どうぞお好きになさってください

みおな

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11.とても清々しいと思いませんこと?

「ご覧になって」

 ティファは、自習に使う参考資料を取りに図書室に向かう途中、窓付近に立つ令嬢たちの声を聞いた。

 彼女たちは、前から歩いて来るティファには気付いておらず、窓の外に視線を向けている。

(あら、あら、あら)

 窓の外に目を向けたティファは、足を止める。

 眼下、噴水のある中庭には、ユリシスとひとりの令嬢。

 中庭に置かれたベンチに並んで座り、その距離は婚約者か恋人同士のようだ。

 キティは、ふわふわとしたピンク色の髪を揺らし、同色の瞳を潤ませ、そして可愛らしい笑みを浮かべ、ユリシスの右腕に自身の左手を添えながら、膝の上に置いた籠からサンドイッチを差し出している。

 それをユリシスは咎めない。

 笑顔でそれを受け取り、なんの躊躇いもなく口に運ぶ。

 本来なら。

 婚約者以外の異性が触れて来たならば、やんわりとでも拒絶するべきである。

 人助けならば、許容される。

 社交ならば、認められる。

 ユリシスに婚約者がいなければ、許されただろう。

 だが婚約者がいながら他の女性を傍に置く、そんな浅い考えの人間だと周囲に示している。

 そして、毒味もしていない物を警戒もせずに口にする。

 王族としてあり得ない行動だ。

 真面目で、努力家で、王太子に最も近かったはずの自分の婚約者は、浅はかな考えで自らその足場を削っていくような、愚か者だった。

(ふふっ。ひとりの男として過ごしたいだなんて馬鹿な発言が出たのよね)

 もしかしたら、コンクパール男爵令嬢であるキティがしたのかもしれない。

 だが、それを成すきっかけを与えたのは、ユリシス自身だ。

 正門でキティを助けた時。

 学園の職員を呼んで、彼らに任せることは出来た。

 なのに、自分のに酔ってそれをしなかった。

 警戒も何もなく、害意を持つ者かも欲を持つ者かも見極めずに手の内に入れた。

 その結果、ユリシスは自分が王太子にと周囲に知らしめている。

「あ。アメトリン公爵令嬢様」

「皆様、ごきげんよう。良いお天気ですわね」

 ティファはまるで眼下の光景が見えないかのように、綺麗な笑みを浮かべた。

 目の前にいるのは、侯爵家一人と伯爵家二人のご令嬢。

 アメトリン公爵家と交友はないが、成績も優秀だし淑女としても問題ないレベルだとティファは見ていた。

 ここでキティなら、のティファのことを勝手に「ティファ様」と名で呼んだだろう。

 それをしない。

 それは、貴族という立場を彼女たちは理解しているということだ。

「とても清々しいと思いませんこと?」
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