悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~

咲桜りおな

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エミリア イアンを説得してみる

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「どう説明したら理解して頂けるか自信はないのですけど……」

 ポツリ、ポツリと慎重に言葉を選びつつ、わたくしは状況を説明し始めた。前世の記憶を持っている事、そしてその前世ではここみたいな「ゲーム」の世界に転生してしまう物語が流行っていた事、周りの環境から考えるとどうやら転生してしまったと確信出来る事が非常に多い事。そしてこの世界でも最近人気のある舞台演劇の物語同様に、悪役令嬢という立場の転生がいかに危険な状態なのかという事。

 わたくしは包み隠さずイアンへと打ち明けた。子供の幻想か妄想だと言われてしまう可能性は大きかったけど、下手に嘘をついてもきっと頭の良いイアンにはバレてしまうだろう。それならいっその事、頭がおかしいと思われても構わないと開き直った。

(むしろそう思われたら王太子妃には無理だと判断されて婚約がなくなるかもしれないし)

 イアンは黙ってわたくしの話が終わるまで聞いてくれていた。わたくしが話し終えると「ふむ……」と真面目な顔で腕を組み、暫く何かを思案していた。

「ねぇ、リア」
「は、はいっ」
「その話は私以外の誰かにも話した?」
「えっと、エドワードお兄様に少しだけ……」

 実は記憶が戻ってすぐにお兄様には相談していた。非常に驚いた顔をされたけど否定もされず「そんな事にはならないから大丈夫だよ」と言われた。

「そうか、なら今後も私とエド以外には話してはいけないよ。約束出来る?」
「はい」

 言われなくても所かまわずこんな話をして回るつもりはない。それこそ頭がおかしいと思われてしまう。

「ヒロインに悪役令嬢ねぇ……うーん……それって私がそのヒロインとやらに浮気するって事だよね?」
「ま、まぁ……その、そもそも前提として王子様は悪役令嬢の事を好きではないので、浮気ではないのですが」
「私はリアが好きなのだよ?」
「う……」

 何の恥じらいもなく真顔で好きと言われてしまい赤面する。

「これでも誠実なつもりだ。愛する婚約者が居るのに他の女にうつつを抜かすとは思えないが……」
「十年くらい先の事なので……殿下もわたくしに飽きられてるかもしれませんし」
「飽きる? それこそあり得ない話だが……こんなに可愛らしいリアに飽きるなんて」

 そう言いながらイアンの右手がわたくしの髪へと触れる。今日のわたくしもメイドの頑張りのお陰でふんわりウェーブヘアだ。うっとりとした表情で髪を撫で口元に笑みを浮かべる。

(んなっ!! こんな至近距離でその表情は困る!)

「あり得はしないが、万が一そうなる未来があったとしてだな。例え他に心を寄せる女が現れたとしても、一国の王太子が皆の前で婚約破棄宣言をしたりしたらまず廃嫡されるのが関の山だろう。そんなバカ王子が居てたまるか」

(そうですよねー。けど残念ながら、こういった世界には沢山居るんですよ……)

「現時点ではそのヒロインとやらも実在するのか分かってはいないのだろ?」
「そうですけど……わたくし、無実なのに断罪とか処刑とか絶対嫌なんです。だから殿下の婚約者は困るんです」
「……私との婚約を解消して、リアは他の男に嫁ぐつもりか?」
「だって、それしか方法が……」

「許す事は出来ないな」

 イアンの声が低くなった。

「あ……の、……」

 やはり怒らせてしまったか。いくらイアンが話を聞いてくれているとは言え、王族である彼に対して話してはいけない事だったかもしれない。もしかしたら今、この場で不敬罪で罪を問われる結末か。

 後悔で胸を一杯にしているとイアンはわたくしの両手を取り、強く握りしめて自身の身体を少し寄せて来た。互いの顔が物凄く近くになる。

「私はリアを手離す気は全くない」
「……」
「リアが嫌だろうが不安がろうが婚約関係は継続する。そして十年後にリアの心配事が杞憂であったと証明してみせよう」
「殿下……」
「何があっても断罪や処刑になどさせない。もしそうなるのであれば何としてでもリアを国外に逃がしてやる」
「……どうして、そこまで想って下さるのですか。わたくしは、まだそこまでのお気持ちに応える準備が出来ておりません」
「それはそうだろう、昨日いきなり私が想いを伝えたのだ。大丈夫だ、ゆっくり好きになってくれればよい」

 真っ直ぐな想いに心が揺さぶられる。貴方の目の前に居るのは冤罪とはいえ将来罪を犯すかもしれない悪役令嬢なんだよ? それにきっとヒロインの事を好きになってしまうに決まっている。

「……逃げるかもしれませんよ?」
「私から逃げれると思うのなら試してみるがいい、無駄な抵抗になるだけだ」
「す、好きにだってならないかもしれない」
「それは無理だな、私はリアを堕とすと決めている」
「……自信過剰」
「悪いが自信しかないし、それだけの度量は持っている」

 何をいってもこの人は婚約破棄などしてくれそうにないと悟る。イアンを説得するのは無理だと分かったわたくしは、取り敢えず大人しく婚約者でいる事を受け入れた。

 たいそうご機嫌で邸から去って行ったイアンを見送りながら、わたくしは溜息をついた。

(留学も領地での引き籠りもダメ、イアンとの婚約破棄も絶望的……どうしよう)

 くよくよしていても仕方ない。次の対策を考えるしかないのだ。あと十年あるのだ、出来る事からやっていこう。

(そうなると……攻略対象者らしき人物とは接点を持たないのが一番だけど、嫌われるのは得策じゃない筈。一人でも味方は多くしておかなければ、ですわ!)

 そう思ったわたくしは、近所に住む幼馴染みからまず味方につけようと彼の家に訪問伺いの手紙を送る事にした。
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