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ヴィクターから見たラティエラとは?その1
その日、ヴィクターは恋に落ちた。
ジョンブリアン王国の王立学園への入学式。
婚約者のウィスタリア公爵令嬢であるラティエラを、公爵邸まで迎えに行き、エスコートをして馬車を降りた。
そして会場に向かう途中で、リリーを見つけた。
友人なのか、隣の令嬢と話しながら屈託なく笑う、その笑顔にヴィクターは釘付けになった。
「殿下?どうかされまして?」
隣のラティエラが首を傾げる。
ハーフアップにした紫色の髪がサラリと揺れ、ほのかに甘い香りがヴィクターの鼻腔をくすぐる。
「え、あ、いや。あのご令嬢は誰かと思って」
「どちらの方?あのピンクブロンドのご令嬢でしょうか?」
「あ、ああ」
「彼女は、マゼンダ男爵家のリリー様ですわ」
リリーと言うのか。
名前も可憐だな。
ヴィクターは、リリーから視線が外せない。
ラティエラは、そんなヴィクターをどう思ったのか、離れた位置にいる友人に小さく手を振った。
「殿下。わたくしは友人と参りますわ。殿下も、あちらにビリジアン様たちがお待ちですわ」
そう言って淑女の礼を取り、ラティエラは離れていった。
周囲は、ラティエラの姿に感嘆のため息をもらす。
美しく完璧な公爵令嬢。
それがラティエラだ。
ヴィクターは、ラティエラのことを決して嫌いではない。
国王である両親からの信頼も厚く、優しく美しく、そしていつも正しい婚約者。
優秀だからといって、驕ることも自己主張することもなく、いつもヴィクターを立ててくれる、それがラティエラだ。
非のつけようがない婚約者。
それがヴィクターから見たラティエラだった。
そんな婚約者に不満を感じたことなどなかった。なかったはずだった。
だがリリーを見ていると、とても優しい気持ちになれるのだ。
リリーのためなら何でもしてやりたい。そう思えるのだ。
リリーに心奪われて一週間たった頃、ラティエラから呼び止められた。
話があるから、少しこちらに来て欲しい、と。
だが、クラスの違うリリーの元へ急ぎたかったヴィクターは、それを拒んだ。
「言いたいことがあるなら、ここで言えばいい。他人に聞かせられないようなことを言うつもりか」と。
もしかしたら、帰りに一緒に帰ろうと言われるのかもしれない。
入学式以来、ヴィクターはラティエラをエスコートしていなかった。
ラティエラは小さく息を吐いた後、仕方なさそうに口を開いた。
「リリー・マゼンダ男爵令嬢様をお好きなお気持ちは分かりました。わたくしとの婚姻後三年経てば、愛妾として娶ることが可能です。世継ぎさえ授かればわたくしとの夜伽も不要ですし、公務さえこなしていただければお二人で離宮で過ごしていただいてかまいません。ですから今は、我慢なさって下さいませんか」
ラティエラの言ったことを理解した途端、ヴィクターはラティエラを怒鳴りつけていた。
ジョンブリアン王国の王立学園への入学式。
婚約者のウィスタリア公爵令嬢であるラティエラを、公爵邸まで迎えに行き、エスコートをして馬車を降りた。
そして会場に向かう途中で、リリーを見つけた。
友人なのか、隣の令嬢と話しながら屈託なく笑う、その笑顔にヴィクターは釘付けになった。
「殿下?どうかされまして?」
隣のラティエラが首を傾げる。
ハーフアップにした紫色の髪がサラリと揺れ、ほのかに甘い香りがヴィクターの鼻腔をくすぐる。
「え、あ、いや。あのご令嬢は誰かと思って」
「どちらの方?あのピンクブロンドのご令嬢でしょうか?」
「あ、ああ」
「彼女は、マゼンダ男爵家のリリー様ですわ」
リリーと言うのか。
名前も可憐だな。
ヴィクターは、リリーから視線が外せない。
ラティエラは、そんなヴィクターをどう思ったのか、離れた位置にいる友人に小さく手を振った。
「殿下。わたくしは友人と参りますわ。殿下も、あちらにビリジアン様たちがお待ちですわ」
そう言って淑女の礼を取り、ラティエラは離れていった。
周囲は、ラティエラの姿に感嘆のため息をもらす。
美しく完璧な公爵令嬢。
それがラティエラだ。
ヴィクターは、ラティエラのことを決して嫌いではない。
国王である両親からの信頼も厚く、優しく美しく、そしていつも正しい婚約者。
優秀だからといって、驕ることも自己主張することもなく、いつもヴィクターを立ててくれる、それがラティエラだ。
非のつけようがない婚約者。
それがヴィクターから見たラティエラだった。
そんな婚約者に不満を感じたことなどなかった。なかったはずだった。
だがリリーを見ていると、とても優しい気持ちになれるのだ。
リリーのためなら何でもしてやりたい。そう思えるのだ。
リリーに心奪われて一週間たった頃、ラティエラから呼び止められた。
話があるから、少しこちらに来て欲しい、と。
だが、クラスの違うリリーの元へ急ぎたかったヴィクターは、それを拒んだ。
「言いたいことがあるなら、ここで言えばいい。他人に聞かせられないようなことを言うつもりか」と。
もしかしたら、帰りに一緒に帰ろうと言われるのかもしれない。
入学式以来、ヴィクターはラティエラをエスコートしていなかった。
ラティエラは小さく息を吐いた後、仕方なさそうに口を開いた。
「リリー・マゼンダ男爵令嬢様をお好きなお気持ちは分かりました。わたくしとの婚姻後三年経てば、愛妾として娶ることが可能です。世継ぎさえ授かればわたくしとの夜伽も不要ですし、公務さえこなしていただければお二人で離宮で過ごしていただいてかまいません。ですから今は、我慢なさって下さいませんか」
ラティエラの言ったことを理解した途端、ヴィクターはラティエラを怒鳴りつけていた。
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