6 / 101
悪役令嬢はお怒りのようです
しおりを挟む
シキへの最上のプレゼントを見つけて、私は浮かれていたのかもしれない。
「あ。巾着を忘れた・・・」
プレゼントの包みを入れた紙袋を手に、次の店に向かう途中、私はお小遣いを入れていた巾着を忘れてきたことに気づいた。
入ってたお金全てを出しても、ピンブローチの代金には僅かに足りなかった。お姉様に借りようと思った私に、店主の方は、これでいいよと言ってまけてくれたのだ。
お礼を言って、商品を受け取って、そのまま巾着を置きっぱなしにしてしまった。たかが巾着だけど、あれは愛着ある大切なもので・・・
「取ってきます」
「駄目だよ、可愛いアイリス。僕が行ってこよう」
踵を返そうとした私に、お兄様が待ったをかける。
「すぐそこですもの。大丈夫です」
「ダメ」
「リューク様、お嬢様。俺が行ってきます」
私とお兄様の押し問答に、シキはそう言うとお店へと駆けていく。
「あ、シキ・・・」
慌てて声をかけるも、シキは店の入口へと消えていった。
すぐ戻って来るだろう姿を、お兄様達と待つ。
だけど、いくら待ってもシキは出てこずー
不安になり、お兄様を見上げる。
「ちょっと見に行こう。ヴィオラもアイリスも付いておいで」
私たちを2人きりにしないために、お兄様は私たちについて来るように言って、店へと足を向ける。
大丈夫。大丈夫。少し、お店の人と話してるだけ。
呪文のように心の中で唱えながら、お姉様に手を引かれて歩く。
だけど、入った店の中にシキはいなくて、私は倒れそうになった体をお姉様に支えられた。
「大丈夫?アイリス」
「・・・」
どうしてシキがいないの?だって、さっき店に入って行って・・・
「店主。先程、うちのものがここに来たと思うのだが」
「・・・」
私に親切に割り引いてくれた店主の女性は、真っ青な顔をしたまま、何も言わない。
「店主?」
お兄様が声に威圧を込めると、女性はガタガタ震え始める。それでも、何も言おうとしない女性にお兄様がさらに近づこうとすると、奥から若い女性が出てきた。
「あのっ!あの男の子は王宮の騎士の方が連れて行きましたっ!!」
「ミナ!」
「だって、お母さん、おかしいわよ。誰にも口外するなって。裏口から出て行って!あの子ぐったりしてた。薬か何か嗅がされたみたいに。騎士の人がそんなの使うのおかしいじゃない!」
ミナと呼ばれた娘さんの言葉に、私は、蒼白となる。シキが、連れて行かれた?王宮の・・・
一気に血がひく。
「間違いなく、王宮の騎士だったんですね?」
「・・・はい。第1王子ナルシス王子様付きの騎士の方だと名乗られました」
お兄様の問いに、娘さんの発言に諦めたのか、店主の女性も答えてくれる。
そう。ナルシス王子の・・・
私の怒りを感じたのか、女性とその娘さんが後ずさっている。
だけど、私はそれに気遣う余裕はなかった。
あの王子は、過去に私を断罪しただけで飽き足らず、今回は私の大切な人まで奪うつもりなのね・・・許せない。絶対、許さないわ!
お兄様の行動は早かった。
すぐにお父様に知らせをいれ、それと同時にエドワード様にも連絡を入れる。
お姉様の婚約者エドワード様は王宮騎士である。もちろん、うちのお兄様も。
2人とも、いずれは家を継ぐ身分のため、王子付きにはなっていなかったけれど。
王宮へ向かう馬車の中、キツく握りしめた手を、お姉様が大丈夫よと撫でてくれる。
だけど、私は怒りと・・・それから恐怖が消えなかった。
ナルシス王子は・・・
5年婚約状態にあった私を、結婚目前に冤罪で断罪し、国外追放しようとしたのだ。
そんな人間が、シキに何をするか考えただけで震えが止まらない。
私が、忘れ物なんかしたから。
巾着なんて、諦めればよかった。あれは、お兄様の婚約者のリリアンヌ様に初めて会った時に頂いたものだったけど。
王宮に着くと、エドワード様が待ってくれていた。
「エド、シキは?」
お兄様が馬車から飛び出すと、私たちのエスコートもせずにエドワード様に駆け寄る。
あの、私溺愛のお兄様が!
もちろん、御者の方が慌ててお姉様と私に手を貸してくれた。
「うん。とりあえず、陛下のところへ行こう」
「・・・分かった」
エドワード様に促され、私たちは陛下の待つ謁見の間へと歩いていく。
歩いて行くけど、ずっと震えが止まらない。
どうして、エドワード様は大丈夫って言ってくれないの?
どうして、私を見ようとしないの?
謁見の間に着いた私たちが見たものはー
床に転がされて、騎士に拘束されたナルシス王子の姿と、それに剣を向けるお父様の姿。
シキは?
シキが・・・いない。
「アイリス」
お父様が私の名を呼ぶ。震える足を、お姉様に支えられながら1歩ずつ進めていく。
怖い。
なんとかたどり着いた私を、お父様が剣を持っていない腕で抱き寄せてくれる。
誰も、何も言わない。
いつもいる一段高い玉座から降りて、私たちと少し離れた位置にいる陛下も王妃様も、エドワード様も。
ああ、転がされているナルシス王子が喚いているのは、別としてだけど。
「お父様・・・シキは?」
「アイリス・・・シキは・・・負った傷が酷くて、目を覚ましていない」
「!?」
お父様の話は、こうだった。
ナルシス王子付きの騎士に、薬を嗅がされて攫われたシキは、地下の牢へと連れて行かれたそうだ。
そこで、ナルシス王子が、いわゆる拷問を行った、らしい。
連絡を受けたエドワード様が、陛下に報告して、探し当てた牢の中で見たのは、息も絶えそうなほどの、拘束されたシキと、それにさらに手をかけようとするナルシス王子の姿だったそうだ。
シキは今、宮廷医師によって治療されているが、あまりに傷が深いため、まだ予断を許さないとのことだった。
「・・・どう、して・・・」
「すまぬ!アイリス、すまぬ!」
陛下が頭を下げてくれるけど、私にはそれに応えることができない。
目の前で、喚き続けるナルシス王子へと視線を向ける。
何を言っているのか、頭の中に入ってこない。ただ、煩くて、私はお父様から離れると、それを踏みつけた。
「!!」
周りが息をのむ。
まさか、私が王子の顔を踏みつけるなどとは思わなかったのだろう。
私も、思わなかった。
こんなに誰かを憎いと思うだなんて。
私は、3回ナルシス王子に断罪されたけど、悲しいとは思っても、彼を憎いとは思わなかった。
好きだったから。だから、悲しかっただけ。
今回、婚約を阻止しようと距離を置く私に、近寄ってくるナルシス王子をしつこいとは思っても、憎いとは思わなかった。
だけど。
シキが何をしたと言うのか。
シキは、私に望まれたから婚約者になっただけだ。
「シキのところへ連れて行って下さい」
「いや、それは・・・」
「お願い。お父様」
私が顔から足を離すと、王子は暴れていたけど、エドワード様とお兄様が剣を向けると大人しくなった。
シキのもとへ連れて行くのを渋るお父様に、私はお願いと重ねる。
お父様は、渋々うなづいた。
「わかった。陛下、後はお願いします」
「ああ。アイリス、すまなかった」
陛下と王妃様が、再び頭を下げてくれるけど、私には何も言えない。
許すことができるのは、シキだけだ。
お父様に連れられて入った部屋には、宮廷医師の方々と・・・包帯だらけのシキの姿があった。
頭も腕も足も、包帯のないところが見当たらない。
医師の方によると、内臓や、致命傷になる深い傷は治療済みだそうだ。だが、すべての傷を治すと、体に負担がかかりすぎるので、本人の治癒力に任せるしかないのだと言う。
シキの横に跪き、その包帯だらけの手をそっと握る。
「シキ・・・ごめんね」
頬を寄せた手に涙が溢れる。
私は、前回までこんな思いをお父様達やシキにさせていたのか。
息のない冷たい体を抱きしめて、どれほど苦しかったか。
「シキ・・・お願い。置いていかないで」
「・・・お嬢様・・のお側に・・・」
掠れた、でも確かなシキの声に、顔を上げる。そこには、力こそないが、私を映す深青の瞳があった。
「シキ!」
「意識が戻ったみたいですね。これなら、大丈夫でしょう」
医師の言葉に、私は振り返る。
「ほんとですか?」
「完治までは時間はかかりますがね。いや、意識が戻ってよかった」
「あ、ありがとうございます」
ホッとして、涙が止まらない。
お父様は、医師の方と屋敷に連れて帰れる時期などの打ち合わせに部屋を出て行った。
他の医師の方々も、なんだか気を遣ったように、出て行く。
あれ?えっと・・・
2人きりにされちゃった?
気恥ずかしさはあるものの、握ったままのシキの手に再び頬を当てる。
「シキ、ごめんね。私のせいで・・・」
「ど・・して、お嬢様のせい・・・なん、です、か」
「私が巾着忘れたりしたから。ううん。シキと婚約したいなんて言ったから」
そう。私が婚約したいなんて言わなければ、シキはこんな目にあうことはなかったのだ。
だけど、シキは苦しそうに、首を振った。
「お嬢様・・・は、俺を望んで・・くれたんじゃ、ないん・・・です、か?」
「でもっ!私がシキを望んだから、こんな、こんな酷い目にっ!」
「お嬢様、を手に・・・いれられるなら、こんなの・・・」
そこまで言って、シキはふぅ、と息をついた。少し、話しすぎて疲れたみたいだ。
「シキ、眠って?私、ここにいるから」
目が覚める眠りなら、いくらでも眠って、傷を癒して欲しい。
シキがゆっくりと、そのまぶたを閉じていく。
私は繋いでいた手を離すと、近くにあった椅子をベッド脇に寄せる。
そこに、腰掛けようとして、ふとその動きを止める。
そして、小さな寝息を立てているシキに、そっと覆い被さった。
その、薄い唇に自分のそれを重ねると、私は再び椅子に腰掛けて、シキの手を握ったのだったー
「あ。巾着を忘れた・・・」
プレゼントの包みを入れた紙袋を手に、次の店に向かう途中、私はお小遣いを入れていた巾着を忘れてきたことに気づいた。
入ってたお金全てを出しても、ピンブローチの代金には僅かに足りなかった。お姉様に借りようと思った私に、店主の方は、これでいいよと言ってまけてくれたのだ。
お礼を言って、商品を受け取って、そのまま巾着を置きっぱなしにしてしまった。たかが巾着だけど、あれは愛着ある大切なもので・・・
「取ってきます」
「駄目だよ、可愛いアイリス。僕が行ってこよう」
踵を返そうとした私に、お兄様が待ったをかける。
「すぐそこですもの。大丈夫です」
「ダメ」
「リューク様、お嬢様。俺が行ってきます」
私とお兄様の押し問答に、シキはそう言うとお店へと駆けていく。
「あ、シキ・・・」
慌てて声をかけるも、シキは店の入口へと消えていった。
すぐ戻って来るだろう姿を、お兄様達と待つ。
だけど、いくら待ってもシキは出てこずー
不安になり、お兄様を見上げる。
「ちょっと見に行こう。ヴィオラもアイリスも付いておいで」
私たちを2人きりにしないために、お兄様は私たちについて来るように言って、店へと足を向ける。
大丈夫。大丈夫。少し、お店の人と話してるだけ。
呪文のように心の中で唱えながら、お姉様に手を引かれて歩く。
だけど、入った店の中にシキはいなくて、私は倒れそうになった体をお姉様に支えられた。
「大丈夫?アイリス」
「・・・」
どうしてシキがいないの?だって、さっき店に入って行って・・・
「店主。先程、うちのものがここに来たと思うのだが」
「・・・」
私に親切に割り引いてくれた店主の女性は、真っ青な顔をしたまま、何も言わない。
「店主?」
お兄様が声に威圧を込めると、女性はガタガタ震え始める。それでも、何も言おうとしない女性にお兄様がさらに近づこうとすると、奥から若い女性が出てきた。
「あのっ!あの男の子は王宮の騎士の方が連れて行きましたっ!!」
「ミナ!」
「だって、お母さん、おかしいわよ。誰にも口外するなって。裏口から出て行って!あの子ぐったりしてた。薬か何か嗅がされたみたいに。騎士の人がそんなの使うのおかしいじゃない!」
ミナと呼ばれた娘さんの言葉に、私は、蒼白となる。シキが、連れて行かれた?王宮の・・・
一気に血がひく。
「間違いなく、王宮の騎士だったんですね?」
「・・・はい。第1王子ナルシス王子様付きの騎士の方だと名乗られました」
お兄様の問いに、娘さんの発言に諦めたのか、店主の女性も答えてくれる。
そう。ナルシス王子の・・・
私の怒りを感じたのか、女性とその娘さんが後ずさっている。
だけど、私はそれに気遣う余裕はなかった。
あの王子は、過去に私を断罪しただけで飽き足らず、今回は私の大切な人まで奪うつもりなのね・・・許せない。絶対、許さないわ!
お兄様の行動は早かった。
すぐにお父様に知らせをいれ、それと同時にエドワード様にも連絡を入れる。
お姉様の婚約者エドワード様は王宮騎士である。もちろん、うちのお兄様も。
2人とも、いずれは家を継ぐ身分のため、王子付きにはなっていなかったけれど。
王宮へ向かう馬車の中、キツく握りしめた手を、お姉様が大丈夫よと撫でてくれる。
だけど、私は怒りと・・・それから恐怖が消えなかった。
ナルシス王子は・・・
5年婚約状態にあった私を、結婚目前に冤罪で断罪し、国外追放しようとしたのだ。
そんな人間が、シキに何をするか考えただけで震えが止まらない。
私が、忘れ物なんかしたから。
巾着なんて、諦めればよかった。あれは、お兄様の婚約者のリリアンヌ様に初めて会った時に頂いたものだったけど。
王宮に着くと、エドワード様が待ってくれていた。
「エド、シキは?」
お兄様が馬車から飛び出すと、私たちのエスコートもせずにエドワード様に駆け寄る。
あの、私溺愛のお兄様が!
もちろん、御者の方が慌ててお姉様と私に手を貸してくれた。
「うん。とりあえず、陛下のところへ行こう」
「・・・分かった」
エドワード様に促され、私たちは陛下の待つ謁見の間へと歩いていく。
歩いて行くけど、ずっと震えが止まらない。
どうして、エドワード様は大丈夫って言ってくれないの?
どうして、私を見ようとしないの?
謁見の間に着いた私たちが見たものはー
床に転がされて、騎士に拘束されたナルシス王子の姿と、それに剣を向けるお父様の姿。
シキは?
シキが・・・いない。
「アイリス」
お父様が私の名を呼ぶ。震える足を、お姉様に支えられながら1歩ずつ進めていく。
怖い。
なんとかたどり着いた私を、お父様が剣を持っていない腕で抱き寄せてくれる。
誰も、何も言わない。
いつもいる一段高い玉座から降りて、私たちと少し離れた位置にいる陛下も王妃様も、エドワード様も。
ああ、転がされているナルシス王子が喚いているのは、別としてだけど。
「お父様・・・シキは?」
「アイリス・・・シキは・・・負った傷が酷くて、目を覚ましていない」
「!?」
お父様の話は、こうだった。
ナルシス王子付きの騎士に、薬を嗅がされて攫われたシキは、地下の牢へと連れて行かれたそうだ。
そこで、ナルシス王子が、いわゆる拷問を行った、らしい。
連絡を受けたエドワード様が、陛下に報告して、探し当てた牢の中で見たのは、息も絶えそうなほどの、拘束されたシキと、それにさらに手をかけようとするナルシス王子の姿だったそうだ。
シキは今、宮廷医師によって治療されているが、あまりに傷が深いため、まだ予断を許さないとのことだった。
「・・・どう、して・・・」
「すまぬ!アイリス、すまぬ!」
陛下が頭を下げてくれるけど、私にはそれに応えることができない。
目の前で、喚き続けるナルシス王子へと視線を向ける。
何を言っているのか、頭の中に入ってこない。ただ、煩くて、私はお父様から離れると、それを踏みつけた。
「!!」
周りが息をのむ。
まさか、私が王子の顔を踏みつけるなどとは思わなかったのだろう。
私も、思わなかった。
こんなに誰かを憎いと思うだなんて。
私は、3回ナルシス王子に断罪されたけど、悲しいとは思っても、彼を憎いとは思わなかった。
好きだったから。だから、悲しかっただけ。
今回、婚約を阻止しようと距離を置く私に、近寄ってくるナルシス王子をしつこいとは思っても、憎いとは思わなかった。
だけど。
シキが何をしたと言うのか。
シキは、私に望まれたから婚約者になっただけだ。
「シキのところへ連れて行って下さい」
「いや、それは・・・」
「お願い。お父様」
私が顔から足を離すと、王子は暴れていたけど、エドワード様とお兄様が剣を向けると大人しくなった。
シキのもとへ連れて行くのを渋るお父様に、私はお願いと重ねる。
お父様は、渋々うなづいた。
「わかった。陛下、後はお願いします」
「ああ。アイリス、すまなかった」
陛下と王妃様が、再び頭を下げてくれるけど、私には何も言えない。
許すことができるのは、シキだけだ。
お父様に連れられて入った部屋には、宮廷医師の方々と・・・包帯だらけのシキの姿があった。
頭も腕も足も、包帯のないところが見当たらない。
医師の方によると、内臓や、致命傷になる深い傷は治療済みだそうだ。だが、すべての傷を治すと、体に負担がかかりすぎるので、本人の治癒力に任せるしかないのだと言う。
シキの横に跪き、その包帯だらけの手をそっと握る。
「シキ・・・ごめんね」
頬を寄せた手に涙が溢れる。
私は、前回までこんな思いをお父様達やシキにさせていたのか。
息のない冷たい体を抱きしめて、どれほど苦しかったか。
「シキ・・・お願い。置いていかないで」
「・・・お嬢様・・のお側に・・・」
掠れた、でも確かなシキの声に、顔を上げる。そこには、力こそないが、私を映す深青の瞳があった。
「シキ!」
「意識が戻ったみたいですね。これなら、大丈夫でしょう」
医師の言葉に、私は振り返る。
「ほんとですか?」
「完治までは時間はかかりますがね。いや、意識が戻ってよかった」
「あ、ありがとうございます」
ホッとして、涙が止まらない。
お父様は、医師の方と屋敷に連れて帰れる時期などの打ち合わせに部屋を出て行った。
他の医師の方々も、なんだか気を遣ったように、出て行く。
あれ?えっと・・・
2人きりにされちゃった?
気恥ずかしさはあるものの、握ったままのシキの手に再び頬を当てる。
「シキ、ごめんね。私のせいで・・・」
「ど・・して、お嬢様のせい・・・なん、です、か」
「私が巾着忘れたりしたから。ううん。シキと婚約したいなんて言ったから」
そう。私が婚約したいなんて言わなければ、シキはこんな目にあうことはなかったのだ。
だけど、シキは苦しそうに、首を振った。
「お嬢様・・・は、俺を望んで・・くれたんじゃ、ないん・・・です、か?」
「でもっ!私がシキを望んだから、こんな、こんな酷い目にっ!」
「お嬢様、を手に・・・いれられるなら、こんなの・・・」
そこまで言って、シキはふぅ、と息をついた。少し、話しすぎて疲れたみたいだ。
「シキ、眠って?私、ここにいるから」
目が覚める眠りなら、いくらでも眠って、傷を癒して欲しい。
シキがゆっくりと、そのまぶたを閉じていく。
私は繋いでいた手を離すと、近くにあった椅子をベッド脇に寄せる。
そこに、腰掛けようとして、ふとその動きを止める。
そして、小さな寝息を立てているシキに、そっと覆い被さった。
その、薄い唇に自分のそれを重ねると、私は再び椅子に腰掛けて、シキの手を握ったのだったー
77
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
【完結】私なりのヒロイン頑張ってみます。ヒロインが儚げって大きな勘違いですわね
との
恋愛
レトビア公爵家に養子に出されることになった貧乏伯爵家のセアラ。
「セアラを人身御供にするって事? おじ様、とうとう頭がおかしくなったの?」
「超現実主義者のお父様には関係ないのよ」
悲壮感いっぱいで辿り着いた公爵家の酷さに手も足も出なくて悩んでいたセアラに声をかけてきた人はもっと壮大な悩みを抱えていました。
(それって、一個人の問題どころか⋯⋯)
「これからは淑女らしく」ってお兄様と約束してたセアラは無事役割を全うできるの!?
「お兄様、わたくし計画変更しますわ。兎に角長生きできるよう経験を活かして闘いあるのみです!」
呪いなんて言いつつ全然怖くない貧乏セアラの健闘?成り上がり?
頑張ります。
「問題は⋯⋯お兄様は意外なところでポンコツになるからそこが一番の心配ですの」
ーーーーーー
タイトルちょっぴり変更しました(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾
さらに⋯⋯長編に変更しました。ストックが溜まりすぎたので、少しスピードアップして公開する予定です。
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
体調不良で公開ストップしておりましたが、完結まで予約致しました。ᕦ(ò_óˇ)ᕤ
ご一読いただければ嬉しいです。
R15は念の為・・
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
【完結】うちの悪役令嬢はヒロインよりも愛らしい
らんか
恋愛
前世の記憶を思い出した今なら分かる。
ヒロインだからって、簡単に王子様を手に入れていいの?
婚約者である悪役令嬢は、幼い頃から王子妃になる為に、厳しい淑女教育を受けて、頑張ってきたのに。
そりゃ、高圧的な態度を取る悪役令嬢も悪いけど、断罪するほどの事はしていないでしょ。
しかも、孤独な悪役令嬢である彼女を誰も助けようとしない。
だから私は悪役令嬢の味方なると決めた。
ゲームのあらすじ無視ちゃいますが、問題ないよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる