悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~

咲桜りおな

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お兄様とエミリア

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「イアンに話したのか!?」

 イアンを見送って幼馴染みへの手紙を執事に託した後、エドワードお兄様が部屋を訪ねてきたので事の顛末を伝えたのだが何故かガックリと項垂れてしまった。

「話すしかなかったんですもの」

 ただ婚約が嫌だとごねた所で明確な理由が無ければ心象が悪くなるだけだ。何の解決にもならない。

「お兄ちゃんが大丈夫だって言っただろう?」
「そんな事言われましても……事前に対策しておかなければ最悪の場合、この公爵家にも影響が出てしまうかもしれませんのよ」

 わたくし一人が悪役令嬢として処罰を受けるだけならまだ良いが(いや、良くはないが)何の罪もない公爵家の皆まで断罪劇に巻き込まれて降爵やお家取り潰しにでもなったら目も当てられない。わたくしのせいでそんな結末は迎えたくない。

「だからそんな事にはならないんだって」
「悪役令嬢を甘く見て貰っては困りますわ、お兄様」

 世の中のどれだけの数の悪役令嬢が婚約破棄され、冤罪もしくは本当に罪を犯して処罰されて来たのか。前世では沢山沢山、ラノベも読みまくっていたわたくしは知っている。まぁ勿論逆にヒロインがやらかしてチャンチャン♪てな話も知っているが。

「これは世の全ての悪役令嬢の為でもありますのよ! ここでわたくしが華麗に悪役令嬢の座を回避してみせれば、希望になりますわ」
「いや、だからな、リア……」
「残念ながら今日は上手くいきませんでしたけど、次へ進むのみですわ」
「次?」
「ええ、攻略対象者であると思われる幼馴染のパトリックと仲良しになってみせますわ」
「……は?」

 随分と間抜けな声をあげたお兄様にわたくしは丁寧に説明をして差し上げた。

「卒業パーティでの断罪劇で王子とヒロイン側に付き、わたくしを糾弾してくる人物たちを減らす作戦ですの。仲良くなっておけばきっと、わたくしの味方をしてくれる筈ですわ。ですからまずは将来の宰相候補と言われているパトリックと仲良しになろうと思いまして」

 わたくしが自信満々で胸を張って見せると、何故かお兄様は呆れ顔になる。

(人が一生懸命に対策しているというのに失礼ですわね)

「あの人嫌いのパトリックと仲良し? 無理だろそれは」
「そんな事ありませんわ! ヒロインに出来てわたくしに出来ない筈がありませんわ」

 ちょっとヒロインに対抗意識を燃やしてみせるわたくしに益々お兄様は呆れた顔をする。

「やめといた方がいいと思うぞ。それに万が一上手くいったらいったで、今度は困るのはお前だぞ」
「何でですの?」
「いいのか、きっとイアンが嫉妬で怒り狂うぞ? アイツは独占欲かなり強いんだからな。そして粘着質だ」
「え……」

 お兄様の指摘に低くなったイアンの声を思い出して身震いする。な、なんだか要らない情報を得てしまった気がする。

「でも、ほら、仲良しっていってもお友達としてですし……」
「男女間でそれは甘いな、良くてもパトリックがお前の金魚の糞化するのが目に浮かぶ」
「ひええっ」

(なんですの、それは。これ以上ストーカーは要りませんわよ!?)

「だからな、パトリックと仲良くなるのは止めといた方が――」
「そ、それでも! 嫌われるよりはマシですわ!!」
「いや、リア……」
「お兄様はわたくしがこのまま悪役令嬢として断罪されても宜しいんですの?」
「そんなの俺もイアンも許す訳がないだろう、だけどなリア。そもそも悪や……」
「それでしたら!! お兄様もわたくしに協力して下さいませ。可愛い妹の為ですもの、お願い聞いてくれますよね?」

 きゅるりん♡とどこぞのヒロインばりに可愛くお願いポーズをして見せると「うっ、ぐっ……」とくぐもった唸り声を漏らしながら真っ赤に顔を染めて天を仰ぐお兄様。耳をすませば「なんて可愛いんだ、リアは……可愛くて死ぬ」と呟いている声が聞こえる。

「……はぁっ、思わず妹に鼻血吹き出しそうになった。いかんいかん」
「もう、お兄様ったら大袈裟ですわ」

 何やら大変そうなお兄様にわたくしは改めて宣言をする。

「とにかく、わたくしはパトリックと仲良しになるって決めましたから。脱!! 悪役令嬢~!」
「パトリックの事はもう好きにしたらいいけど、それよりもなリア……さっきから言いかけてるけど、お前は……」
「では、わたくしは対パトリック対策の準備がありますので」
「えっ? あ、ちょっと、リア……」

 まだ何か話足りなそうなお兄様に構っている暇は今はないので、グイグイと部屋から追い出す事にした。

「お兄ちゃんの話はまだ終わってな……大事な所が抜けて……おーい」

 部屋の扉を閉める時もまだ何か言っていたけど、今は忙しい。また今度ゆっくり聞くからごめんね、お兄様。

 パタンと扉を閉めたその先でお兄様が大きな溜息をつきながら「お兄ちゃんの話を聞いてくれ……」と呟いていた事なんて知る由もなかった。
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