14 / 39
ヴィクターから見たラティエラとは?その2
しおりを挟む
愛妾・・・
その言葉に、ヴィクターは激昂した。
リリーを愛しく思う気持ちを、馬鹿にされたような気がした。
だから感情の赴くままに、ラティエラを怒鳴りつけた。
「なんと傲慢な考えの女だ!お前など、王妃として相応しくない!リリーの可憐で身も心も美しさに嫉妬しているのか!」
ヴィクターは物心ついた頃から、ラティエラを知っていた。
公爵家の令嬢ということで、接する機会も多かった。
幼い頃は、泣いたり笑ったりと感情豊かだったラティエラも、淑女教育が始まると、常に笑顔を貼り付けたようになった。
それは、仕方のないことだ。
ヴィクターも王太子、未来の国王として、感情を顔に出さない教育は受けている。
狐や狸の騙し合いのような社交界では、些細な表情の変化で、足を掬われることもある。
それでもラティエラは、二人きりの時だけは花のように笑うことがあった。
そのラティエラが、能面のような・・・表情の全てが抜け落ちたような、そんな表情をした。
だが、それは一瞬だけで、すぐにいつもの淑女の笑顔に戻る。
だから、ヴィクターは自分の見間違いかと思った。
笑顔を浮かべたラティエラは「かしこまりました」と、頭を下げる。
「出過ぎた真似を申しました。わたくしは失礼させていただきます」
そう言うと、淑女の鑑のようなカーテシーをして、その場から立ち去って行った。
周囲からは、感嘆のため息がもれる。
「ウィスタリア様・・・なんてお美しいの」
「毅然とした態度。素敵ですわ」
「それに比べ・・・」
周囲の視線が、自分を蔑んでいる気がして、ヴィクターもすぐにその場から立ち去り、リリーの教室へと向かう。
だが、すでにリリーの姿はなく、ヴィクターはラティエラが呼び止めたせいだと感じ、一瞬感じた後ろめたい思いなど消え去ってしまった。
リリーと出会ってから、つまりは入学式から、ヴィクターはラティエラのエスコートをしていない。
公爵家に迎えにも行っていないし、当然送って行ってもいない。
そのことを国王夫妻が知ったのは、ウィスタリア公爵家からの婚約の白紙撤回を求める手紙が届いた日、入学式から一ヶ月たった日のことだった。
手紙を読んで、すぐさまヴィクターを呼び出した。
「父上、お呼びと伺いましたが」
「ヴィクター。お前、ウィスタリア公爵令嬢ラティエラ嬢とちゃんと交流しているのか?」
「・・・ええ。問題はありません」
そう。問題はない。
ラティエラが何も言ってこないのはいつものことだ。
「ヴィクター。ラティエラ嬢を大切にしなさい。彼女は未来のお前の妃。恋をするなとは言わない。だが、王太子妃王妃になれるのは公爵家侯爵家の者のみ。そこをよく理解しなさい」
その言葉に、ヴィクターは激昂した。
リリーを愛しく思う気持ちを、馬鹿にされたような気がした。
だから感情の赴くままに、ラティエラを怒鳴りつけた。
「なんと傲慢な考えの女だ!お前など、王妃として相応しくない!リリーの可憐で身も心も美しさに嫉妬しているのか!」
ヴィクターは物心ついた頃から、ラティエラを知っていた。
公爵家の令嬢ということで、接する機会も多かった。
幼い頃は、泣いたり笑ったりと感情豊かだったラティエラも、淑女教育が始まると、常に笑顔を貼り付けたようになった。
それは、仕方のないことだ。
ヴィクターも王太子、未来の国王として、感情を顔に出さない教育は受けている。
狐や狸の騙し合いのような社交界では、些細な表情の変化で、足を掬われることもある。
それでもラティエラは、二人きりの時だけは花のように笑うことがあった。
そのラティエラが、能面のような・・・表情の全てが抜け落ちたような、そんな表情をした。
だが、それは一瞬だけで、すぐにいつもの淑女の笑顔に戻る。
だから、ヴィクターは自分の見間違いかと思った。
笑顔を浮かべたラティエラは「かしこまりました」と、頭を下げる。
「出過ぎた真似を申しました。わたくしは失礼させていただきます」
そう言うと、淑女の鑑のようなカーテシーをして、その場から立ち去って行った。
周囲からは、感嘆のため息がもれる。
「ウィスタリア様・・・なんてお美しいの」
「毅然とした態度。素敵ですわ」
「それに比べ・・・」
周囲の視線が、自分を蔑んでいる気がして、ヴィクターもすぐにその場から立ち去り、リリーの教室へと向かう。
だが、すでにリリーの姿はなく、ヴィクターはラティエラが呼び止めたせいだと感じ、一瞬感じた後ろめたい思いなど消え去ってしまった。
リリーと出会ってから、つまりは入学式から、ヴィクターはラティエラのエスコートをしていない。
公爵家に迎えにも行っていないし、当然送って行ってもいない。
そのことを国王夫妻が知ったのは、ウィスタリア公爵家からの婚約の白紙撤回を求める手紙が届いた日、入学式から一ヶ月たった日のことだった。
手紙を読んで、すぐさまヴィクターを呼び出した。
「父上、お呼びと伺いましたが」
「ヴィクター。お前、ウィスタリア公爵令嬢ラティエラ嬢とちゃんと交流しているのか?」
「・・・ええ。問題はありません」
そう。問題はない。
ラティエラが何も言ってこないのはいつものことだ。
「ヴィクター。ラティエラ嬢を大切にしなさい。彼女は未来のお前の妃。恋をするなとは言わない。だが、王太子妃王妃になれるのは公爵家侯爵家の者のみ。そこをよく理解しなさい」
76
あなたにおすすめの小説
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
人生の全てを捨てた王太子妃
八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。
傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。
だけど本当は・・・
受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。
※※※幸せな話とは言い難いです※※※
タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。
※本編六話+番外編六話の全十二話。
※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる