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裏切り

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 私の名前は、アゼリア・シュルク。

 このサザンウィンド王国の筆頭魔術師。

 魔力量も桁違いに多かった私は、十五歳で平民ながらシュルク準男爵という貴族籍を与えられ、王太子殿下の婚約者になった。

 私がそれを受け入れたのは、それを受け入れれば私がお世話になっていた孤児院に、王家がたくさんの寄付を出すと言ったからだ。

 それに王太子の婚約者がいた孤児院なら、他の貴族も寄付を募るだろうというから。

 平民の暮らす孤児院は、貴族の寄付がなければ、その日の食事も固いパンと具のないスープというものだ。

 まだ幼い子も多く、十五歳を迎えていた私は、そろそろ孤児院をでなければと考えていた。

 食いぶちが一人減れば、もう少し他の子達が食べる量を増やせるから。

 私の魔法は、人を癒すことは出来ない。
 自身の毒や麻痺を無効化することはできるけど、麻痺した人を治すことも、自身の怪我を治すことも出来ない。

 それができれば、聖女として教会に身を寄せることも出来たのに。

 聖女となれば、給金も貰える。

 どれだけ魔法が使えても、それは人を傷つける魔法でしかない。

 だけど、王家にとってはものだった。

 というのも、サザンウィンド王国では、成人した年に王太子は魔物の討伐に向かうという儀式があるのだ。

 その際のになるだろうというのが、王家の意思だったようだ。

 それを私が知ったのは、婚約者であるその王太子の剣が、私を貫いた時だったけれど。

 婚約者となった王太子は、ずっと優しくしてくれた。

 金髪に青い瞳の王太子殿下。
孤児院で読んだ絵本に出てくるような王子様に優しくされて、私は舞い上がった。

 だから、その彼が王太子としての箔をつけるためにドラゴンを倒したいと言った時も、反対しなかった。

 倒すのは私がやればいいし、怪我を治すために聖女も同行するから、彼が怪我をすることもない。

 その聖女とも、何度か騎士の魔物討伐で顔を合わせていて、とても親切にしてくれたから私は心を許していた。

 まさか、その二人に裏切られるなんて思わなかった。

「ふん!ドラゴン相手なら死ぬかと思ったが、まさか倒してしまうとはな。人間ではないのではないか?」

「で・・・んか?」

「いいではありませんか。ドラゴンを持ち帰れば、貴方は英雄ですわ。ふふっ。ありがとう、アゼリア。もう貴女の役目は終わったの」

 王太子殿下が、私を貫いた剣をグッと捻った。

 私の口が、血が溢れ出す。

「それもそうだな。これで、正当な婚約者を迎えられるというものだ」

 そう言って、彼はその剣を一気に引き抜いた。

 剣によって支えられていた私の体は、そのまま地面へと倒れ込む。

 私が何をしたというんだろう。

 孤児院に寄付をしてくれるというから、王太子殿下の婚約者になった。

 私には他にできることがないから、魔物討伐に出る王太子殿下の役に立ちたかった。

 笑いながら立ち去っていく彼らの後ろ姿が、ぼやけていく。

 どうして死ななければならないの?
まだ十五年しか生きていないのに。

 どうして・・・






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