悪役令嬢は執事様と恋愛したい

みおな

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悪役令嬢はお怒りのようです

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 シキへの最上のプレゼントを見つけて、私は浮かれていたのかもしれない。

「あ。巾着を忘れた・・・」

 プレゼントの包みを入れた紙袋を手に、次の店に向かう途中、私はお小遣いを入れていた巾着を忘れてきたことに気づいた。

 入ってたお金全てを出しても、ピンブローチの代金には僅かに足りなかった。お姉様に借りようと思った私に、店主の方は、これでいいよと言ってまけてくれたのだ。

 お礼を言って、商品を受け取って、そのまま巾着を置きっぱなしにしてしまった。たかが巾着だけど、あれは愛着ある大切なもので・・・

「取ってきます」

「駄目だよ、可愛いアイリス。僕が行ってこよう」

 踵を返そうとした私に、お兄様が待ったをかける。

「すぐそこですもの。大丈夫です」

「ダメ」

「リューク様、お嬢様。俺が行ってきます」

 私とお兄様の押し問答に、シキはそう言うとお店へと駆けていく。

「あ、シキ・・・」

 慌てて声をかけるも、シキは店の入口へと消えていった。
 すぐ戻って来るだろう姿を、お兄様達と待つ。
 だけど、いくら待ってもシキは出てこずー

 不安になり、お兄様を見上げる。

「ちょっと見に行こう。ヴィオラもアイリスも付いておいで」

 私たちを2人きりにしないために、お兄様は私たちについて来るように言って、店へと足を向ける。

 大丈夫。大丈夫。少し、お店の人と話してるだけ。

 呪文のように心の中で唱えながら、お姉様に手を引かれて歩く。

 だけど、入った店の中にシキはいなくて、私は倒れそうになった体をお姉様に支えられた。

「大丈夫?アイリス」

「・・・」

 どうしてシキがいないの?だって、さっき店に入って行って・・・

「店主。先程、うちのものがここに来たと思うのだが」

「・・・」

 私に親切に割り引いてくれた店主の女性は、真っ青な顔をしたまま、何も言わない。

「店主?」

 お兄様が声に威圧を込めると、女性はガタガタ震え始める。それでも、何も言おうとしない女性にお兄様がさらに近づこうとすると、奥から若い女性が出てきた。

「あのっ!あの男の子は王宮の騎士の方が連れて行きましたっ!!」

「ミナ!」

「だって、お母さん、おかしいわよ。誰にも口外するなって。裏口から出て行って!あの子ぐったりしてた。薬か何か嗅がされたみたいに。騎士の人がそんなの使うのおかしいじゃない!」

 ミナと呼ばれた娘さんの言葉に、私は、蒼白となる。シキが、連れて行かれた?王宮の・・・
 一気に血がひく。

「間違いなく、王宮の騎士だったんですね?」

「・・・はい。第1王子ナルシス王子様付きの騎士の方だと名乗られました」

 お兄様の問いに、娘さんの発言に諦めたのか、店主の女性も答えてくれる。

 そう。ナルシス王子の・・・

 私の怒りを感じたのか、女性とその娘さんが後ずさっている。
 だけど、私はそれに気遣う余裕はなかった。

 あの王子は、過去に私を断罪しただけで飽き足らず、今回は私の大切な人まで奪うつもりなのね・・・許せない。絶対、許さないわ!



 お兄様の行動は早かった。

 すぐにお父様に知らせをいれ、それと同時にエドワード様にも連絡を入れる。
 お姉様の婚約者エドワード様は王宮騎士である。もちろん、うちのお兄様も。
 2人とも、いずれは家を継ぐ身分のため、王子付きにはなっていなかったけれど。

 王宮へ向かう馬車の中、キツく握りしめた手を、お姉様が大丈夫よと撫でてくれる。
 だけど、私は怒りと・・・それから恐怖が消えなかった。

 ナルシス王子は・・・
5年婚約状態にあった私を、結婚目前に冤罪で断罪し、国外追放しようとしたのだ。
 そんな人間が、シキに何をするか考えただけで震えが止まらない。

 私が、忘れ物なんかしたから。
巾着なんて、諦めればよかった。あれは、お兄様の婚約者のリリアンヌ様に初めて会った時に頂いたものだったけど。

 王宮に着くと、エドワード様が待ってくれていた。

「エド、シキは?」

 お兄様が馬車から飛び出すと、私たちのエスコートもせずにエドワード様に駆け寄る。
 あの、私溺愛のお兄様が!
もちろん、御者の方が慌ててお姉様と私に手を貸してくれた。

「うん。とりあえず、陛下のところへ行こう」

「・・・分かった」

 エドワード様に促され、私たちは陛下の待つ謁見の間へと歩いていく。

 歩いて行くけど、ずっと震えが止まらない。
 どうして、エドワード様は大丈夫って言ってくれないの?
 どうして、私を見ようとしないの?

 謁見の間に着いた私たちが見たものはー

 床に転がされて、騎士に拘束されたナルシス王子の姿と、それに剣を向けるお父様の姿。
 シキは?
シキが・・・いない。

「アイリス」

 お父様が私の名を呼ぶ。震える足を、お姉様に支えられながら1歩ずつ進めていく。
 怖い。

 なんとかたどり着いた私を、お父様が剣を持っていない腕で抱き寄せてくれる。

 誰も、何も言わない。
いつもいる一段高い玉座から降りて、私たちと少し離れた位置にいる陛下も王妃様も、エドワード様も。
 ああ、転がされているナルシス王子が喚いているのは、別としてだけど。

「お父様・・・シキは?」

「アイリス・・・シキは・・・負った傷が酷くて、目を覚ましていない」

「!?」

 お父様の話は、こうだった。

 ナルシス王子付きの騎士に、薬を嗅がされて攫われたシキは、地下の牢へと連れて行かれたそうだ。
 そこで、ナルシス王子が、いわゆる拷問を行った、らしい。

 連絡を受けたエドワード様が、陛下に報告して、探し当てた牢の中で見たのは、息も絶えそうなほどの、拘束されたシキと、それにさらに手をかけようとするナルシス王子の姿だったそうだ。

 シキは今、宮廷医師によって治療されているが、あまりに傷が深いため、まだ予断を許さないとのことだった。

「・・・どう、して・・・」

「すまぬ!アイリス、すまぬ!」

 陛下が頭を下げてくれるけど、私にはそれに応えることができない。

 目の前で、喚き続けるナルシス王子へと視線を向ける。
 何を言っているのか、頭の中に入ってこない。ただ、煩くて、私はお父様から離れると、それを踏みつけた。

「!!」

 周りが息をのむ。
まさか、私が王子の顔を踏みつけるなどとは思わなかったのだろう。
 私も、思わなかった。
こんなに誰かを憎いと思うだなんて。

 私は、3回ナルシス王子に断罪されたけど、悲しいとは思っても、彼を憎いとは思わなかった。
 好きだったから。だから、悲しかっただけ。
 今回、婚約を阻止しようと距離を置く私に、近寄ってくるナルシス王子をしつこいとは思っても、憎いとは思わなかった。

 だけど。
シキが何をしたと言うのか。
 シキは、私に望まれたから婚約者になっただけだ。

「シキのところへ連れて行って下さい」

「いや、それは・・・」

「お願い。お父様」

 私が顔から足を離すと、王子は暴れていたけど、エドワード様とお兄様が剣を向けると大人しくなった。

 シキのもとへ連れて行くのを渋るお父様に、私はお願いと重ねる。
 お父様は、渋々うなづいた。

「わかった。陛下、後はお願いします」

「ああ。アイリス、すまなかった」

 陛下と王妃様が、再び頭を下げてくれるけど、私には何も言えない。
 許すことができるのは、シキだけだ。



 お父様に連れられて入った部屋には、宮廷医師の方々と・・・包帯だらけのシキの姿があった。

 頭も腕も足も、包帯のないところが見当たらない。

 医師の方によると、内臓や、致命傷になる深い傷は治療済みだそうだ。だが、すべての傷を治すと、体に負担がかかりすぎるので、本人の治癒力に任せるしかないのだと言う。

 シキの横に跪き、その包帯だらけの手をそっと握る。

「シキ・・・ごめんね」

 頬を寄せた手に涙が溢れる。
私は、前回までこんな思いをお父様達やシキにさせていたのか。
 息のない冷たい体を抱きしめて、どれほど苦しかったか。

「シキ・・・お願い。置いていかないで」

「・・・お嬢様・・のお側に・・・」

 掠れた、でも確かなシキの声に、顔を上げる。そこには、力こそないが、私を映す深青の瞳があった。

「シキ!」

「意識が戻ったみたいですね。これなら、大丈夫でしょう」

 医師の言葉に、私は振り返る。

「ほんとですか?」

「完治までは時間はかかりますがね。いや、意識が戻ってよかった」

「あ、ありがとうございます」

 ホッとして、涙が止まらない。
お父様は、医師の方と屋敷に連れて帰れる時期などの打ち合わせに部屋を出て行った。
 他の医師の方々も、なんだか気を遣ったように、出て行く。

 あれ?えっと・・・
2人きりにされちゃった?

 気恥ずかしさはあるものの、握ったままのシキの手に再び頬を当てる。

「シキ、ごめんね。私のせいで・・・」

「ど・・して、お嬢様のせい・・・なん、です、か」

「私が巾着忘れたりしたから。ううん。シキと婚約したいなんて言ったから」

 そう。私が婚約したいなんて言わなければ、シキはこんな目にあうことはなかったのだ。
 だけど、シキは苦しそうに、首を振った。

「お嬢様・・・は、俺を望んで・・くれたんじゃ、ないん・・・です、か?」

「でもっ!私がシキを望んだから、こんな、こんな酷い目にっ!」

「お嬢様、を手に・・・いれられるなら、こんなの・・・」

 そこまで言って、シキはふぅ、と息をついた。少し、話しすぎて疲れたみたいだ。

「シキ、眠って?私、ここにいるから」

 目が覚める眠りなら、いくらでも眠って、傷を癒して欲しい。
 シキがゆっくりと、そのまぶたを閉じていく。

 私は繋いでいた手を離すと、近くにあった椅子をベッド脇に寄せる。
 そこに、腰掛けようとして、ふとその動きを止める。
 そして、小さな寝息を立てているシキに、そっと覆い被さった。
 その、薄い唇に自分のそれを重ねると、私は再び椅子に腰掛けて、シキの手を握ったのだったー
 
 


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