誰が彼女を殺したか

みおな

文字の大きさ
25 / 39

誰が彼女を殺したか?

しおりを挟む
「それでは、お元気でね」

 ギルバートが、伯父夫婦とヴィクターを西の離宮へと送り出した頃、ウィスタリア公爵家でも同じような挨拶が交わされていた。

 短く、顎のラインで切り揃えられたピンクブロンドの髪。

 シンプルなライムグリーンのワンピース。

 両親と共に深々と頭を下げた少女は、顔を上げてにっこりとラティエラに微笑んだ。

「ウィスタリア様もお元気で」

「やっぱり貴女には笑顔が似合うわ。ごめんなさいね?こんな形でしか助けることができなくて」

「いいえっ!ウィスタリア様のおかげで、私も両親もすみました。本当にありがとうございました」

 少女にそう言われ、ラティエラは曖昧に微笑んだ。

 彼女に理解ることが、何故王太子だったヴィクターに理解らなかったのか。

 ため息しか出ないが、それでもギリギリ彼女たちを救えたことは、重畳だったと思う。

 できることなら・・・

 ヴィクターに踏みとどまって欲しかった。

 ヴィクターの両親、元国王夫妻にはずっと可愛がってもらっていた。

 彼らがヴィクターの責任を取るために、退位を決意することは想像できた。

 それだけで済まさないだろうことも。

 だから、ギルバートに頼んで、私財からヴィクターの世話をする人間の給与や薬代などを出すことを伝えてもらった。

 元からの侍従が、最後の時まで世話をしたいと言ってくれたのも幸いした。

 ヴィクターが心から詫びて、死にたいと願ったら・・・

 その時は安らかに逝かせてあげて欲しいと、侍従には頼んである。

 ヴィクターは、多くの人間の人生を狂わせてしまった。

 まずは両親。そして、叔父夫婦と従兄であるギルバート。

 婚約者であったラティエラ。
側近のマリウスにリッジ、エミリオ。

 そしてマゼンダ男爵夫妻に、リリー。

 その罪は負わなければならない。

「本当にごめんなさいね。見知らぬ国に行かせることになってしまって。ビリジアン様たちの目に止まらないためにも、この国にはいない方が良いの」

「平気です。男爵家って言っても、猫の額ほどの領地でしたし、平民と変わらない生活でしたから。それに、住む家やお父様の仕事のお世話までしてくださって、申し訳ないくらいです」

「そんなことは当然ですわ。何かありましたら、手紙を下さいませね。できる限りのことはさせていただきますわ」

「はい。ウィスタリア様・・・ラティエラ様も幸せになってくださいね!」

 彼女がにこやかに手を振る横で、両親は深々と頭を下げた。

 彼女たちはこれから東にある海を超えて、遠く離れた他国に引っ越すのだ。

 ラティエラはその馬車が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。

しおりを挟む
感想 80

あなたにおすすめの小説

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

どうしてか、知っていて?

碧水 遥
恋愛
どうして高位貴族令嬢だけが婚約者となるのか……知っていて?

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...