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お渡しできましたわ

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 ジークハルト殿下は、図書室で本を読まれていました。

 王太子殿下の側近の方にお聞きしましたの。
 お部屋にいらっしゃらないのですもの。

 ジークハルト殿下は、毎日図書室と騎士たちの訓練場に通われているそうです。

 お食事も騎士たちと一緒に取ったり、自室で召し上がっているとか。

 本日は雨が強くなったために、騎士たちの訓練は午前中で終わったそうですわ。

 戦は雨など天候に関係なくおきますから、訓練がなくなることはないそうですが、わざわざ風邪をひく必要はありませんものね。

「ジークハルト殿下。少しよろしいでしょうか?」

「アリスティア嬢。どうしてここに・・・いや。かまわない。なんだろうか?」

「これを受け取ってくださいませんか?」

 わたくしが差し出したのは、小さな包みです。

 焼き上げたクッキーは不恰好で、綺麗な形のものを選り分けたら、数が少しになってしまいましたの。

 わたくし、器用な方だと思っていたのですが、不器用だったみたいですわ。

「これは?甘い匂いがする」

「その、クッキーなのですが・・・見た目は不恰好ですが、味は悪くないと思うのです」

 お父様もお母様もお兄様も、美味しいとおっしゃってくださいましたわ。

 わたくしに甘いお母様たちですから、お世辞かもしれませんけど。

 アンナも美味しいと言ってくれましたし、料理長も美味しいと・・・

「?」

「その、美味しくなければ、お返しくださってもかまいませんわ」

 食べ物を捨てるわけにはいきませんから、作ったわたくしが責任を持って食べたいと思います。

「もしかして・・・アリスティア嬢の手作りなのか?」

「え?ええ。その貴族の娘として褒められたことではないのかもしれませんが、一度作ってみたくて。それと、あとこれを」

 差し出したのは、ハンカチです。
わたくしが刺繍をいたしました。

 お父様やお兄様を迎えに行って下さり、毎日お花を贈ってくださるジークハルト殿下に、何かお返しがしたい。

 でもわたくしができるのは、この程度のことでした。

「・・・っ!ありがとう。宝物にする」

「ふふっ。ハンカチですからお使いになってください。クッキーも、お口に合わなければわたくしが食べますから、召し上がってみてください」

「アリスティア嬢が作ってくれたのなら、たとえ砂糖と塩が間違っていたとしても食べるよ」

 そう言いながら、ジークハルト殿下は包みからひとつクッキーを摘み上げると、噛み締めるように食されました。

 砂糖と塩・・・
大丈夫ですわ。焦げたのを食べましたけど、甘かったですもの。

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