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わたくしの望み

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「アリスティアがジークハルトのことを、従兄以上に思えないのならかまわない。でも、僕の勘違いでないなら・・・アリスティアの気持ちをジークハルトに伝えてやって欲しい。誰にも取られたくないなら、一歩踏み出す勇気を持たないと駄目だよ」

 一歩踏み出す勇気・・・

 わたくしは、エリック殿下がユリア様と親しくされているのを見ても、何とも思いませんでした。

 もし、あの夢を見なかったら、エリック殿下と結婚していたのでしょうか?

 浮気されても何も言わずに、仕方のないことだと思いながら?

 それなのに、ジークハルト様がわたくしに笑いかけるように誰かに笑いかけるのを想像すると、胸の奥が痛むのです。

 ジークハルト様の隣に他の方がいて、その方をエスコートするのを考えただけで、苦しくなるのです。

 シャルロット様はおっしゃいました。

 それは恋の病だと。

 王命で婚約したと告げられた時、確かにわたくしは「また王太子の婚約者という立場に縛られる」と思いました。

 これからは、自分の好きなことをしたいと思っていましたから、がっかりしたのも事実です。

 決して、ジークハルト様のことを嫌ったとかではありません。

 わたくしも貴族の娘です。
しかも生まれた時から王太子殿下の婚約者として教育を受け、貴族の令嬢としての役目も分かっています。

 ですから、婚約を受けること自体に何の不満もありませんでした。

 でも・・・

 もしあの時、あのまま婚約していたとしたら。

 わたくしは今のこの感情・・・恋を知らなかったと思います。

 ジークハルト様は素敵な方です。

 わたくしのことをとても大切にしてくださると思います。

 でも、わたくしは恋を知りませんでした。

 ですから、ジークハルト様と婚約して時間を共に過ごしても『王太子殿下の婚約者』としてでしか、ジークハルト様を見れなかったのではないでしょうか。

 家族としての愛情は持てたと思います。

 でも、こんな・・・
誰にも奪われたくない、わたくしだけを見ていて欲しい。わたくし以外に触れないで欲しい。

 そんな我儘な気持ちを、抱くことはなかったと思います。

 わたくしは・・・

 ジークハルト様が王太子殿下でなくても、平民の方だったとしても・・・隣にいたい。

 公爵令嬢として甘やかされたわたくしが、平民として生きることなどできないかもしれません。

 ジークハルト様にご迷惑をかけ、嫌われてしまうかもしれません。

 それでも。

 あの方の隣にいるのは、わたくしでありたい。

 お父様やお母様に叱られても。伯父様や伯母様に反対されても。

 わたくしの望みは・・・




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