事断罪されてしまうキャラだった。
原作は未完だが、相談を受けていたのでどういう結末を迎えるのか知っている。
「二期アニメもまだ見てないし、どうせ転生するなら村人Aとかヒロインの母親がよかった……!!」
幼馴染みの描く世界に転生してしまった水縞あいり=ミレアが、フランドル侯爵家で断罪回避するべく、イザベラをどうにかお淑やかな女性になるように導いている途中。
病弱で原作だと生死不明になる、イザベラの腹違いの兄エミールに、協力してもらっているうちに求愛されていることに気づいてしまい──。
エミール・ディ・フランドル(20)×ミレア・ウィン・ティルベリー(18)
全30話の予定で現在、執筆中です。2月下旬に完結予定です。
タイトルや内容が変更になる場合もあります。ご了承ください。
悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜
水月華
恋愛
レティシア・ド・リュシリューは婚約者と言い争いをしている時に、前世の記憶を思い出す。
そして自分のいる世界が、大好きだった乙女ゲームの“イーリスの祝福”の悪役令嬢役であると気がつく。
母親は早くに亡くし、父親には母親が亡くなったのはレティシアのせいだと恨まれ、兄には自分より優秀である為に嫉妬され憎まれている。
家族から冷遇されているため、ほとんどの使用人からも冷遇されている。
そんな境遇だからこそ、愛情を渇望していた。
淑女教育にマナーに、必死で努力したことで第一王子の婚約者に選ばれるが、お互いに中々歩み寄れずにすれ違ってしまう。
そんな不遇な少女に転生した。
レティシアは、悪役令嬢である自分もヒロインも大好きだ。だからこそ、ヒロインが本当に好きな人と結ばれる様に、悪役令嬢として立ち回ることを決意する。
目指すは断罪後に亡命し、新たな人生をスタートさせること。
前世の記憶が戻った事で、家族のクズっぷりを再認識する。ならば一緒に破滅させて復讐しようとレティシアには2つの目標が出来る。
上手く計画に沿って悪役令嬢を演じているはずが、本人が気が付かないところで計画がバレ、逆にヒロインと婚約者を含めた攻略対象者達に外堀を埋められる⁉︎
更に家族が改心して、望んでいない和解もさせられそうになるレティシアだが、果たして彼女は幸せになれるのか⁉︎
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
冤罪で処刑されたら死に戻り、前世の記憶が戻った悪役令嬢は、元の世界に帰る方法を探す為に婚約破棄と追放を受け入れたら、伯爵子息様に拾われました
ゆうき
恋愛
ワガママ三昧な生活を送っていた悪役令嬢のミシェルは、自分の婚約者と、長年に渡っていじめていた聖女によって冤罪をでっちあげられ、処刑されてしまう。
その後、ミシェルは不思議な夢を見た。不思議な既視感を感じる夢の中で、とある女性の死を見せられたミシェルは、目を覚ますと自分が処刑される半年前の時間に戻っていた。
それと同時に、先程見た夢が自分の前世の記憶で、自分が異世界に転生したことを知る。
記憶が戻ったことで、前世のような優しい性格を取り戻したミシェルは、前世の世界に残してきてしまった、幼い家族の元に帰る術を探すため、ミシェルは婚約者からの婚約破棄と、父から宣告された追放も素直に受け入れ、貴族という肩書きを隠し、一人外の世界に飛び出した。
初めての外の世界で、仕事と住む場所を見つけて懸命に生きるミシェルはある日、仕事先の常連の美しい男性――とある伯爵家の令息であるアランに屋敷に招待され、自分の正体を見破られてしまったミシェルは、思わぬ提案を受ける。
それは、魔法の研究をしている自分の専属の使用人兼、研究の助手をしてほしいというものだった。
だが、その提案の真の目的は、社交界でも有名だった悪役令嬢の性格が豹変し、一人で外の世界で生きていることを不審に思い、自分の監視下におくためだった。
変に断って怪しまれ、未来で起こる処刑に繋がらないようにするために、そして優しいアランなら信用できると思ったミシェルは、その提案を受け入れた。
最初はミシェルのことを疑っていたアランだったが、徐々にミシェルの優しさや純粋さに惹かれていく。同時に、ミシェルもアランの魅力に惹かれていくことに……。
これは死に戻った元悪役令嬢が、元の世界に帰るために、伯爵子息と共に奮闘し、互いに惹かれて幸せになる物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿しています。全話予約投稿済です⭐︎
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした
Rohdea
恋愛
公爵令嬢であるスフィアは、8歳の時に王子兄弟と会った事で前世を思い出した。
同時に、今、生きているこの世界は前世で読んだ小説の世界なのだと気付く。
さらに自分はヒーロー(第二王子)とヒロインが結ばれる為に、
婚約破棄されて国外追放となる運命の悪役令嬢だった……
とりあえず、王家と距離を置きヒーロー(第二王子)との婚約から逃げる事にしたスフィア。
それから数年後、そろそろ逃げるのに限界を迎えつつあったスフィアの前に現れたのは、
婚約者となるはずのヒーロー(第二王子)ではなく……
※ 『記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました』
に出てくる主人公の友人の話です。
そちらを読んでいなくても問題ありません。
【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜
まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。
【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。
三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。
目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。
私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。
ムーンライトノベルズ、pixivにも投稿しています。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。